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男の絶対的な急所、金玉。それを責める女性たちのお話。


高校2年になる加藤ツバサには、家族や友達にも秘密にしていることがあった。

「おかえりなさいませ、ご主人様―!」

ここは、町の中心からは少し離れた場所にあるメイドカフェ。彼はここで、半年ほど前からアルバイトをしていた。
裏方やキッチンなどではなく、店内で接客するメイドとして。

「ご注文は、いかがなさいますかぁ? 今週のスペシャルメニューは、クマさんハンバーグになっておりまぁす」

半年も働いているだけあって、ツバサの接客は手慣れたものだった。
しかし、お客はもとより、この店で働いている人間の誰もが、ツバサが本当は男であることを知らなかった。
小柄で線が細く、声変わりもほとんどしなかったツバサは、普段から女の子に間違えられることが多かった。何よりその顔は、とても高校生の男子とは思えないほど繊細で整っており、メークをしてメイド服を着てしまえば、どこからどう見てもカワイイ女の子だった。

「ツバサちゃん、自己紹介してよ」

常連らしい男の客が、ツバサにそう要求した。

「はぁい! アナタの心に緊急着陸ッ! 幸せの空をはばたいて、いっつもみんなを見守ってるよッ! ツーちゃんこと、ツバサちゃんでーす!」

可愛らしい身振りを交えて、ツバサは自己紹介をした。その姿に、お客は満足げな拍手を送る。
ツバサにとって、これはかねてからの憧れの仕事だった。
小さいころから、女性に対する強烈な憧れがあり、男性である自分自身にいつもどこかで嫌悪感を抱いていた。できることなら、生まれ変わって女性になりたい。そう思っていたのである。
親にも内緒で女物の服を買い、メークも勉強した。幸か不幸か、ツバサの外見は、彼が男でいることよりも、女装した方がしっくりくるようにできてしまっていたのである。
履歴書にウソを書いて、メイドの面接を受けると、現実は想像していたよりもずっと簡単だった。面接をしたメイドカフェのマネージャーは、何の疑いもなしに彼を採用してしまったのである。
水着や露出の高い服装ならともかく、メイド服であれば、体の細部まで見られることはない。こうしてツバサは、自らが隠し続けてきた欲求を満たすことができる、最良の場所を見つけることができたのだった。

「いってらっしゃいませ、ご主人様―!」

常連の客を見送ると、ツバサは満足そうに息をついた。
最近では、自分を目当てにこの店を訪れる客も増えてきている。
この店にいる間は、自分が男であることを忘れることができるのが、ツバサにとって何よりの幸せだった。

「すいませーん」

「はぁい。お嬢さま」

女性客の声がかかると、ツバサは意気揚々と振り向いて、接客に向かった。
テーブル席に座った女性客は、高校生の3人グループ。
最近では、この店にも女性客が増え始めている。

「ご注文ですかぁ?」

ツバサが伝票を手に取ると、長い黒髪の女子高生が、メニューを見ているところだった。
ツバサはその女子高生の後ろ姿を見て、何か直観的な不安のようなものを感じたが、それが何なのか考えている間に、向こうから答えが出てきた。

「え…と…。アタシはこの、クマちゃんオムライスで…。ドリンクは…」

女子高生が顔を上げると、ちょうどツバサの胸につけたネームプレートが見えた。そのまま見上げると、女子高生は何か気づいたようにつぶやいた。

「ツバサ…。加藤…?」

突然、自分の名前を呼ばれて、ツバサの顔に緊張が走った。そしてそれは、女子高生のつぶやきが間違いでないことを証明してしまうことになる。

「…アンタ、加藤…?」

彼女はツバサのクラスメイトである、野口リオだった。
ツバサもそれに気がついたが、驚きのあまり、声が出ない。二人が無言で見つめあってしまったが、幸いにも、同席していたリオの友達はそれに気がつく様子はなかった。

「アタシはね、ふわふわカプチーノでいいや」

「アタシはこの、お嬢さまランチでいいや。お嬢さまって、超カワイくない?」

「あ…はい…。かしこまりました。お嬢さま」

かろうじて保っていたプロ意識で、注文を受けたが、その表情は依然として緊張しており、先程までとは別人のようだった。
逃げるようにしてテーブルを離れると、そのまま店の奥に向かった。

