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男の絶対的な急所、金玉。それを責める女性たちのお話。


某中堅スポーツ用品メーカーに就職して2年目の竹内チナミは、今年から何か一つくらい、重要な仕事を任されるかもしれないと身構えていた。

「竹内くん。キミにコレを任せるから。営業してきて」

ゴロン、と営業部長が机に置いたのは、白い布地にプラスチック製の容器のようなものがついた物体だった。

「あ、はい! ……えと、あの、部長…コレは…?」

無造作に手に取ってみると、それが何か、下半身に履くタイプの製品であることが分かったが、チナミにはまったく見覚えのないものだった。

「それはね、その…アレだ。アレを守るヤツ。ファールカップっていうから。詳しくは、西田くんに聞きなさい」

「あ、はい!」

営業部長は、何か言いづらいことをようやく言えたときのように、そそくさと去って行った。
チナミはいぶかしく思いながらも、初めて仕事を任されたという気合に満ちた表情で、メガネを上げなおした。

「あ、西田さん!」

同じ営業部の先輩である西田が、ちょうど目の前を通り過ぎようとしていた。

「あ? なんだよ?」

学生時代に柔道をしていて、空手の道場に通った経験もあるという西田は、その体格以上に高圧的な態度で、普段から後輩に接していた。

「あの、部長から、コレを営業してこいと言われたんですけど…。詳しくは、西田さんに聞きなさいって」

と、差し出されたファールカップを見て、西田はあからさまに顔をしかめた。

「ああ、そう。まあ、頑張りな」

それだけ言って、立ち去ろうとする。

「あの! コレって、何なんですか? ファールカップとかって言ってましたけど」

振り返りざま、西田は明らかに舌打ちをした。

「ファールカップはファールカップだよ。そんなことも知らねえのか、お前。男のアレを守るヤツだよ。調べりゃ分かるだろ」

「え、あの…。営業って、どこに行けばいいんですか?」

「それはお前…空手の道場とか、格闘技のジムとか…。ああ、もう! ちょっと待ってろ!」

西田は自分の机に戻り、山積みになった書類の中から、一つのファイルを取り出した。

「これ、やるから。今までの営業先とか、中に全部入ってるよ。勝手にやってくれ」

「あ、はい! ありがとうございます!」

深々と頭を下げた。
西田は、こちらがいくら不機嫌そうに対応しても、いつもあまりこたえる様子のないチナミが苦手だった。
それが今どきのゆとり世代のマイペースというやつかと自分を納得させて、その場を立ち去った。
一方のチナミは、西田の不機嫌など気にすることもなく、与えられた仕事を全力でこなしてやろうと、やる気に満ちた顔で机に向かうのだった。




「ああ、西田さんとこの。へー。営業に、こんな若いコがいたんだあ。うんうん……ああ、それね。いいよいいよ。ウチではもう、違うの使ってるから。うん。ゴメンね。はいはい」

「……西田さんにも言ったけど…。ウチの選手はあんまり使わないから。いらないよ」

「間に合ってます!」

西田に借りたファイルを隅から隅まで読んで、ファールカップというものを理解したチナミだったが、どれだけ営業に行っても、まるで売れなかった。
空手道場や格闘技のジム、企業や大学の野球部など、考えられるところに片っ端から当たってみても、まったく相手にされなかった。
チナミの会社の他の製品を使ってくれているところでも、ファールカップだけは別なメーカーのものを使っているという具合だった。
初めての単独の営業の仕事で息巻いていた彼女も、これにはさすがにまいってしまった。

「お? まだいたのかよ」

営業に疲れ切ったある日の夜、誰もいない営業室で呆然と座っていると、西田がやってきた。
顔を赤くしているところを見ると、どうやら飲みに行った帰りに、忘れ物を取りに来たようだった。

「西田さん…。お疲れ様です」

小学校から高校まで皆勤賞を取り、ちょっと抜けているところもあるが、元気だけは誰にも負けないというチナミだったが、まったく手応えの無い営業活動に、さすがに疲れ切っていた。

「お疲れ…」

西田はしかし、彼女の苦労の原因をすべて承知していながら、何も言おうとせず、自分の机から何かを取り出して、そのまま立ち去ろうとした。

「西田さん!」

チナミは立ち上がって、西田に駆け寄った。

「西田さんは、知ってるんですよね? ウチのファールカップが、何で売れないか。知ってるんですよね?」

必死の表情で追及すると、西田は普段は大きな体を、この時ばかりは小さくするようにして、とぼけた。

「いや…知らねえよ。何のことだ?」

「だって、おかしいですよ! 他社のファールカップを使ってるところだって、ウチのはぜんぜん、見向きもしてくれないなんて。西田さんが営業してる時も、そうだったんですか? なんでなんですか?」

目に涙さえ浮かべ始めたチナミの問いかけに、西田もようやく重い口を開いた。

「いや、まあ、その…なんだ…。要するにだな…。痛えんだよ、ウチのファールカップは」

「はあ?」

「だから…痛えんだって。ウチのファールカップ。着けても、効かねえんだよ。痛えんだよ!」

最初は小声で、ボソボソと話していたが、やがてヤケになったかのように、そう告白した。
チナミは思いもかけぬその答えに、一瞬、混乱してしまう。

「あの…それは…。痛いって、その…何がですか?」

「決まってんだろ! タマが痛えんだよ。ウチのファールカップを着けても、金玉が痛くなるんだよ。だから売れねえんだろ!」

「キ、キン…タ…?。そ、そうですか…。ああ…」

思わず、西田の股間に目を落としてしまう。
製品としてのファールカップの機能と構造を、懸命に勉強して理解したつもりだったが、その性能に差があるとは、思いもしなかった。
というより、自分にとっては想像したくてもできない痛みだったので、まったくの盲点だったのかもしれない。

「何年か前に、それができたときは、いくらかは売れたよ。でもその後、さんざん文句言われたんだよ。お前んとこのファールカップは、着けても意味ないって。スポーツ用品ってのは、性能が命だからな。噂があっという間に広がって、ぜんぜん売れなくなっちまった。部長にも説明したつもりだったけどな」

「そうだったんですか…」

自社のファールカップの性能が低いと聞くと、チナミはまた落ち込んでしまいそうになった。
しかし一面、安心もしていた。
自分の営業の仕方がまずかったわけではない。製品に問題があるなら、それを改善すればいいだけの話ではないかと、持ち前の明るさで思い直したのである。

「じゃあ、開発部に報告して、作り直してもらいましょうよ! 性能に問題ありってことで。そうすれば、きっと痛くないのを作ってもらえますよ!」

「報告なら、したよ。でも、開発部のヤツらは頭が固えからなあ。計算上は問題ないとか、個人差があるとか、そんな具合に落ち着いたはずだぜ。分かってねえんだよ、アイツらは」

「じゃ、じゃあ、現場で何とかしましょうよ! 私たちで、きちんとしたデータを取って、それを見せれば、きっと分かってもらえますよ!」

「データって、お前…。あ? 私たち?」

やる気に満ちた目をキラキラと輝かせているチナミを見て、西田は例えようのない不安を感じてしまった。




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