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男の絶対的な急所、金玉。それを責める女性たちのお話。


毎年夏になると、この街は祭り一色になる。
男も女も、はっぴを羽織り、ふんどしを締めて、意気揚々と神輿を担ぎに繰り出すのだった。
しかし街の片隅のある地域だけは、少し事情が違っていた。

「よおし! 今年も東地区、神輿とるぞ!」

「おお!」

神社の境内に集まった少年たちが、声を上げた。
祭り本番が目前に迫ったこの日、この場所で、ある重大な儀式が行われることになっていた。
この地域は東と西の二地区に分かれていて、大人が担ぐ神輿はそれぞれにあるのだが、あいにく子供が担ぐための「若神輿」は一つしかなかった。
仲良く交代で担げればいいのだが、一年に一度、街中が最も興奮する祭りとあっては、そうはいかない。
この神社の境内で、東地区と西地区の子供たちが神前相撲をとり、その勝敗で神輿を担ぐ地区を決定するというのが、江戸時代から続く習わしだった。

「じゃあ、行ってくるぜ!」

「頼むぞ!」

「頑張れよ!」

境内の真ん中に張られた幕の中に、東地区の少年たち三人が入っていった。
小、中、高、それぞれの年代から選ばれた子供たちが、外界から遮断された場所で、ただ神様が見ている前で決着をつけるというのが、この神前相撲の決まりだった。
幕の中には土俵が作ってあり、立会人は、審判役を務めるこの神社の宮司しかいない。
あとは西地区の相手三人がいるだけ、のはずだったが。

「え!?」

東地区の主将である高校生のリュウタは、目を疑った。
土俵の向こう側には、女の子が三人、すでに座っていたからである。

「ど、どういうことだよ。お前ら、何でここに…」

「何でって。今年の西地区の代表は、私たちだからに決まってるでしょ。今年こそ、絶対西が神輿とるからね。覚悟してよ」

リュウタと同じ高校に通うユズキが、闘争心をむき出しにして言った。
この神前相撲に出るのは、本来、男でも女でもどちらでもかまわない。しかし、リュウタの記憶にある限り、女の子が出たという話は聞いたことがなかった。
なぜなら、この神前相撲は全裸で行われるからである。
神様の前での勝負に、やましいことが何一つあってはならないという意味だったが、女の子にとっては当然、恥ずかしすぎるしきたりだった。
自然の流れとして、この神前相撲に出場するのは男子だけになってしまい、毎年東と西の選りすぐりの男子たちが集まって、勝負をすることになっていたのだった。

「女子が代表って、聞いたことないよ…」

中学生の代表であるショウマも驚きを隠せなかった。
すると、彼と同じ中学三年生のレイカが声を上げた。

「女子が代表だったら、何か問題でもあるの? 言っとくけど、ウチらは本気で勝つつもりでいるからね。五年連続東が勝つなんて、ありえないんだから」

レイカの言うように、この四年間はずっと東が神前相撲に勝利し、神輿を担ぎ続けていた。
負けた西地区の子供たちは、男女とも神輿に触ることもできず、まるで部外者のように祭りを外から眺めていることしかできなかった。
どうやらその悔しさが、彼女たちを全裸での勝負に駆り立てているようだった。

「今年から、西では予選で代表を決めることにしたって聞いたけどな。お前らが西の男子たちに勝ったってことか?」

「そうよ。よく知ってるわね」

「へー。西には、よっぽど弱い男子しかいないんだな。そういえば、去年も俺たちは西に三戦全勝だったもんな。今年もそうなりそうだな」

リュウタは挑発的に笑った。
地区の威信をかけた戦いとあって、毎年、神前相撲はどうしてもヒートアップしてしまう。

「ふん。そんな挑発には乗らないわよ。すぐに結果が出るんだから。みてなさい」

ユズキは不敵に笑った。

「さあ。そのくらいにして。始めましょう。まずは皆、神前に礼!」

この神社の宮司は、若い女性だった。彼女の声で、皆一斉に祭壇に向かって頭を下げた。
その後、土俵際に向かい合って座るのだが、その座り方も、しきたりによって胡坐と決まっている。
東地区の男の子たちは、男子の胡坐は見慣れていたが、女の子が裸で胡坐をかいているところなど、見たことがなかった。

「よいしょっと」

西地区の予選などですでに慣れてしまっているのか、意外なほど堂々と、女の子たちは胡坐をかいてみせた。
しかしその姿は、小学生のセイヤにはともかく、中学生のショウマや高校生のリュウタにとっては、刺激的すぎる光景だった。

「それではこれより、神前相撲を執り行う。東と西の先鋒は、土俵に上がりなさい」

宮司の呼び声で、東のセイヤと西のルナが立ち上がった。

「ルナちゃん、予選のときみたいにやれば、絶対勝てるからね」

主将のユズキに言われて、ルナはこくんとうなずいた。
セイヤは小学六年生で、身長はそれほど高くなかったが、柔道をやっているため、年齢よりもがっしりとした体格だった。
一方のルナは、まだ小学三年生で、セイヤと比べると、体重は半分ほどしかないようにも見えた。

「セイヤ! 遠慮するな。速攻で終わらせちまえ!」

二人は土俵の中央で向かい合い、仕切り線に両手をついた。

「それでは、神前相撲、始め!」

起き上がりざま、セイヤは張り手でルナを突こうとした。
去年もこの神前相撲に出場した彼は、勝ち方をよく分かっているようだった。
しかしルナは、まるでそれを読んでいたかのように、さっと身をかわして、セイヤの張り手を避けたのだった。

「あっ!」

意外なほど素早い動きだった。
この神前相撲は、まわしも締めず全裸で行われるため、実際には相撲の技の大部分が使用できなかった。
だから結局、セイヤのように張り手で押し出したり、手を組みあって引きずり倒したりするのが定石の勝ち方だったのだ。

「ルナちゃん! 落ち着いて!」

ルナは距離を取り、組み合おうとしない。出鼻をくじかれたセイヤも警戒して、容易に組み合ってこない。
どうやらここまでは、女の子たちの作戦通りのようだった。

「くそっ!」

このまま拮抗するかに見えたが、セイヤは相手が自分よりもずっと小さな女の子だったことを思いだし、自分から組みにいった。
力比べなら負けるはずがないという自信が、そこにある。
セイヤが両手を広げて、覆いかぶさるように迫ると、ルナもその手を両手で受け止めるかに見えた。
しかし。

「はわっ!」

少しだけかがみこんで、すっとセイヤの懐に入ったルナは、その股間にぶら下がっている金玉袋を両手に掴んだ。
神前相撲で、まさかその部分を掴まれるとは思ってもいなかったセイヤは、思わず声を上げてしまう。

「これでもう終わり。降参した方がいいよ。すごく痛いから」

セイヤの未発達な金玉袋を、両手で包むように掴んだルナは、そう言った。
一応、降参するという勝敗のつけ方もあるが、今まで神前相撲でそんな不名誉なことをした男の子はいなかった。

「な…! 降参なんか、するわけないだろ!」

ルナの手に、まだ力はほとんど込められていない。
しかし、セイヤはルナの手首を掴んではいるが、その手を引きはがせそうにはなかった。
男の絶対の急所を掴まれ、いつ握りしめられるか分からないという恐怖が、そこにあった。

「そう。じゃあ、降参するまで離さないからね。えい!」

と、ルナはその小さい手にグッと力を入れ始めた。
彼女の手の中で、セイヤの二つの睾丸が圧迫され始める。

「うぎゃああっ!!」

セイヤの股間から、強烈な痛みが湧き上がってきた。
その痛みはオスとしての生存が危うくなっているという、本能的な危険信号も含むもので、男はその痛みの前では、完全に無抵抗になってしまう。

「まだ降参しないかな? えい、えーい!」

実際には、あっという間にセイヤの膝から力が抜けて、手を離せば倒れてしまうことは確実だった。
しかしルナはあくまで降参を求めているらしく、掴んだ金玉を上に持ち上げるようにして、セイヤが膝をつくことを許さなかった。

「セ、セイヤ…! が、頑張れ!」

声をかけてみたものの、リュウタにもセイヤの苦しみは十分に伝わってきた。
しかもこの痛みに耐えたところで、この先に勝ち目があるとは思えない。そう思っていたから、中途半端な応援になってしまった。

「うぅ…がぁ…!!」

負けることはいいとしても、セイヤは降参だけはしたくなかった。
せっかく名誉ある神前相撲の代表に選ばれたのに、年下の女の子に降参させられることなど、絶対に避けたかった。

「うーん。まだ降参しないかな。じゃあ、必殺技いくね?」

ルナはそう言って、金玉を持つ手を少し緩めた。
どうやら持ちかえて、何か特別なことをするようだった。
しかしそこで、セイヤの心が折れてしまった。

「あ…! こ、降参! 降参します! は、離して…」

今でもギリギリな状態なのに、これ以上耐えられそうになかった。
ルナの言う必殺技がどんなものか分からなかったが、さらに強烈な痛みが襲うことだけは確実そうだった。
ルナが金玉から手を離してやると、セイヤはその場に膝をつき、両手で金玉をおさえた。

「勝者、西のルナ!」

「やったあ! ルナちゃん、すごい! まず一勝ね!」

ユズキとレイカが手を取るようにして、ルナを迎えた。

「は、反則だ! 金玉握るなんて、反則じゃないのかよ!」

リュウタはたまらず、立ち上がって抗議した。
しかし西の女の子たちは、もうそんな議論はし尽くしたというように、飽き飽きした顔で答えた。

「反則じゃないです。男子はみんなそう言うけどね。自分たちにだけ急所がついてるからって、勝手に反則にしないでほしいわ」

「そ、そんな…。どうなんですか?」

リュウタは審判役である宮司の方を見た。
女性の宮司は、平然とした態度で答えた。

「うん。そうですね。この神前相撲では、神様に対して恥ずかしいものでない限り、ほとんどすべての行為が認められています。男性の急所は、生まれたときからついているものですから、そこを狙うのは、特に恥ずかしい行為とは思えないですね」

宮司は、伝統ある儀式を守る立場として、毅然とした態度をとっているつもりだった。

「そういうことなんで。気を付けてねー」

中学生のレイカが、おちょくるようにして笑った。
東地区の男子たちは、今初めて、西地区の男子たちが代表になれなかった理由を悟った。
そういえば2,3日前、西地区の同級生の男子たちが、登校するときに歩きづらそうにしていたような気がする。彼らは自分たちの勝利のために何も言わなかったが、おそらくこうやって、金玉を女の子たちに痛めつけられたのだろう。



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「それでは、次。中堅の選手は土俵に上がりなさい」

中学生のショウマとレイカが、土俵に上がった。
二人は同級生で、よく知っている同士だったが、まさかこの土俵上で会うことになるとは、ショウマは夢にも思わなかった。

「アンタたち、ウチらのことなめてたでしょ? 西の男子もそうだったよ。女なんかに負けるわけないって言ってた。でも、結果はウチらの余裕勝ちだったんだよね。何でもありの試合だったら、女子が男子に負けるわけないじゃん」

「な、なんだと?」

「今まで女子が出なかったのは、ただ単に裸になるのがイヤだっただけなんだよね。でも今年こそ絶対、神輿は西に持って帰るからね」

レイカは自信ありげに胸を張っていた。すでに予選で西地区の男子たちを負かしている以上、その自信も根拠のないものではなかった。
しかしその態度以上にショウマが気になったのは、レイカの胸であった。
制服の上からでは気づかなかったが、レイカの胸は、中学生とは思えないほど大きかった。
しかも下にチラリと目をやれば、そこには薄目のヘアーに包まれた、レイカの秘部がある。
同年代の女の子の裸を生で見たことのなかったショウマは、土俵際に座っているときから、すでに興奮してしまっていたのだ。

「あ…ちょ、ちょっと待って…」

座っている時には何とかこらえていたが、改めてレイカの裸を目の前にして、ショウマの股間はオスの反応を示し始めてしまった。
堅くそそり立ってきたその肉棒を手で隠し、腰を引いて興奮を抑えようとする。

