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男の絶対的な急所、金玉。それを責める女性たちのお話。


「おい、木崎。この企画書お前のか?」

狭い事務所内に声が響いたとき、机に向かって作業をしていた木崎タツヤは、いよいよきたか、という心境で顔を上げた。
数メートル離れたデスクで、社長の北島が白い紙をヒラヒラと振っている。
この会社は無数にあるアダルトビデオメーカーの中でも、小規模な部類に入る。長年、この業界を渡り歩いて独立した北島のワンマン経営といっていい会社だった。
所属しているAV監督たちは週に一回、AVの企画書を出すのが決まりだったが、それが製作に値するかものどうかの最終判断は、基本的に北島に一任されているような形だった。

「この企画書お前のか?」

と聞いてくるときは、あまりいい傾向ではない。
そもそも企画書には製作者の名前が書いてあるわけだから、確認するまでもないのだ。
北島がいい企画書であると判断したときの反応は、「おい木崎、ちょっと来い」であるはずだった。
数年前に映像の専門学校を卒業し、「映画監督になりたい」という夢を持っていた木崎タツヤは立ち上がると、緊張した面持ちで北島のデスクの前に立った。

「はい。自分が書きました」

「おう。お疲れさん」

北島は改めて、タツヤが書いた企画書に目を落とした。

「これはアレだよな。俺がやってみろっていったヤツだよな。ちょっと前に。そうだよな?」

「はい。そうです。遅くなりました」

「おう。お疲れさん」

それが北島の口癖であって、本気で労わっているわけではなかった。
タツヤが北島から言われた仕事というのは、「金蹴りモノのAVを作ってみろ」ということだった。
初めて聞いたときには、その意味が理解できなかった。
調べてみると、昔から一部のマニアックなメーカーがそういった作品を作っており、最近では徐々に数を増やし始めているという。
もちろん、大手のアダルトビデオメーカーが量産するほどの需要はなかったが、この会社のような弱小メーカーは、時にはそういったジャンルに手を出さなければならないこともある。

「多少製作費がかかってもいいから、マニアが好みそうなものを作れ」

というのが、北島の命令だった。
ツボさえついた作品ができれば、マニアはいくらでも金を出すというのが、北島の持論だった。

「まあ、コレな。悪くはないけどな」

北島はつぶやきながら、企画書を読んでいた。
その感想が、最悪から二番目くらいの評価であることは、タツヤもわかっていた。
いい部分を探すのが面倒くさいほどのときに、北島は「悪くない」と言う。

「まずはなんだ、コレ。S系の女優を2,3人使って、金玉を蹴ってもらう、か。衣装はボンデージかミニスカポリスか。革のロングブーツは確定か。ふーん。男はどうすんだ? なんかストーリーはないのか、コレ?」

「はい。男はまあ、それ専門の人間を手配して…。首輪とかつけて、ペットとか奴隷的な感じを出してもいいかと思ってますけど…」

「ああ、なるほどなあ。ふーん。で、ブーツで蹴ったり、膝蹴りしたりして、倒れたら踏むのもアリか。電気あんまとかな。ああ、最初はパンツ履いてんだな、コレ。で、途中から脱がせて、金玉縛ったり、ロウソク使ったりするのか。ああ、スタンガンも使うのか。そうか」

一度読んだはずの企画書を、今、気が付いたかのように読み上げていく。
タツヤにしてみれば、もうこの企画書が書き直しになることは確定しているから、どこを直せばいいのか、北島の真意を探ることに神経を配っている状態だった。

「木崎、お前さあ、コレ書くとき、他の作品とか見たか?」

少々の沈黙の後、北島は不意に尋ねた。

「あ、はい。金蹴りモノの作品なら、何本か見ました…」

今までこういったジャンルの作品を撮ったことのないタツヤは、参考にするため、ほかのメーカーの作品を何本か鑑賞してみた。
しかしながら、これを見てどこに興奮するのか、AV業界に身を置いているタツヤでさえ、さっぱり分からなかった。マニアが喜ぶツボが分からなければ、この手の作品を作ることは難しい。
仕方がないので、今まで世に出た作品の中から少しずつ要素を抜き出し、それをまとめて書き上げたのが、この企画書だったのだが、やはり評価はされなかったようだった。
そもそもノーマルな自分に、そんな作品を撮らせようと思うのが間違いだと、なかば開き直った気持ちで、タツヤは北島のデスクの前に立っていたのである。

