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男の絶対的な急所、金玉。それを責める女性たちのお話。
日本には八百万の神がいるといわれているが、中には変わった神様もいるらしい。神様が考えることは、人間にはすぐに理解できなくても、そこには必ず意味があり、時としてそれを実感できることもあるのかもしれなかった。




中根マドカは25歳で、とある大学の図書館の司書をしていた。小さいころから読書が好きで、望んでこの仕事に就いた彼女は、まさしく本の虫といった外見をしている。
清潔感はあるが、飾り気のない真っ白なワイシャツ。その上からカーキ色の地味なエプロンをつけ、袖にはいつも黒い腕抜きをしている。
最後に化粧らしいことをしたのは、成人式で写真を撮ったときらしい。太いセルフレームの黒縁メガネの奥で、いつも伏し目がちな目がキョロキョロとしている。
唯一女性らしい気づかいといえば、長く伸ばした黒髪だったが、それも仕事中は邪魔にならないよう、何の色気もなく頭の上に束ねられていた。
とにかく本さえ読んでいられれば幸せというマドカの生活は、極めて平凡で規則的なものだった。しかしあるとき、その歯車は狂い始めるのである。


月曜の朝。
仕事場に向かう途中の交差点で、マドカは信号待ちをしていた。
今日は朝からどんよりと曇っており、今にも雨が降り出しそうな天気だった。

(…あれ?)

ポツリ、と頭に雨粒が降ってきたような気がして、思わず顔を上げた。
準備のいいマドカは、その鞄にいつも折り畳み傘を入れている。念のためにそれを取り出して、いつでも開けるように、左手に持って歩こうとした。
やがて信号が変わり、歩き出そうとしたその時。

「ぐえっ!」

マドカのすぐ後ろで、こもったうなり声がした。
驚いて振り向くと、そこにはサラリーマン風の男性が立っており、背中を丸めて、内股になって震えている。
よく見ると、その両手は股間をおさえているようだった。

「え…? あの…」

マドカはついさっき、歩き出そうとした瞬間、大きく降り出した左手の折り畳み傘が、何かに当たったような感触がしたのを思い出した。
それが、この男性に当たってしまったのだろうか。

「大丈夫ですか…? ごめんなさい…私が…その…えっと…」

30代くらいのサラリーマン風の男性は、身じろぎもせず、つま先立ちになって、股間と下腹をおさえていた。
マドカが振り回した傘の先端は、男性の股間に斜め下からクリーンヒットしてしまったらしい。そこには当然、男の最大の急所がある。
しかし、生まれてこの方男性と付き合った経験もないマドカには、このサラリーマンの身に一体何が起こっているのか、すぐには理解できなかった。

「あの…大丈夫ですか? どこが痛いんですか…?」

男性はようやく顔を上げて、心配そうに覗き込むマドカに答えた。

「い、いや…まあ…その…大丈夫ですから…。ちょっと休めば…」

マドカの傘が股間に当たったことが、故意ではないと分かっていたから、男性も耐えることしかできなかった。

「そうですか…? あ…じゃあ、私、行きますね。すいませんでした」

交差点の向こう側から渡ってきた人たちも、怪訝そうに男性とマドカのことを見ていた。
青信号が点滅をし始めたのを見て、マドカは慌てて交差点を渡った。

(変なの…。ちょっと傘が当たっただけだと思ったけど…。それくらいであんなに…。あ!)

歩きながら、男性がその手でどこをおさえていたかを思い出し、マドカはやっと理解した。
交差点を渡り終えたところで振り向くと、男性は相変わらず内股の状態で、近くの電柱に体を寄せて休んでいた。
その痛ましい姿を見て、自分が男性のどこに傘を当ててしまったのかを確信すると、マドカは顔を真っ赤にして、足早に歩き去るのだった。




朝から妙なことがあったが、マドカの仕事はいつもと変わらぬものだった。
この図書館には30万冊以上の蔵書があり、司書の仕事は貸出だけでなく、その整理や管理もしなければならない。
一日中、パソコンと向かい合っていることも珍しくなかったので、マドカは常々、肩こりに悩まされていた。

「ふう…」

午前中の業務がひと段落したところで、マドカは一息つき、椅子に座ったまま、肩の体操を始めた。
腕抜きをした細い手を、前後左右に動かして、肩を回す。
背筋を伸ばしてのびをすると、華奢な体格に似合わない胸が、ワイシャツを膨らませた。もちろん、真夏でも下にTシャツを着ているから、下着が透けるようなことはない。

「中根さん」

「はい!」

この職場で唯一の男性である、主任の来島がマドカのことを呼んだ。
完全にリラックスモードに入っていたマドカは、驚いて振り向いた。

「あうっ!」

主任の来島は、マドカが思っていたより近くに立っていた。
体操をしていた勢いで振り向くと、マドカの腕はそのまま無防備な来島の股間に打ち込まれることになってしまった。
ぐにっと、生暖かい感触を、マドカはその左こぶしに感じた。

「う…! ううぅ…」

来島は手に持っていた書類を落とし、その場にしゃがみこんでしまった。

「あ! 主任! 大丈夫ですか?」

今回は、マドカにも自分が何をしてしまったのか、すぐに理解できた。
慌てて来島を介抱しようとするが、どうしたらいいのかよく分からない。
遠心力のついていたマドカの腕のスピードは、案外強烈で、来島は下腹から湧き上がってくる途方もない痛みに、脂汗をかいて唸ることしかできなかった。

「何? どうしたの?」

「主任?」

床にうずくまる来島の様子に異変を感じ、同僚たちも集まってきた。
しかし、この職場には男性は来島しかおらず、その苦しみを理解できるものは誰ひとりいなかった。

「どうしたの? 中根さん?」

職場の最年長で、この図書館に数十年務めているという久保田ヒロコが声をかけた。

「あ、あの…私が主任に呼ばれて振り向いたときに…その…手が主任に当たってしまって…」

どこに当たってしまったのかまでは、マドカには言いきれなかった。

「手が当たったって…お腹とかに?」

「いえ…あの…その…。たぶん…急所…だと思います…」

再び顔を赤くしながら、か細い声でようやく言えた。
女性たちはそれを聞くと、一瞬、きょとんとした表情になったが、やがて一斉に吹き出してしまった。

「プッ…フフフ! ああ、そう。急所に当たったのね。それは災難ね。フフフ…」

「は、はい…」

来島よりはるかに年上のヒロコだからこそ、遠慮なく笑えるが、マドカは申し訳なさそうにうつむき、その他の若い女性たちも、上司の手前、笑いをかみ殺しているような状態だった。
女性たちに囲まれて、急所の痛みにしゃがみこんでしまっている来島にとっては、それは何より恥ずかしいことだった。

「まあ、これは時間が経つのを待つしかないわね。ちょっと当たっただけなんでしょ? すぐによくなるわよ」

「そ、そうなんですか? 主任、すいません…」

マドカは心から謝っているつもりだったが、痛がっている顔を覗き込まれると、来島は目を背けたくなるほど屈辱的な気分になった。

「腰を叩いてあげなさい。そうすると、いいらしいわよ」

「え? 腰ですか…? は、はい。…この辺ですか?」

うずくまっている来島の腰を、マドカはためらいがちに手で叩いてやった。
来島は、おそらく自分がとてつもなく情けない姿になっていることを自覚していたが、マドカの柔らかい手が自分の腰を叩くと、確かに痛みが和らぐような気がした。

「あ…ああ…」

思わず声が出てしまう。
それを聞いた同僚の女性たちは、さらに笑いをこらえなければならなかった。



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