「どうしたの? 早くしなさい」

宮司がいぶかしそうに声をかけた。

「あー、コイツ、勃起しちゃったんでしょ。サイテー。西の男子もみんなそうだったけどね。ったく、男ってこれだからさ。どこ見てんの?」

「まあ、そうなの? 神聖な神前相撲の最中なんですよ。変なことを考えないようにしなさい」

「は、はい…」

そう言われても、これは生理現象のようなものだと、ショウマは思っていた。
土俵際で座っているリュウタでさえ、向かい側のユズキの裸をできるだけ見ないようにして、平静を保つのが精いっぱいだったのだ。
それが女の子たちの作戦なのか、男の子たちは、相撲を取る前から精神的に消耗させられてしまっていた。

「もう始めますよ。位置について」

宮司にうながされて、やむなくショウマは仕切り線に手をついた。

「プッ。ビンビンじゃん。サイテー」

同じく手をついたレイカの目には、ショウマの股間で彼の肉棒が反り返っているのがよく見えた。

「始め!」

宮司の掛け声とほぼ同時に、二人は立ち上がった。
先程のセイヤの反省からか、ショウマはすぐにレイカの両手を掴みにいった。
金玉を掴まれてしまえば、絶対に逃げることはできないと思ったからだった。

「くっ!」

「んっ!」

実際、レイカはすぐさまショウマの股間に手を伸ばそうとしたのだが、その手をガッチリと掴まれてしまった。
二人は両手を頭上に挙げて、押し合いのような状態になる。
こうなると、力の強いショウマが有利に思えた。
ショウマもまたそう思い、一気に押し倒そうとしたその時、

「くらえ!」

レイカの蹴りが、ショウマの股間を狙って飛んできた。

「うわっ!」

かろうじて後ろに下がり、直撃を避けた。
しかしレイカのつま先のわずかな部分、親指の爪あたりが、ショウマの金玉をかすめたようだった。

「あっ、くそっ!」

かわされたと思ったレイカは、悔しそうな顔をした。
実際、彼女自身は何の手応えもなかったのだが、やがてショウマの顔がゆっくりと歪んでいき、徐々に力が抜けて、両手を離してしまった。

「うぅ…」

むき出しの股間を、両手でおさえて前かがみになる。
何が起こったのか、金玉を蹴ったレイカでさえも一瞬、よく分からなかった。

「え? 今の、当たってたの?」

「くぅ…ぐぐ…!」

じんわりとした痛みが、ショウマの下半身全体に広がっていた。
かろうじて後ずさりし、レイカと距離を保つことができたが、そこから動くことはできなかった。

「ウソー! 今のって、当たった? ちょっとかすったくらいじゃん。それでそんなに痛いの? ウケる!」

予選でも何度か経験していたが、やはり男の金玉は、彼女にとって不思議な急所に他ならなかった。

「ホント、男子ってウケるよね。ちょっと足がかすったくらいで、そんなに痛がるなんてさ。金玉ってバカなんじゃないの? なんでそんなに弱いの?」

神前相撲の真っ最中であることも忘れて、レイカは笑っていた。

「かわいそうだから、ちょっと待ってあげるね。こんなんじゃ、ウチも勝った気がしないからさ」

馬鹿にしきったレイカの態度に、ショウマは怒りを覚えながらも、どうすることもできなかった。

「金玉ガンバ! 金玉ガンバ! ハハハ!」

重苦しい痛みを発する睾丸を抑えながら、レイカの股間をチラリと見る。
そこはうっすらとした陰毛に覆われて、ショウマやセイヤのように、余計なものは何一つ付いていなかった。
ショウマは男に生まれて初めて、女の子をうらやましいと思った。

「ん? また、どこ見てんの? 言っとくけど、ウチのアソコを蹴っても、痛くもなんともないからね」

レイカの言うとおり、彼女のその部分は完璧で、男のように見るからに脆そうな要素は少しもなさそうだった。
それに気づいたとき、ショウマはレイカに対して、どうしようもない敗北感を感じてしまう。

「レイカ! 遊んでないで、さっさと決めちゃいなさい!」

土俵際のユズキが声を飛ばすと、レイカもうなずいた。

「はーい。じゃあ、そろそろ行こうかな」

と、ショウマに近づこうとしたとき、ショウマが前傾姿勢のまま、勢いよくタックルをしてきた。

「あっ!」

不意を突かれたレイカは、そのまま土俵際まで押し込まれてしまう。
足を上げて金玉を蹴ろうとしても、腰を引いた体勢のショウマの股間には届かなかった。
追い詰められたショウマの作戦と、レイカの油断が招いたピンチだった。

「うおお!」

ショウマもまだ下半身に痛みを抱えていたが、懸命に踏ん張って、レイカを押し出そうとした。

「こ、この! いい加減にしてよ!」

大きく踏ん張って、突き上げられたショウマの尻が、レイカの眼下にあった。
レイカはその尻の間に手を突っ込んで、そこにぶら下がっているはずの金玉袋を探り当てると、思い切り掴んだ。

「ぐぎゃあっ!!」

ショウマの悲鳴が響いた。
レイカの手は、ショウマの尻の間から金玉を引っ張り出すようにして捻り上げていた。
そこには一切の手加減はなく、先程とは比べ物にならない、恐ろしい痛みがショウマを襲うことになる。

「降参しないと、潰しちゃうよ!」

「うう…ぐぐぐ…!」

「いいんだね? 潰れろー!」

「ぐえぇっ!!」

レイカが思い切り握りしめると、ショウマの体から力が抜けて、ガックリと土俵に崩れ落ちた。

「それまで。勝者、東のショウマ!」

え? と、レイカは宮司を見た。

「レイカ! 足が!」

ユズキの声にハッとして下を見ると、レイカの足はわずかに一歩、土俵から出てしまっていた。
ショウマの金玉を握りしめた拍子に、踏み外してしまったようだった。

「ウソ―! ウチの負け? もう、このバカ金玉! 潰れろ!」

泣き出しそうになったレイカが、ぐったりと倒れているショウマの金玉を、再び握ろうとした。
慌てて、リュウタがそれを止める。

「お、おい! やめろよ!」

「レイカ! やめなさい!」

リュウタとユズキに止められて、レイカは我に返った。
神前相撲には勝ったものの、ショウマにはすでに意識がないようだった。






「ゴメン…。負けちゃった…」

土俵を降りたレイカは、さすがに申し訳なさそうにうつむいていた。

「まったく。すぐ調子に乗るんだから。気を付けなさいっていったでしょ」

「ごめんなさい…」

「だ、大丈夫だよ。次、ユズキちゃんが絶対勝ってくれるから。二勝一敗で、神輿をとれるよ」

落ち込むレイカを、小学生のルナがなぐさめた。
確かに現在のところ一勝一敗になり、神輿の行方は、次のユズキとリュウタの相撲にかかっていた。

「ちょっと、そんなこと言われても…。まあ、勝つことは勝つんだけどね。よし! やってみるか!」

「それでは、最後に東と西の大将は、土俵にあがりなさい」

ユズキは気合に満ちた表情で、土俵に上がった。
一方のリュウタは、苦虫を噛み潰したような顔をしている。
見れば、東地区の代表であるセイヤとショウマは、二人ともぐったりとして動くこともできない。
セイヤは言うまでもなく、ショウマは運よく相手のミスで勝利することができたが、実際は完全にレイカに圧倒されていた。
油断すれば、自分もやられてしまう。
もう負けることは許されないと思うと、自然と顔が強張ってしまった。

「リュウタ。去年は兄さんが世話になったみたいね。まだ悔しがってたよ」

そう言われて、リュウタは去年の神前相撲を思い出した。
去年、まだ高校二年生だったリュウタは、大将戦で当時三年生だったユズキの兄に勝利していた。
それを思い出すと、兄に勝てたんだから、その妹に負けるはずはないと思えてくる。

「仇を討つってわけじゃないけど、勝たせてもらうからね」

「望むところだ!」

二人は気合に満ちた顔で、仕切り線についた。

「それでは神前相撲、始め!」

開始と同時に、リュウタは後ろに下がって、距離を取った。
最初から組み合うつもりでいたユズキは、肩透かしをくってしまう。
実はリュウタは空手の有段者であり、幼いころから道場に通っていたのだ。
その空手を生かした打撃戦が、もともとリュウタの得意とするところで、その作戦で去年もユズキの兄に勝っているのだった。

「やっぱり、そうくるか…」

神前相撲は完全に非公開で行われるが、兄の口から聞いているのか、ユズキにとっては想定内の動きだったらしい。
実際、リュウタは手ごわい。
彼が東の代表に選ばれるようになってからのこの数年間、西地区では誰一人、勝った者がいないのである。
くっきりと割れた腹筋はもちろん、体のあらゆる部分に、練り上げられたようなしなやかな筋肉をまとっている。とても、女の子の力で押し倒せる相手には思えなかった。
しかし。

「プッ…。まあ、どうでもいいんだけどさ。それはどうにかなんないの? 動きづらそうなんだけど」

神聖な相撲の最中だったが、ユズキは思わず笑ってしまった。
それもそのはずで、真剣な表情で自分を見つめるリュウタの股間のイチモツは、土俵に上がった時からずっと、勢いよく反り立っているのである。

「あ、いや…これは…」

リュウタ自身、呼吸を整え、邪心を振り払おうと必死だったが、女子高生の裸を目の前にしては、とてものこと、勃起がおさまりそうもない。
まして、先程のショウマもそうだったはずだが、彼らは神聖な神前相撲の前とあって、この数日間は性行為を自ら禁止しているのである。
溜まりきった若い欲望は、抑えようとしてもおさまるものではなかった。

「無理だよねー。男子って、そんなもんだもんねー。ま、こっちは別にいいんだけど。よっと!」

ユズキは不意に間合いをつめて、足を振り上げた。
足の裏でリュウタの鳩尾あたりを押そうとする。
一応は相撲というルールでやっているから、いくらなんでも空手のように蹴るわけにはいかない。これがこの神前相撲での定石の蹴り方だった。

「おっと…。あ…!」

ユズキは高校では、陸上部に所属しており、武道の経験はないはずだった。
女の子の素人の蹴りなど、リュウタにとって防ぐことは造作もなかった。
しかし。
足を大きく振り上げたユズキの股間に、リュウタは目を見張った。

「ほら、ほら!」

ユズキが連続して足を上げるたび、その股間の秘所が見え隠れする。
まだモザイクがかかったビデオなどでしか、その場所を見たことがないリュウタにとっては、それはまさしく目が釘付けになってしまうものだった。

「どこ見てんの? ほら!」

これもユズキの作戦だったのだろう。神聖な土俵上で、あからさまに誘惑をすることはできないが、あえて蹴りを繰り出すことで、攻撃と誘惑を同時に行っているのである。あまりにも大胆で、男にとっては逃れられない作戦だった。
リュウタの目線はユズキの股間に集中してしまい、蹴りをかわす動きが鈍くなってしまう。
あっという間に、リュウタは土俵際に追い詰められてしまった。

「あっ! く、くそっ!」

足が土俵を囲む俵に触れたとき、リュウタはやっと我に返った。
ギンギンにそそり立ったペニスを抱えて、ユズキの蹴りをかわし、回り込んだ。
すかさず張り手を繰り出して、ユズキを押し出そうとする。

ビュン

と、空手の正拳突きのようなリュウタの張り手が、空を切った。
去年はこの技でユズキの兄を押し出したのだが、どうやらこれも読まれていたようだった。

「ここだ!」

女の子の裸に興奮して、平静さを失った。追い詰められて、焦る気持ち。そこに突然舞い込んできた、逆転のチャンス。
様々な要因が重なり合って、リュウタの突きは、いつもよりもずっと大振りで、隙の多いものになってしまった。ユズキは大きくしゃがんでそれをかわすと、迷わず右手を振り上げた。
すべてはユズキの作戦通りだったのかもしれない。
この一瞬をとらえるために、彼女たちは一年間、研究を重ねてきたのかもしれない。
なんとしても神輿を担ぎたいという気持ちが込められた必殺のアッパーカットが、リュウタの股間に襲いかかった。

「うわあっ!」

しかし、リュウタの優れた運動神経は、ユズキの予想を少しだけ上回っていた。
とっさに腰を捻ると、ユズキの拳はリュウタの金玉をわずかにかすめて、反り返っていたペニスを跳ね上げただけだった。

「痛てっ!」

パチーンと音がして、リュウタの肉棒はその腹に叩きつけられた。
しかしそれは、決して耐えられない痛みではない。

「ああっ! そんな…」

土俵際で見ていたレイカから、思わずため息が漏れた。
どうやら彼女たち全員で、試行錯誤した結果の作戦らしかった。

「あっ! もう!」

ユズキの拳にも、狙ったような手ごたえはなかった。
もしあのまま彼女の拳が金玉に当たっていれば、痛いどころの騒ぎではなかっただろう。
女の子が、必死に自分のむき出しの急所を狙いにきたという現実に、リュウタは空手の試合でも感じたことのない寒気を覚えていた。

