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男の絶対的な急所、金玉。それを責める女性たちのお話。


俺は見ている。
電車の中から、ずっと見ていた。
柔らかそうで、それでいて張りがあって、いかにもしなやかに動きそうなその脚。
かさつきなんか無縁の、すべすべした膝小僧のすぐ下まで伸びた黒いハイソックス。真っ白な肌とのコントラストが素晴らしいじゃないか。
小さく締まったお尻を揺らしながら歩いているが、そのスカートの下には、その肌よりも白い純白のパンティーがあるんだろ。
そうであってくれよ。
白じゃなければ、むしろ真っ黒がいい。レースでスケスケになった大人もののパンティーも、ギャップがあっていいもんさ。

わたしは見られてる。
電車の中からずっと気づいてた。気持ちの悪い、ヌメッとした視線の感覚。
その感覚がまだ続いているから、電話をかけることにした。
この先はちょっと薄暗い、空き家の多い住宅街で、夜はめったに人が通らなくなる。
わたしの家はここを抜けて、まだ先だから。

「もしもし? うん、そう。今、ヒマ? あ、そうなんだ」

ヤバイ。こんな時に限って、友達は忙しい。
バイトに遅れそうだってなんだって、そんなのどうでもよくない?
わたしには今、身の危険が迫ってるかもしれないっていうのに。

電話をかけだしたな。
防犯の知識があるヤツだ。
まあ、そんなキレイな脚をして、そんな短いスカートをはいてりゃ、当然さ。
初めてじゃないってわけか。
そういう俺も、お前の後をつけるのは初めてじゃないんだけどな。
知ってるよ。お前の家はまだ先だろ。
まだあと、10分はかかる。
そしてこの辺りは、ほとんど誰も住んでいないのさ。

「えーっと、マジか。そっか。うん、いいよ。はいはい。じゃあね」

そんなに急いでるって言われたら、電話切るしかないじゃない。
ちょっと待ってよ。

「あ、そうだ。そういえばさ、あの、あれ。あの子、最近どうしてるの? ほら、あの子。名前なんだっけ? 中学で一緒だったさあ」

今、ちょっと間があったの、気づかれた?
ちょっとパニクってんだけど。
電話通じてないの、バレてる? バレてない?

まだ話してるな。
女ってのは、無駄話が多いよな。
友達か何かか。
どうも様子がおかしいが、本当に電話してるのか?
まあどっちでもいいけどな。
そろそろ時間いっぱいだ。
このあたりでいかせてもらうとするか。

わたしは驚いた。ダダダって、急に足音が大きくなったから。
思わず声が止まっちゃう。
話してるふりしないといけないのに。
とか思ってたら、後ろから腕を掴まれた。
ひどい力。
指が、二の腕に食い込んでるって。

「電話切れ」

俺は声を低くして、そう言った。
右手にナイフ持ってるのが、見えてるか?
ポケットに入るサイズの小さいヤツだが、これで十分だろ。
しかし、なんつう柔らかい腕だよ、こりゃ。
女の体ってのは、男とは全然違うな。
そしてこの髪の毛の匂いも、ぶっ飛びそうになるくらいいい匂いだ。

「はい」

わたしは言われたとおり、電話を耳から外して、腕をおろした。
もともとつながってなかったし。
すぐ目の前に、ナイフが見えるし。
マジでヤバイ。

「こっち来い」

俺は女を引っ張って、空き家のブロック塀に押し付けた。
女の後ろ姿ってのは、いいよなあ。
後ろ姿だけなら、女の半分は美人だ。
小さい肩、キュッと締まったウエスト、膨らんだ尻。
そして、脚。
たまらねえなあ。

「壁に手ついてろ」

わたしは男の言うとおり、壁に両手をついた。
すぐ耳元で、呼吸が荒くなってるのが聞こえる。
なんか、肩を触りだしたんだけど。
超キモイ。
マジヤバイ。
肩を撫でまわして、今度はお尻?
ホント、勘弁して。
脚とか。
膝の裏とか、普通にくすぐったいから。
ていうか、しゃがんでるの?
これ、鼻息?
まさかとは思うけど、舐めたりしないでよ、絶対。マジで。

「ふうぅ」

俺は思わずため息をついてしまう。
感動のため息か、これは。
自分でもよく分からないが、すごい満足感だ。

「こっち向け。ゆっくり」

わたしは言われたとおり、ゆっくりと振り向いた。
こんな変態男の顔なんて見たくないけど、しょうがない。
我慢。まだ我慢。

「ふう」

俺はまた思わず、ため息をついてしまった。
マスクの下で、呼吸が荒くなる。
近くで見てみれば、この胸のでかさはなんだ。
こんな高校生が、現実に存在するなんて。

わたしの気分は最悪。
なんなのコイツ。
デカいマスクして、メガネかけて帽子かぶって。
ほとんど顔が分からないのは、かえっていいかもしれないけど。
生温かい鼻息かけてくんなっての。
すっごいわたしの胸見てるけど。
脚フェチじゃねえのかよ、お前は。どっちなんだよ。
まあでも、そっちの方がわたしにとっては都合がいいんだけど。
チラッとコイツの下半身を見てみると、スウェットパンツの前のところが、やっぱり盛り上がってる。
最悪。
それを押しつけてくんなよ、マジで。
今からぶっ潰してやるからな。

「あ、の」

俺は胸ばかり見てた。どれだけ柔らかいんだろうとか想像してた。
女が少し声を上げたから、そこでやっと口を塞いどくのを忘れたって気がついた。
左手を女の口に当てようと思った瞬間、イヤな感触がした。

ボグッ!!