「そうか、見たか。でもアレだな。見てもお前、ぜんぜん分かんなかったろ?」

「あ、いや…。まあ…はい…」

本気で自分の企画書を読んだのかと疑っていた北島に易々と見破られ、タツヤはうろたえた。
北島には、さすがに出入りの激しいAV業界で生き抜いてきた男だけに、こういうところがある。
思わぬ時に見せる鋭さにドキリとさせられることが、よくあったのだ。

「だろうなあ」

と、何か考えるような仕草で沈黙した。
タツヤは立ったまま、次の言葉を待たざるを得ない。

「木崎、一つ言っとくけどな。金蹴りはSMじゃねえぞ。ソコを分かってねえなら、売れる作品は作れねえからな」

「は、はい…! 分かりました」

反射的にうなずいてしまったが、どういうことかまったく分からなかった。
この企画書を作るにあたって、タツヤは「金蹴りモノはSMというジャンルの一つ」という印象があったのは確かである。
しかしそれを今、否定された。
男の急所である金玉を蹴られることが痛いことは、タツヤも男であるから、よく分かっている。自分なら絶対、蹴られたくはない。
しかし世の中には、そういった痛みで性的興奮を感じ、自ら痛みを求める人間がいることは、もはや世間的にもよく知られていることだった。
それがSMプレイというもので、そういうマニア向けのアダルトビデオが存在することも不思議ではない。
タツヤ自身はまったく興味がなかったが、それは知識として理解しているつもりだった。
だからこそ、「金蹴りはSMではない」という北島の言葉の意味が、腑に落ちないのである。
SMでないなら、どうしてわざわざ、文字通り死ぬほどの痛みであるはずの金蹴りを受けたいというのか。

「え…と…。社長、それはつまり、どういった…?」

「あ? だから、そのまんまだよ。勘違いしてるヤツが多いんだよな。金蹴りはSMの一つとかよ。ぜんぜん違うんだっつーの。違うジャンルなんだよなあ」

そう言われても、さっぱり分からない。
そう言いたそうなタツヤの顔を見て、北島はさらに続けた。

「アレだろ。お前が見たのって、ドMの男優が来て、女の子にしこたま蹴られたりするヤツだろ? 何回も蹴られて、太ももとか真っ赤になってよ、それでも平気そうなんだよな、アイツら。なんかクッションでも入れてんじゃねえかって思っただろ?」

「あ、はい。そうです。ホントに」

確かにタツヤが見た金蹴りモノのAVでは、覆面をした男優がどれだけ強く股間を蹴り上げられても、ダウンしてしまうことはなかった。
ひょっとすると、すでに金玉が潰れてしまっているのではないかと、タツヤは男だけにそう思ってしまった。

「それで女の子もなあ、女王様系の格好とかして、上から目線なんだよな。『土下座しろ』とか『脚をなめろ』とかな。まあ、SM慣れしてる女の子は、そういう感じだよな」

まさしくその通りだった。
そういった作品を見たからこそ、タツヤもこのジャンルはSMの一つなのだと思ったのである。

「そんで、たまに男がダウンしたらよ、『早く立て』とか、『痛いのが好きなんでしょ』とかな。そうじゃねえってんだよなあ。そういうんじゃねえんだよ、金蹴りってのは」

いつになく熱心に語る北島に、タツヤは少し驚いていた。もしかすると、北島は金蹴りモノに対して個人的な思い入れがあるのではないかと感じた。
普通のセックスシーンを見すぎて慣れてしまい、アブノーマルな性癖を持つようになるのは、この業界ではよく聞く話だった。
しかし今は、この企画をどうすればいいのかという話の方が大事だった。

「そうすると、つまり…この作品はどういった方向性で行けばいいでしょうか?」

尋ねると、北島は沈黙した。
口をへの字に曲げて、じっとタツヤの顔を見ている。

「まあ、自分で考えみろよ。急ぐ話じゃねえから。ゆっくり考えてみな」

肝心なところで具体的なことは言わないというが、北島の癖だった。
あるいは、監督それぞれの発想を大切にしたいという、教育方針といってもいいのかもしれない。売れるかどうかの判断はしてやるが、そこまでの道は自分で考えろと言っているようにも聞こえる。
こう言われると、タツヤも黙ってうなずくことしかできなかった。



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