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男の絶対的な急所、金玉。それを責める女性たちのお話。


県内でも有名な私立の名門校・桜心学園に入学した倉橋アズサは、希望とやる気に満ち溢れていた。何しろ、一年生ながら生徒会に抜擢され、憧れの先輩たちと一緒に学園のために働くことになったのである。
アズサの一番の憧れは、副会長の南サヤだった。
サヤは長い黒髪と美しいスタイルを持った、学園でも屈指の美少女で、成績も常にトップクラスだった。アズサと同じように一年生の時から生徒会に携わり、伝統ある学園生徒会の副会長を務めるまでになっている。
それでいて奥ゆかしく、誰に対しても優しい笑顔を見せるサヤに、アズサは日ごろから尊敬の念を抱いてやまなかった。

「アズサさん」

「は、はい!」

ある日の放課後、アズサはサヤと生徒会室で二人きりになった。
潤いを含んだようなサヤの声で名前を呼ばれることに、アズサはいまだに慣れないでいる。

「この記事、面白いわ。学園の治安を守る、学園警察。こういう噂が生徒たちの間にあるのかしら?」

サヤは、アズサが書いた学園新聞の記事を読んでいるのだった。
その記事は、生徒たちの間で流行っている都市伝説のような噂をまとめたものだった。

「ありがとうございます! えと…学園内で悪さをした人を懲らしめる正義の組織があるというか…そういう噂です。実際に見た人がいるってわけじゃないんですけど、あくまで噂で…」

「面白いわね」

「はい! 実は、何人か懲らしめられたって噂の人に取材したんですけど、誰も何もしゃべってくれなくて…。全員、男子の生徒だったんですけど…」

「そう。その行動力が素晴らしいわね」

憧れのサヤに褒められると、天にも昇る気持ちになった。
サヤは微笑みながら、そんなアズサを見つめている。

「それであなた自身は、そういう正義の組織があることについて、どう思っているの?」

「え? あ、はい。その…私的には、いいことかなっていうか、助かるっていうか…。もちろん、先生とか生徒会の許可を得ずに、そういうことをしているのは、ちょっとどうかな、とは思うんですけど…」

思いもよらぬ質問に、サヤの真意を計りかねた。サヤはその正義の組織を評価しているのか、あるいは拒絶するのか。
サヤに嫌われたくない一心のアズサは、あいまいな返答をした。

「できれば取材して、その人たちの意見を聞いてみたいと思います。あ…ホントにその学園警察があればですけど…」

「そう」

精一杯答えたアズサに、微笑みながらうなずいてみせた。

「確かに先生方や生徒会の手を借りずに、生徒に罰を加えるのは、良くないかもしれないわね。でも世の中には、悪事をしてもきちんとした裁きを受けずにいる人が、たくさんいると思うの。残念だけど、この学園の生徒の中にもいるのかもしれないわね」

サヤはゆっくりとした口調で、しかしいつも以上に凛と張り詰めたような表情で語る。

「学園の風紀を乱す者がいれば、同じ学園内の心ある人が裁きを加える。そういう考えがあっても、私は否定しないわ。伝統あるこの学園の名誉を守るためですもの。そう思わない?」

「は…はい。あの、私もそう思います!」

アズサは、サヤの口から意外な意見が出てきたことに驚いたが、尊敬する彼女の言うことなら、大抵のことは賛同するつもりだった。
サヤはにっこりと笑った。

「ありがとう。学園警察の記事、面白かったわ。また明日ね」

そう言って、生徒会室を出ていった。
残されたアズサは、サヤに褒められた感動の余韻に浸りながら、しばらくの間呆然としていた。




それから数日後。アズサは生徒会の仕事のために学園に残っていて、それが終わったのは、夜もだいぶ更けてからだった。
部活動もとっくに終わり、広大な学園の敷地には、誰もいないように見えた。しかしこの日は満月で、わずかな街灯しかない道でも、明かりに困ることはなかった。
急ぎ足で歩いていると、ふと旧校舎の方に、人の気配がしたような気がした。

「ん…?」

危険かと思ったが、持ち前の好奇心の強さで、アズサは旧校舎の方に足を向けた。
この旧校舎は、学園の創立当初に建てられたもので、歴史的にも価値があるといわれている。現在はここで授業などが行われることはなく、学園の歴史を公開するための展示室や、来客のための応接室があるだけだった。
だから、この時間に旧校舎の付近に人がいるはずもないのである。
アズサは警戒しながら旧校舎に近づいて、窓からその中を覗いた。

「……!」

危うく声を出しそうになった。
校舎の中には、非常灯の薄明かりの下、学園の制服を着た男子が二人いて、何事か話し合っている。
一人の男子の手には、何か紙袋のようなものが握られていて、どうやらその受け渡しをしているような雰囲気だった。

「コレが…? 間違いないんだな?」

男子の一人は、紙袋の中を凝視していた。

「ああ。水泳部のヤツに聞いてみるといい。下着が盗まれたかどうかってな」

紙袋を渡した男子は、水泳部に所属している2年の三浦カツヤ。どうやら彼が、水泳部の女子の下着を盗んだようだった。

「そうか…! 1万でいいか?」

紙袋を受け取ったのは、2年の蒲田ユウジだ。カツヤが盗んできた下着を、彼が買い取るということになっているようだった。

「冗談だろ。こっちはリスクを背負ってんだ。3万は貰わないと」

「3万…! しょうがねえな。偽物だったら、返してもらうからな?」

「毎度どうも。安心しろよ。そいつは本物だって」

ユウジが財布から金を出し、カツヤに渡した。
二人がその場を立ち去ろうとした時、まばゆいライトの光が、彼らの姿を照らした。

「うっ!」

「誰だ!」

ライトは旧校舎の入り口正面にある、大階段の上から懐中電灯か何かで照らされたようだった。二人は一斉に振り向き、外から見ていたアズサも目を向ける。

「三浦カツヤ、蒲田ユウジ。そのまま動くな! お前達に裁きを下す!」

大階段の上には、黒い人影が見えた。

「な、何だお前ら!」

カツヤとユウジは、とっさに身構えた。
窓の外では、アズサが興奮と期待の入り混じった目で、この様子をうかがっている。

「我々は、月下会。学園の風紀を乱す者を取り締まるのが、我々の務め。三浦カツヤ。お前が水泳部の部室から、女子の下着を盗んだことは既に承知している。そしてそれを買い取ろうとした蒲田ユウジもまた、同罪である。この際、尋常に罪を認めろ!」

意図的なものか、どこか芝居がかったような、古風な口調の持ち主だった。
そしてその声は明らかに若い女性のものであり、カツヤ達の目が慣れてくると、はっきりとその姿が女性のそれであると気がついた。

「げっかかい…?」

「何だ、お前ら!」

ふと気がつくと、大階段の上だけでなく、その下にも二人の女性の人影があった。彼女たちの服装は忍者の装束のように真っ黒で、顔全体を布で覆い隠している。唯一見える目の部分には、鋭い眼光が光っていた。
二人はカツヤとユウジを挟み込むように、ゆっくりと近づいてきた。

「な、何だよ! あっち行け!」

ユウジは紙袋を抱えたまま、後ずさりした。
見た目は小柄な女性のようだったが、夜の校舎でこんな不気味な連中に追い詰められては、恐怖を感じてしまうのも無理はない。
一方のカツヤは、あるいはこういった状況も想定していたのかもしれなかった。
チッと舌打ちすると、両手を上げてボクシングのような構えをとった。

「お前らが、学園警察とかいうやつらだな。いつか俺の所にも来るかと思ってたぜ」

実はカツヤは元々ボクシング部に所属しており、将来のエースと呼ばれていたのだが、性格が乱暴で、他校の生徒と暴力事件を起こして退部してしまっていたのだ。その後、彼の性格はますます荒み、学園内の不良グループに属していたのだが、挙句の果てには下着泥棒をするまでになってしまっている。

「正義の味方を返り討ちにするってのも、面白えな」

カツヤは自分の腕っぷしに、相当の自信を持っていた。
怪しげなその格好に少々面食らったが、所詮は女である。しばらくボクシングから遠ざかったとはいえ、実戦としてのケンカには事欠かなかった。
相手は3人いるが、痛めつけて逃げおおせる自信が、彼にはあったのだ。


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「おい、こいつらをぶちのめしたら、ボディガード代ももらうぜ。いいな?」

「え? は、はい。頼む!」

一方のユウジは、怯えきっていた。
カツヤとは対照的に、彼は典型的な運動音痴の肥満体形で、ケンカなどしたこともなかった。
ただ、悪事を隠そうとする卑劣さと、自分の身を守るためなら他人はどうでもいいという身勝手さは、多分に持っていた。

「…抵抗するな。制裁をする前に、痛めつけておとなしくさせなくてはならない」

大階段の上にいる女は、冷静だった。
そしてカツヤ達に迫る女たちも、眉ひとつ動かす様子はなかった。
遠目で見ていたアズサの目にも、拳を握りしめてリズムをとるカツヤの危険さが伝わるほどだったのだが、彼女たちにはそんなことは一切関係ないようだった。

「うるせえ!」

叫びながら、カツヤは女の方に踏み込んで、鋭いジャブを放った。
しかし黒装束の女は素早く動いて、これをなんなくかわした。

「! くそ!」

さらに連続してパンチを放つが、一発も当たることはなかった。高校ボクシングの大会に出場し、街中のケンカで腕を磨いたはずのカツヤにとって、これは初めての経験だった。
しかも黒装束の女は、カツヤが空振りするのに疲れたと見ると、すぐさまその懐に踏み込んで、いきなり目の部分を片手で引っ掻くようにして攻撃した。
ボクシングの実力があるカツヤも、完全な反則技であるこの攻撃の前には無力だった。

「うわっ!」

それは目を潰すようなものではなかったが、視界を奪うには十分で、カツヤは思わず顔面をおさえてしまう。
そのとき、女の脚が、カツヤの股間を鋭く蹴りあげた。

パシンッ!

乾いた音が、旧校舎の中に響いた。
同時にカツヤは「うっ!」と一声呻いて、そのまま顔面から床に倒れ込んでしまった。

「あぐぐ…」

黒装束の女の、見事すぎる一連の動きだった。
カツヤは何が起こったのかも分からずに、股間を両手でおさえて転げ回るハメになった。
外から眺めていたアズサは、意外すぎる展開に口をポカンと開けて、声もでなかったが、彼女たちこそ学園警察に違いないと確信していた。

「ひいっ!」

カツヤがいとも簡単にやられるのを見て、ユウジは悲鳴を上げた。
そして自分のすぐそばにも、もう一人の黒装束の女が迫っていることを思い出した。

「す、すいません! すいませんでした! 俺が悪いんじゃないんです! こいつが話を持ちかけてきて…。これは返しますから、許して下さい!」

必死に頭を下げて、紙袋を女に差し出す。
女は無言で、紙袋を受け取るかのように、手を伸ばした。
ユウジが安心しそうになった次の瞬間、

ボンッ!