わたしはホントにギリギリのところで、コイツの金玉に膝蹴りを入れることができた。
なにコイツ、わたしの顔に触ろうとした?
マジありえない。
危なかった。

「はっ!?」

俺は股間に太い衝撃を感じて、声を上げてしまった。
思わず左手で、股ぐらを押さえる。
金玉を蹴られた。
何て女だ。金玉を蹴るなんて。
コイツ、絶対に犯してやる。

「ん! あ、あぁ!」

俺の金玉から、というか、腰か下っ腹のあたりから、ものすごい痛みが沸き上がってきた。
内臓をえぐられるような、鈍痛だった。
俺はたまらず両手で股ぐらをおさえて、その場にしゃがみこんだ。

「くぅ、うぅ!」

わたしは男を見下ろして、満足していた。
もちろん、絶体絶命のピンチを切り抜けた安心感もあったけど、こうなることはわかってたから。
なに、コイツ。地べたに這いつくばって、ジタバタしちゃって。
そんなに痛いんだね。痛いよねえ。
わかってて蹴ったんだけど。
アンタがわたしの前でバカみたいに脚開いてつっ立ってたときから、もうこの状況は決まってたんだよね。
ナイフも落としてるね。そうだよね。離さないと、大事な金玉がおさえられないもんね。
でもこれは危ないから、あっちに蹴飛ばしとくよ。
もうアンタは立ち上がれないだろうけど、一応ね。

俺は耳の片隅で、チャリン、という金属音を聞いた。
俺のナイフか?
もうどうでもいい。
この痛み。
なんていう痛みだ。
金玉にボールをぶつけたことくらいはあったが、そんなものとは比べ物にならない。
体が震えてるのか? 痙攣?
思わず足をバタバタさせちまう。
痛みのこと以外、考えられない。
いつになったら治まるんだ、この痛みは。

わたしは考えていた。
コイツの金玉を蹴る前は、蹴ったらすぐに逃げようと思ってた。
少し動きを止めるくらいで十分、走って逃げることができると思ってたから。
でもコイツ、痛がりすぎじゃない?
追いかけるどころか、立つこともできないみたいじゃん。
いつになったら終わるの、この足バタバタ。
なんか、小刻みに震えてるんだけど。
すごいクリーンヒットしたみたいだね、金玉に。
かわいそ。
もう逃げるまでもないか。
あ、腰をさすりだしたね。
金玉蹴ると、男はだいたい同じことするよね。
腰をさすったり、トントン叩いたり。
それで痛くなくなるの?
この動き、マジウケるんだけど。

俺は何も考えられなかった。
もうずいぶん長い間、この痛みは変わらないような気がする。
時間の感覚が、わからなくなってきた。
地面にうずくまっていることしかできない。
下半身に力が入らない。腹がムカムカして、吐き気がしてきた。
俺の金玉は無事なんだろうか。
手にあたる感触では、二つともありそうだが。なんか変形してないか?
もともとこんな形だったか?

「そんなに痛いの?」

わたしは思わず、そうつぶやいてしまった。
そんなこと言うヒマがあれば、逃げればいいのにって、自分でも思う。
でも、逃げるって。こんなヤツから?
わたしに金玉蹴られて、ジタバタして立ち上がることもできないヤツから?
なんか、そっちの方がバカバカしくない?
もうコイツは、わたしに何もできないよ。
何かするんだったら、それはわたしの方からだ。

「そんなに強く蹴ってないんだけど。男って大変だね」

俺は何も言い返すことができなかった。
いっそのこと殺してくれってくらいの痛みで、女のことはちょっと忘れていた。
考えてみれば、俺にこの痛みを与えているのはこの女だった。
お前にも、この苦しみを味わわせてやりたい。
この女に、金玉の痛みを。
ああ、クソ。

「アンタ、電車に乗ってたよね。わたしのこと、ずっと見てたでしょ。この変態。警察よぶね」

俺は思った。警察はヤバイ。何とか逃げなくては。
まだ顔はバレてない。
痛くても立ち上がって、この場から逃げなくては。
もうこんな女、どうでもいい。
ヤバイ。ヤバイ。

「うぅ、う」

わたしは満足してた。
思った通り。コイツ、逃げようとしてる。
ほらほら、何とか立とうとしてる。
お腹を両手でおさえたまま、前かがみになって。
ヨロヨロしてる。
生まれたての小鹿みたい。
逃がすわけないだろ、お前みたいなヤツを。
まだ足りないんだって。一発で終わりだと思ったら、大間違いだよ。

バシン!!

