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男の絶対的な急所、金玉。それを責める女性たちのお話。


3日後。
あれから、コンビニにヨウスケが来ることはなく、キヨシとリュウはいつもと変わらないアルバイトの仕事をこなしていた。
キヨシの疑問はとけなかったが、リュウがそれについて語ることもなかったため、尋ねることもしなかった。

「お疲れさまデシター。キヨシ、一緒に帰りマショウ」

この日はコンビニの店長が夜勤に入るので、二人はシフトを同時に終わらせた。
こういう日、二人は一緒に帰ることも多い。
夜中に女性が独りで歩くのは危ないという配慮があったのだが、キヨシは最近、何だかそうでもないような気もしていた。

「あー、今日も疲れたネ。キヨシは明日も学校デスカ?」

「そうですね。リュウさんは?」

「わたしは明日、歌のレッスンがある。わたし、歌苦手ネ。ダンスは好きだけど」

リュウが日本の大学に留学生として通う傍ら、アイドルを目指すために芸能事務所のレッスンを受けていることを、キヨシは聞いている。

「でも、アイドルは歌いますからね」

「そうデスネー。わたし、オンチかもしれない。口パクでなんとかならないカナー」

意味を分かって言っているのか、とぼけたところがあるのが、リュウの性格だった。
先日のヨウスケの一件以来、なにか彼女に得体のしれないところがあるかもしれないと思い始めていたが、いつものリュウを見れた気がして、キヨシは安心した。

「あの、リュウさん。この前は…」

今は聞けるような気がして、意を決して3日前のことを訪ねようとしたとき、二人が歩く道の先に、大きな人影が見えた。

「お前が、リュウか!」

薄暗い外灯に照らされたその影は大きく、先日のヨウスケと同じか、むしろ肩幅はより広く見えた。
LLサイズのTシャツを弾けさせるような胸板と太い腕、そのたたずまいから、ただ者でないことがキヨシの目にも分かった。

「ハイ。そうですヨ。わたし、リュウ・シンイェンです。コンバンワ」

「あいさつはいい。お前にやられた相塚と久木崎の知り合いのモンだ。何の用か、分かるよな?」

リュウの返事を待たずに、男は腰を落として、空手のようなかまえを取った。
こちらを睨みつけながら、ニヤリと笑うその顔は狂犬のようで、ただ話をしに来たのではないことは明らかだった。

「ハイ。たぶん」

リュウはちょっと首をかしげながら答えたが、特に警戒する様子もなかった。
逆にキヨシの方が、男の気迫に押されて、無意識に後ずさりしていた。

「いい度胸だ。じゃあ、いくぜ! …えっ!?」

男が突然、リュウに向かって大きく踏み込み、前蹴りををはなってきた。
しかし男の脚が振り上げられたその瞬間、スパン! と、リュウの蹴りが男の股間を正確に打ち抜いていた。

「!! むぅうっ…!」

男の下半身から耐えがたい痛みが沸き上がり、その場にひざまずいてしまった。
男にはリュウの動きがまったく見えなかった。
自分の方が先に蹴りを出したはずなのに、リュウの蹴りの方が先に自分に届いていた。
しかもこの金的蹴りは、今までくらったどの蹴りよりも正確に、彼の二つの睾丸をとらえ、打ち抜いていた。
今、この瞬間感じている痛みよりももっともっと強い痛みの波がすぐにやって来ることを、経験上、分かっていた。そしてそれがこの後数時間、続くことも。

「ぐぅ…お…ぉ…!」

痛みの波が、やってきた。
歯を食いしばり、両手で股間をおさえても、どうにもならないことはわかっていた。武道家として、勝負したことを後悔するつもりはなかったが、この痛みは別だった。
ただの一撃で、自分が今まで積み上げてきたものを全否定されるような、精神的にも肉体的にも衝撃的すぎる苦しみが、彼を支配しつつあった。
目の前には、彼にその苦しみを与えたリュウの右脚がある。
こんな細い足で蹴られて、どうしてこれほど苦しまなければならないのか。
男の肉体の永遠の矛盾を感じさせられているようだった。

「あ! 約束してもらうの、忘れてマシタ。わたしに負けたこと、誰にも言わないでくださいネ?」

リュウは自分の前でひざまずく男を見下ろして言ったが、男はそれに答えるどころではないようだった。

「あ、あの、リュウさん…。今、何が…?」

男に気圧されて一歩下がっていたキヨシが、恐る恐る尋ねた。
彼の眼には、今、何が起こったのか。よく見ることができなかった。

「ン? わたし、蹴りマシタ。わたしの勝ち! コイツ、弱いネ」

「け、蹴ったって…」

「ハイ。わたしが蹴ると、いつも一回で動けなくなる。あの、アレ。そこ。なんだっけ? キヨシにもある。わたしにはない」

リュウは日本語が浮かばないのか、キヨシの股間を指さしながら訪ねた。

「え…? あの…金玉ですか?」

「そう! 金玉! 大切なモノ! わたし、そこ蹴るの得意なんデス!」

キヨシは納得した。
素人の彼は、男がリュウに向かってきたとき、思わず目をつぶってしまっていた。しかしその一瞬で、彼女は金的蹴りをはなっていたのだ。
まさに目にもとまらぬ早業だった。

「も、もしかして、この間の店に来た人も、こうやって…?」

思い出してみれば、公園でうずくまるヨウスケも、今のこの男と同じように両手で股間をおさえていたような気がする。
キヨシは自分が股間を蹴られたことなどなかったが、その苦しみは男として、当然想像できるものだった。