と、股間に衝撃が走った。
黒装束の女が、紙袋で隠れた死角から、ユウジの股間を蹴り上げたのである。

「はうっ!」

状況は理解できなくても、股間に走る痛みは、すぐにユウジの脳天を突き抜けた。
そして両膝から力が抜け、持っていた紙袋を放り出し、校舎の床に這いつくばってしまった。
ユウジを蹴りあげた黒装束の女は、何事もなかったかのように足元に落ちた紙袋を拾い上げた。その中に手を入れると、女性ものの下着が数点、出てきた。

「やはり。有罪です」

それを聞いた大階段の上の女は、ひとつうなずいて、階段を降りてきた。

「自分の罪を認めないばかりか、抵抗するなど、言語道断だな」

厳しい口調の中にも、どこか美しい気品を感じさせるような声だった。
外から覗いていたアズサは、その声をどこかで聞いたような気がしていたのだが、目の前の衝撃的な展開に、頭が働かなくなってしまっていた。

「て、てめえ…いったい…」

苦しみながら、カツヤは階段を降りてきた黒装束の女を見た。
その女も頭巾のようなもので顔全体を隠していたのだが、よく見ると、頭の後ろで髪を結んでおり、その長い髪が、彼女が歩くたびに美しく揺れている。

「我々は月下会。この学園の創立者である綺堂院桜子の遺志により、学園の悪を裁く権利を預かっている。私はその35代目の総代だ。学園の名誉を守るため、お前のような者には制裁を加えるのが、我々の役目だ」

カツヤとユウジはもちろん、アズサもまた、そのような組織が学園内に本当に存在していたことに驚きを隠せなかった。しかし彼女たちの言動も服装も、とても嘘や冗談で行っていることとは思えない。
特にアズサは、いったんは自分で学園新聞の記事にしたのだが、それがいざ目の前に現れてみると、嬉しさと驚きが入り混じったような、複雑な思いだった。

「制裁…だと…? 何を…」

言いかけたカツヤだったが、総代と名乗った女が、すぐにそれを遮った。
床にうずくまって苦しんでいるカツヤの頭を、思い切り踏みつけたのである。
カツヤの顔面は冷たい大理石の床に押し付けられ、しゃべることもできなくなってしまう。

「静かにしろ。これは伝統に則った、神聖なる裁きである。以後、私の許可なく声を出すことは許さん」

あまりにも冷たい言葉だった。
しかしそれに従う二人の女も、それが当然というように黙りこくっていた。

「ではこれより、月下会の裁きを始める。…そう、その前に」

すると、総代を名乗る女は突然振り向いて、窓からのぞいていたアズサの方を見た。

「そこにいるあなた。こちらに来なさい」

振り向いた女と目が合ったアズサは驚いて、思わず叫んでしまいそうになった。
しかしアズサを見つめる女の眼は、一切の抵抗を許さぬような鋭さを持っていて、アズサは自分でも驚くほど素直に、旧校舎の中に入っていってしまった。

「あの…すいません…。覗くつもりじゃ…」

とりあえず、頭を下げてしまった。
しかし意外にも、総代や他の二人の女たちは、アズサに対して攻撃的な態度をとる風ではなかった。

「…あなたは、生徒会の学園新聞を書いているな? 私達のことを記事に書いただろう?」

意外なほど優しげな声で、総代を名乗る女は話しかけてきた。

「あ! はい! すいません。書いちゃいました…」

覆面で顔を覆い隠してまで、活動している彼女たちである。噂を元にしているとはいえ、新聞に書かれることは好まないのではないかと思った。
しかし女たちは、そのことについてアズサを責めるわけではないようだった。

「…よく見ておきなさい。我々がどんな信念を持って、何をしているのか。その後でまた記事にするかを、考えればいい」

意外な言葉だった。
アズサはハッとして、覆面の隙間からわずかに覗いている女の目を見た。
しかし、総代を名乗るその女は視線をそらすかのように振り向いて、再び足元のカツヤに目を下ろした。

「立て」

厳しく言い放つと、カツヤは股間を片手でおさえ、もう片方の手で鼻血の出ている顔面をおさえながら、ゆっくりと立ち上がった。
カツヤの股間には、まだダメージが残っており、先ほどのような素早い動きはできそうもない。

「三浦カツヤ。お前は昨日、女子水泳部の部室に忍び込み、部員の下着数点を盗んだ。そしてそれを、そこにいる蒲田ユウジに売却しようとした。間違いないな?」

罪状を読みあげるかのように、女は言った。

「う、うるせえ!」

ようやくダメージから回復しかけていたカツヤは、力を振り絞って右拳を固め、目の前にいる総代を殴ろうとした。
しかし。

「うっ!」

突然、後ろから、先ほどカツヤの股間を蹴りあげた黒装束の女が、その腕をとって、カツヤを羽交い絞めにした。
そして間髪いれず、総代の右膝が、無防備になったカツヤの股間にめり込んだ。

「ぐおっ!」

「月下会の制裁は、お前が心から反省するまで続けられる。覚悟しなさい!」

「くぅぅ…」

総代の膝蹴りは、正確にカツヤの二つの睾丸を射抜き、その持ち主に恐ろしい痛みを味わわせている。
しかし彼女たちはそんなことを気にする様子もなく、淡々とした様子で、彼女たちの言う「制裁」の準備を始めた。
股間の痛みで全身を震わせているカツヤをひきずり、その両手を捻りあげ、大理石でできた大階段の手すりに、ロープで結び付けてしまった。
そして、素早くカツヤのズボンのベルトをほどくと、一気にズボンを脱がせてしまった。ピッタリとフィットしたボクサーブリーフがそこに現れ、その中心には、男の象徴である膨らみが、もっこりと盛り上がっている。
両足を黒装束の女二人がそれぞれ掴み、大きく股を開かされたその正面に、総代が立った。




「や、やめろよ…何すんだよ…」

すでに戦意を失っているカツヤにも、これから何が起こるのか想像できたが、それは決して現実になってほしくなかった。
一方のアズサは、この様子をどきどきしながら眺めている。

「あなた、男にとって最も苦しいことは、何だか分かるか?」

総代は突然、アズサに尋ねた。

「あ、はい…。その…なんでしょう?」

覆面の下でよく分からないが、アズサには彼女が少し微笑んでいるような気がした。

「それはここ、股間を責められることです。正確に言えば、二つの睾丸。我々月下会は、これを金星と呼んでいる」

「き、きんぼし…ですか…?」

あまりにも大胆な総代の物言いに、アズサは面食らった。
カツヤの股間に目を向けると、盛り上がった部分の下の方に、柔らかそうな球体が二つ、ブリーフを押し上げているのが分かる。

「金星は男の象徴であると同時に、男の欲望の根源でもある。悪事を働く男は、金星を痛めつければ、大人しくなる。覚えておきなさい」

「は、はい。わかりました」

アズサは大きくうなずいた。

「では、月下会の名において、制裁を始める!」

「お願いします!」

カツヤの足をおさえる女たちが、頭を下げた。

「や、やめろー!」

カツヤの叫びも空しく、総代の細く美しい脚が、カツヤの股間めがけて振りぬかれた。

パシィン!

と、先程を上回る強烈な炸裂音がした。
無防備にさらされたカツヤの二つの睾丸は、総代の脚と恥骨にはさまれ、驚くほど無残にその形を変形させた。

「はがっ!」

もはや、カツヤの痛みは言葉では言い表せない領域まで達していた。
呼吸が止まり、本人の意思とは無関係に、全身が痙攣を始める。
しかし、

パシィン!

と、寸分たがわぬ正確な蹴りが、再びカツヤの睾丸を襲う。
一瞬、カツヤの意識は遠のきそうになったが、さらに3発目、4発目と、総代の蹴りは止まらなかった。

「ほげっ! ぐえっ!」

叫びにもならない、ため息のような声がカツヤの口から洩れた。
その目は半分白目をむき、口の端からは細かい泡さえ出てきている。
しかし総代は、決して蹴りの威力を緩めることなく、黒装束の女たちも、痙攣するカツヤの足を離そうとはしなかった。
彼女たちは恐ろしいほど冷静に、眉ひとつ動かすことなく、カツヤが苦しむ様子を観察していた。

「すごい…」

アズサはアズサで、総代の蹴りの美しさや、女たちの毅然とした姿にほれぼれする思いだった。
要するに、この場にいる人間の中で、カツヤの苦しみと痛みを理解できたのは、いまだに動くこともできないで床に這いつくばっているユウジだけだったのである。
さっき攻撃された彼の股間の痛みは、すでにだいぶ引いていたのだが、女たちのあまりにも残酷な仕打ちに足がすくんで、動けなくなってしまっているのだった。

「よし。放してやりなさい」

十数発目の蹴りを打ち込んだ後、総代はようやく蹴るのをやめた。
女たちが足を放すと、カツヤは力なくうなだれてしまい、両手に結ばれたロープで全体重を支えるような体勢になってしまった。

「三浦カツヤ。お前は反省しているか?」

総代は息一つ荒げることなく、冷静な口調で尋ねた。

「…は…はひぃ…」

しかしカツヤの方は、すでに意識が朦朧として、声が言葉にならない状態だった。

「反省しているかと聞いている。反省していないのなら、さらに続けるが?」

すっと、黒装束の女たちがカツヤの足に再び手をかけた。
これに反応したカツヤは、涙と涎でぐちゃぐちゃになった顔を、必死で縦に振った。

「反省してる! してますから! 許して下さい。お願いします!」

総代はこれを聞いてうなずき、女たちは手を離した。

「見ましたか? 男は金星を痛めつけられると、途端に従順になる。単純なものでしょう」

総代は振り向いて、アズサに話しかけた。
アズサにとっても、これだけ激しく睾丸を責められる男を見たのは初めての経験だったので、興味深いものがあった。

「この学校は当初、女子校として作られました。創立者である綺堂院桜子先生は生前、男女共学になることに固く反対しておられた」

この話は、アズサも聞いたことがあった。
綺堂院桜子は、当時としては珍しい女権論者で、女性の権利向上のために高等教育の場を作り、それがこの学園の基礎になっているのだという。学園が男女共学になったのは、彼女の死後で、今から10年ほど前のことだった。

「清純なる女子の教育の場に、汚らわしい男などが入りこむべきではないと、桜子先生は考えておられた。男は女と一緒にいれば、必ず問題を起こすと。それはまったくもって正しかった!」

語りながら、総代はカツヤの股間に手を伸ばし、その睾丸を鷲掴みにした。
ぐえっ、と、カツヤの呼吸が止まる。

「男は性欲の塊。性欲を処理することがすべてで、その他のことはついでのようなものだ。その原因がこれだ!」

総代はカツヤの睾丸を捻りあげた。
カツヤは背筋を逸らして、悲鳴を上げる。

「この金星が、男のすべて。男の象徴であり、性欲の根源」

「か…あ…!」

カツヤの睾丸は、今にもちぎれそうなほどねじあげられていた。

「こんなものをぶら下げていて、不便だろう? これがあるから、お前達は性欲をおさえきれないんだろう? 私達女性は、男の性欲の多さとしつこさに、いつもうんざりしているんだ。いっそのこと、潰してみるか? そうすれば、女性に迷惑をかける男が一人減ることになる」

総代は囁くように、しかし冷酷な声で、カツヤに言い放った。
その雰囲気はとても冗談とは思えず、カツヤは去勢の恐怖に身をよじって震えた。

「は…や、やめて…」

「ふん!」

泣きながら首を横に振るカツヤの顔を見て、総代は手を離してやった。

「覚えておけ、三浦カツヤ。我々月下会は、いつも学園内に目を光らせている。今度お前が悪事を働けば、そのときは…」

今度こそ睾丸を潰すぞ、と言わんばかりの総代に、カツヤは必死で許しを乞うた。

「はい…。すいませんでした…。許して下さい…」

あまりにも圧倒的なその仕打ちに、カツヤは心底恐怖した。
逆に、屈強な男に見えたカツヤをまるで骨抜きにしてしまった総代たちの姿を、アズサはまるでヒーローを見る少年のような目で見ているのだった。




「さて。蒲田ユウジ。次はお前の番だ」

総代が振り向くと、ユウジは大きな体をビクッと震わせた。
ユウジは先ほどからずっと、うずくまったままでいる。逃げるチャンスはいくらでもありそうだったのだが、足がすくんで動けなかったのだ。

「ひ…。ゆ、許して…」

ユウジは奥歯を振るわせながら言った。

「三浦カツヤに裁きを加えている間、お前が逃げなかったことは評価しよう。反省しているものと受け止める。しかし、お前のような者がいるから、下着を盗もうとする者がいる。お前はそれを理解しなければならない」