わたしは男の後ろから、今度は足の甲で思いっきり金玉を蹴り上げた。
なんか、もっこりした膨らみに当たったよ。これが金玉なの?
この小さいのを蹴られたら、動けなくなるくらい痛くなるの?
後ろから蹴る方が痛いっていうよね。
わたしの体に触っといて、これくらいですますわけないだろ。

「あっ!! あぁ。あぁ」

俺は何が何だか分からなかった。
立ち上がろうとしたら、後ろからまた金玉を蹴られた。
全身が寒くなるような痛み。
痛みというより、苦しみ。
もうなにもできない。なにも考えられない。
また地面にうずくまって、小さく声を上げることしかできない。

「あーあ。地獄の苦しみってヤツ?」

わたしはもう、完全に笑っていた。
さっきまで男のことを怖いとか危ないとか思ってたけど、もうそんなことはない。完全にお遊び。
金玉つづけて二回も蹴られたら、そりゃ痛いだろうね。
男の急所だもんね。
痛そう。
でもさあ。急所なら、もっとちゃんとしとかないと。大事にしまっとかないといけないんじゃない?
ブラブラさせてるのが悪いと思うんだけど。

「ねえ、もう立てないの? 警察きたら捕まっちゃうよ?」

俺は女の言葉を聞いても、どうすることもできなかった。
もし警察に捕まれば、この痛みから解放されるっていうなら、喜んで捕まる。むしろ捕まえてくれ。
とにかくこの痛みを止めてくれるなら、何でもする。
お願いだ、止めてくれ。

「ふーん。もう動けないんだね。ねえ、どう痛いの? どんな風に痛いのか、説明してくれない?」

わたしは全部わかってて、聞いてる。
男がもう動けなくて、しゃべるどころじゃないってことも。
でも金玉がどう痛いかっていうのは、マジで興味があるなあ。
だって、わたしには金玉ついてないからさ。ホント、わからないんだよね。
女の体に、金玉みたいに感じるところってある? ないよね。
だから説明してほしい。どんな風に痛いのか。なんでそんなに痛いのか。
でも金玉蹴られた男ってみんなそうだけど、それどころじゃないみたい。
まだ一回も、わかりやすく説明してもらったことがない。
コイツも、なんかアウアウ言ってるだけで、何も言ってくれない。
金玉蹴られると、男はバカになるみたいだ。

「すっごい痛いみたいだねえ。ふーん。ねえ、もう一回蹴っていい?」

俺はその言葉を聞いて、顔から血の気が引くのを感じた。
ゆっくりと、本当にゆっくりとやわらいできているよう気がするこの痛みを、また与えられるかもしれないって?
そんなことは本当に勘弁だ。何がどうなっても、避けたいことだ。

「や、やめて」

「ん? なんだって?」

私は聞き返した。
コイツ今、やめてって言った?
そりゃあそうだろうけどね。そんだけ痛けりゃ、もう蹴られたくないだろうね。

「や、やめてください。お願いします」

わたしは満足した。
この変態男を、支配したっていう気がした。
何て快感なんだろう。
コイツにナイフを突きつけられてるときは、コイツは調子に乗ってた。わたしの方が支配されてたんだと思う。
でもわたしが金玉を蹴っただけで、それが逆転したんだ。
ナイフ持ってても負けるってさあ。
わたしの方がだんぜん強かったってことだよね。
まあコイツが金玉なんかぶら下げてるせいなんだけど。
情けないなあ、男って。
男の金玉は、こういうときに女に蹴飛ばされるためにあるんじゃないかって思う。
ホント、よくできてるよね。

「やめてって? じゃあさ、金玉蹴られるのと、ナイフで刺されるのと、どっちがいいの?」

俺は迷った。
ナイフを持ってはいたが、刺されたことなんかない。
どれだけ痛いかなんて、わからない。
だが、少なくともこの金玉の痛みより痛いってことはないんじゃないだろうか。
これより強い痛みなんて、この世に存在するとは思えない。
だがナイフで刺されば血が出るだろうし。
俺は迷った。

「え? 迷っちゃうの? そんなに金玉イヤなの? へー。そうなんだ」

わたしは初めて納得した。
ナイフで刺されるのなんて、絶対イヤだと思うけど、それと金玉蹴られるのって、迷うくらいなんだ。
そんなに痛いんだ。
ウケる。そうとは知らずに、二回も蹴っちゃった。