「ざ、残念だったな…ハハ…。次はもう、ないぜ」

強がって見せたが、背中には冷たい汗が流れていた。
やはりユズキの拳がわずかに金玉をかすめていたようで、ジワッとした痛みが、下半身に疼くように広がり始めている。
それを悟られないように、リュウタは必死で痛みをこらえていた。

「ユズキちゃん、落ち着いて! 金玉狙えば勝てるよ!」

「金玉、握り潰しちゃえ!」

ルナとレイカが声援を送る。
ユズキもそれで落ち着いたようだった。
普通なら、相手の攻撃が読めれば、試合を有利に運べるはずである。
しかし金玉の場合、そこを狙われること自体が恐怖で、男にとっては絶対に防ぎたい攻撃だった。しかも今のリュウタは全裸の状態なのだから、そのプレッシャーは半端なものではない。
目の前にいる女の子は、どのような状況からでも自分の金玉を潰しに来るのかもしれないのだ。
そう考えたとき、いくら距離を取っても、この土俵上に安全な場所などないような気がした。

「よおし。じゃあ、もう一回いってみようかな…」

また、ユズキのあの蹴りが始まるかと思った時、リュウタの体は反射的に動いていた。

「うおおっ!」

一気に間合いを詰めて、足を上げかけたユズキの体を、両手で締め上げたのである。
そしてそのまま、ユズキを持ち上げてしまった。

「ちょ…ちょっと!」

それはプロレスのベアハッグのような状態で、両腕をガッチリとロックされたユズキは身動きがとれず、必死に逃れようともがいた。
一方のリュウタは、このまま彼女を土俵外へ運んでしまおうと、痛む股間をこらえながら、ゆっくりと歩を進めた。

「ああっ! ウソ! こんなことで…」

ユズキは懸命にもがいたが、締めつけるリュウタの力はすさまじく、腕を抜くことすらできない。

「ハア…ハア…」

リュウタもまた、このチャンスを逃すまいと、全力でユズキを締め上げていた。
しかし、締め上げれば締め上げるほど、リュウタの顔面はユズキの乳房に埋もれてしまう。
初めて経験するその柔らかさと温かさに、理性が吹き飛んでしまいそうになるのを、リュウタは懸命にこらえているのだった。

「あ…クソ…マジでヤバイ…!」

一歩一歩、確実に、リュウタは土俵際へ近づいていった。
このまま外に出されれば、ユズキの負けとなる。
せめてこの腕さえ抜ければ、なんとか抵抗することもできるかもしれないのにと、ユズキは必死に腕を動かした。
すると、その指先に、何か堅いものが当たっているのに気がついた。

「あっ!」

確信はなかったが、これが最後のチャンスと思い、思いきって腕をねじ込んだ。
外に出そうとしてもビクともしなかったが、内に入れる分にはたやすい。
右手が堅いもののもっと下、柔らかい袋のようなものを探り当てたとき、ユズキはそれを思いっきり握りしめた。

「う…ぐあああっ!!」

あっという間にリュウタの体から力が抜け、締め上げていた両腕をほどいてしまった。
ストン、と土俵際ギリギリに落とされたユズキは、ホッと息をついた。

「あー、危なかった、ギリギリで気づいてよかった」

その手には、リュウタの金玉がしっかりと握られている。

「う…ぐあ…!」

「惜しかったね。もうちょっとだったのに。これでもう、アンタの勝ちはないよ」

男の最大の急所を握りしめて、ユズキは勝ち誇って見せた。
実際、リュウタはすでに立っているだけで精いっぱいの状態だった。
ユズキがまだ、その手にあまり力を込めていないにも関わらず、だ。

「このまま金玉を引っ張って外に出せば勝ちだけど…。ねえリュウタ、アンタさっき、私の胸に顔つけてなかった?」

グリッと、手の中でわずかに金玉を転がしてみせた。
それだけで、リュウタの体には激しい痛みが走る。リュウタも正直にならざるを得ない。

「あっ! は…いや、それは…はい…」

「やっぱりね。まったく、相撲の最中にチンポおっ勃てたり、胸に顔うずめたり、アンタ変態だね。そんな変態を、ただ降参させるわけにはいかないなー。あ、そうだ…」

ユズキは何か思いついたようで、ぐいっと金玉を引っ張って、審判役の宮司から手元が見えないようにした。

「こういうの、どう?」

不敵そうに笑うと、ユズキは金玉を掴む手とは逆の手で、リュウタのペニスを掴んだ。
そして、すでに堅くなっていたその肉棒を、優しく揉み始めたのである。

「あっ! ああ…! や、やめ…て…」

リュウタの口から、思わずため息が漏れた。
今まで耐えに耐えてきた男としての欲望のスイッチを、一気に全開にされた気分だった。

「ん? どうしたの? 私はただちょっと、掴んでるだけなんだけど」

クスクスと笑いながら、リュウタのペニスを揉み続ける。
それは不器用で、とても褒められるような性器のしごき方ではなかったが、数日間オナニーを我慢し、さっきまで女子高生の柔らかいオッパイに顔をうずめていたリュウタには、関係なかった。

「あ…ホントに…ホントにヤバイ…!」

身を捻って逃れようとしても、金玉袋をガッチリと掴まれているので、身動きできない。
その間も肉棒はガチガチに膨張し続けて、今にも破裂してしまいそうだった。

「ヤバイって? 何がヤバイの? もしかして、出ちゃうの? ウソー。こんなところで? 女の子にいじられて? ホントに?」

宮司にまでは聞こえないように、リュウタの耳元で囁いた。

「神聖な神前相撲の土俵上で射精なんかしたら、どうなるんだろうね。さすがに負けになるんじゃないの?」

大相撲でも、まわしがとれて不浄負けになるということがある。
そう思うと、リュウタは最後に残ったわずかな理性で、必死に射精を耐えるしかなかった。
しかしそんな必死そうなリュウタの顔を、ユズキはうす笑いさえ浮かべながら、見つめている。

「痛かったり、気持ちよくなっちゃったり。男ってホントに大変だよね。でももう、我慢しなくていいんじゃないの? 金玉を握られてる限り、リュウタに勝ちはないんだからさ。せっかくなら、気持ちよくなっちゃおうよ。ほら」

ペニスを揉みながら、そっと胸を近づけてきた。
先程も感じていた柔らかい感触が、再びリュウタの理性を吹き飛ばそうとする。

「神輿は私たちが担ぐからさ。今年はゆっくり休みなよ。ほら、出して。もう出していいんだよ?」

「あ…ああ…ああーっ!!」

リュウタの我慢の糸が、ついに切れた。
絶叫と共に、そのペニスからは大量の白い液体が、噴水のようにほとばしる。

「あ! こ、これは…」

宮司はリュウタの背中側から見ていたが、そこからでも確認できるほど、大量の精液だった。
鼻を突く匂いに、宮司は叫ぶようにして宣言する。

「勝者、西のユズキ! どういうことですか! 神聖な土俵の上で、なんてことをしてるんですか!」

そう言われても、リュウタは恍惚とした表情で、聞こえていない様子だった。

「だってさ。はい、とどめ!」

にっこりと笑うと、ユズキは握りしめていたリュウタの金玉を引っ張って、そこに膝蹴りをぶつけた。
堅い膝小僧に、柔らかい睾丸がグシャリと変形する感触が伝わってくる。

「はがあっ!!」

直前まで快感の絶頂にいたリュウタの体に、電気が走るような衝撃と、絶望的に巨大な痛みが湧き上がってきた。
その痛みに耐えるだけの気力は、もはやリュウタには残っていなかった。
女の子に金玉を掴まれて負けてしまったという屈辱と、人前で強制的に射精させられてしまったという恥辱が、痛みと共に彼の精神を包み込んでしまった。

「今年の神輿は、西地区がもらったってことで。いいよね?」

「やったあ! ユズキちゃん、さすが!」

おそらくこの結末は、ユズキたちの口から、あっという間に西地区に広がるだろう。
神聖な土俵の上で射精し、不浄負けして、さらに金玉を蹴られて気絶してしまったという汚名を、あと何年かかれば晴らすことができるだろう。
そんなことを考えながら、リュウタの意識は土俵の上で途切れてしまった。

「二勝一敗で、西地区の勝利! 今年の若神輿は、西地区が担ぎなさい」

宮司がそう宣言すると、女の子たちはお互いに喜び合い、はしゃいだ。
東地区の男の子たちはというと、セイヤはまだ疼く金玉をさすり、ショウマはかろうじて意識を回復したがぐったりとしており、リュウタにいたっては、自分が精子をぶちまけた土俵の上で、介抱すらされずに気絶していた。

「まったく、土俵の上でこんなことをするなんて、前代未聞ですよ。きちんと清めてから帰りなさい! さもないと、東地区は来年は神前相撲に参加させませんからね!」

宮司はそう言っていたが、セイヤもショウマも、来年はこの神前相撲に参加する気はなかった。
この年を境に、この地区の神前相撲は女の子たちだけが行われるようになり、神輿を担ぐのも、女の子が中心になったとかならなかったとか。




終わり。






祭りも無事に終わったある日、ルナは学校の帰り道で声をかけられた。

「おい、ルナ。お前、神前相撲でセイヤ君に勝ったんだって?」

声をかけてきたヨウタロウは、ルナと同じクラスの男子生徒だったが、普段は特に話したことなどなかった。
ただ、セイヤと同じ柔道クラブに通っているということだけは、ルナも知っている。

「うん。勝ったよ」

「ホントかよ。どうやって勝ったんだ?」

「どうやってっていうか…。ダメだよ。神前相撲のことは、あんまり話しちゃいけないって言われてるから」

毎年の公平な勝負を行うために、神前相撲の情報は、できる限り外部には漏らさないようにと言われている。
それは、東地区に所属するヨウタロウも、もちろん知っていた。

「ふうん。まあ、どうせ何かのインチキして、勝ったんだろ。お前なんかが、セイヤ君に勝てるわけねえよ。俺だって、一度も勝ったことないんだぜ」

ヨウタロウは小学三年生にしては大きな体格をしており、ルナが神前相撲で対戦したセイヤとさほど変わらなそうだった。
ルナは女子でも小柄な方で、ヨウタロウから見れば、こんな女の子がセイヤに勝ったなどと、とても信じられなかった。

「インチキじゃないよ。ちゃんと相撲して、勝ったんだもん。必殺技だってあるし。ユズキちゃんに教えてもらったんだから」

普段はごく大人しいルナも、さすがにむっとしていた。
しかしヨウタロウは、小馬鹿にしたような笑いを浮かべ続けている。

「へー。必殺技って? どんなんだよ?」

「えっと…。こう掴んで、グッと爪を立てて、ガリガリってひっかくの。すごく痛いんだって」

ルナが右手で実演してみせても、ヨウタロウには通じなかった。
なんだ、ただ爪でひっかくだけのことか、という思いがある。

「へっ。そんなことかよ。そんなんで必殺技とか言うなよな。そんなもん、俺には通用しないぜ」

「ウソ。すっごい痛いはずだよ。セイヤ君には使わなかったけど」

「へー。じゃあ、試しにやってみろよ。俺はぜんぜん痛くないと思うけどな」

「ホントに? じゃあ、やってみるよ?」

「ああ、いいぜ」

ヨウタロウがそう言うと、ルナはすぐさま、彼のジャージの中に手を突っ込んだ。

「え?」

よほど練習を繰り返したのだろう。
ヨウタロウが反応する間もなく、ルナの手は、ブリーフ越しにヨウタロウの睾丸を掴んでしまった。

「じゃあ、いくね?」

グッと、ルナの手に力が込められた。

「うっ! うあぁぁっ!!」

突然、訪れた男の最大の痛みに、ヨウタロウは叫び声を上げた。
ルナの握力は、その小さい体からは想像もできないほど強力で、苦しさのあまり腕を掴んでみても、ビクともしない。
ヨウタロウは知らなかったが、ルナは3歳のころからピアノを習っており、その指先のしなやかさと力強さは、同年代の女の子の平均をはるかに上回るものだったのだ。