総代の冷静な口調で、理路整然と説かれると、ユウジも黙ってうなずくことしかできなかった。

「よって、これからお前にも月下会の名において、制裁を加える。立て!」

総代の命令を受けても、ユウジはうずくまったまま、立ち上がることはできなかった。
それを予期していたかのように、素早く黒装束の女たちが回り込み、体を引き起こした。カツヤと同じように、ズボンをずりおろされると、トランクス一枚の状態になって、両脇を抱えられる様にして立たされた。

「これからお前の金星を、蹴りあげる。気絶しないように、意識が飛ばないように、手加減して蹴る。お前は痛みにのたうち回るだろうが、しばらくすれば、起きあがれるようになるだろう。その時になったら、また蹴りあげる。それを4回繰り返す。覚悟しなさい」

丁寧な説明だったが、それはユウジにとって恐怖以外の何者でもなかった。
すでに彼の意識しないままに、その両目から涙がこぼれ始めている。

「許ひて…お願いします…」

ユウジが泣きじゃくって懇願しても、総代以下、女たちの反応は冷めたものだった。

「それはできない。お前も男なら、覚悟を決めろ。まあ、男だからやめてほしいのかもしれないが…」

総代のつぶやきに、女たちは小さく笑った。
その光景を後ろから見ていたアズサもまた、ユウジのあまりの必死さに、吹き出してしまっている。彼女たちにとっては、男たちがこれほど恐れる金玉への攻撃というものが、おかしくてしょうがないらしかった。
他のどこを攻撃しようとしても、これほど男が恐怖することはないだろう。しかも、痛みに耐えるとか我慢するとか、そんなこともできないらしい。
あの二つの小さなピンポン玉のようなものを叩くだけで、何がそんなに痛いのか。また、そんなものを男たちはなぜ無防備にぶら下げているのか。彼女たちには一生理解できることではなかった。

「では、月下会の名において、制裁を始める!」

「お願いします!」

「せいっ!」

総代の長い脚が、再び男の股間めがけて跳ね上げられた。

「むぐぅっ!!」

ユウジは豚のような悲鳴を上げて、息をつまらせた。
総代が足を引くと同時に、両脇を抱えていた女たちも、その手を放した。
ユウジはたまらず両手で股間をおさえて、床の上にうずくまってしまった。

「ぐぐぐぐ…!」

歯を食いしばって痛みに耐えようとするが、まったく意味がない。
他の場所を攻撃されるのとは、訳が違うのだ。金的を攻撃された男は、絶望的な痛みに耐えながら、ただ時間が過ぎていくのを待つしかないのである。

「少し手加減しすぎた。次はあなた。その次はあなたに任せましょう」

総代は、黒装束の女たちに指示を出した。
そしてアズサの方を振り向くと、

「あなたも、蹴ってみる?」

意外な言葉だった。
アズサも驚いたが、総代に従っていた黒装束の女たち二人も、驚いた様子だった。
しかしアズサは、ほとんど反射的にうなずいてしまった。

「は、はい。お願いします!」

総代はうなずいて、覆面の下で微笑したようだった。
一方のユウジは、彼女たちのそんな会話に耳を貸す余裕もなく、細く長い深呼吸を繰り返して、ようやく体を動かそうとしているところだった。

「では、次」

冷酷すぎる言葉だった。

「ひ…ひぃ…!! もうやめて…」

抱き起こされたユウジは、涙を流しながら叫んだ。
しかしまたも、彼の体は女性たちによって引きずり起こされ、無理矢理に足を開かされた。
抵抗しようにも、もはや彼の体にその力は残っていない。

「ダメだ。制裁は最後まで続ける。それが月下会の掟だ」

「いきます!」

無情なほど正確に、黒装束の女の膝蹴りが、ユウジの股間に炸裂した。

「あごっ!!」

ユウジは自分の睾丸が、彼女の膝と自分の恥骨に挟まれて押し潰されるのを、はっきりと感じた。それは時間にしてみればほんの一瞬のことだったが、ユウジにとっては、これから訪れる地獄のような時間の幕開けのようなもので、できればこの瞬間に気絶したいとさえ思った。

「はあっ! あっ! あっ!」

彼の意志とは無関係に、ユウジの体は激しく痙攣し、文字通り床の上でのたうち回った。
いったい、彼の体のどこに、こんなに素早く動く力が残されていたんだろうと思うほど、激しい動きだった。

「いい蹴りだ。素晴らしい見極めね」

「はい。ありがとうございます!」

総代にほめられて、黒装束の女は、うれしそうに頭を下げた。
どうやら、気絶するギリギリのところを見極めて、彼女はユウジの股間を攻撃したらしかった。
男の急所の痛みは分からないにしても、彼女たちは経験で、そんな技術を見につけているのかと思うと、アズサは純粋に彼女たちに尊敬の念を抱いてしまった。

「では、次」

「はい!」

再びユウジの体が引きずり起こされた。

「…や、やめて…。もう…。お金…払う…から…」

不良にカツアゲされた記憶でもよみがえったのか、ユウジは朦朧とした意識の中でつぶやいた。
総代を含めた黒装束の女たちは、顔を見合わせて、呆れたような目をした。

「分かった。じゃあ、もう、蹴らないでやろう」

脇を抱えた総長が言うと、ユウジの顔がパッと明るくなった。

「ホ、ホントに…?」

次の瞬間、ユウジの目の前で黒装束の女がしゃがみこみ、股間に向かって、強烈なパンチを突き上げた。

「ぎゃはっ!!」

女の拳は、ユウジの睾丸を正確に貫いた。金玉袋の裏側、斜め45度から突き上げて、縮み上がったペニスに向かって拳が通り抜けたとき、ユウジの全身の神経は、痛みというシグナルにすべて支配された。

「あぁっ!! くくっ…!!」

これで都合4回目、ユウジはのたうち回ることになる。
大理石の床に頭を打ちつけようが、足をばたつかせようが、その痛みはまったく治まる気配がなかった。
金玉を潰さずに、最も苦痛を与える方法を、女たちは熟知しているようだった。




「蒲田ユウジ。我々は、金銭のためにこんなことをしているわけではない。これは、お前が反省するかどうかという問題だ。お前は反省しているのか?」

「……っつ!!」

息をつまらせながら、ユウジは必死にうなずいた。
もはや、声も出すことができない様子だった。

「よろしい。それでは、あなた。こっちへ来なさい」

総代はうなずくと、アズサを招きよせた。
それに合わせるように、黒装束の女たちは、ユウジの体を抱き起した。
しかし、もはや自分の力では指一本動かせないほどに消耗したユウジの肥満体は重く、彼女たちの力を合わせても、上半身を起こすだけで精いっぱいだった。

「次は、あなたの番だ。男の金星を蹴る。できるかな?」

「あ…は、はい! でも…本当にいいんですか?」

アズサが少しためらいがちに尋ねると、総代は何か考えるかのように小首をかしげて、長い髪が美しく揺れた。
アズサはその姿に、なぜか既視感を覚えたが、それも一瞬のことだった。

「蒲田ユウジ。この男の部屋で見つかったものを、あなたは知ってる?」

「え? い、いいえ…」

「女物の下着が二十数点、学園指定のスクール水着が5点、学園の女子の制服が2点、さらに、学園の小等部のものと思われる女子の体操服が4点。いずれも盗まれたものだろう。さらに、この男がそれらを使用した形跡も確認された」

「え…! それって…」

「そう。この男は、常習犯だ。この男がお金で買い取っているから、下着の盗難が後を絶たないのだ。自分では手を汚していないつもりかもしれないが、実際はこの男が、最大の悪と言えるかもしれない」

アズサは絶句した。自分が思っている以上の変態行為が、目の前の男によって行われていたと知ると、気味が悪いと同時に、怒りさえもこみ上げてきた。

「そして、その諸悪の根源が、この男の金星だ。この男の変態的な欲望は、すべて金星から生み出され、たくさんの女子生徒が被害にあっているのだ。だとすると、我々は女性を代表して何をしなければならないか。わかるな?」

「はい! 蹴ります! 蹴り潰してやります!」

迷いのない、まっすぐな返事だった。
それを聞いた総代は、覆面から覗く眼だけで笑い、うなずいた。

「やってみなさい。そう。少し、狙いやすいようにしてあげよう」

そう言うと、総代はしゃがみ込んで、ためらうことなくユウジのトランクスを脱がしてしまった。
アズサは一瞬、驚いたが、トランクスの下から、腫れ上がったユウジの二つの睾丸が顔を出すと、怒りと憎しみに満ちた目で、それを見つめた。

「ここに、二つの金星がある。これを狙いなさい。最初はつま先で、思い切り。その方が、確実でしょう」

「はい!」

大きく開かれたユウジの足の間で、アズサは身構えた。
ユウジの意識は朦朧としていたが、目の前の少女が、すさまじい殺気のこもった眼で自分の股間を見つめていることは、本能的に感じた。

「ひ、ひぃぃ…!」

思わず悲鳴を上げたが、もはやアズサはためらわなかった。

「この、変態っ!!」

ガスッ! と、アズサの右足のつま先が、腫れ上がったユウジの睾丸を二つとも押しつぶした。

「ぎゃうっ!!」

ユウジは一声上げると、そのまま白目をむいてしまった。
女たちが手を離した瞬間、その巨体はどさりと崩れ落ち、口からは泡を吹きだしていた。
ユウジの睾丸は、潰れたわけではなさそうだったが、赤黒く腫れたその様子は、良くて内出血。おそらくは睾丸打撲などの状態であると思われた。

「ハア…ハア…」

アズサは、自分のやったことがまだ信じられないようで、荒い息をしながら、呆然と宙を見つめていた。

「よくやった」

総代に肩を叩かれて、我に返った。

「あ、あの…私…。大丈夫ですか?」

どういう意味で言ったのか、アズサ自身にも分からなかった。

「今夜の一件は、すべて月下会の制裁によるものです。あなたは何も心配しなくていい。でも、学園新聞に載せるときは、気をつけなさい。学園警察に、自分の名前を加えてしまわないように」

総代は小さく笑ったようだった。
そのままくるりと背を向けて、黒装束の女たちは、立ち去ろうとする。

「あ、あの…! 私…私も…」

アズサが言いかけた時、総代が少しだけ振り向いた。

「我々は、あなたのような人材を待っている。時が来れば、こちらから迎えに行くでしょう。またその時にね。アズサさん」

アズサはその声に、ハッと気がついた。
今までは、わざと声色を変えていたのか。自分の名前を呼んだその声は、アズサがよく知るあの美しい声だった。

「あ、副会長…?」

総代はその問いかけには答えずに、旧校舎の暗がりの中へ、姿を消してしまった。
男の愚かさと脆さ、女の強さと美しさ。そして、憧れの副会長の新たな一面を発見した夜だった。




翌日の放課後。
刷り上がったばかりの学園新聞を持って、アズサが生徒会室に飛び込んできた。

「先輩! 副会長! 見てください。『月夜の裁き! 学園警察が下着盗難事件を解決!』 これ、私が書きました!」

ちょうど生徒会室にいた副会長の南サヤと、書記を務める2年の男子が、それを読んだ。

「なになに…。『先日、女子水泳部で起きた盗難事件の犯人、三浦カツヤと蒲田ユウジは、盗んだ下着とともに、気絶した状態で発見された。二人は何者かに、襲撃され、股間の急所を痛めつけられたようで、学園は二人の処分を検討している』…へー」

アズサが書いた記事を、書記の男子が読み上げるのを、サヤはほほ笑みながら聞いていた。

「『本誌記者は、この事件が先日来、学園の噂となっている学園警察のものであることを確信し、さらに真相を追求すべく、鋭意取材中である』と。ふーん。学園警察ねえ。ホントかよ、これ?」