「や、やめてください。お願いします」

俺は繰り返し、そう言うことしかできなかった。
俺は何しに来たんだろう。
みじめだとは思ったが、これ以上の痛みを与えられないためには、こうするしかなかった。
この女には今俺がどれだけ苦しい思いをしているかなんて、わからないんだろう。
この地獄の苦しみに比べたら、俺がお前にしたことなんか。
女は怖い。女は恐ろしい。
平気で、あんなに強く金玉を蹴ってくるなんて。
しかも、もう一回蹴ろうかだって? なんて恐ろしいヤツだ。
金玉の痛みでショック死することもあるらしいが、今の俺からしたら、そっちの方がマシなんじゃないかって思えてくる。
とにかく俺には、この女に許しを請うことしかできないんだ。

わたしは不思議なくらい、落ち着いていた。
なんていうか、難しいと思ってた問題が、実は簡単に解く方法があったんだって感じ。
男は金玉蹴られたら、這いつくばって謝ることしかできないってわかっちゃった。
なんて情けないんだろう。
もしわたしに金玉がついてて蹴られたりしたら、同じように這いつくばって謝るんだろうか。
そんなことない。わたしはそんな惨めなことはしない自信がある。
でも、そんな想像も無駄かな。
女には金玉なんてついていないんだし。
その痛み、わたしたちには一生わからないんだし。
もうコイツに用はない。こんなみじめで情けない男に。
触られてムカついたけど、これで許してやるよ。
潰さないでおいてあげるから、いつまでも大事にぶら下げておきな。情けないその金玉をさ。

「あ、もしもし。警察ですか? 今ちょっと、変な人に会っちゃって。はい。そうなんです」

俺はほっとした。
女は警察に電話をかけて、歩き出したようだった。
ようやく俺から離れていってくれる。
この恐ろしい女に比べたら、警察なんてどれだけ優しいだろう。
警察は俺の金玉を潰そうとしたりはしないはずだ。
まだ痛みは治まる気配はないが、俺は心からほっとしていた。






「どうなんでしょうね、コレ」

「何が?」

見る者を取り囲むような、湾曲した大型ディスプレイの前に座った男が、その後ろにいる白衣の女に話しかけていた。

「使用者の願望を拡大して、それで一つのストーリーを作り上げる、次世代のヴァーチャルアダルトビデオっていうのはわかるんですけど。コレ、すごいですよね」

「そうね。こんなことで興奮する人がいるのよね。興味深いサンプルだわ」

「しかもこの被験者の男性は、この相手の女子校生の意識にまで没入してますからね。言ってみれば、SMのSとM、一人二役でやってるってことですよ」

「うーん。これはいわゆる、わがままなマゾヒストってことでしょうね。痛めつけ方に注文をつけるのよね。自分の思うようにしてほしいのよ」

「ああ、そういうもんなんですね」

男は理解できないというように、ため息をついた。

「まあでも、これは面白いサンプルだわ。ハードなSMは体を壊す恐れがあるけど、ヴァーチャルな世界ではそういう心配はないし。ある意味で、ヴァーチャルセックスにふさわしい趣味といえるのかもね。」

「被験者に実際の痛みはあるんですか?」

「痛いという認識だけ、脳内で感じているはずよ。この被験者の場合は、記憶の中から情報を探して、再現しているみたいね。現実でも急所を蹴られたことがあるんでしょうね」

「はあ。蹴られたことがねえ」

また理解できないというように、ため息をついた。

「その痛みをうまく再現するためのプログラムだけど、その匙加減が難しいわね。セックスの快感を再現する方が、まだ簡単だわ」

「そうですね。快感が多すぎて文句を言う人は、あまりいないでしょうからね」

「あともう一つ、この被験者のプログラムがあったわね。概要だけ見させてもらったけど。そっちもなかなか面白いみたいね」

「ああ、はい。話の大筋は同じようなもので。別バージョンというか」

「そっちも見てみようかしら」

「あ、はい」

男性はどこか気が進まないようだったが、キーボードを叩いて、もう一つのプログラムを開いた。



続く。


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俺は見ている。
電車の中から、ずっと見ていた。
細い首すじ。
つやのある、よく手入れされた、真っ黒い髪の毛。
うなじの部分に見える、透き通るような真っ白い肌とのコントラストが素晴らしいじゃないか。
地味な黒縁の丸いメガネが、かえってそそらせてくれる。
それはあのお嬢様学校の制服だ。
お尻の形なんかわかるはずもないくらい、長いスカートだが、その下には肌よりも白い純白のパンティーがあるんだろ。
そうであってくれよ。
白じゃなければ、縞模様がいい。控えめな女の子の精いっぱいのオシャレって感じで、縞々の下着はいいもんさ。

わたしは見られているような気がする。
駅を降りた時からずっと、後をつけられているような気がした。
どうしよう。
この先はちょっと薄暗くて、誰も住んでいない住宅街が続くけど。
わたしの家はまだ先だ。
わたしは少し、早歩きをすることにした。