「ぐえぇっ!! や、やめろ…」

「えっと、じゃあ、今から必殺技するからね。痛いと思うんだけどなあ。えい!」

ヨウタロウの苦しみの声は届かず、ルナはジャージの中で、少しだけ睾丸を握る手をかえた。
そしてブリーフの布地に向かって親指の爪を立てると、そこにある卵状の物体に思い切り押し込むのであった。

「ぎゃあぁぁっ!! あ…あ…!! 」

ヨウタロウの痛みは、想像以上だった。
最初こそ叫び声をあげたものの、その後は呼吸もままならなくなったようで、目をカッと見開きながら、口をパクパクとさせている。

「あ、うまくできた。あと、裏側の方をガリガリって…」

練習したことを確かめるように、ルナは指を動かす。
親指を突き立てたまま、人差し指と中指の爪で、金玉袋の裏側をひっかくようにしてえぐった。

「あっ!! はっ!! はぁっ!!」

ルナの指が動くたび、ヨウタロウの体がビクビクと震えた。
大きな体を前かがみにして、ついにその膝がガクガクと震えだした時、ようやくルナは相手の苦しみに気がついたようだった。

「あ、ごめん!」

パッと手を離すと、ヨウタロウはがっくりと膝をつき、そのまま両手で股間をおさえて、うずくまってしまった。

「ご、ごめんなさい。やっぱり、痛かったでしょ? 大丈夫?」

ヨウタロウの顔を覗き込むと、本人も気づかぬうちに、涙と鼻水で濡れてしまっているようだった。

「神前相撲以外では使っちゃダメって言われてたんだけど…ヨウタロウ君が平気だっていうから…。ホントにごめんなさい。学校の保健室に行く?」

ヨウタロウは、いまだにジンジンと痛む股間をおさえながら、かろうじて首を横に振った。
立ち上がることさえ無理なのに、今はまだ、この場から一歩も動くことはできない。

「そう…。じゃあ、わたし、もう帰るね。あ、今の必殺技のことは、秘密にしといてね。来年の神前相撲で使いたいから。じゃあね」

ルナは長い黒髪を揺らして振り返ると、何事もなかったかのように帰って行った。
ヨウタロウは痛みをこらえながら、来年も自分は絶対に神前相撲には出ないと、心に誓った。




終わり。



当ブログを見て頂いてありがとうございます。
管理人のMcQueenです。


いつもたくさんの方に見て頂いているようで、大変うれしく思っております。
また、作品の感想や拍手などを頂くと、非常に励みになります。
ありがとうございます。


先日、「神前相撲」という作品を更新させて頂きました。
これは、以前に募集させて頂いた、BB小説のアイデアやリクエストの中に、
「全裸の男女対決」や、
「中高生くらいの男女対決」
というものがありましたので、そのご要望にお応えさせて頂く形で、書かせて頂きました。


当ブログと同じような趣旨をもったブログや掲示板はいくつかあり、私もよく拝見させて頂くのですが、その中で、
「男の子と女の子が全裸で相撲をとる」
という作品を読んだことがあります。
非常に興奮させて頂き、私にとって素晴らしい作品の一つとなりました。


自分自身、いつかそれと同じような作品を書くことができれば思っていて、今回、「全裸の男女対決」というアイデアを頂いたのを機に、書かせて頂きました。
思いがけず好評を頂いているようなのですが、私自身は、自分の作品よりも、他の方が書かれた作品の方が興奮するようです。


「ボールキラー」は、「神前相撲」より前に掲載したのですが、実際には「神前相撲」を推敲している合間に書いたものです。
星新一などの短編を読んでいるうちに、自分の文章には無駄が多すぎるのではないかと感じ、できる限り短い文章で表現してみようと思いました。
結果的には、とても有意義な作品になったと思っています。


ストーリーとしては、「ゴルゴ13」をイメージしました。
ゴルゴ13が女性で、男の金玉を標的にするようになったら、こうなるのではないかと思い、書いてみました。
あわせて、去勢をする作品が読みたいというご意見もありましたので、そのリクエストにも応えさせて頂きました。
私の作品の中での去勢モノのシリーズとして、書き続けるのもいいのではないかと思っております。


読者の方から頂いたアイデアやストーリー案などは、まだたくさんあるのですが、なにぶんの遅筆で、形にすることができないでいます。
アイデアを頂いた方には、まことに申し訳ありません。
今後とも随時、ブログを更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。




某中堅スポーツ用品メーカーに就職して2年目の竹内チナミは、今年から何か一つくらい、重要な仕事を任されるかもしれないと身構えていた。

「竹内くん。キミにコレを任せるから。営業してきて」

ゴロン、と営業部長が机に置いたのは、白い布地にプラスチック製の容器のようなものがついた物体だった。

「あ、はい! ……えと、あの、部長…コレは…?」

無造作に手に取ってみると、それが何か、下半身に履くタイプの製品であることが分かったが、チナミにはまったく見覚えのないものだった。

「それはね、その…アレだ。アレを守るヤツ。ファールカップっていうから。詳しくは、西田くんに聞きなさい」

「あ、はい!」

営業部長は、何か言いづらいことをようやく言えたときのように、そそくさと去って行った。
チナミはいぶかしく思いながらも、初めて仕事を任されたという気合に満ちた表情で、メガネを上げなおした。

「あ、西田さん!」

同じ営業部の先輩である西田が、ちょうど目の前を通り過ぎようとしていた。

「あ? なんだよ?」

学生時代に柔道をしていて、空手の道場に通った経験もあるという西田は、その体格以上に高圧的な態度で、普段から後輩に接していた。

「あの、部長から、コレを営業してこいと言われたんですけど…。詳しくは、西田さんに聞きなさいって」

と、差し出されたファールカップを見て、西田はあからさまに顔をしかめた。

「ああ、そう。まあ、頑張りな」

それだけ言って、立ち去ろうとする。

「あの! コレって、何なんですか? ファールカップとかって言ってましたけど」

振り返りざま、西田は明らかに舌打ちをした。

「ファールカップはファールカップだよ。そんなことも知らねえのか、お前。男のアレを守るヤツだよ。調べりゃ分かるだろ」

「え、あの…。営業って、どこに行けばいいんですか?」

「それはお前…空手の道場とか、格闘技のジムとか…。ああ、もう! ちょっと待ってろ!」

西田は自分の机に戻り、山積みになった書類の中から、一つのファイルを取り出した。

「これ、やるから。今までの営業先とか、中に全部入ってるよ。勝手にやってくれ」

「あ、はい! ありがとうございます!」

深々と頭を下げた。
西田は、こちらがいくら不機嫌そうに対応しても、いつもあまりこたえる様子のないチナミが苦手だった。
それが今どきのゆとり世代のマイペースというやつかと自分を納得させて、その場を立ち去った。
一方のチナミは、西田の不機嫌など気にすることもなく、与えられた仕事を全力でこなしてやろうと、やる気に満ちた顔で机に向かうのだった。




「ああ、西田さんとこの。へー。営業に、こんな若いコがいたんだあ。うんうん……ああ、それね。いいよいいよ。ウチではもう、違うの使ってるから。うん。ゴメンね。はいはい」

「……西田さんにも言ったけど…。ウチの選手はあんまり使わないから。いらないよ」

「間に合ってます!」

西田に借りたファイルを隅から隅まで読んで、ファールカップというものを理解したチナミだったが、どれだけ営業に行っても、まるで売れなかった。
空手道場や格闘技のジム、企業や大学の野球部など、考えられるところに片っ端から当たってみても、まったく相手にされなかった。
チナミの会社の他の製品を使ってくれているところでも、ファールカップだけは別なメーカーのものを使っているという具合だった。
初めての単独の営業の仕事で息巻いていた彼女も、これにはさすがにまいってしまった。

「お? まだいたのかよ」

営業に疲れ切ったある日の夜、誰もいない営業室で呆然と座っていると、西田がやってきた。
顔を赤くしているところを見ると、どうやら飲みに行った帰りに、忘れ物を取りに来たようだった。

「西田さん…。お疲れ様です」

小学校から高校まで皆勤賞を取り、ちょっと抜けているところもあるが、元気だけは誰にも負けないというチナミだったが、まったく手応えの無い営業活動に、さすがに疲れ切っていた。

「お疲れ…」

西田はしかし、彼女の苦労の原因をすべて承知していながら、何も言おうとせず、自分の机から何かを取り出して、そのまま立ち去ろうとした。

「西田さん!」

チナミは立ち上がって、西田に駆け寄った。

「西田さんは、知ってるんですよね? ウチのファールカップが、何で売れないか。知ってるんですよね?」

必死の表情で追及すると、西田は普段は大きな体を、この時ばかりは小さくするようにして、とぼけた。

「いや…知らねえよ。何のことだ?」

「だって、おかしいですよ! 他社のファールカップを使ってるところだって、ウチのはぜんぜん、見向きもしてくれないなんて。西田さんが営業してる時も、そうだったんですか? なんでなんですか?」

目に涙さえ浮かべ始めたチナミの問いかけに、西田もようやく重い口を開いた。

「いや、まあ、その…なんだ…。要するにだな…。痛えんだよ、ウチのファールカップは」

「はあ?」

「だから…痛えんだって。ウチのファールカップ。着けても、効かねえんだよ。痛えんだよ!」

最初は小声で、ボソボソと話していたが、やがてヤケになったかのように、そう告白した。
チナミは思いもかけぬその答えに、一瞬、混乱してしまう。

「あの…それは…。痛いって、その…何がですか?」

「決まってんだろ! タマが痛えんだよ。ウチのファールカップを着けても、金玉が痛くなるんだよ。だから売れねえんだろ!」

「キ、キン…タ…?。そ、そうですか…。ああ…」

思わず、西田の股間に目を落としてしまう。
製品としてのファールカップの機能と構造を、懸命に勉強して理解したつもりだったが、その性能に差があるとは、思いもしなかった。
というより、自分にとっては想像したくてもできない痛みだったので、まったくの盲点だったのかもしれない。

「何年か前に、それができたときは、いくらかは売れたよ。でもその後、さんざん文句言われたんだよ。お前んとこのファールカップは、着けても意味ないって。スポーツ用品ってのは、性能が命だからな。噂があっという間に広がって、ぜんぜん売れなくなっちまった。部長にも説明したつもりだったけどな」

「そうだったんですか…」

自社のファールカップの性能が低いと聞くと、チナミはまた落ち込んでしまいそうになった。
しかし一面、安心もしていた。
自分の営業の仕方がまずかったわけではない。製品に問題があるなら、それを改善すればいいだけの話ではないかと、持ち前の明るさで思い直したのである。

「じゃあ、開発部に報告して、作り直してもらいましょうよ! 性能に問題ありってことで。そうすれば、きっと痛くないのを作ってもらえますよ!」

「報告なら、したよ。でも、開発部のヤツらは頭が固えからなあ。計算上は問題ないとか、個人差があるとか、そんな具合に落ち着いたはずだぜ。分かってねえんだよ、アイツらは」

「じゃ、じゃあ、現場で何とかしましょうよ! 私たちで、きちんとしたデータを取って、それを見せれば、きっと分かってもらえますよ!」

「データって、お前…。あ? 私たち?」

やる気に満ちた目をキラキラと輝かせているチナミを見て、西田は例えようのない不安を感じてしまった。






「じゃあ、西田さん。すいません。いきますね?」

「お、おう! …いや、ちょっと待て、お前。分かってるな? 最初は軽くだぞ、軽く」

「はい! 軽く蹴りますから、大丈夫です!」

ズボンを脱ぎ、トランクスの上に自社製のファールカップを装着した西田の前に、チナミがかまえていた。
結局、二人は深夜の営業室で、ファールカップの性能テストをすることになってしまった。
何でも思い立ったらすぐ実行するというのがチナミの信条だったが、こればかりは自分一人でできることではない。
自社の製品を改良し、売り上げを伸ばすという大きな目的のために、先輩の西田を懸命に説得したのである。

「えーと…。こうですか? こう蹴りましょうか?」

靴を脱ぎ、黒いストッキングに包まれた脚をぎこちなく素振りしてみる。
その様子を見て、西田はやっかいなことを引き受けたと後悔する思いだった。

「お前…空手とかの経験はあるのかよ?」

「あ、いいえ! 体育の授業で、柔道を少し。学生時代は、陸上の短距離をやっていました!」

「そうか…」

ならば、足腰はしっかりとしているだろうと思い、西田は覚悟を入れなおした。

「いいか。金玉はマジで痛えからな。だから、ファールカップなんてもんを着けるんだ。それを理解してくれよ?」

「はい! 気を付けます!」

仕事の一環として、真剣にこなそうとしているようだが、どこかチナミはうれしそうだった。

「最初は、二割くらいの力で蹴ってくれよ。いいな? 二割だぞ」

「はい! 二割の力で蹴ってみます。では、いきます!」

「おう!」

チナミが腰を落としてかまえると、西田も目をつぶって、大きく足を開いた。
そうは言っても、格闘技経験のある自分が、自分よりもはるかに小柄なチナミなどの蹴りを耐えられないはずがないと、どこかで確信しているようだった。
 
「えい!」

チナミの右脚がぎこちなく振り上げられ、彼らが懸命に売り込もうとしている白いファールカップを直撃した。

ボン!