「ホントですよ。そうですよね、副会長?」

アズサの問いかけに、サヤは微笑した。

「そうね。面白いわね」

「しかし、学園警察かなんか知らないけど、下着盗んだくらいで、気絶するほど金玉蹴らなくてもいいんじゃないかなあ。男には、どうしてもムラムラしちゃうときがあるんだよなあ。下着ぐらい、ほっとけば…」

書記の男子がそんなことを言うと、アズサがキッと顔を向けた。

「先輩! そんなこと言ってると、先輩のところにも来ますよ。学園警察が!」

すると、その男子はビクッと体を震わせた。

「い、いや…。俺が言ってるのは、そういう意味じゃないよ。違うって…」

本人も気づかないうちに内股になって、股間に手を当てているその姿に、アズサは吹き出してしまった。

「アハハ! 先輩、なんですか、その格好! アハハ!」

「フフフ…」

サヤもまた、アズサと共に笑い出した。
女の子二人は、男子の情けない姿を見て、しばらくは笑い続けていた。


終わり。




「はーあ…」

休み時間、ミサキはため息をついた。
ミサキは小学6年生で、少し大人しいが、明るい女の子だった。
ただ、ミサキには小学3年生になる双子の弟二人がいて、いつもその面倒を見るのに奔走していることは、クラスの友達にもよく話していた。

「どしたの、ミサキ? また弟の事?」

ミサキの友達の一人、エリが話しかけてきた。

「うん…。ウチの弟たちって、なんであんなにヤンチャなんだろう。もう、やりたい放題なんだけど」

「大変だねー。たまには、ビシッと怒ってやれば?」

「うん。言ってるんだけど。最近は、アイツらも大きくなってきたからさ。けっこう力が強いの。ほら、昨日なんか、思いっきり叩かれちゃった」

ミサキは左腕の内側を、エリに見せた。
そこには、大きな青いあざができている。

「うわあ。痛そう。叩いてくるの? 危ないね」

「うん。学校でもけっこう暴れてるらしくて。このままだと、ちょっと心配かも…。なんか、いい方法ないかなあ」

「うーん…」

ミサキとエリが悩んでいると、教室の後ろの方から、賑やかな声が聞こえてきた。
どうやら、男子たちが寝転がって、プロレスごっこをしているらしい。男子たちは掴み合い、組み伏せあったりして、笑いながら楽しんでいる。
そこに一人だけ、小柄な女の子が混じっていた。クラスの女子でも一番活発な、サクラだ。どうやら男子に混じって、プロレスごっこをしているらしい。
ミサキは、ぼんやりとその様子を眺めていた。

「うっ! ちょっ、タイムタイム!」

不意に、サクラの上に覆いかぶさって、勝負をつけようかとしていた男子が、飛び起きて離れた。

「お前、タマ掴むなよ。反則だぞ」

男子はしゃがみこんで、股間を撫でている。
どうやら、サクラが下になった時、男子の急所を握ったらしい。

「へへーっ。女子は3秒ルールでしょ。反則じゃないよー」

サクラは悪戯っぽく笑う。

「マジかよ。もう、手加減しねえからな」

男子は再び、サクラに掴みかかった。
サクラも応戦するが、やはり力の差は大きく、今度は後ろから腕で首を絞めあげられてしまう。

「どうだ! ギブアップか!」

もちろん、本気で首を絞めているわけではないが、それなりに苦しい。
サクラは首にかかった腕を外そうとするが、無理と分かると、すかさず背後にいる男子の股間に手を伸ばした。

「うわっ!」

サクラの手は、男子の半ズボンの隙間から入り、ブリーフの上から睾丸を握りしめた。

「や、やめろよ!」

男子はすぐにサクラの首から腕を離すが、サクラの手は睾丸を握って離さない。

「いーち、にー…」

サクラは笑いながら、ゆっくりと数を数え始めた。3秒ルールとは、3秒間は急所攻撃をしていい、ということらしい。

「は、放せって…」

サクラのかなりゆっくりとしたカウントの間中、男子は顔を歪めて、苦しそうにしている。しかし、サクラの手を振りほどくことはできないようだ。

「さーん! はい」

サクラはようやく、男子の股間から手を放した。
男子はほっと息をつくが、睾丸からこみあげる痛みで、立つことができなかった。

「あれ? もうやらないの? ギブアップ?」

「ク、クソ…。もう、俺の負けでいいよ。お前、キンタマ攻撃しすぎだぞ」

男子は悔しそうに、サクラを見た。

「ゴメン、ゴメン。近くにあったから、つい、握っちゃった。痛かった?」

「痛えよ! あー、もう、お前とはやらない」

男子は痛そうに、股間をさする。

「ウソー。そんなこと言わないでさあ。またやろうよ」

サクラは笑いながら謝っていたが、男子はへそを曲げてしまっていた。
ミサキはその様子を見て、ルールはどうあれ、サクラが男の子をやっつけてしまったことに、ひどく感心した。
そしてそれが、自分の弟たちにも有効ではないかと思い、サクラに男子を大人しくさせる術を聞こうと思ったのだった。




「サクラちゃん」

放課後、帰ろうとするサクラに、声をかけた。

「なあに?」

「あの…ちょっと相談なんだけど。サクラちゃん、今日の休み時間に、男子達と遊んでたじゃない? そのときに、サクラちゃんが…」

「ああ、キンタマ攻撃で勝ったやつ?」

サクラが天真爛漫な表情でそう言ったため、大人しいミサキはちょっと面食らってしまった。

「そう。それなんだけど。実はね、ウチの弟たちが乱暴すぎて困ってるんだけど、弟たちにも使えるかしら?」

「もちろん。男子には、みんなキンタマがついてるんだよ。ミサキちゃん、知らないの?」

サクラはニコニコしている。
ミサキは弟がいるとはいえ、性的なことに関しては、まったくウブだった。

「あ、う、うん。そうだよね。知ってたけど…。ウチの弟たち、すっごい暴れん坊だから…」

「関係ないよー。キンタマをやれば、みんな大人しくなるよ。男子だもん」

「そ、そっか。でも、その…キンタマって、どうやって攻撃すればいいのかな?」

ミサキはだいぶ小さな声で、恐る恐る聞いてみた。

「うーん。何でもいいんだけどなー。ミサキちゃん、その弟くんたち、今日は家にいるの?」

「え? あ、うん。たぶん。3年生だから、もう帰ってるかも」

「じゃあ、私がちょっと見せてあげるよ。男子を大人しくさせる方法をさ」

サクラは満面の笑みで言った。
ミサキは驚いたが、サクラが弟たちを大人しくさせてくれるのであれば、こんなに心強いことはないと思った。

「ホント? じゃあ、お願いしようかな」

「まかせて!」

二人は連れだって、ミサキの家に向かった。




家に着くと、やはり二人の弟たちはすでに帰ってきていた。
乱雑に投げ出された玄関の靴から、それがわかる。

「ウチのお母さん、働いてて、いつも遅くなるんだ。サクラちゃん、あがって」

ミサキは当然のように、脱ぎ散らかされた靴を揃え直して、家に上がった。

「うん。お邪魔しまーす」

リビングのドアを開けると、そこにはさらに弟たちのヤンチャぶりを示す光景があった。
床に放り投げられた傷だらけのランドセル、ソファーに投げ出されたTシャツと靴下、開けっぱなしの冷蔵庫、ジュースのペットボトルはテーブルに置いたままで、その近くにはコップが倒れて、ジュースがこぼれている。スナック菓子の袋がカーペットの上に転がっていて、中身が散乱していた。

「ああ、もう。また、こんなにして」

ミサキはため息をついてそう言ったが、さして驚いた風でもなく、すぐに片づけを始めた。

「うわあ。こりゃ、ひどいね。いつも、こんなんなの?」

サクラは手伝おうかと思ったが、どう手を付けていいかわからなかった。

「うん、だいたいいつも、こうなの。もっとひどいときもあるよ」

「へー。これはちょっと、大変だね。で、その弟くんたちは、どこいったの?」

「うーん。もうおやつは食べたみたいだから、上の部屋かなあ」

そう言っていると、2階の部屋から、ドタバタと跳ねまわる音と、男の子たちの奇声が聞こえてきた。

「ミサキちゃん、もう片付けなくていいよ。弟くんたちにやってもらおう」

サクラは笑いながら、そう言う。

「え? でも、あの子たちがやるわけないよ。いつも、私が…」

「いいから、いいから。2階に行こ」

戸惑うミサキの手を引っ張って、サクラは階段に向かった。
2階の弟たちの部屋のドアを開けると、もはや収拾がつかないほど散らかった部屋の中で、上半身裸の半ズボンの双子の男の子たちが、プラスチックのバットを振り回して、対決ごっこをしていた。

「コラ! 二人とも! 何してるの!」

ミサキが怒声を上げると、二人は一瞬、止まったが、すぐにまた暴れ始めた。

「姉ちゃん、おかえりー」

「おかえりー。えい! おりゃ!」

ミサキの双子の弟、マサキとトモキは、まったく悪びれた様子もなく、遊んでいる。

「コラ! ちょっと、やめなさい! 一階を片づけないと、遊んじゃダメよ!」

ミサキが二人に割って入ると、ようやく二人は動きを止めた。

「えー。あれはトモキがやったんだよ。俺、知らなーい」

「ウソつけよ。マサキの方が散らかしたんだよ。俺も知―らない」

二人は口々にとぼけてみせる。

「いいから! 二人で一緒にキレイにするの! ほら、早く!」

ミサキは双子の腕を引っ張って、一階に連れて行こうとした。
しかし双子はそれぞれ反抗し、暴れ出す。

「イヤだ! トモキがやれよ!」

「俺だってイヤだ! 放せよ!」

やがて二人の矛先は姉のミサキに向かい、持っていたバットで、ミサキを叩き始めた。

「ちょっと、痛い。やめてよ。痛いって!」

ミサキはたまらず、二人の腕を放してしまう。

「いえーい。姉ちゃん、やっつけた!」

「俺がやっつけたんだぞ!」

はしゃぐ双子。
サクラはそんな姉弟の様子を、部屋の入り口で黙って見ていたが、ミサキが二人に叩かれてしまったのをきっかけに、動きだした。




「こんにちは。マサキくんと、トモキくん?」

双子はいきなり名前を呼ばれて、ちょっと驚いた。

「こんにちは」

「こんにちは。姉ちゃんの友達?」

「そうよ。サクラちゃんっていうの。サクラちゃん、ゴメンね、騒がしくて」

「うん。いいよ、いいよ。ミサキちゃん、後は私にまかせて」

サクラはミサキを下がらせて、双子に歩み寄った。
まずはトモキの前に立ち、ニコニコしながら、じっと顔を見る。
トモキは少々戸惑ってしまった。

「な、なんだよ! そうだ! 今日は姉ちゃんとアンタで二人だから、2対2なんだな。俺とマサキのチームと、対決するか!」

トモキは不敵そうな顔でそう言った。

「そうだ! やろうよ、姉ちゃん!」

二人はバットを振り回して、威嚇する。
サクラはそんな2人を見ても、笑顔のままだった。

「いいよお。じゃあ、始まりね」

言うが早いか、サクラはトモキの股間に手を伸ばし、慣れた手つきで、半ズボンの隙間からスッと手を入れた。
そしてその手が、トモキのブリーフの中心にある控え目な膨らみに当たると、その下の部分をギュッと握りしめた。

「うわぁ!」

思わず腰を引くが、サクラの手は、トモキの膨らみを握って放さない。
やがて、トモキの下腹から、睾丸の圧迫による重苦しい痛みがこみ上げてきた。

「うえぇ…」

思わず、トモキは持っていたバットを捨てて、股間を掴むサクラの手首を握った。
しかしその手には力が入らず、内股になって体を支えるので精いっぱいだった。

「おい! 放せよ!」

マサキは、いきなりのサクラの攻撃に少し度肝を抜かれていたが、やがて気を取り直し、サクラの背中をバットで叩いた。

「痛いなあ、もう」

サクラはそう言いながらも、動じることなく振り向いて、踏ん張っていたマサキのがら空きの股間に、蹴りを叩き込んだ。

バシッ!