俺は思った。
この女、少し歩くスピードが速くなったな。
俺が後をつけてるのに、気がついたのか。
でももう遅いぜ。
この先はしばらく、人通りが少ない場所だ。
お前の家はまだ先だろ。
この先の、大きいあの家だ。
家に帰れば安心なんだろうけどな。
そうはいかないよ。

わたしは不安になった。
後ろの足跡が、ぜんぜん遠くならないから。
後ろの人も、同じように早歩きになったってことだろうか。
それって、つまり。
それは。

俺は思った。
そろそろいいか。
もうここらで時間いっぱいだ。
このあたりでいかせてもらうとするか。

わたしは驚いた。
足音が、急に近づいてきたから
振り向こうとしたら、その前に両腕を包むようにして抱きつかれた。
大きな体の、男の人。
がっちりとおさえこむように、抱きついている。
怖い。
なにこれ。
なにが起こってるの?

「静かにしてろ。声出すなよ」

俺は低い声でそう言った。
女の子の体が、ビクッと震えるのが分かった。
しかし、なんて柔らかさだよ、これは。
女の体ってのは、男とは全然違う。
束ねたポニーテールが俺の顔をくすぐる。
なんていい匂いなんだ。

わたしは黙ってうなずいた。
うなずくしかない。
怖い。
誰か助けて。
でもこの辺りは、めったに人が通らない。
もしかしたらわたしは、このまま殺されてしまうんじゃないだろうか。

俺は満足していた。
コイツはうつむいたまま、声一つ上げない。
やっぱりおとなしそうな子を選んで正解だった。
ご褒美に、すぐ済ませてやるよ。
ちょっとだけ我慢してくれよな。

わたしは思わず、両手で持っていたカバンを落としてしまった。
男の人の手が、わたしの体を触り始めたから。
気持ち悪いし、かなりくすぐったい。
どこを触ってるの? 胸? お腹?
もう考えたくない。
早く時間が過ぎてほしい。
早く終わって。

「ふうぅ」

俺は思わずため息をついた。
この柔らかくて、張りのある体。
胸は少し小さいみたいだが、それもまたいいか。
まだ発達してない腰から太もものあたりが、たまらない。
コイツはまだ大人しくしているみたいだし、ちょっとだけ失礼しようか。
しっかりと大人になっているか、確かめてやるよ。

わたしの体が、また震えた。
男の人の手が、わたしのスカートの中にまで入ってきたから。
生温かい太い指が、お腹の下の方に入ってくる。
そこはダメ。絶対ダメ。
理由はわからないけど、本能が伝えてる。
その瞬間、わたしの頭の中に、ある声が響いてきた。

「男の急所はキンタマ!」

わたしは確かに聞こえた。
昔、なにかのときに聞いた言葉。
自分でも口に出して言った言葉だった。
そうだ。男の人には、その急所があるんだ。
襲われた時には、そこを狙えって教えてもらった。
わたしは思い出した。
さっきから、わたしのお尻に棒みたいな堅いものが当たってる。
これがつまり、あの、ペニスというヤツで、狙うのはその下、だったはず。
わたしは思い切って、右手をその場所に伸ばしてみた。

俺は夢中になっていた。
指先が女の子の大事な部分に届くまで、あとほんの少し。
この滑らかなパンティーの感触もすごい。
ずっと撫でまわしていたくなるよ。
すると、女の子が手を伸ばして、俺の股間をまさぐり始めた。
マジかよ。どういうことなんだ、コレは。
俺は混乱して、ちょっと手を止めてしまった。

わたしは指先に、柔らかいものを感じた。
堅いペニスの下にある柔らかい場所。
そしてその中に、コロコロと動く丸いものを探り当てた。
これだ。
これを思いっきり握りしめるんだ。
えいって心の中で叫んで、丸い塊を握りしめた。

「うっ! あぁ!」

俺は思わず声を上げた。
なんだ?
金玉を握られたのか?
キツイ、キツイ!
どういうことなんだ。
俺の股間をまさぐっていた女の子の手が、いつの間にか金玉の一つを、強く握りしめている。
これが女の子の力なのか? 握られているのが金玉だからか?
早く引き離さないと。
俺は両手で女の子の手首を掴んだ。

「は、離せ!」

わたしはさらに力を入れて、握りしめた。
男の人は、だいぶ痛がってるみたいだ。
わたしの手を引き離そうとしている。
でもここで逃げられたら取り返しがつかないことが、はっきりとわかっていた。

「んー!」

わたしは奥歯を噛んで、思わず声が出た。
丸くてコロコロしたそれは意外と堅くて、とても握り潰せそうにはない。
だから爪を立てて、それを食い込ませるようにして握りしめた。
こうした方が、痛いだろうと思ったのだ。