「ツバサちゃん、どうしたの?」

奥の事務所にいたマネージャーが、心配そうに尋ねた。

「いえ、別に…。すいません。ちょっと早めに休憩させてください」

それだけ言うと、マネージャーの答えを待たずに、休憩室に入ってしまった。

休憩を終えたツバサが店に出ると、すでにリオたちのグループは店にいなかった。
ツバサはホッとした反面、リオに事情を説明することができなかったことが不安だった。
野口リオは、ツバサのクラスメイトとはいえ、特別親しい関係ではなかった。もちろん、ツバサがここでアルバイトしていることを話したこともない。彼は学校ではごく普通の男子生徒として振る舞い、自分の秘密を誰かに話すことは決してなかったのだ。

やがてツバサの勤務時間が終わり、着替えて店を出ようとするときでも、その表情は曇っていた。
もし、リオが学校でこのことを話したら、どうなるだろう。
クラスメイトから白い目で見られるくらいならまだしも、彼らが興味本位で店を訪れるようなことがあれば、自分が男であることが店にばれてしまうかもしれない。
ようやく見つけた、自分の欲求を満たしてくれる理想の場所を奪われてしまうのが、ツバサにとっては何よりも恐怖だった。

「ねえ、加藤?」

うつむきながら店の裏口を出たとき、不意に声をかけられた。
ハッとして振り向くとそこには先程店を出たはずの、野口リオが立っている。

「あ…! いや、その…」

名前を呼ばれて返事をするべきかどうか。ツバサはこの期に及んで、ためらってしまった。
しかしリオは、そんなツバサの焦りもためらいもすべて見透かしたように、ニヤニヤと笑っている。

「加藤ツバサでしょ、アンタは。隠さなくていいよ」

「あ…はい…」

うつむいたツバサの顔を、リオはあらためてジロジロと眺めた。

「ホント、女の子みたいだねー。ていうか、知り合いじゃなきゃ、わかんないよ。まるっきり女じゃん。へー。アンタ、こういう趣味があったんだぁ」

前から後ろから、なめるように見られても、ツバサは抵抗することができなかった。今日の彼の私服は、Tシャツに大きめのオーバーオールというものだったが、それくらい男の子っぽい服を着ていても、なお女の子にしか見えなかった。

「でも、この店、そういうトコじゃないでしょ? 他の店員は、みんな女の子じゃん。てことは、アンタ…」

「ご、ごめんなさい! お店には言わないでください! ばれたりしたら、ボク…」

泣き出しそうな顔で、ツバサはリオに懇願した。
リオは、あまりの必死な様子に少々面食らったが、やがて意地悪そうに笑った。

「そっかあ。やっぱり、ウソついてるんだ。そりゃあ、ばれたら困るだろうねー。ヘタしたら、クビかも…」

そう言うと、ツバサはますます悲しそうな顔をした。
リオは長身で、ツバサよりも頭半個分背が高い。かわいらしい女の子にしか見えないツバサから、うるんだ瞳で見上げられると、思わずドキッとしてしまう。

「お願いします! 言わないでください! あの…ボク、なんでもしますから!」

クラスメイトとはいえ、自然と敬語になってしまっていた。
彼らはクラスメイトとはいえ、ほとんど話をしたことがなかった。ツバサは学校では大人しい、無口な男子生徒を装っていたし、美人で成績も優秀なリオには、いつも数人の取り巻きがいた。二人はお互いを住む世界が違うものと認識しており、ほとんど接触することがなかったのである。

「ふーん…。なんでもねえ…」

リオは何か考えるように、黙り込んだ。
その沈黙の時間を、ツバサは判決を待つ囚人のような気持ちで過ごすことしかできない。

「とりあえず、ついてきなよ」

リオはそう言うと、返事を待たずにさっさと歩きだしてしまった。
ツバサは訳が分からなかったが、店の前からは一刻も早く離れたかったので、大人しくリオについて行った。

「あ、あの…野口さん…?」

しばらくの間、無言で二人は歩き続けたが、やがてツバサが口を開いた。

「なに?」

「あ…ど、どこに行くのかな…って…」

「ん? アタシんち。ここから、近いから。もうすぐ着くよ」

思いがけない言葉だった。
リオと親しくないツバサが、彼女の家の場所を知るはずもなかったが、自分が働いてる場所と近い所に住んでいたとは。今さらながら、冷や汗が出る思いだった。

「野口さんは…その…あのお店には、よく来るの…?」

「いや。今日が初めて。友達が行きたいって言うからさあ。アタシは全然興味なかったんだけど。アンタはいつから働いてるわけ?」

「え? あ、半年…くらいかな」

「へー。半年も働いてたんだあ。じゃあ、駅ですれ違うこともあったかもね。ウケる」

リオの真意は分からなかったが、秘密をばらしやろうとか、意地悪をしてやろうとかいう意志は感じられなかった。
その点で、ツバサは少しだけ安心し、ここは素直にリオについていくことが得策だと思った。


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