と、いい音がして、マサキの睾丸はサクラの足のつま先に叩きあげられた。

「うわっ!」

マサキはバットを落として、股間を両手でかばいながら、前のめりに倒れてしまう。

「うぅ…」

そのまま、マサキは動かなくなった。
その間も、トモキの睾丸はサクラの手に握られたままである。
トモキは膝をブルブルと震わせながら、苦しそうに呻いて、天井を仰いだ。

「えい!」

サクラは最後にトモキの睾丸をグリッとねじあげて、解放した。
もちろん、トモキの苦しみはさらに増すことになる。

「ああっ!」

トモキもまた、部屋の床に横倒しに倒れて、股間をおさえて動かなくなった。
ミサキはそんな二人の様子を、呆気にとられたように見つめていた。

「はい。こんなもんかな」

サクラは余裕の表情で、倒れている双子を見下ろした。

「すごい…。すごいね、サクラちゃん」

「すごくないよ。男の子はキンタマをやられると、みんなこうなるんだから」

「そうなの? でも、クラスの男子より痛がってるみたいじゃない?」

「ああ、アレは遊びだからね。ぜんぜん力入れてないもん。これはお仕置きだからさ。ちょっと力入れたの」

「ちょっと…なんだ…」

呻きながら床に転がっている弟たちを見ると、とてもちょっと力をいれたくらいとは思えなかった。

「ねえ、キミたち。お姉ちゃんの言うこときかないと、ダメだよ。わかった?」

表情こそにこやかだが、厳しい口調で言った。
双子たちは苦しみながらも、まだ反抗の意志はくじけていないようだった。

「うるさい! 卑怯だぞ。キンタマ蹴ったら、ダメなんだぞ!」

「そ、そうだぞ! 反則だぞ!」

サクラは双子の負け惜しみを聞いても、まったく動じる様子はなく、笑っていた。

「卑怯でいいよお。キミたちも、好きな攻撃していいから。反則なしでいいよ」

双子はそう言われて、悔しそうに歯を食いしばり、よろよろと立ちあがった。

「言ったな…!」

「じゃ、じゃあ、2対1でもいいんだな!」

「もちろん。ていうか、2対1くらいじゃないと、ダメだよ。ほら、早く」

サクラは、先ほどマサキが落としたプラスチックのバットを拾い上げて、二人を挑発した。
マサキとトモキは顔を見合わせて、双子ならではのコンビネーションでサクラを攻めようとした。
まず、トモキがバットを持って、離れた所からサクラをけん制しようとする。
しかし、そこはリーチの差が出てしまい、年上のサクラの方が、逆にトモキをバットの先でけん制した。

「ほら。ここ。また、痛いよ。ほら」

「うわっ。やめろよ」

しかもサクラは、トモキの股間にバットの先を当てようとする。
プラスチックのバットなので、それほどのダメージは期待できないが、先ほどの睾丸の痛みがまだ残っているトモキの腰を引かせるには、十分すぎる効果があった。

「くそー!」

サクラがトモキとやり合っている隙に、マサキが横から突っ込んできた。
今度は股間を蹴られないように、片手でしっかりと股間をガードしている。
サクラはマサキの接近に気がついたが、あえて抵抗せずにタックルを受けた。
しかし、マサキのタックルも、股間攻撃を恐れるあまり、腰の引けたものになってしまった。
サクラの腰にしがみつくことはできたが、倒すまでには至らない。

「トモキ! 俺がおさえてるから! 今のうちにやっちゃえ!」

テレビの特撮ヒーロー番組で覚えたようなセリフを、マサキは叫んだ。

「もー。しょうがないなあ」

サクラは苦笑いしながらバットを捨てて、自分の腰にしがみついているマサキの両脇を抱きかかえた。
マサキは男子とはいえ、まだ3年生だから、6年生のサクラよりもだいぶ小柄である。特にサクラは活発で、毎日クラスの男子とプロレスごっこをするような子だから、力もそれなりにあったらしい。
マサキは両脇を抱えられて、その体を持ち上げられてしまった。

「うわ!」

サクラは宙に浮いたマサキの足の間に、自分の右ひざをスッと入れた。
そして、怯えた顔で見つめるマサキに、にっこりとほほ笑みを返した。

「えい!」

ドスン! 

と、マサキの股間はサクラの膝に叩きつけられた。
プロレスでいうところの、マンハッタン・ドロップである。
これはプロレスごっこでのサクラの必殺技で、普段はめったにやらないが、サクラの胸を触ったり、いやらしいことをした男子に使っているのである。
それでも普段は膝の角度を変えて、金的をかするくらいにして男子に恐怖を与えるのが目的だったのだが、今回、マサキの睾丸は、サクラの膝と自分の恥骨にキレイに押しつぶされてしまった。

「うえっ!」

マサキは、サクラの膝の上から滑り落ちると、もはや声を上げることもできず、ブルブルと震えて、丸まったまま動かなくなった。
その顔は真っ青になり、汗が噴き出している。

「あーあ。入っちゃったねー。ゴメン、ゴメン。痛いんだよねー」

サクラはマサキの顔を覗き込んで、無邪気に笑った。
トモキはその様子を見て、すでに戦意を失っていた。

「まあ、そのうちよくなるよ。男の子だから、ガマンガマン。さて、次はキミかな? トモキくん?」

名前を呼ばれて、トモキはビクリと反応し、持っていたバットを放り出してしまった。

「も、もういいよ。俺、降参する!」

精一杯、平静を装って言った。
サクラは相変わらずにこにことしていたが、トモキにはそれが逆に恐怖だった。

「そっかあ。じゃあ、お姉ちゃんのいうこと聞いて、片づけをするんだね?」

「え? う、うん。するよ。する」

「良かった。でも、その前にさ。ねえ、ミサキちゃん」

サクラは突然、振り返った。
ミサキは、サクラの鮮やかな手並みに感動すら覚え、呆然と立ち尽くしているときだった。

「え! う、うん。なに?」

「今の、見てたでしょ? 男子はキンタマをやられると、こんなに簡単に言うこと聞くようになるんだよ」

「う、うん…。すごいね。これほどとは、思わなかった…」

「だから、ミサキちゃんも、これからはどんどんこの子たちのキンタマを狙っていかなきゃだよ。私がやり方を教えてあげる」

え? と、ミサキとトモキは同時に思った。
活発なサクラは簡単そうにしてみせたものの、果たして自分にもできるのか、ミサキは疑問だった。
一方トモキは、どうやらマズイ方向に話が進んで行きそうで、今にもこの部屋から逃げ出したくなった。

「わ、私にもできるかな?」

「できる、できる。キンタマ攻撃なんて、簡単だよ。やってみよ」

サクラはおもむろに、トモキの肩を掴んだ。
不安が現実になり、トモキはサクラから逃れようとした。
しかしサクラは、素早くトモキの股間に手を伸ばし、今度はごく軽く、その膨らみを握った。

「うっ!」

トモキは本能的に、体の動きを止めてしまう。

「見て、ミサキちゃん。男子はね、ちょっとでもキンタマを握られると、動けなくなるの。面白いでしょ」

サクラは笑いながら言った。

「そうなんだ…」

「ミサキちゃんもやってみる? ねえ、トモキ君、ちょっとお姉ちゃんの練習に付き合ってよ。イヤなら、さっきよりももっと痛くしちゃうよ」

耳元で囁くと、トモキは恐怖を感じて、必死でうなずいた。

「いい子、いい子。はい、ミサキちゃん」

と、サクラはさし出すようにしてトモキの股間から手を放し、ミサキに向けた。
ミサキは恐る恐る、トモキの股間に手を伸ばす。

「え…と…。ここかな?」

ミサキはだいたいの場所を掴んでみたが、トモキはあっと小さく声をあげただけで、痛がる様子はなかった。

「あー、そこはたぶん、チンチンのほうだよ。あのねー、チンチンは痛くないの。その下にあるタマが痛いんだよ」

サクラが解説をする。

「そうなの? 確かにこれは、チンチンかな…」

「ズボンの上からだと、分かりづらいよね。脱がしちゃお」

言うなり、サクラはトモキの半ズボンをスルリと下ろしてしまった。
トモキは驚いたが、抵抗するとどんな目にあうか分からないので、黙って受け入れるしかなかった。
ブリーフ一枚になったトモキの股間には、小さな膨らみがある。

「あのね、これがチンチンでしょ。で、この下にあるのがキンタマ。握ってみて」

ミサキは弟の下着姿など見慣れていたが、股間だけまじまじと観察したことはなかった。
平然と男子の性器の解説を始めるサクラに、少し驚いてしまう。

「ここ?」

おもむろにトモキの玉の部分を指先で摘まむと、途端にトモキは顔を歪めた。

「え? これだけで痛いの?」

ミサキは驚いた顔で、弟の反応を見た。
ちょっと指先で摘まんだだけで、全然力は入れていなかったのだ。

「そうそう。そんなもんだよ。面白いでしょ?」

「ホントだね…。こんなちっちゃいタマなのに…」

そう言いながらも、ミサキはトモキのタマを摘まむのをやめなかった。
トモキは少し前かがみになって、苦しみに耐えている。

「このくらいでも痛いんだよ」

サクラが、ミサキが摘まんでいる方とは逆のタマを、ピン、と指先で弾いて見せた。
トモキはうっと呻いて、股間をおさえようとする。

「ダメダメ。じっとしてて。あ、これ使おー」

痛がるトモキを押さえつけるために、サクラは部屋に落ちていたビニールの縄とびに目を付けた。
あっという間に、苦しむトモキの手首を、後ろで縛ってしまう。

「ね、見たでしょ? デコピンだけで、こんなに痛がるんだよ。あ、私はタマピンって呼んでるけど」

「ホント、すごいね。なんで、こんなに痛いんだろ」

言いながら、ミサキは今まで摘まんでいたトモキの睾丸に、下の方からデコピンをしてみた。

「あっ!」

と、トモキは反応して、膝をついてしまう。

「面白ーい! トモキ、そんなに痛いの? どう痛いの?」

ミサキは思わずはしゃいでしまった。
痛くても股間をおさえられないトモキは、膝立ちの状態で、必死に痛みに耐えている。

「何か…最初、ビリっときて、あとからジワーってくる感じ…」

苦しみながら、そう答える。

「へー。マサキも一緒?」

まだ立つこともできないでいるマサキを振り返ると、マサキはわずかに首だけでうなずいた。

「ていうか、まだ痛いの、マサキ? ちょっとおおげさじゃないの?」

「あー、マサキ君にはうまく当たったからねー。けっこう痛かったんじゃない? わかんないけど」

痛みにうち震えながら、マサキは再びうつむいてしまった。
少し回復した気配があっても、すぐにまた痛みが押し寄せてくる。その痛みはけっこうどころではなく、例えようもない、他に何も考えられないくらいの痛みだった。