「うぅ! こ、この! 離せー!」

俺はうめき声を上げた。
腰を引いて逃れようとするが、この女、金玉に爪を立ててやがる。
金玉がちぎれそうだ。
鈍い痛みが、下っ腹のあたりから、体全体に広がっていく。
握られている金玉には、鋭い痛みが走る。
両手に力が入らずに、女の子の手を引きはがすこともできない。
どうする。どうしたらいいんだ、俺は。

「は、離せ! 離せってば!」

「は、離しません!」

わたしは思わず、答えてしまった。
この人と会話する必要なんかないのに。
でも大きな声で必死に離せって言われたら、つい離してしまいそうで。
自分に言い聞かせるように、離さないって答えたんだ。

「うぅ! ぐぅ」

わたしの手を掴む男の人の手が、少し震え始めてきたのが分かった。
どうして? 痛いから?
このまま握り続けたら、気絶とかするんだろうか。
潰れてしまったら、死んでしまうこともあるって、聞いたような気がする。
もしこの人が死んでしまったら、わたしが殺したことになるの?
今、私の手の中にある丸い塊はコリコリして堅くて、潰れるとは思えないけど、これが潰れるときは、風船みたいにパチンってはじけるんだろうか。

「は、離してくれ。つ、潰れる。潰れちゃうから」

俺はかすれるような声で、そう言った。
本当に潰れるかと思うくらい痛かったし、この女の子はそうでも言わないと離してくれないだろうと思った。
なんてこった。
金玉の痛みを知らない女っていうのは、手加減なく握り締めてきやがる。

「あ! は、はい!」

わたしは思わず、手を離してしまった。
本当に潰れてしまうのはまずいと思ったから。
いくら何でも、死んでしまったらどうしようかと思ったのだ。
でも、わたしが握ったくらいで、本当に潰れてしまうんだろうか。
そんなに簡単に?
男の人は、そんなに弱い部分をみんな持っているんだろうか。

俺は両手で自分の股ぐらを押さえた。
さすがに、潰れちゃいない。
しかしこの痛みは。
なにかにぶつけたときなんかはいつも思うが、他に例えようのない痛みだ。
下痢かなにかで腹を壊した時の痛みが、一番近いか。
それでも、金玉に比べれば百倍マシだろうが。
軽い吐き気までもよおしてくるような痛みで、俺はその場から動けなかった。

「あの。大丈夫ですか? 潰れちゃいました?」

わたしは思わずそう聞いてしまった。
男の人が自分のアソコを押さえて、ぜんぜん動かなくなったから。
考えてみれば、そんな心配する必要ないのかもしれないけど。
襲われたのはわたしの方なんだから、今すぐ逃げるべきなのかもしれないけど。

俺は気分が悪かった。
金玉の痛みのせいもあるし、この女の言いぐさのせいだ。
俺の金玉を思い切り握りしめたくせに、大丈夫なわけないだろうが。
女ってやつは、まったく自己中な生き物だ。
女のくせに男の大事な金玉を掴んで、許されると思ってるのか。
この女、絶対犯してやる。
お前が無慈悲に握りしめたこの男の象徴を、お前の体に突き立ててやる。
泣き叫んでも無駄だぞ。お前は絶対犯してやるからな。
痛みがゆっくりとひいていくのと同時に、俺の体に怒りが渦巻いてきた。

「ふう。ふう」

わたしは危険を感じた。
この男の人は、まだ力を残していたんだ。
痛そうにはしているけど、まだ動ける。
メガネの奥から、わたしをじっとにらんでいるようだった。
ズボンのポケットから、何かを取り出した。
あれはまさか、ナイフ?
小さい登山用みたいな。
怖い。
すごく怖いけど、今逃げようとしたら、背中から刺されるんじゃないだろうか。
怖い。すごく怖い。
だけど、落ち着いて思い出せ。
こういうときにどうするかも、教えてもらったはずだ。

「お前。覚悟しろよ。俺はもう」

俺はそう言いかけて、やめてしまった。
目の前の女の子が、いきなり振り向いて、さっき落とした自分のカバンを拾ったからだ。
なにをしようっていうんだ。

「はい。パス!」

俺は驚いた。
女の子は、いきなり自分のカバンを俺に向かって放り投げやがった。
ボールをパスするみたいに、軽く。
俺は思わず、胸の前でそれを受け取ってしまった。

「あっち! お巡りさん来てる!」

わたしはそう言って、右の方を大きく指さした。
もちろん、そっちには何もない。
だけど男の人は、つられてわたしの指さす方向を見てしまってる。
チャンスだ。
教えてもらってとおり、できた。
わたしはすかさず、男の人の左から背中に回り込んだ。
急所ががら空きだ。
男の人は少し前かがみになっていたから、さらに狙いやすい。
脚を振り上げる間、まるでスローモーションみたいに色んなことを考えることができた。
あの股の間に見える、ちょっとだけ膨らんだところがそう。
あれを蹴り上げる。思いっきり。
思いっきりで大丈夫かな。潰れたりしないかな。
でもこの人はナイフを持ってるし。
やらなきゃ、わたしが殺されるかも。
しょうがない。思いっきり蹴ろう。
ていうか、もう止められない。
たぶん大丈夫。

パァン!