と、鈍い音がして、西田は股間に衝撃を感じた。

「んっ!! んん…」

西田はとっさに、腰を引いた。
ジワッと重苦しい衝撃が腰のあたりに広がってきたが、我慢できないほどではなかった。

「う…ん…。ああ…なるほどな…」

つぶやきながら、腰に手を当てて、天を仰いだ。
その様子を、チナミは興味深げに見ている。

「どうですか? 痛いですか?」

「あ? ああ、まあ…痛えっちゃ痛えな…。ちょっとズレたかな…」

言いながら、ファールカップの位置を直すように、右手でさすった。
本当はもっと早く股間をさすりたかったのだが、チナミの目の前で金玉をおさえることは、少し恥ずかしかったのだ。

「あ、そうですか。ズレやすいんでしょうか。だから、痛くなってしまうとか?」

チナミはメガネを上げながら、西田の股間を凝視する。
彼女にとってはまったく得体のしれない事情が、そこにはあるようだった。

「どのくらい、痛いんですか? データにしないといけないですよね。着けてないときを10とすると、5くらいですか?」

「いやお前、データって言ってもな…。着けてないときなんて、知らねえよ」

「あ、そうですよ! 着けてないときと着けたとき、両方調べないと、効果が分からないじゃないですか! 西田さん、コレ、一回外してください!」

「ああ? バ、バカ言え、お前! コレ外したら、モロに蹴られちまうじゃねえか!」

「いや、そうしないと、意味ないですよ! すいません。私が気がつかなくて。もう一回、同じ力で蹴りますから、比べてください」

金玉の痛みの分からない彼女は、ごく自然な様子でそう提案していた。
西田はもちろん抵抗したが、チナミの必死の説得によって、渋々ファールカップを股間から外したのだった。

「お、おい! ファールカップなしは、マジでヤバイからな? 力を間違えんなよ? いいな?」

「はい! 二割の力ですね? やってみます! でも、あの…ウチのファールカップって、着けても意味ないって言ってませんでしたっけ? だったら、さっきとあんまり変わんないんじゃ…。ちょっと強めにしましょうか?」

「バ、バカ野郎、お前! 着けても意味ないってのは、そうじゃねえんだよ! 着けてもけっこう痛いってだけで、ファールカップがあるのとないのじゃ、ぜんぜん違うんだよ!」

「え? そうなんですか? でも、ウチのは性能が低いって言ってたから…」

「お前、ホントに分かってねえだろ! 金玉の痛みってのはなあ…クソッ! も、もういいから…。とにかく軽く蹴れよ!」

男にとっては世界共通に近い、金玉の痛みの感覚というものを説明しようとしたが、金玉のついていないチナミには、それは結局分からないだろうということを思い、西田は諦めたように脚を開いた。

「はい! いきます! それ!」

ブン! と、チナミは再び右足を振り上げた。

「はうっ!!」

蹴られた瞬間、西田は目を見開いた。
先程とは比べ物にならない、重苦しい痛みが、内臓にまで響いてくるようだった。

「う…くぅ…!!」

もはや見栄を張ることも考えず、チナミの目の前で、股間を両手で抑え、背中を丸めた。
軽くとはいえ、無防備にさらした股間を蹴り上げられたのだから、当然だろう。

「あ…! 西田さん? 大丈夫ですか?」

チナミの方も、さっきとはまるで違う西田の痛がりように、驚いてしまった。
蹴った瞬間、足の甲にグニュっとした感触を感じたが、あれが金玉だったのだろうかと、思い返していた。

「あの…。どのくらい痛いですか? さっきのと比べると…二倍くらいですか? 三倍くらい?」

「くくく…!!」

痛みに苦しむ西田は、返事をするどころではない。
何も知らずにそんなことを聞いてくるチナミに、心底腹が立ったが、そんな怒りさえ呑み込んでしまう程の痛みだった。

「い、痛えよ、てめえ…! ちゃんと、二割って言っただろ…!」

「え? あ、はい。二割で蹴りましたけど…。じゃあ、あの…ファールカップを着けて、もう一回蹴ってみましょうか?」

「はあ? な、何言ってんだ、お前…? うう…!」

「いや、でも、すぐに比べないと、分かんないじゃないですか。その痛みの記憶が残っているうちに、もう一回蹴ってみないと。ダメですか?」

「すぐにって、お前…! ちくしょう…!」

股間から発せられる痛みは、あと数十分間の休息を要求していたが、後輩の女の子に股間を蹴られて、なめられるわけにはいかないというプライドが、西田を動かした。
さきほど脱いだファールカップを手に取って、股間に装着しようとする。

「ううっ! くっ!」

しかし、股間の膨らみの部分に少しでも衝撃を与えると痛むようで、ファールカップが膨らみに触れないよう、慎重に装着するしかなかった。

「あ、それは…。ああ、なるほど。そうやるんですね…」

あまりにもゆっくりとした西田の動きに、自然と目が行ってしまう。
股間の膨らみを下から持ち上げるようにしてカップの中に入れる様子は、女性のチナミにとっては、興味深いものだった。

「バ、バカ、お前! ジロジロ見んなよ!」

「あ、いや、でも、どういう風に使うものなのか、見ておきたくて…。お客様にも説明しないといけませんし…」

あくまで仕事のことを考えている様子のチナミに、西田もそれ以上何も言えなかった。

「ちくしょう…! 着けたぞ!」

再びファールカップを装着した西田は、いつの間に顔中を汗で濡らしていた。

「あ、はい! 西田さん、大変ですけど、頑張りましょう!」

大変なのは俺だけだと、西田は叫びたかった。

「部長も、コレが売れれば、特別手当を出すって言ってましたから。西田さんが協力してくれたことも、私、ちゃんと報告しておきます!」

意外な言葉が、チナミの口から出てきた。
あの部長め、俺がファールカップの営業をしている時には、そんなことは一言も言っていなかったくせに、と西田は思った。
逆にあのケチな部長がそこまで言うからには、コレが売れなければ、チナミだけでなく、自分の立場も危ういのではないかと感じた。
それでなくても、西田は常日頃から、営業部長とはそりが合わないと感じていたので、何としてもこのファールカップを改良して売れるようにしなければならないと思った。
 
「いきます! それ!」

3回目の金蹴りで、チナミは少し慣れてきた様子だった。
西田が考えを巡らせている間に、なんのためらいもなく、足を振り上げた。

ゴスッ!

と、ファールカップが跳ね上げられる。
最初の蹴りと比べると、うまく標的をとらえられたように、チナミは感じた。

「あうっ!!」

一瞬、呼吸が止まるほどの衝撃が走った。
ファールカップに守られているはずの二つの睾丸のうち一つから、ピンポイントな痛みが股間の神経に這い上がってくるような気がした。

「ど、どうですか?」

股間を両手で抑え、歯を食いしばって耐えている様子の西田を、覗き込んでみる。

「う…くく…! ズ、ズレたぞ、バカ…!」

「え? ズレた? ズレたって、その、ファールカップがですか?」

「そうだよ、バカ! うぐぐ…!」

どうやら、蹴りの衝撃で、ファールカップがズレてしまい、ファールカップのフチの固い部分が、西田のタマの一つに直撃したらしかった。

「えっと…それは…。ズレると、痛いんですか? 記録しとかないと…」

言いながら、チナミはメモを手に取っていた。
その間も、西田は苦痛に顔を歪めている。自社で作ったファールカップの欠点を、身を持って知ることになった。
素人のチナミが蹴ったくらいで位置がズレるなんて、こんなもの売れるわけがないと、文字通り痛感する思いだった。

「あの、西田さん。ファールカップがズレたときって、どうなるんでしょうか? 説明して頂けますか?」

「だから、それはお前…。カップの周りに、固い部分があるだろうが。ズレるとそれが当たって、痛えんだよ…!」

「ああ、なるほど…。固い部分が当たる、と…。え…でもそれは、ズレなくても、最初から体に当たってるんじゃないですか?」

メモを取りながら、疑問をぶつける。
女性であるチナミには想像もできないことが、西田の股間では起こっているのだ。

「バカ…! 体に当たったって、どうってことないんだよ。タマに当たるから、痛えんだろうが!」

「あ、そうなんですか…。えと…タマっていうのは、つまりその…睾…丸ってことで、いいんですよね?」

「知らねえよ! タマはタマだ! 金玉って書いとけ!」

恥じらうように確認を求めたチナミだったが、西田にとっては馬鹿馬鹿しいやりとりだった。
怒鳴られると、チナミは少し顔を赤くしながら、黙ってメモ帳にペンを走らせた。

「でも、そうなるとやっぱり、ウチのファールカップはズレてしまうから、効果がないってことなんでしょうか?」

「そうだな…。それだけじゃないかもしれないが、ズレやすいってのは、確かだな…」

いくらか痛みがおさまってきた様子の西田は、忌々しそうに股間のファールカップを見た。

「私、ちょっと試してみたいことがあるんですけど、いいですか?」

「ああ?」

西田が痛みをこらえている間に何か思いついていたようで、チナミは目を輝かせながら、西田の背後に回り込んだ。

「お、おい! 何を…」

「こうやって、ファールカップを目いっぱい持ち上げて、体に密着させるんです。グイーッと!」

チナミは西田の了解も得ないままに、背後から西田が履いているファールカップのバンドの部分を、力いっぱい引っ張り上げた。
そうすれば、確かにファールカップは西田の股間に密着することになるだろうが、股間に敏感なものを抱えている男としては、それは慎重にやってもらいたい作業だった。

「ちょ、お前…! お…ほぅ!」

思わず、奇妙な叫び声が出てしまう。
何度か衝撃を受けて、わずかに熱を帯びているに睾丸に、固いプラスチックのカップがピッタリとくっついているのを感じた。

「はい! こうして留めておけば、ズレません。どうですか?」

取り出した安全ピンでバンドを留めると、ファールカップは極限まで密着したまま動かなくなった。
西田は股間に冷たい風が抜けるような違和感を感じて、知らないうちに腰を曲げて、つま先立ちになってしまっていた。

「どうって、お前…。これじゃあ…」

「じゃあ、この状態で蹴ってみますね? いいですか?」

チナミは、集中すると自分の考えに没頭してしまうタイプらしく、西田の様子などはあまり気にしていなかった。
ただ、この状態ならカップがズレないから、痛くないだろうと思っただけで、西田の二つの睾丸が、カップの強化プラスチック一枚に仕切られた向こうに密着しているなどとは、想像もつかなかった。

「いきます!」

「ちょ、待て! 待てって…!」

つま先立ちになっていた西田には、チナミの蹴りを避ける素早さはなかった。
彼にできたことはただ、蹴りが当たる瞬間、わずかにジャンプして、衝撃を少しでも逃がすことくらいだった。

ゴン!