「う…うう…」

痛みと恥ずかしさで、マサキは思わず泣き出してしまった。
それにつられるように、トモキもまた、泣き出してしまう。

「うわぁ…。痛いんだよう。姉ちゃん、許してよう」

そんな弟たちの姿を見て、ミサキは少し可哀想になってきた。

「そうだろうねー。キンタマは男の急所だもんねー。じゃあ、今度から、ちゃんとお姉ちゃんの言うこと聞く?」

「聞くよー」

トモキは泣きながら、うなずく。

「じゃあ、一階を片づけるのね?」

「そ、それはマサキが…うっ!」

トモキが言いかけた時、サクラがトモキのタマをギュッと掴んだ。

「どうなの?」

サクラは笑いながら、尋ねる。

「やるよ。やるから、放してよー」

「よしよし。二人でやるのよ。いい?」

サクラはマサキを振り向いていった。
マサキも涙を流しながら、うなずいた。
サクラは満足げにうなずいて、トモキのタマから手を離した。

「じゃあ、最後にミサキちゃんに、キンタマを蹴ってもらおうか。練習しといたほうがいいでしょ?」

「え? そうかな…。もう、いいかも…」

ミサキは、弟たちが可哀想になってきているところだった。

「甘いよ、ミサキちゃん。そんなだから、この子たち、すぐ調子乗るんだよ。ここでビシっと、お姉ちゃんの強さを見せとこうよ」

サクラは笑いながら言うと、ミサキも決心したようにうなずいた。

「そっか…。うん。わかった。私、蹴るね」

それを聞いたトモキがまた、泣き出す。

「うわぁん。やめてよー。許してよ、姉ちゃん」

「ダメ! 今までアンタ達の言うこと聞いて、許してたけど、今度からはそうはいかないからね。覚悟しなさい!」

ミサキは毅然とした態度で言い放った。

「よーし。じゃあね、ここを狙うの。このもっこりの下の方。下から蹴りあげるのが、一番痛いらしいよ」

サクラはトモキを立たせて、肩をおさえて足を開かせた。

「足の甲で蹴ればいいの? ボールみたいに?」

「そうそう。ポーンってボールを蹴飛ばすみたいな感じ」

「どのくらいの力で蹴ればいいかな?」

「うーん。思いっきり蹴ってみてもいいけど。ちょっと可哀想だから、軽くにしようか。狙いだけ正確にすれば、十分痛いし。ね? そうでしょ?」

サクラは笑いながら、トモキに聞いた。
トモキは泣きじゃくった顔で、首を横に振る。

「うえぇん。ホントに痛いんだってばー。やめてよー」

「ホント? ウソばっかり。そんなに痛くないんでしょ」

「ホントだよー。姉ちゃん、ごめんなさい。許してよー」

「はいはい。ミサキちゃん、もう早く蹴っちゃいな。静かになるからさ」

サクラはトモキが動かないように、後ろからがっちりと抱え込んでおさえた。
ミサキはうなずいて、足をひいてかまえる。

「いくよ、トモキ。えいっ!」

ミサキの蹴り足は、サクラよりもずいぶん不器用に上がったが、トモキの股間に正確にヒットした。
ブリーフのもっこりした部分が、ミズキの足の甲に乗り、ぐにゃりとひしゃげるのがトモキの目に映った。その瞬間、トモキは今から確実に訪れる地獄のような時間を想像して、歯を食いしばった。

「んんっ!」

ミサキが蹴り足をおろして、トモキの反応を見ようとするころには、トモキの股間から男の最大の苦しみが下腹まで上がってきていた。

「当たった?」

「うん。バッチリ!」

サクラがトモキを解放すると、トモキは糸が切れたように倒れて、丸まったまま足をバタバタさせて悶えた。

「ああん! ううぅ!」

トモキは女の子のような声を出して、苦しんでいる。まだ両手は縛られたままだから、手で押さえる事も出来ない。
サクラはそれを見て、トモキを縛る縄跳びを解いてやった。

「うわぁん!」

トモキは大声で泣きじゃくり、タマをおさえて、床に額を擦りつけている。
双子同士、そっくり同じ体勢になった。

「ちょっと、二人とも、同じ格好なんだけど。面白―い」

ミサキは思わず、噴き出してしまった。

「ね。男子って、キンタマ蹴られると、この形になる子が多いよね。なんでだろう。そうしてると、痛くないの?」

もちろん、二人に応える余裕などない。
いつ終わるともしれないとめどない痛みに、じっとして震えることしかできなかった。

「でも、キンタマを蹴れば、男子ってこんなに簡単に大人しくなっちゃうんだ。これから、どんどん蹴ろうかな」

「そうしなよ。この子たちが暴れたときは、キンタマを握っちゃえば、大人しくなるから。ケンカになっても、キンタマを蹴れば一発だよ」

「そうだね。でもなんか、ちょっと可哀想かな。ねえ、マサキ、トモキ。アンタ達が言うこと聞けば、お姉ちゃんも蹴らないであげるからね。わかった?」

マサキとトモキは、泣きながらうなずいた。

「じゃあ、まずは一階を片づけてね。お姉ちゃんはちょっと遊びにいってくるから、帰るまでに片付けといてよ」

「片づけてなかったら、キンタマ潰しだよ」

サクラはにこやかに言う。

「そうそう。キンタマ潰しだぞ。サクラちゃん、ホントにありがとう。家まで送るよ」

「どういたしまして。じゃあさ、ウチで遊んで行かない? ウチ、犬がいるんだ。こんなちっちゃいの」

「うわあ、ホント? カワイイ! 行く行く」

女の子たちは、キンタマの痛みに苦しむ双子を置いて、部屋を出て行った。
その後二人は1時間ほど、立ちあがることはできなかった。


終わり。





女性の社会進出が本格化し始めて数十年。世間ではようやく男女の雇用が均等化され、各国の政府にも、男性と同数かそれ以上の数の女性議員が存在するようになった。
ようやく完全に、社会における男女の性の差がなくなったのである。
しかし一方で問題になっているのは、増え続ける性犯罪だった。
社会進出に成功した女性たちは、もはや男性の助けを借りることもなくなり、恋愛や結婚に極めて消極的になっていった。
また女性議員たちの主張により、性風俗の取り締まりが厳格化されると、世の中の男たちは性欲を持て余すようになってしまったのである。
結果、性犯罪の件数は以前の何倍にも増え、大量の性犯罪者を刑務所は収容しきれなくなってしまった。
そこで新たに造られたのが、性犯罪者のための特別刑務所だった。
性犯罪を犯した男たちは、すべてここに収容され、その程度によって、更生や社会復帰のためのプログラムに従うことを余儀なくされるのだ。

「整列ッ!」

刑務官の怒号のような声が響き渡ると、四方を壁に囲まれた体育館のような広いフロアに、百人以上の男たちが整然と並んだ。
咳一つたてる様子の無い囚人たちの様子を、刑務官は正面の壇上からじっと見つめている。
その様子は、通常の刑務所と何ら変わることのない、厳粛かつ緊張に満ちたものだった。
ただ、この性犯罪者特別刑務所、通称PSCが普通の刑務所と違う点は、まず一つに、刑務官が全員女性であることだった。

「そこの貴様! 列からはみ出している! 貴様の囚人番号は!」

「はい! 1096番です!」

「1096! 半歩下がれ!」

フロアに十数人いる刑務官のすべてが女性であり、しかも彼女たちの平均年齢は20代後半だった。中には大学を卒業してすぐ、ここに勤め始めた者もいる。
男女の雇用機会が完全に均等化された時代では、職場での性別など問題になることはなかったが、それでもこの光景は異様だった。
男の刑務官では務まらない理由が、この特別刑務所にはあるのだ。

「そこ! 1020番! ゴーグルがずれている。かけなおせ!」

「はい!」

刑務官が指示すると、囚人の男は顔に付けた大きなゴーグルをかけなおした。
スカイダイビングのときに着けるようなそのゴーグルは、この施設の囚人たちの全員が就寝時以外、常に装着することを義務づけられているもので、適当な理由なく外すと、厳しく罰せられる。
一見して普通のゴーグルのようだが、その中には様々なテクノロジーが詰め込まれているのだ。

「全員、休め!」

一通り整列が完了したとみると、正面壇上にいる刑務官が号令した。彼女は看守長という階級で、刑務所内における実務のほとんどを指導する立場だった。

「今から上映会を始めるが、今日は特別に最新作を仕入れてきてやった。社会のゴミである貴様らには、もったいない話だ! 上映を許可してくださった所長に感謝しろ、クズども!」

看守長の言葉に、囚人たちは一斉に「はい、ありがとうございます」と言って頭を下げた。
看守長の言葉遣いは、およそ公的機関の職員とは思えないものだったが、性犯罪特別法が制定された現在では、珍しいものではない。
その法律によれば、性犯罪者に対しては、あらゆる女性が一定の罵倒や侮辱行為を行うことが認められているのだ。
それは社会進出した女性を守るための権利で、刑務官という職責よりも上に来るものだった。

「では、上映開始!」

看守長が指示すると、室内が暗闇に包まれた。
そして囚人たちの正面にある大型スクリーンに、プロジェクターからの光が投影され始める。
そこに映っているのは、スーツ姿の若い女性だった。

「あ…いや…! やめて…!」

画面の外から伸びた手が、女性を追い詰め、その衣服を乱暴にむしりとっていく。場所はどこかのオフィスのようで、どうやらそれは、世間でよく見られる、レイプ物のアダルトビデオのようだった。

「あ…! ああ…そんな…! やめてください!」

あっという間に下着姿にされてしまった女性は、もちろんAV女優なのだろう。
涙声で抵抗する中にも、色っぽさが感じられた。

「……」

異様なのは、これを囚人たちは直立不動のまま、声一つ上げずに見ていて、その様子を女性の看守たちが子細に観察していることだった。
そこには普通、アダルトビデオを鑑賞するときのようないやらしさや興奮した雰囲気などはなく、囚人たちは極度に緊張した様子で、刑務官たちも彼らに厳しい視線を送り続けていた。

「…おい。2045!」

ひときわ厳しい表情で囚人たちを観察していた看守長のマヤが、最前列の囚人の番号を呼んだ。

「はい!」

呼ばれたのは、20代くらいの若い囚人だった。
彼が着用しているゴーグルの前面が、赤く点滅している。

「貴様は、盛りのついた犬か? 上映が始まってまだ10分も経っていないのに、なぜそんなに興奮している?」

「はい! す…すいません!」

「貴様は、入所したばかりだったな? 上映会は初めてか。貴様の罪はなんだ? 2045番」

「はい! その…強姦罪です」

「ほう。それでは、今日のビデオは、貴様の趣味とピッタリ合うわけだな。面白いだろう。え?」

マヤは、囚人の顔に吐息がかかるほどに接近していた。
刑務官たちの制服は、基本的には普通のそれと変わらないが、女性の自由が叫ばれて久しい現代、制服といえどもそれぞれの好みの着方で着るようになっている。
結果、この特別刑務所の女性刑務官たちの服装はみな、胸を大きく開いたり、極端なミニスカートになってしまっているのだった。
看守長のマヤは特に巨乳が自慢で、その胸は、上から数個のボタンを外してもなお、はちきれんばかりに膨らんでしまっている。
その大きな胸の谷間が、囚人の鼻先にまで迫っていた。

「興奮するだろう? 貴様は女性の悲鳴が大好物なんだからな。女を無理やり裸にするのが、大好きなはずだ。私たちのことも、そう思ってるんじゃないのか? この服をはぎ取ってみたいと、想像してるんじゃないのか? え? どうなんだ?」

アダルトビデオの映像と、マヤの耳元での囁きで、2045番の囚人の興奮は、どんどん高まっていった。

「い、いえ…。そんな…」

言葉とは裏腹に、大きく開かれたマヤの胸元を、チラリと見てしまう。
その瞬間、ゴーグルの点滅は真っ赤な点灯に変わり、ピーという警告音が鳴り始める。

「見るな!!」

ゴスッ!