俺の股間から背骨にかけて、鋭い衝撃が響いた。
何が起こったんだ。
カバンを持たされて、女の子の指さす方を見たら、誰もいやしない。
次の瞬間、どうやら金玉を蹴られたらしい。
目の前が真っ暗になりそうな痛みが、下半身から胃を突き抜けて、呼吸までできなくなりそうだった。
俺は倒れたのか。
顔に冷たいアスファルトが当たっている気がする。
何が何だか分からないが、この世界が終わるような痛みだけはリアルなようだった。

わたしは確信した。
わたしの右足の甲が、男の人の股の間の膨らみにうまく当たった。
想像よりも甲高い音がしたので、潰れてしまったのかもしれないと思った。
水風船みたいに、はじけて割れてしまったのかと思ったのだ。
でもたぶん、潰れてはいなかったんだろう。
この人はまだ生きてる。
わたしが足をおろすと同時に、ベチャって地面に倒れ込んだ。
両足を小さくジタバタさせて、背中がピクピクしてる。
カエルみたいって、そんなことを思ってしまった。

俺は絶望的な痛みの中にいた。
さっき握り締められたばかりの金玉を、今度は思い切り蹴られてしまったのだ。
声も出ない。
呼吸はできているのかいないのか。
体中に変な汗をかいているのがわかる。
痛い。痛い。痛い。
痛くて苦しくて、死にそうだ。
死んだ方がマシだ。
いっそ殺してくれ。

わたしは少しほっとしていた。
今度こそ、男の人は動けなくなったようだ。
カバンを拾うときに、その顔をちょっと覗き込むと、本当に痛そうに目をつぶって震えている。
よかった。
例えるなら、無事に綱渡りを終えたような安心感かもしれない。
ナイフを取り出した時は、本当に怖かった。
でももう大丈夫だろう。
うまく急所に当たれば、しばらくは動けなくなるらしいから。

「生きてますよね? それじゃ!」

わたしはそう言い放つと、家に向かって歩き出した。
帰って親に話して、警察を呼んでもらおう。
それまで、この人はここでじっとしてるかな。
動けないっていっても、どのくらいなんだろう。
さすがに逃げちゃうのかな。
そう考えたとき、わたしの足に何か当たった。
ナイフだ。
さっき男の人が持っていた。
蹴ったときに、落としたんだ。
やっぱり登山なんかで使う、小さいナイフ。
それを見たとき、わたしの頭にある考えが浮かんだ。

俺は時間の感覚がなかった。
どれくらい時間がすぎたのか、わからなくなっていた。
なにしろこの痛みは、まったく引く気配がない。
いつまでも俺の下半身を支配して、うずくように波打っている。
俺の頭のすぐ近くに、足音が聞こえた。
誰だ?
あの女の子か?
帰ったんじゃなかったのか?
もうお前に興味なんかないぜ。さっさと帰れよ。
俺はしばらくここでじっとしていたいんだ。

「あの。ナイフで刺したりしたら、まずいですか? その、それを」

俺は女の子の声を聞いていた。
なんのことだ。なにを言ってるんだ。
とにかく返事なんかできるわけがない。
こっちは痛みに苦しんでるんだよ。
お前にわかるか、この痛みが。

「あの、うちで犬を飼ってるんですけど。その子もおとなしくなりましたし。男の子なんですけど。その、去勢っていうんですか。そういうことができるかなって、考えたんですけど」

俺は戦慄した。
今、なんて言った?
去勢?
なにを言ってるんだ、コイツは。
去勢って。
つまり金玉を取るってことだろ。
どうやって? 
俺のナイフを持ってるのか、コイツは。

「ええっと。こっち側ですよね」

わたしはうずくまっている男の人のお尻の方に回って、そのあたりを見た。
さっき蹴ったときに、よく見えた。
あそこだと思う。
今、手で押さえてる、あの膨らんでいるところ。
あそこにあるんだろう。
その、男の人の急所が。
やっぱり痛いんだろうか。
握ったり蹴ったりしただけで、こんな風になってるんだから、切ったりしたらもっと痛いのかな。
でも、うちの犬は病院で手術してもらって、その日のうちに帰ってきたし、痛がってる様子もなかった。
動物と人間では違うのかな。
うちの犬のアレは、小さくしぼんでたけど。たぶん。
どうやったんだろう。

「切って、中身を取り出すのかな」

俺は女の子のつぶやきに戦慄した。
切って取り出すって、なにをだ?
まさか俺の金玉の話をしているのか。
ウソだろう。冗談だろう。
犬の去勢がどうとか言ってたけど。
俺は思わず、まだジンジンと痛みを出し続けている金玉を両手で包み込んだ。