「ぐえっ!!」

西田の感覚では、ほぼ直撃に近かった。
カップと睾丸の間に隙間ができていないと、ファールカップは着けていてもあまり効果がないものになると、改めて思い知ることとなった。

「ぐぅぅ…!!」

カップなしで蹴られた時よりも、わずかにマシな程度だったその衝撃は、西田の両足から力を奪い、その場にうずくまらせてしまった。
さっき金玉を蹴られた時のダメージが、さらなる衝撃によって、またぶり返し、体全体の自由を奪っていくようだった。

「あ、あれ? 西田さん?」

チナミは、自分の予想とは全く違う結果に、純粋に驚いていた。

「もしかして、痛いんですか? あれ…? おかしいなあ…」

「クソ…! この…!」

少しでも痛みを紛らわせようと、西田は床に頭を擦りつけながら、歯を食いしばっていた。

「でも、西田さん! しっかりしたデータが取れましたから、これを開発部に報告しましょう! それで、どんどんこのファールカップを改良していったら、きっと売れるようになりますよ。頑張りましょうね!」

床に這いつくばりながら、脂汗をかいている西田に向かって、チナミはにっこりとほほ笑んだ。
その無邪気な笑顔を見ると、西田はそれ以上、何かを言う気力を失くしてしまった。






数日後。
社会人にしては明るすぎる茶髪を無造作にかき上げながら、開発部の成瀬リョウコが営業部にやってきた。

「ねえ、ちょっと。竹内ってのは、どこにいるの?」

そういって捕まえたのは、誰あろう、竹内チナミ本人だった。

「はい? 私が、竹内ですけど?」

「ああ、そう。アンタが、あの報告書を出したの。へー。アンタ、何年目?」

「はい。二年目です! あの…報告書って…。あ、もしかして、開発部の方ですか?」

「そうよ。開発部の成瀬。アンタの報告書を受け取った人。ていうか、アンタみたいなのがファールカップの営業なんかしてんの? 軽いセクハラじゃない?」

あまりにもあけすけにしゃべる成瀬の言葉に、営業部長はドキリとしてちょっと目を上げたが、すぐにまた顔を伏せて、聞こえないふりをした。
チナミは少しずり落ちたメガネを上げて、きょとんとした顔をしている。

「まあ、それはいいとして。アンタの報告書によれば、あのファールカップは設計に問題があるってことらしいけど。どういうことよ?」

禁煙パイプを歯でかじりながら、長い髪をかき上げるその姿は、とても節度のある社会人女性とは思えないものだった。
しかし成瀬リョウコの最大の特徴は、そこまで粗野で無作法な行為をしていても、まるで関係がないほどに美しい外見だった。
まるでモデルのような抜群のスタイルと、芸能人顔負けの美しい顔が、チナミの前で苛立ちを隠せないでいる。

「はい! おっしゃる通りです。設計に問題があって、ダメらしいんです!」

「ダメって?」

こう見えて、某有名大学院の工学部を卒業という経歴を持つリョウコは、すでに開発部のボスと言っていい存在だった。その彼女にこんなにはっきりとダメ出しをするとは、なんという怖いもの知らずだと、営業部の全員が聞き耳を立てながら思っていた。

「はい! あれを着けてても、その…痛いらしいです。その…アレは…なんというか…」

「金玉が?」

「あ、はい! それです!」

きわめて無邪気な返事を返したチナミの顔を、リョウコは改めて確認するように、不機嫌そうな目で眺めた。

「いいかい。あのファールカップはね、3年前にアタシが設計したもんなんだ。あれに使われている強化ポリプロピレンは、圧縮応力の高い特別製で、アイゾットでもテンサイルでも予想以上の数値が出て…って、アンタにそんなこと言ってもしょうがないか」

まっすぐな瞳で見つめているが、何も理解していなそうなチナミを見て、ため息をついた。

「とにかく、あのファールカップに問題はないってことよ。ぜんぜん売れないって話は聞いてるけど。営業不足をこっちのせいにしないでもらいたいね!」

営業部全体に聞こえるような声で言う。
それでも、営業部長は何も言い返すことはなかった。

「あの、でも…やっぱり、痛いらしいんです。私はよく分かりませんけど…固い部分が当たるとかで…」

「当たる? 金玉に?」

「はい…」

チナミはさすがに恥ずかしいようで、小さくうなずいた。
リョウコはしかし、そんなことはまったく気にしていないようだった。

「確かにね。アタシには金玉なんてついてないから、よく分かんない部分もあるよ。ある程度は、想像で作ったところもあるけど。…アンタ、実験してみたの?」

「あ、はい! 実験してみました!」

「アンタ一人でやるわけはないから…。そこにいる、西田とかかな?」

今まで沈黙を守っていた西田だったが、なぜかリョウコに見透かされて、ハッと顔を上げた。

「はい! そうです! 西田さんに協力してもらいました!」

「ふうん。なかなかの行動力だね。でも、あの男で実験したって、正確な結果が出るわけがないよ。あんな男、金玉がついてるかどうか、怪しいもんなんだから」

この言葉に、机に向かっていた西田が思わず立ち上がって、リョウコの方を睨みつけた。

「はい。え? でも、ついてましたよ。すごく痛がってましたから」

チナミのこの言葉に、営業部の女性たちから失笑が漏れた。
その雰囲気に、西田は気まずそうに座りなおさざるを得なかった。

「へー。アイツもいっちょまえに痛がるんだね。まあでも、信用できないね。痛いっていっても、アイツに根性がないだけでしょ。他の男なら、平気なはずだよ」

「そうですか? でもやっぱり、売れないのは、着けても痛いからじゃないかと思うんですけど…」

「分かったよ。報告書を受け取って、何も対応しないっていうのもマズイから、実験してあげようじゃないの。ウチのファールカップを装着しても、効果がないのかどうかってことをね。それで文句ないだろ?」

「あ、はい! 実験してください。お願いします!」

チナミはうれしそうに、深々と頭を下げた。

「じゃあ、話のついでだから、西田! アンタちょっと、実験に協力してよ」

リョウコが声をかけると、西田はまさかとは思っていたが、という表情で立ち上がった。

「いや、お前…。ふざけんなよ。誰が協力するか…!」

「だって、報告書に書いてある実験結果って、アンタのことなんでしょ? じゃあ、それを再現してみないと、アタシの立場としては、何ともいえないね。アンタが痛いっていうなら、それを目の前で証明してもらわないとさ」

それなりに筋が通っているように聞こえたが、西田にとっては言いがかりのようなものだった。
念のため、営業部長の方を見てみると、目があった瞬間、部長は大きくうなずいてみせた。

「ぐ…いや、でも、それは…」

「グズグズ言ってんじゃないよ! 男らしくないね! 西田はタマ無しなので、実験できませんでしたって報告するよ!」

これも完全にセクハラといえる発言だったが、西田に返す言葉はなかった。

「…わかったよ! やってやるよ! ちくしょう!」

吐き捨てるようにそう言った。

「もともと、自分の担当してる商品のくせに。もったいつけんじゃないよ。じゃあ、そういうことだから。明日にでも実験してやるよ。必要なものは、全部こっちで準備するからね。また連絡する」

「はい! ありがとうございます!」

立ち去るリョウコの背中に、チナミは丁寧に頭を下げた。




この会社では、開発部は営業部のすぐ隣にあるのだが、成瀬リョウコは強引に実験室のようなものを作り、ほとんどそこにこもりきりで仕事をしていた。
地下2階にある、以前は倉庫として使われていたらしい実験室に、チナミと西田はこの日初めて、足を踏み入れた。

「うわあ。なんか、いろいろありますね…」

案外と広い、コンクリートの打ちっぱなしの部屋には、正体不明の機械や試作品などが、雑然と置かれていた。

「あ、山下くん。久しぶり!」

チナミと同期入社の山下は、リョウコと同じ有名大学の工学部出身で、開発部に配属されたとは聞いたものの、その後はまるで行方不明にでもなったかのように、見かけなくなった。
久しぶりに会ったチナミに、少し頭を下げ、何か言ったようだったが、小声で聞き取れなかった。

「ああ、アンタ、コイツの同期だっけ? なかなか優秀なヤツだよ。今日も、手伝ってもらおうと思ってるんだ」

見れば、山下はすでに黒いスパッツの上に、ファールカップを装着している。
大人しい彼は、入社以来、ずっとリョウコの実験に付き合わされてきたのだろうということが、それだけで分かった。

「アンタは? もう着けてきたんだろ?」

西田に問いかけると、渋い顔でうなずいた。
どうやらあらかじめ、ファールカップを着けてくるように指示されていたらしかった。

「じゃあ、さっそく始めたいんだけど」

「や、やっぱり脱ぐのか…?」

ためらっていると、リョウコは鼻で笑った。

「もちろん。正確なデータを取りたいんでね。ズボンの上からじゃ、計測できないだろ。早くしてよ。別に私も、アンタの裸なんか見たくて言ってるわけじゃないんだからさ」

そう言われると、西田は無言で眉をひそめたまま、ベルトを外して、ズボンを下げた。

「あれ…きゃあ!」

チナミが思わず声を上げたのも、無理はない。
前回と違って、西田は素肌に直接ファールカップを装着しており、その下半身は超小型のビキニパンツを履いたときのように、ギリギリの状態だったからだ。

「アンタたちが、ズレるとか言うからさ。色んな状況で試してみたいと思ってね。こっちは下着ありで、こっちはなし。実際、人によって色んな着け方があるみたいだしね。きっちりチェックさせてもらうよ」

「あ…そ、そうなんですか…」

西田は観念したかのように、堂々と立っていたが、その顔はさすがに赤くなっていた。

「じゃあ、始めるよ。今回は、このロボットを使う。男二人は、前に立って」

そこにあったのは、頑丈そうな土台に、回転するアームのようなものがついた、大きな機械だった。
アームの先端には、ゴムのような黒い塊がつけられている。どうやらこれで、男の股間を打ち上げるようだった。

「なんですか、これ?」

「こいつは、ゴルフのスイングロボットを改造したものさ。ゴルフクラブやゴルフボールの試験に使うもんだね。このアームが回転して、男の金玉を叩き上げるってこと」

「へー。すごいですね」

「まずは、どうしようかな…。ヘッドスピード30mくらいからいってみるか?」

「ヘッドスピードってなんですか?」

機械を操作するリョウコを、チナミは面白そうに、西田と山下は不安そうな顔で見つめていた。

「ゴルフのスイングの速さだよ。秒速30mで動くってこと。このロボットは、ヘッドスピード70mまで出せるけど、最初だからね」

「秒速30mっていうと、どのくらいなんですか?」

「時速100キロちょいってとこでしょ。野球のピッチャーの腕の速度くらいだな」

「へー。そうなんですかあ」

女性たちの何気ない会話に、男たちは一気に青ざめた。

「ちょ…! おい!」

「はあ? ちょっと待ってよ。今、セッティングしてるから…」

「待て待て! 待てって! 野球のピッチャーの腕の速度とか…バカ野郎、お前! そんなんで蹴ったら、とんでもねえことになるだろうが!」

「ああ、そう? ゴルフのスイングでいったら、平均的な速度だけどね」

「だから、ゴルフクラブで叩いたりしたら、とんでもねえことになるだろうが! もっと下げろって!」

「ふうん。まあ、いいか。どのくらいにしようかな。秒速20mくらいか?」

リョウコは男たちの金玉がどうなるかなど、あまり気にしていないようだった。

「あんまり変わんねえだろ! …最初は、5mくらいで始めろよ」

その速度でさえどうなるか、西田には想像できなかった。
しかし男の意見としては、できるだけ低い速度で実験を終わらせたいと思うのは当然で、山下も何も言わず、うなずいていた。

「はあ? 5mって、ハエがとまるんじゃないの? …まあ、最初はそのくらいでいいか。…よし、いくよ。まずは、山下から」

リョウコにそう言われると、山下は小さくうなずいて、マシーンの前に立った。
色白のやせ形で、絵に描いたような研究者のような風貌の彼にも、男として本能的な恐怖があった。

「いい? いくよ?」

しかしリョウコは山下の緊張などお構いなしに、マシーンのスイッチを入れた。
スイッチの横にあるランプが赤く光り、マシーンのアームが動き出す。
そのスピードは、チナミが西田の股間をぎこちなく蹴り上げたときと、さほど変わらないものだった。

ゴン!