「ハイ。あのときも一回だったネ。男は金玉蹴られると弱い。女の方が強いネ!」

「ハ、ハハ…」

ガッツポーズをして見せるリュウに、キヨシは何も言えなかった。

「ふ、ふざけんな…!」

振り向くと、殴りかかってきた男が、片手で股間をおさえながら、ゆっくりと立ち上がっていた。

「俺と相塚と久木崎…。ガキの頃からのライバルだ。同じ道場で死ぬほど稽古して、強くなってきたんだ。それが…お前なんかに…!」

下半身の痛みはいっこうにおさまる気配はなかったが、男の意地と理不尽な敗北への怒りで、立ち上がったようだった。

「お前の金蹴りなんかで、負けてたまるか!」

男は痛みを振り払うかのように、吠えた。
しかしリュウの方は、特に動じる様子もなく、残念そうに首をかしげた。

「ンー。そうデスカ。でも、男が金玉痛いのは、しょうがないデス。もうやめた方がいいヨ」

「うるせえ!」

男はいきなり殴りかかってきた。
リュウは慌てる様子もなく、それをかわした。
大きな拳が、空を切り裂く。
下半身に痛みを抱えながらとは思えないパンチだった。

「おらっ! せいっ!」

歯を食いしばりながら、男は次々に攻撃を繰り出していく。
しかしそれらをすべて、リュウはかわしたり、いなしたりしてしのいでいた。

「ン、そうデスネ。この前のヒトより、オマエの方が強いかも」

リュウの動きは軽やかで、まったく淀みがない足さばきだった。
さらに時折、男の攻撃にわずかに手を当てて、力の方向を変えたりしているようだった。
それはまさに達人と言っていいレベルで、キヨシの目にも、ただ事でないことがはっきりとわかった。

「なに!?」

ヨウスケより強いと言われて、男は少しだけうれしそうに反応した。
攻撃はすべてかわされていたが、残り少ない体力で、渾身の一撃を繰り出そうとした。
その時、

「でも、わたしの方が強い」

スッとリュウが男の懐に入り、しゃがみこんだ。
スパァン、と気持ちのいい音がして、リュウの裏拳が、男の股間に突き刺さった。

「ひっ!」

思わず、キヨシが声を上げた。
まだ痛みが残っているであろう金的を、再び打ちつけるなど、男としては考えられないことだった。

「はぐっ!」

男の意識は、あるいはここで半分以上、飛んでいたかもしれない。
出しかけた右の拳が、ゆっくりと、リュウの頭上を流れていく。

「ハイヨォ!」

リュウは男の腕を取ると、その力の流れを利用するかのように、男の巨体をぐるりとひっくり返した。
ドスン、とアスファルトに背中から落とされる。
その瞬間、男の意識が戻ったようだった。

「かはっ! あ…え…?」

いきなりあおむけで空を見上げさせられた男は、状況が理解できなかった。
しかしその目に、大きく足を振り上げたリュウの姿が映ると、本能的に危険を察知した。

「ちょっ! やめ…! ごめんなさ…」

「ハイッ!」

リュウは無情にも、男の股間に踵を振り下ろした。
グシっと鈍い音が、キヨシの耳にも聞こえた。
男はもはや声にならない悲鳴を上げて、両手で股間をおさえて丸くなり、左右にゴロゴロと転がった。
3回も金的を打たれて、想像を絶するような痛みが男の全身に広がっているはずだった。

「フウ。やっぱり金玉が便利ネ。すぐ終わるから」

リュウはにこやかにキヨシを振り返った。
まるでアルバイトのひと仕事を終えたような感想だった。

「つ、強いんですね、リュウさん。知らなかった…」

「ン? チガウチガウ。わたし、ぜんぜん強くない。もっと強いヒト、たくさんいるネ。コイツが弱かっただけ」

「そ、そうなんですか?」

どこまで本気で言っているのか、あるいは全部本気なのか、キヨシには分からなかった。

「あ、そうそう。約束守ってくださいネ。わたしに負けたコト、誰にもいわないでくだサイ」

すでに転がるのをやめて、全身を震わせながら痛みに耐えている様子の男に向かって、リュウは確認した。
男は内容を理解できたのかどうか、無心にうなずいたようだった。

「…ていうか、この前店に来た人、その人に話してますよね、絶対」

ふとキヨシが口走った。
それを聞いて、リュウもハッと気がついたようだった。

「そうだネ! ゼッタイそうだ。アイツ、オマエに話してるヨ! アー、もう。アイドルが金玉蹴るのバレたら、ダメだヨ。…ダメかな? ダメ?」

「ダメ…だと思います」

キヨシは思わず答えてしまった。

「そうだよネー。もう! 今度はゼッタイ言わないでヨ! オマエの友達にも伝えて! もし誰かに言ったら、オマエたちのタマゴ、潰すぞって!」

男は口から涎を流しながらも、力を振り絞って、必死にうなずいたようだった。

「ン。よし。お願いしますネ。じゃあ、キヨシ、帰ろっか? …あ、そうだ」

「は、はい。何ですか?」

何か思い出したように、リュウはキヨシを見つめた。

「キヨシも内緒にしてくださいネ? もしバラしたら、キヨシのタマゴも潰しますヨ?」

にっこりと笑ったその笑顔は、キヨシの背中に寒気を走らせるのに十分だった。
キヨシは唾をごくりと飲み込んで、うなずいた。

「リュウさん…タマゴじゃなくて、タマですよね? あとアイドルは、男のタマを潰したりしないですよ、絶対」

「エー、そうなの? アイドルは潰したことないの? 誰も?」

「誰もないと思います。たぶん…」

二人は話しながら、歩き去っていった。



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