マヤの膝が、若い囚人の股間を突き上げた。
囚人の腰が浮いてしまう程の、強烈な膝蹴りだった。

「あうっ!!」

若い囚人は一瞬、飛び上がるようにして体を硬直させると、そのまま床にベチャリと這いつくばってしまった。

「あっ…!! ああ…」

両手で股間をおさえる囚人の顔色は、真っ白になっていた。
痛みと呼ぶにはあまりに絶望的な衝撃が、下半身を中心に、全身に広がっていくようだった。
奥歯を震わせながら、その苦しみに耐えていると、マヤの足が、囚人の頭を上から踏みつけた。

「2045番! 貴様は、まだ自分の罪を反省する気がないようだな」

囚人の顔面は床に押し付けられ、鼻血が出ていたが、マヤはなおも彼の頭を踏みにじり続けた。

「これからここで、たっぷりと反省させてやる。覚悟するんだな!」

吐き捨てるように言うと、ようやく足をどけてやった。
股間を蹴られた囚人は、そのままピクリとも動くことができなかった。
その間も、アダルトビデオの上映は続けられている。
すでに女優は裸にされていて、抵抗しつつも体のあちこちを触られ、感じているような声をあげていた。

「ああ…ん…。いや…やめて…!」

囚人たちは、相変わらず直立不動のまま、スクリーンを凝視していた。中には目をそらしたり、目を閉じようとする者もいたが、囚人たちがつけているゴーグルには、視線監視機能がついており、着用者がどこを見ているのか、正確に分かるようになっているのだった。

「そこ! 目をそらすな!」

上映会の間に目をそらしたり閉じたりすれば、すぐにゴーグルが点滅するようになっている。刑務官たちはそれを見て、囚人たちを注意しているのだ。
そしてさらに。

ピー、ピー

ある囚人のゴーグルが、先程の囚人と同じように赤く点灯し、警告音が鳴り始めた。
それは、ゴーグルをつけている囚人が、性的興奮を感じているというサインだったのだ。

「あ…いや…これは…!」

反応した囚人は、必死に警報を止めようとするが、すでに刑務官が目の前に来ていた。

「1321! 足を開け!」

そう言うのとほとんど同時に、彼女は持っていた警棒を、囚人の股間めがけて下から振り上げた。

グシャッ!

と、囚人の急所がひしゃげる感触が、警棒を通して刑務官の手に伝わった。
この警棒は、刑務官の職務遂行のため、見た目では分からないさまざまな機能がついているものだったが、最もよく使われるのが、この股間攻撃だった。

「ぐえぇっ!!」

股間を叩き上げられた囚人は、腹から絞り出すようなうめき声をあげて、男の最大の急所を両手でおさえた。
その場にしゃがみ込んでしまった囚人を、刑務官は無表情に見下ろしている。

「1321番! 3分以内に起立して、視聴を続けろ! 分かったな!」

「は、はい…! うぅ…」

苦しむ囚人に背を向けて、刑務官は去った。
その様子を、周りにいる囚人たちは、冷や汗を流しながら見ていた。もちろん、目だけはスクリーンを見つめたまま、横目でだが。
彼らが着けているゴーグルには、脳波を感知する機能がついており、着用者の性的興奮が一定以上になると、赤く点灯し、警報が鳴るようになっているのだ。
刑務官たちはゴーグルが点灯すれば、速やかにその囚人に身体的な罰を与えることになっている。性的興奮が即、痛みにつながるということを体に覚えさせることで、男性の性欲を減退させようという狙いだった。
これはまさしくパブロフの犬のような条件反射の強制で、男性の人権侵害に当たるという意見もあったが、増え続ける性犯罪の撲滅という大義のため、性犯罪者の人権は軽視されてしまう世の中になってしまっていた。

「820番! 足を開け!」

「は、はい!」

スパァン! 

と、女性刑務官のブーツが、囚人の股間を背後から打ち抜いた。
痛みを与える方法は、現場での刑務官の判断に委ねられていて、当初はスタンガンによる電気ショックや鞭による打撃も行われていたが、そのうち男性の急所への攻撃が、最も効果的であることが分かった。
睾丸を攻撃された男性は、一瞬でその性的興奮が鎮まるし、その痛みと苦しみは、女性たちには想像もできないほど大きなものだった。
最小限の力で、最大級の肉体的・精神的ショックを与えることができ、なおかつ後遺症の心配も低い。仮に後遺症が出たとしても、それは性犯罪者の撲滅という観点から考えて、むしろ喜ばしいものだったので、刑務官たちは、何の遠慮もなく囚人たちの股間を攻撃することができるのだった。

「うぐ…ぐぐ…!」

刑務官に股間を蹴られた囚人は、その場にうずくまって、呻いてしまった。

「820番! 貴様は今日、三回目のレッド・アラートだ。あと一回、レッドになれば、特別刑務所法第7条3項に基づき、貴様の去勢を実行する権利が所長に発生する! 分かったか!」

「は、はい…!」

うずくまる囚人に、女性刑務官は冷たく言い放った。
それは脅しでも何でもなく、この特別刑務所では実際に囚人の去勢が実行されることも珍しくなかった。
不必要な性的興奮が、男性機能の喪失につながるという恐怖感を植え付けることが、この性犯罪者特別刑務所のやり方で、そうでもしなければ、彼らのような性犯罪者を社会復帰させることはできないと考えられているのだった。

「…1055番。貴様、今日は大人しいじゃないか。どうした? レイプ物は、貴様の好みじゃなかったか?」

看守長のマヤが、いまだにゴーグルの点灯していない囚人の一人に目をつけた。

「はい! …いいえ! 私は、性欲をコントロールすることを心がけていますので…!」

囚人番号1055番の囚人は、緊張した面持ちでそう答えた。
この上映会の目的は、まさしく彼が言った通り、性犯罪者である囚人たちが性欲のコントロールを身につけることだった。
プライベートな時間ならともかく、公共の場においては、決して性的興奮を催さないこと。アダルトビデオを視聴しても、眉一つ動かさないような男を作り上げることが、この特別刑務所の目的であり、そのための訓練だったのだ。

「ほう。それは感心なことだ。貴様もようやく、真っ当な人間に生まれ変わろうという気になったようだな」

「はい! ありがとうございます!」

性的欲求が減退したと確認されなければ、彼らがこの刑務所から出ることはない。囚人たちの刑期の長さは、刑務官の判断によるところが非常に大きかった。

「1055番、ズボンを脱げ」

「は、はい!」

刑務官の命令は絶対で、いかなるときでも速やかに従わなければならない。
囚人は素早くズボンを脱いだ。
囚人たちの下着は、かつてゴーグルが発明される前、男性器の勃起を視認していた時代の名残で、極端に面積の小さなブリーフに統一されていた。
1055番の囚人のペニスは、確かに興奮した状態ではないようだった。

「ふむ。確かに性欲をコントロールできているようだな。感心だ、1055番」

「はい! ありがとうございます!」

看守長のマヤの警棒が、囚人の股間に伸びた。
警棒の先端で、もっこりと膨らんでいる部分をつつくように刺激する。

「1055番。褒美に、閲覧できる指定図書の種類を増やしてやってもいいぞ。貴様は、若いアイドルが好きなんだったな。写真集なんかはどうだ? つい最近の話だが、アイドルの澤野なんとかが脱いだとかで、世間では話題になっているようだったぞ」

「は、はい! …さ、澤野…みな子…でしょうか?」

「そうそう。そんな名前だったな。その澤野みな子が、ヌード解禁だとか何とかで、ずいぶんと週刊誌をにぎわせているそうだ。貴様も見たいんじゃないか? え?」

1055番の囚人は、思わず答えにつまってしまった。
囚人たちの好みや性癖を細かく把握しているのは、看守長であるマヤの自慢の一つだった。
もちろん、彼女たち刑務官が持っている携帯端末から、囚人たちの罪名や逮捕された時の状況を詳しく知ることはいつでも可能だったが、マヤのように暗記していなければ、これほどスラスラと出てくるものではないだろう。
マヤが刺激し続けている囚人の股間が、わずかに膨らみ始めていた。

「世の中の流れは早いな。貴様がここに収監されてから、まだ1年半だというのに、清純派のアイドルが、もうヌード解禁だ。この調子だと、その澤野なんとかがAVに出る日も近いんじゃないか? 貴様が出所するころには、世間に出回っているだろう。楽しみだな。え?」

「は、はい…」

レイプ物のアダルトビデオで反応しなかった1055番の囚人の股間が、にわかに大きくなり始めた。
マヤの囁きに、想像してしまったのだろう。自分の好きなアイドルが、AVに出ているところを。世間の情報から閉ざされた環境にいる囚人たちにとっては、最新の情報は、何よりも価値のあるものだった。

「ほう。興奮してきたようだな、1055番。どうした? 性欲のコントロールができなくなってきたか?」

「あ…い、いいえ…! そんなことは…」

いったん興奮のスイッチが入ってしまうと、頭では止めようと思っていても、体が反応してくれなくなる。
特にここに収監されている囚人たちは、日常の射精はまったく認められておらず、やむなく夢精してしまった場合でも、反省文を書かされ、厳しく指導されるという始末だった。
こんな状態で性欲をコントロールしろという方が、男に言わせれば無理だったのだが、更生プログラムを組んでいる医師たちの見解では、「十分可能」ということらしかった。もちろんその医師たちの中に、半数以上の女性が含まれていたことは間違いないのだが。

「まあ、そう焦るな。焦るほど、性欲のコントロールが難しくなると聞くぞ。リラックスしろ。リラックスだ」

必死に勃起を鎮めようとする囚人のペニスを、マヤの警棒が柔らかなタッチで撫で続けていた。
その触れるか触れないかという刺激は、もちろん男にとっては快感以外の何物でもなく、囚人のペニスは、やがて小さなビキニブリーフを突き破らんばかりに反り立ってしまうのだった。

「ほう。警報が鳴っているな? 1055番」

囚人のゴーグルが真っ赤に点灯し、警告音が鳴っていた。
マヤはニヤリと笑って、今まで囚人の股間を愛撫していた警棒を離すと、クルクルと回しながら、遠心力をたっぷりとつけて、振り上げた。

「ほげぇっ!!」

刑務官の警棒は、堅さとしなりを両立させた最新の特殊合金でできており、思い切り打ちつければ、女性でも睾丸を潰すことは容易にできるはずだった。
しかしマヤをはじめとするここの刑務官はプロとして、睾丸を潰さず、最も効果的に囚人たちを苦しめる方法を心得ているのだ。
この1055番の囚人に対しても、意識が保てるギリギリの痛みになるように、マヤは手加減したつもりだった。

「ぐぐぐ…!」

両手で股間をおさえ、口から涎をながしながら、囚人はその場にうずくまってしまった。

「残念だな、1055番。写真集はお預けだ。貴様はもう少し、性欲のコントロールを学ぶ必要があるな」

自分には決して訪れることのない、男の苦しみに呻く囚人を見下ろしながら、マヤの口はわずかにゆがんでいた。
看守長である彼女がそうなのだから、ここにいる刑務官のほとんどが、男性に苦しみを与えることに喜びを感じる、サディストの気があった。
以前はこの特別刑務所にも男性の刑務官がいたのだが、やがてみんな転属を希望し、辞めていってしまった。
同じ男として、もたなかったのだろう。
当時、まだヒラの看守だったマヤが、囚人の股間に懲罰を加えるたびに、男性刑務官たちが痛そうに顔を歪めて見ていたのを、彼女は覚えている。
マヤは、この特別刑務所に来るまでは、自分が男性を苛めることに快感を覚えるなどとは思ってもみなかったが、今ではこれが自分の天職だと感じるようになっていた。

「よおし! 上映、やめ!」

スクリーン上で、AV女優のセックスが終わると、そこで上映は止められた。
フロアの照明が明るくなると、立っている囚人たちは、一様に安堵の表情を浮かべていた。
うずくまっているのは、不幸にも性欲を抑えきれなかった囚人たちである。今回は、全体のおよそ三分の一ほどが、犠牲になっていた。

「整列ッ!」

再びマヤが正面の壇上に上がり、声を発した。
このときに素早く立ち上がって、整列することができなければ、さらなる懲罰が待っているのである。
股間を痛めつけられた囚人たちは、必死の形相で立ち上がろうとしていた。