と、アームの先端につけた硬質ゴムの塊が、山下の股間のファールカップを見事に叩き上げた。

「んっ!」

スポーツや格闘技の経験などまったくない山下は、股間に打撃を受けたことなど、ほとんど初めてといっていい経験だった。
しかし、彼自身が制作した硬質ゴムの質量を股間に感じると、その効果は彼が想定していた以上のものだったと実感する。

「どう? 何か感じる?」

リョウコとチナミは、まったく痛そうには見えなかったそのアームによる衝撃が、決して小さくない苦しみを山下に与えているとは、露ほどにも想像しなかった。

「あ…はい…ん…まあ…」

両手を後ろで組んだまま、クネクネと体を動かして、痛みを紛らわせようとする。
同じような動きを、先日の西田もしていたのだが、チナミにはそれに何の意味があるのか、いまだに分からなかった。

「山下くん、その感じを覚えておいてね。次のと比べないといけないから。ですよね?」

「そういうことだね。今のを基準にして、これの10倍くらいの衝撃まで、ファールカップは問題ないはずだけどね。計算上は」

「はい…。頑張ります…」

顔をしかめながら、山下はつぶやいた。
自分が今まさに着けているファールカップの構造や、性能の詳細は理解しているつもりだった。リョウコが言うことも、正しいとは思う。
しかし、パソコン上での計算と、実際に着けてみるのとではまったく違う話なのだと、山下は大急ぎで自分に言い聞かせざるを得なかった。




「じゃあ、次。西田の番ね」

「お、おう! …おい、ちゃんとやってくれよ?」

西田はマシーンの前で足を開いたが、不安そうな表情をしていた。
彼にとってリョウコは、何か油断のできない関係であるということが、チナミの目にも分かってきた。

「大丈夫、大丈夫。ちゃんとやるから。ピッピッピっとね」

「…え? あ…いいんですか?」

リョウコの手元、マシーンの操作部分を見ていたチナミが、思わず小声で尋ねた。

「いいの、いいの。まあ、見ときな。いくよ?」

スイッチを押すと、マシーンのモーター音が響き、それまで静止していた黒い塊が、勢いよく西田の股間に向かって跳ね上げられた。

バシン!

「おうっ!!」

そのスピードは、先程の山下のときよりも、明らかに速いものだった。
目で見ただけでも、おそらくは倍以上あると、隣で見ていた山下は思った。
当然、西田の苦しみは山下の比ではなくなってしまう。

「おっ!! ああっ…!!」

裸に近い下半身を両手でおさえ、すぐさまその場にひざまずいてしまう。
例えようのない、重苦しい痛みが、股間から全身へと広がり始めていた。

「ぐうぅ…。お、お前…!」

見上げると、リョウコがマシーンの側でクスクスと笑っていた。

「ゴメンゴメン。ちょっと手が滑っちゃって。今ので秒速12mだったね。前に、アタシがアンタを蹴とばした時と、同じくらいの速度だろうね。どう? 比べてみて?」

「え? リョウコさんが蹴ったことがあるんですか?」

「そうなのよ。前に会社の飲み会でさ。コイツが酔っぱらって、抱きついてきたもんだから、蹴飛ばしてやったことがあってさ。あの時は、もっと痛がってたみたいだから、やっぱりそのファールカップを着けてれば、効果はあるってことじゃない?」

「く…そ…!」

そんなことを言われても、西田には何とも答えようがなかった。
確かに、以前リョウコに直接金玉を蹴られた時よりはマシなような気もするが、だからといって、平気で立っていられるほどではない。
結局、ファールカップとは男の睾丸が潰れてしまわないようにするための、補助的なものでしかないのではないかと、実感する思いだった。

「じゃあ、次は山下、アンタも今のでいってみようか?」

「え! あ…はい…」

隣でうずくまる西田の姿を見て、山下は背筋に冷たいものすら感じていたが、上司であるリョウコに反論するほどの勇気は彼にはない。
すると突然、チナミが手を挙げるようにして申し出た。

「あ、ちょっと待ってください! あの…私も試してみて、いいですか?」

「はあ? 試すって、アンタもこのマシーンをくらってみるってこと?」

「あ、はい。やっぱり、私も見てるだけじゃダメかなって思ったので。それに、サンプルは多い方がいいじゃないですか。なので…」

「サンプルっつったって、アンタには金玉ついてないじゃん。意味ないと思うけど」

「それはそうなんですけど…。とにかく、試させてください! お願いします!」

理屈ではない、実践主義の彼女らしい提案だった。
リョウコも、チナミのそういう所を気に入り始めていたため、無駄な事とは思いながらも、マシーンを操作することにした。

「じゃあ、いくよ。そこに立って。まずは、さっきの秒速5mからいってみようか? カップは着けないでいいのね?」

「あ、はい! 着けてないときと比べたいので。お願いします!」

制服のタイトスカート姿だったチナミは、スカートの裾を少したくし上げるようにして、股間をマシーンに向けた。
リョウコがスイッチを押すと、アームが回転し、その無防備な股間にゴムの塊を打ちつけた。

バン!

鈍い音がして、アームの動きは止まった。

「……ん? 今ので、終わりですか?」

男たちが固唾をのんで見守る中、少々の沈黙をはさんで、チナミはリョウコに尋ねた。

「そうだよ。あんまり感じなかっただろ。秒速5mなんて、そんなもんだよ」

「あ、はい…あんまりっていうか、別に、何も…。ねえ、山下くんは、さっきこれが痛かったの?」

「あ…はい…まあ…」

山下はチナミのあまりの反応の薄さに、素直に驚いてしまっていた。
先程、股間を叩き上げられた衝撃は、まだ自分の股間にじんわりと残っている。しかもチナミは、ファールカップすら着けていないというのに。

「じゃあ、次はさっき西田にやった、秒速12mくらいいってみる?」

「あ、はい。あ、でも、15mくらいでもいいですよ。きりがいい感じで」

「そうだね。じゃあ、15mで。はい」

山下と西田が大騒ぎしているから、一体どの程度のものなのだろうと最初は思っていたが、5mであのくらいなのだから、15mでもまったく問題ないだろうと、チナミは高をくくった。
男なら、本能的に体が動いてしまいそうな、そのアームの動きを、まるでためらうことなく、むしろきちんと当たるようによく見て、チナミは自分の股間を差し出すのだった。

ゴン!

今度はさすがに、少し痛そうな音がした。

「あ! うん…これは…ちょっと、骨に響きましたね。ああ…なるほど…」

どうやらゴムの塊が恥骨に当たったらしい。
それでも、チナミがしたリアクションといえば、スカートの上から少し股間をさする程度のものだった。

「じゃあ、ファールカップを着けてみますね。今のを忘れないうちに」

実験室には、予備のファールカップはいくらでも取り揃えてあった。
マナミはその中からSサイズのものを取り、黒いパンティストッキングの上に装着することにした。

「あ、これって、こういう風にするんだ…。ああ、なるほど…」

慣れない手つきで、スカートをギリギリまでまくり上げながらファールカップを履こうとするその姿に、隣で見ていた山下は、かすかな興奮を覚えてしまう。

「はい! できました! ちょっと股が窮屈ですね…。こんななんだ…」

タイトスカートの前が、ファールカップの形にもっこりと膨らんで、奇妙な姿になった。

「動きづらいだろ? 男はそれを履いて、野球だの格闘技だのしなきゃいけないんだよ」

「あ、そうですね。男の人って、大変なんだ…。でもこれ、しないといけないんですかね? すっごい邪魔だと思うんですけど…」

おさまりの悪そうな股間を手でおさえて、もぞもぞとする。
それは、俗にいう男がチンポジを直す動作そっくりだったが、チナミはもちろん無意識でやってしまっていた。

「そりゃあ、ソイツをしないと、金玉が痛いっていうんだから、しないといけないんじゃないの? 当たりどころが悪けりゃ、大事な金玉が潰れちゃうっていうんだから、しないわけにはいかないだろ」

「ああ、そうなんですね。男の人って、スポーツをするのにも大変な思いをしてやってるんですね。へえ…。なんか、気の毒だなあ」

チナミの率直な感想は、隣で聞いていた男二人のプライドを傷つけるには十分だったが、彼女はそんなことには気がつかない様子だった。

「じゃあ、やってみようか。さっきの15mでいい?」

「はい! お願いします!」

リョウコがスイッチを押すと、再びアームがチナミの股間に向かって跳ね上げられた。

ボコン!

山下の目から見ても、チナミの股間の膨らみにゴムの塊が直撃するのがはっきりと分かった。
それは男なら、思わず目を背けたくなるような瞬間だったが、あいにくその膨らみの中には、男にはあるはずの脆い急所は入っていなかったのである。

「あ! すごい! コレ、すごいですよ! ぜんぜん痛くない。ぜんぜん大丈夫じゃないですか、コレ!」

チナミは思わず、股間のファールカップをスカートの上から撫でまわした。

「だろ? ちゃんと作ってあるんだよ、そのファールカップは。痛いわけないんだ」

「ホントですね! わー! すごーい! あの、次はもっと速くしてみませんか? 絶対大丈夫だと思うんで。お願いします!」

ファールカップの性能が確かだったことがよほど嬉しかったようで、チナミは飛び跳ねて喜んでいた。

「そう? じゃあ、20mくらい、いってみるか。それ!」

リョウコも少なからず嬉しそうで、笑いながらマシーンを操作してスイッチを入れる。
ヒュン、と風を切る音がして、マシーンのアームがかなりのスピードでチナミの股間を叩き上げた。

コーン!

高い音が鳴り響いても、チナミは顔色一つ変えなかった。

「あ! 大丈夫です! ぜんぜん大丈夫! すごい! コレ、すごいですよ!」

「そうだろ。ソイツは、衝撃を効率よく分散するように設計してあるからな。中の空間にかかる圧力は、10分の1以下にまで減らせるはずなんだよ」

はしゃぐチナミの様子に、リョウコも誇らしげだった。
確かにファールカップというものは、受けた衝撃をその丸い外殻で分散して、圧力が一点に集中するのを防ぐのがその役目だろう。しかし、衝撃は分散されるだけで、消えるものではない。
だから、ファールカップの中に何も入れるもののない彼女たちには分からないのだ。分散された衝撃が、どれくらい金玉に響くものなのか。それがどのくらい、持続するものなのか。
チナミが感じたのは、せいぜい恥骨にファールカップの縁が少し押し込まれたくらいのものだったのだ。

「ねえねえ、山下くんもやってみなよ! ぜんぜん大丈夫だよ」

「え…! あ…いや…ボクは…」

「よおし! じゃあ、20m、いってみるか、山下!」

秒速5mのアームでさえ、じんわりと響くような痛みがあったのに、その4倍の速さだとどうなるのか。
山下の頭の中には、普段やっている計算予測よりも遥かに確実性の高い想像が浮かんだが、リョウコの命令に逆らうことは、習慣としてできなかった。

「いくぞ。それ!」

コーン!

隣で見ていた西田の背筋に、ゾッと冷たいものが走った。
秒速20mのアームの動きは、例えるなら空手の有段者の素早い蹴りの速度に等しかったろう。しかも狙いは正確で、股間に着けた白いファールカップに、黒い硬質ゴムの塊が、深々とめり込むのがはっきりと見えた。

「いっ!!」

山下の体は一瞬にしてくの字に曲がり、そのまま床にひざまずいてしまった。

「あれ?」

股間を両手でおさえ、ピクピクと震えながらうずくまる山下を見て、女性二人は思わず首をかしげた。

「ウソ。絶対、痛くないはずだよ。山下くん、ウソでしょ?」

ついさっき、同じ衝撃を股間に受けたばかりのチナミには、どうしても信じられなかった。
確かに、軽い衝撃を股間の隙間に感じたが、痛いというほどではない。装着していたファールカップだって、ビクともしていなかったのだ。

「い、痛い…です…!」

奥歯を震わせながら、山下は痛みに耐えていた。
ファールカップを着けていた場合、金玉への直接の圧迫はないため、痛みが伝わるのは一瞬だけになる。
しかし山下の感覚としては、針のようにするどい力が、一瞬で二つの金玉を突き刺し抜けたようなものだった。
金玉の痛みは、後から来る。響くように、下半身にくすぶり続ける。その感覚を、彼女達にどう説明したらよいのか。
とにかく今は、痛みに耐えることで精いっぱいだった。

「ウソぉ…。そんなはずないのに…。どうなってるんだろう、男の人って…」

チナミは正直な感想と共に、ため息をついた。
一方のリョウコは、ある程度は予想していたようで、興ざめたような顔つきで、禁煙パイプを噛んでいた。




「ふん…。まあ、こんなもんだろうね。性能上は問題ないはずなのに、痛いものは痛いと…。ホント、男の金玉ってヤツはよく分かんねえな。まあ、いいさ。次、西田、やってみようか?」

「え! い、いや、俺は…。もういいだろ…」

先程のダメージからはずいぶん回復していた西田だったが、山下に向かって放たれたアームの動きには、恐怖を感じていた。
それに、西田は気づいていたのだ。
自分は素肌に直接ファールカップを着けているが、その場合、ファールカップの内側に、金玉袋が少なからず密着してしまうのである。
ファールカップと金玉袋の間に空間が少しでもあれば、衝撃だけしか伝わらないのだが、密着している場合、金玉はファールカップの中で跳ねて、変形する。
直接衝撃を受けることよりははるかにマシなのだが、やはりファールカップは素肌に着けるものではないと、西田は身を持って学んでいたのだった。