「あ。ちょっと」

わたしは困った。
そんな風にされたら、去勢なんてできなくなる。
やっぱり怖いんだ。
自分の大切なトコロだから。
でもうちの犬は、去勢された後も元気にしてるし、やんちゃで困るときもある。
ただ他の犬とかに迷惑をかけることがなくなっただけで、それはすごく安心してる。
だから、この男の人にも。

俺は必死だった。
下手をすると、俺の男としての人生が終わるかもしれない。
今、金玉を蹴られて死ぬほど痛い。苦しい。
金玉さえなかったらと思う瞬間もあった。
それでも本当に金玉がなくなったら、ヤバイじゃないか。
勘弁してくれ。
それだけは勘弁してくれ。

「す、すいませんでした。すいません。許してください」

「え? あ、はい。でも、あなたはまたわたしを襲うかもしれないんですよ。去勢したら、そういう気が起きないようになるんじゃないかと思って。あなたにとっても、それはいいことなんじゃないですか。完全な犯罪者ですよ」

わたしはそう思った。
こういう人は、自分で性欲をおさえられないんだろうから、しょうがないんだ。
こんな人のために、わたしや違う女の人がひどい目にあうことなんてない。
だから去勢してしまった方が、この人のためでもあるんだ。

俺は必死で謝った。

「襲いません。絶対、もう二度と襲ったりしませんから。近づくこともありません。誓います。約束します。罰も受けます。他のところをナイフで切ったり刺したりしてもいいです。だからタマだけは。金玉だけは勘弁してください。お願いします」

俺は心底謝った。
すでにうずくまっていたが、気持ちは土下座なんてもんじゃない。
頭が地面にめり込むなら、そうしたいくらいの気持ちで謝った。

わたしはちょっと驚いた。
さっきまでわたしを襲おうとして、すごい目でにらみつけていた年上の男の人が、必死にわたしに謝っているから。
大きな体を震わせて、見えないけど、たぶん涙を流しているんじゃないだろうか。
そんな声だった。
わたしは少し安心した。

「本当ですか? 二度とわたしの前に現れないでください」

「はい! 誓います。二度と現れません」

わたしは自分の心の中に、今まで感じたことがない感情があることに、気がついた。
少しだけ、それに流されてしまいたくなった。
うずくまる男の人の耳元で、言ってやった。

「今度見つけたら、金玉潰しますからね」

「は、はいぃ!」

わたしは満足した。
ナイフを放り投げて、乱れてしまった髪のゴムをほどいた。
少しずれていたメガネをかけなおすと、通いなれたはずの道が、なんだか新しいもののように思えて、足取りが軽くなってしまった。






「ふうん。こっちはまた、違った趣向なのねえ。女子校生のキャラが違うのね。清楚なお嬢様って感じかしら」

「そうみたいですね」

「おとなしい女の子が金蹴りをして、去勢までしようとするっていうギャップ? そういうのがいいのかもしれないわね」

モニターの画面を見ながら、白衣の女性はそうつぶやいた。

「でも、最後は去勢しないのね。結局」

白衣の女性は、女性特有の無頓着でそう言うが、去勢と言われて顔をしかめない男はいない。
モニターの前に座ってそれを聞いていた男性も、例外ではなかった。

「そうですね。ホントに去勢されたら、金蹴りもできないですからね」

「そうねえ。つまり急所を痛めつけられたい願望があって、潰すぞ、とか言ってほしいんだけど、本当に潰されたくはないってことね。なんだかわがままね、男って」

女性は笑ったが、男性はそれほどおかしくないようだった。

「まあ、すべての男がそうだというわけではないですけど」

「それはそうね。ところでさ」

女性はなにか思いついたようで、少し嬉しそうに男性の方を叩いた。

「このプログラムをちょっと変更して、本当に去勢してしまうバージョンを作ることって、できるのかしら?」

「え? それは、まあ、できないことはないですけど」

「じゃあ、それをちょっと作ってもらえるかしら。せっかくのいいサンプルなんだから、もっと活用したいわ。去勢のしかたは、そうねえ、とりあえず握り潰してみたり? できる?」

白衣の女性はなぜかわからないが、どことなくウキウキしているようだった。
弾んだ声で、男にとっては恐ろしいことを口走っている。

「で、できますけど。そんなに正確なデータにはならないかも」

男性はためらいがちにつぶやく。

「そう。やっぱり、正確な痛みを再現するには、サンプルがもっと必要よね。そうかあ。今、うちで空いてるスタッフは女の子ばっかりだし」

女性はまたポンと、男性の肩を叩いた。

「アナタにお願いするしかないわね」

「ええ? いや、その。握り潰すデータのサンプルですよね。それはつまり」

男性は想像したのか、おのずと顔が青くなった。

「大丈夫よ。ヴァーチャルな世界の話だもの。本当に潰れるわけじゃないわ。大丈夫、大丈夫。ね?」

女性の言葉に、男性は力なくうなずかざるをえなかった。



終わり。




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