「まあまあ、そう言わずにさ…」

妖しい微笑みを浮かべながらリョウコが近づいてくると、西田は思わず両手を上げて、防御態勢を取った。それを予期していたかのように、リョウコは西田の両手首に、ガチャリと手錠のようなものをかけてしまった。

「え!?」

驚いている間に、西田の両手の自由は奪われ、リョウコがリモコンのスイッチを入れると、ウイーンという機械音と共に、手錠に繋がれた鎖が天井に着けられたウインチに巻き上げられていった。

「お、おい! なんだ、これは!」

「まあ、こっちも色んなケースを想定してたってことよね。アンタが根性なしなのは分かってたし。これで、逃げられないでしょ」

当然のような顔つきで、西田の両手を頭上高く上げ、ほとんど爪先立ちのような状態まで持ち上げてしまった。
西田は当然、股間を守ることもできず、完全に無防備な状態になってしまう。

「すごい。いろいろあるんですね、この部屋」

チナミは少しズレた感想をこぼした。

「おい! やめろ! やめてくれって! もう、ファールカップの話はいいから。もう実験なんて…」

「まあまあ。ちょっと聞いてよ。アタシが、自分の作った製品の欠点を指摘されて、そのままにしておくと思う?」

わめく西田を制するように、リョウコは実験室の気密ケースの中から、一つのファールカップを取り出した。

「ちゃんと新型を用意してあるんだよね。ていっても、まだ試作段階だけど。今までの実験は、今のファールカップの性能を確かめただけ。アンタたちに言われたように、ウチのファールカップは着けても痛いのかってね。本当はこっちがメインの実験なんだよね」

リョウコの持つ新型のファールカップは、一見して今までのものと何ら変わりがないように見えた。
しかしくるりと裏返すと、ファールカップの内側に、緑色のゴムのようなものが詰まっていることが分かった。

「コレが新型の秘密。超軟質のハイパーゲルが入ってるの。分かりやすく言えば、衝撃吸収材ってことね。ファールカップが受けた衝撃を、このゲルが吸収して、金玉に伝わらないようにするわけよ。どう?」

誇らしげに、リョウコはそのファールカップを見せた。

「へー! すごいですね! 衝撃を吸収しちゃうんですか? 全部?」

「まあ、全部ってわけにはいかないけど、ほとんど吸収できるはずだよ。実験では、3階から卵を落としても割れなかった」

「すごい! それはすごいですよ。それなら、大丈夫じゃないですか?」

チナミの言う大丈夫は、もうまったく信用できないと、西田も山下も分かっていた。

「まあね。ファールカップってのは、金玉が潰れないように、ちょっと隙間を持たせてるわけだけど、それでも男は痛いって言うんだから。しょうがないから、その隙間にこういうものを入れてみようって思ったわけ。もともと、運動靴用に開発してたものだけどね。そこの山下がさ」

「へー。山下くん、すごいね!」

山下はうずくまったまま、少しだけうなずいた。

「でも、あと一つ問題があってね。これを着けるときは、隙間がないようにピッタリ着けなきゃいけないんだけど。まあたぶん、けっこう気持ち悪いんじゃないかと思うんだよね。アソコが」

「ああー、なるほど…」

リョウコとチナミは、同時に西田を振り返った。
西田を拘束した理由は、こういうことだったらしい。

「まあ、それはアタシの想像だからさ。試してみないことにはね、西田?」

「え…! あ…おい、ちょっと!」

西田が焦るよりも早く、リョウコは西田の着けていたファールカップのゴムベルトに手をかけて、一気にずりおろした。
ブルン、と、西田のイチモツが首をもたげた。

「きゃあっ!」

思わず、チナミは目をそむけてしまう。
しかしリョウコは平然とした様子で、新型のファールカップを西田の股間にあてがおうとした。

「ちょ…おい! ほぅっ!」

身をよじって避けようとするが、その隙を与えず、リョウコはファールカップを西田のイチモツに被せた。
ひんやりとしたゲルの感触に、西田は思わず悲鳴を上げる。

「えーっと、こうやって…。ねえ、ちょっと手伝ってよ。後ろから引っ張って。ぐいっと」

ファールカップに詰め込まれたゲルは、まるで新品のオナホールのように西田のイチモツ全体を圧迫していた。
前から手で抑えながらでないと、うまく装着できないようだった。

「え…! ちょっと…あの…私…」

多少は見慣れていたものの、さすがに西田のイチモツを直視することはできず、チナミはためらっていた。

「いいから、早く! これが製品化したら、お客さんに説明しないといけないだろうが。…そう。後ろから引っ張って、密着させるんだ。そう。もっと!」

「こ、こうですか…? ああ…もう…!」

西田のむき出しの尻を目の前にして、チナミは顔を真っ赤にしていた。
悪戦苦闘の末、どうやら西田のイチモツは、新型のファールカップの中に納まったようだった。

「ふう…。けっこう手間取ったね。着け方には、改良の余地ありだな。どう? 感触は?」

「ん…あ…ま、まあ…思ったよりは…」

ファールカップの中に入ったゲルは、最初こそ冷たかったものの、徐々に体温に温められて、違和感がなくなっていた。
むしろ、金玉袋全体を包み込むような心地よささえ西田は感じ始めていた。

「じゃあ、これで実験してみようか。まずは、秒速15メートルから。いい?」

「い、いや…ちょっと待てって…。まずはもうちょっと遅い速度から…」

一応、尋ねては見たものの、リョウコは西田の言うことなど、まったく聞く耳持つつもりはなかった。
淡々とマシーンを操作して、セッティングする。

「ちょっと、アンタ、コイツの脚を広げてくれない?」

「え? あ、はい。こうかな…」

体重のほとんどを吊り上げられて、爪先立ちになっている西田の片足は、チナミにも簡単に持ち上げることができた。
嫌がる西田の股間を、容赦なくマシーンの前に晒す。

「あ…! ちょっと待てって…!」

西田の声もむなしく、マシーンのアームは跳ね上げられた。

コーン!

と、高い音が響いて、先程よりも正確に、アームの先端は西田の股間のファールカップを叩き上げた。

「んっ! ……ん? あれ…? 痛くない…な…?」

以外にも、西田は平然とした様子だった。

「ホントに? じゃあ、もう一回やってみようか。それ!」

リョウコは西田の返事を待たずに、再びマシーンのスイッチを入れた。
しかも今度は、先程よりも速いスピードで、マシーンのアームが股間を跳ね上げる。
しかし。

「おっ! おお…いい感じだな。ぜんぜん痛くないぞ、コレ!」

「ホントですか? やったあ! ついに痛くないファールカップが完成したんですね! これは売れますよ、絶対!」

「そ、そうだな…。これなら…」

チナミは手を叩いて喜んだ。
自分が探し求めていた、痛くない、売れるファールカップがようやく見つかったのだから、当然だったろう。
西田もまた、予想以上の結果に嬉しさを隠せないでいる。
これでこそ、文字通り体を張って開発に協力した甲斐があるというものだった。

「だいぶ効果的だったみたいだね、このハイパーゲルは。ちょっと値段が高いのがネックなんだけど、まあ、それはまたどうにかなるでしょう。じゃあ、どのくらいまで平気なのか、ちょっと実験させてもらえる? さっきは秒速20mだったから、一気に30mくらいいってみようか?」

リョウコはそう言いながら、マシーンを操作し始める。
西田の方も、先程の20mでほとんど何も感じなかったくらいだから、30mくらいでも大丈夫だろうと思い、二つ返事で受けた。

「いくよ。それ!」

コーン!

「おおっ! うん…まあ、衝撃は感じるけどな。ぜんぜん痛くないぞ。もっといけるな!」

「ホントに? じゃあ、次は40mで…」

「すごーい! ぜんぜん余裕なんですね」

3人が興奮しながら実験を進めていたとき、いまだにジンジンと治まらない股間の痛みに苦しんでいた山下が、ゆっくりと顔を上げた。

「あ、あの…。成瀬主任…!」

「はあ? あ、山下! アンタのこのハイパーゲル、いい感じだよ。すごいの作ったね、アンタ。ちょっと待ってて。今、セッティングしてるから…」

「やるじゃん、山下君!」

「は、はい…。ありがとうございます…。でも主任、そのゲルはまだ開発中で…少し問題が…」

「ん? ああ、そうだね。コイツは、開発費が高いからね。それはちょっとネックだと思うよ。でも、それさえなんとかすれば…。よし、じゃあ、秒速40mいくよ! これは、ゴルフのドライバーのフルスイングくらいの速度だね。いい?」

「おう! ドンとこい!」

西田は柔道の有段者、スポーツマンとしての自覚とプライドを取り戻したようで、自信に満ちた顔で、ファールカップに守られた股間を差し出した。

「いえ…そうじゃなくて…。主任、それは…!」

「それ!」

ピュン!

と、今までとは明らかに違う風切り音とともに、マシーンのアームは西田の股間に襲いかかった。
半分吊り下げられた西田の巨体が、一瞬、浮いてしまう程の衝撃。
その瞬間、西田は自分の股間で何かがパチンと弾けたような気がした。
脊椎から尾てい骨まで、一気に冷たい風のようなものが吹き抜け、それと入れ替わるようにして、腰のあたりから痺れるような鈍痛が上がってくる。
形容しようのない、絶望的な痛みの波に、西田の意識は一瞬で吹き飛んでしまった。

「どうよ、今度は? さすがに少しは効いたんじゃない? あ、あれ…?」

西田の体から完全に力が抜け、その巨体が天井からぶら下がった肉塊のようになったとき、ようやくリョウコとチナミは異変に気がついた。

「あれ…? 西田さん?」

完全に白目をむき、口元から白い泡を吹き始めている西田を、チナミはまだ冗談のように半笑いで見つめていた。
女性たちは顔を見合わせて、互いに何が起こったのか分からない、という表情をする。

「あ、あの…そのハイパーゲルは、まだ開発中でして…」

あるいはこの結果を予期していた様子の山下がつぶやくと、リョウコとチナミは一斉に振り向いた。

「そのゲルは、空気中で温めると、徐々に堅くなっていってしまうんです。人間の体温くらいでしたら、たぶん数分で…。だから、あまり肌に密着させてしまうと、効果がなくなってしまう恐れがありまして…」

つまり、西田のファールカップの中で、ハイパーゲルは固まってしまっていたらしい。
そうなると、西田の金玉袋は、堅くなったゲルに覆われて、秒速40mの衝撃を直接受けてしまうことになり…

「ああ、そりゃあ…潰れたかもね」

「やっぱり、そうですかねえ」

山下が、分かっていても口に出すことをためらっていたことを、リョウコはズバリと言い、チナミも気の毒そうに顔をしかめた。

「うーん。まあ、固まる前は効果はあったわけだから。空気に触れさせないようにすればいいってことかしらね」

「真空パックにするといいかもしれませんね。肌に密着させると、気持ち悪かったみたいだし」

「ああ、それ、いいね」

あるいは取り返しのつかないことになっているかもしれない西田の股間のファールカップを見つめながら、リョウコとチナミは冷静に話し合っていた。
睾丸が潰れたかもしれないということを、口では言えても、まったく実感も共感もない女性たちの会話を、山下は背筋の寒くなる思いで聞いていた。

「じゃあ、山下。あと、コイツの世話をお願いできるかな? こういうのは、やっぱり男がやった方がいいでしょ。場所が場所だけに」

「西田さん、痛かったんでしょうね。お疲れ様でした。部長には、西田さんは頑張ってましたって報告しときます」

それなりに有意義な結果が得られたという雰囲気で、リョウコとチナミは実験を終わらせようとしていた。
さすがの山下も、それはあんまりだと思ってはいたが、習慣として、うなずいてしまう。

「アタシはこの結果をまとめて帰るから。あと、よろしくね。ああ、アンタもついてきて。意見を聞きたいから」

「はい! 新型ファールカップの完成まで、あと少しですね! 頑張ります!」

リョウコとチナミは、一仕事終えたという顔をして、実験室を出て行った。
まだビクビクと痙攣している西田のぶら下がった体を見つめながら、山下はファールカップの開発を、女性が進めることの矛盾のようなものを、ひしひしと感じていた。




終わり。


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