「本日の上映会は、これで終了する。言うまでもないことだが、この上映会の目的は、猿のように腰を振ることしか能のない貴様らに、理性というものを身につけさせることである! 今回、懲罰を受けたものはよく反省し、懲罰を受けなかった者も、それが持続できるようにしろ! このビデオのように、貴様ら性犯罪者の劣悪な遺伝子を受け入れてくれる女性など、社会には存在しないのだ! 貴様らのペニスは、小便をするためだけについている管だと思え! 貴様らのタマは、女性に痛めつけられるために、ついているものなんだ! 分かったか!」

「はい!」

囚人たちは一斉に返事をした。
やがて彼らは、係りの看守に率いられ、列になってフロアを出て行った。
その中にも、まだ前かがみになって股間をおさえている者や、ヒョコヒョコとガニ股になって歩いている囚人もいる。あまりにひどいようだと、容赦なく看守の怒声が飛んだ。

「1170番! 貴様、しっかりと歩け!」

「はい!」

警棒で思い切り背中を叩かれて、その囚人は背筋を伸ばした。それでも背中の痛みより、さきほど叩き上げられた股間の痛みの方がはるかに上だった。

「明日は、反省文を書かせる者が多くなりそうだな。…懲罰で済ませるかどうかは、それぞれの判断に任せる。そう伝えろ」

フロアから出て行く囚人たちを見ながら、マヤは部下の看守たちに言った。
上映会をした次の朝は、夢精をする囚人が多くなることは、この刑務所の常識だった。
あまりに数が多い場合、反省文を書かせることも間に合わないので、その場での懲罰に変更することもやむを得ないと、マヤは判断したのである。

「はい! 分かりました!」

刑務官の若い女性たちは、胸を張って敬礼した。
その姿は頼もしく、自信に満ち溢れており、いつ股間を蹴られるかと始終ビクビクしている囚人たちとは対照的だった。
男は女性よりも弱く、男の性欲は、女性に管理され、支配されるべきものだという感覚が、この特別刑務所にいれば、自然と身につくようになっていた。
自分たちの働きが、健全で安全な社会をつくるためになっているのだと、女性刑務官たちは信じて疑わなかった。




甲子園の出場をかけ、高校球児たちが汗を流す夏。
とある県の強豪校に、2年生ながらすでにエースピッチャーと呼ばれている、三杉テツヤがいた。
甲子園の県予選が、いよいよ決勝戦を迎えたその日の朝、テツヤはマネージャーの藤田ユカに呼び出された。

「あの…なんですか? 自分、準備があるんですけど…」

野球部員が寝泊まりしている合宿所の裏手に呼び出されたテツヤは、少し緊張していた。
ユカは3年生のチーフマネージャーで、ときにはキャプテンや監督以上に、下級生に厳しい言葉をかけることもあるからだった。

「うん。そんな長い話じゃないから、大丈夫。…あのさあ、ちょっとお願いがあるんだけど…」

「は、はい…?」

「今日の試合、テツヤが先発でしょ? それをちょっと、辞退してくれないかな? お腹が痛いとか言って」

「はあ?」

思いもかけぬ言葉に、テツヤは戸惑った。
今日までの県予選は、すべての試合でテツヤが先発で投げてきたし、今日も投げ抜いて甲子園に行くつもりだった。
その自分に、仮病を使って先発を辞退しろとは、どういうことだろう。

「いや…でも、自分が投げなかったら、どうなるんですか?」

「それはまあ…3年生とか、他にもいるから、大丈夫だよ。ずっと投げてきたから、疲れてない? ちょっと休憩して、また甲子園で頑張ればさ…」

ユカの言葉は、不審だった。
確かに彼らの高校は、強豪校と呼ばれるだけあって、選手層はそれなりに厚い。
テツヤの代わりになるピッチャーは、他にもいるだろう。
それにしても、テツヤは自分こそ野球部のエースであると自負していて、周りもそれを認めていると思っていたのに、マネージャーであるユカが意外にも自分の力を認めていないような気がして、少し不愉快になった。

「いや、でもそれは…監督が決めることですから。自分は疲れてないですし、投げろって言われれば、投げますよ」

「うーん…。そっかあ。まあ、それはそうなんだけどさあ…」

テツヤの返答を予期していたかのように、ユカは驚かなかったが、腕組みして考え込むような素振りを見せた。
テツヤは、もともとユカにあまりいい印象を持っていなかったせいもあるが、その態度を見て、ますます今日は投げ抜いてやろうという気持ちになってきた。
その時だった。

ボスッ!!

と、テツヤは自分の股間に強い衝撃を感じた。
一瞬、踵が浮いてしまったほどの衝撃の正体は、背後からの金的蹴りで、テツヤがそれを理解するよりも早く、強烈な痛みが股間から湧き上がってきた。

「あっ!!」

反射的に両手で股間をおさえて、前かがみになる。
チラリと見えた、股間に突き刺さったスニーカーの主を確かめるために、身を捻った。

「ゴメンね。ホント、ゴメン!」

そこには、同じく3年生のマネージャー、小倉ミナミが立っていた。
ミナミは、前のめりになって崩れ落ちていくテツヤに対して、心から申し訳なさそうな顔をして、謝っていた。

「う…くぅ…!」

仔犬のような鳴き声をあげて、テツヤはその場にうずくまってしまった。
ミナミの蹴りは、テツヤの睾丸を後ろから蹴り上げていた。
その蹴りは、男の急所中の急所である副睾丸を見事に射抜いており、テツヤに地獄の苦しみを与えることを約束していた。

「やったね、ミナミ! うまくいったじゃん」

「うん。よかったあ。後ろから近付くとき、超ドキドキしたもん。失敗したらマズイと思ったから、思いっきり蹴っちゃった。大丈夫かなあ?」

ミナミは、まるで他人事のように、うずくまるテツヤを覗き込んだ。
テツヤの顔色は真っ青で、奥歯をかみしめながら、必死に痛みに耐えている。
股間から発せられた痛みは、すでに全身の自由を奪い、しばらくは立ち上がることもできない状態だった。

「まあ、大丈夫でしょ。ねえ、テツヤ。これで、お腹が痛いって監督に言えるでしょ? 無理しないで、休みなって言ったのに。アンタが言うこと聞かないからだよ?」

想像を絶する痛みにうずくまるテツヤを、ユカとミナミは心配しながらも、どこか面白そうに見下ろしていた。
野球部の練習中、股間にボールが当たってしまった選手を介抱するのも、彼女たちの仕事の一つだったが、そういえばその時も、どこか楽しそうに選手の腰を叩いてやったり、股間を冷やすのを手伝ったりしていたことを、テツヤは思い出していた。

「でもこれで…。先発はアキヒロになるかな…?」

「でしょ。監督も、テツヤが怪我でもすれば、アキヒロだなって言ってたし」

「そうだよね。3年間、頑張ってきたんだもん。最後に投げさせてあげたいよね」

二人が話しているのは、3年生のピッチャー、新島アキヒロのことだった。
アキヒロはこの野球部でテツヤに次ぐ実力の持ち主で、テツヤが入部する以前は、エースとして君臨していた。
そのアキヒロと、自分の股間を容赦なく蹴り上げたミナミが付き合っているという噂を、とめどなくこみ上げてくる痛みの中で、テツヤは思い出していた。

「ゴメンね、テツヤ君。私、どうしてもアキヒロに投げさせてあげたいの。ちょっと痛かったかもしれないけど、許してね?」

「アンタはほら、甲子園の本番で投げれると思うから。来年もあるし。いいでしょ?」

テツヤの股間からあふれ出る痛みは、「痛かったかもしれない」という程度のものではなかったが、すでに呼吸をすることさえ苦痛で、うずくまったまま、何も言うことはできなかった。
そしてマネージャーの女の子たちは、身動き一つ取れないテツヤを残して、その場から立ち去ってしまった。




そして、県大会の決勝戦。
時間ギリギリになって移動用のバスに乗り込んできたテツヤを、チームメイトたちは心配そうに見ていた。
その顔は青白く、とても体調が良さそうには見えなかったからである。
それでもテツヤは、日頃の厳しい練習で鍛えた精神力を持って、試合に臨もうとしていた。

「テツヤ、先発、いけるか?」

「はい…! 大丈夫…です!」

監督はやや不安になったが、それでもテツヤを先発のマウンドに送り込むことにした。
悲壮な決意に満ちたテツヤの顔を、マネージャーのユカとミナミが歯がゆそうに見つめているのを、部員の誰も気がつかなかった。

「ストライク! バッターアウト!」

マネージャーたちの期待に反して、テツヤは好投した。
股間から湧き上がってくる痛みの大部分はおさまったが、下半身に力を入れようとすると、鈍い痛みが襲ってくる。
強靭な足腰を使った速球を武器としているテツヤにとっては致命的だったが、それでも、普段はあまり使わない変化球などを駆使して、なんとか相手チームを0点に抑えていた。

「ナイスピッチングだ! テツヤ、大丈夫か?」

監督が思わずそう聞いてしまうほど、ベンチに帰ってきたテツヤの顔色は辛そうだった。

「は、はい…! まだ、いけます…!」

テツヤも、もはや意地になっていた。
自分の代わりにアキヒロが投げたとしても、おそらく今日の相手に負けることはないだろう。しかし、それではユカとミナミの思惑通りになってしまう気がして、悔しかったのだ。
金玉を蹴られたくらいで、マウンドを譲りたくないという強い気持ちが、テツヤを支えていた。

「監督、私、テツヤのマッサージします!」

ベンチに座ってスコア表をつけていたユカが、突然立ち上がってそう言った。

「ん? そうか。そうだな。お前、決勝だからって、変に緊張してるんじゃないか? ちょっと体をほぐしてもらえ」

「あ、私も手伝います!」

ミナミも立ち上がって、二人は両脇から、テツヤを抱えるようにしてベンチの奥に連れて行った。

「え? いや、俺は別に…」

「いいから、いいから。ちょっとこっち来なって」

「そうそう。マッサージしてあげるから」

ユカとミナミの顔は、言葉とは裏腹に、まったく笑っていなかった。
二人はマネージャーとして、怪我の応急処置やマッサージの術を心得ていたし、その行動を不審がる部員は誰ひとりおらず、皆の注意は、バッターボックスに向かっていた。

「あ…あの…。先輩…?」

ベンチの隅で、二人に囲まれてしまったテツヤは、不安そうな表情を浮かべた。
しかしユカとミナミは、そんなテツヤを無視して、淡々と作業に取りかかった。

「じゃあ、私、上半身をやるから。ミナミは脚のマッサージ、お願いね」

「うん、分かった」

二人は分担して、テツヤのマッサージを始めた。
それはテツヤもたびたび経験があることで、つい、いつものようにリラックスしてしまった。
しかし。

「うっ!」

股間に不意に走った圧迫感に、目を見開いた。
見ると、今まで太ももをマッサージしていたはずのミナミの手が、テツヤの股間に伸びている。
その手はテツヤの二つの睾丸を掴み、じわじわと圧迫し始めていた。

「うぐ…んんっ!」

思わず叫び声をあげそうになったテツヤの口を、肩を揉んでいたユカのタオルが塞いだ。
二人は体を使って巧妙にそれを隠し、他の部員に気づかれないようにした。

「ねえ、なに頑張っちゃってんの? アキヒロが投げるって言ってるじゃん。少しは空気読みなさいよ」

耳元で、ユカが囁いた。

「ゴメンね。どうしても、アキヒロに投げさせたいの。テツヤ君の気持ちは分かるけど…。お願い!」

上目づかいに見上げながら、ミナミが囁いた。
しかしその手は、意外なほどの握力で、テツヤの睾丸を締めつけ続けている。
内臓を掻き回されるような痛みと吐き気が、テツヤの胸にこみ上げてきた。

「アンタは知らないと思うけど、私が一年生の時にね、自打球をアソコに当てちゃった先輩がいたの。当時3年生で、背が高くて、すごい強そうな人だった。でもそのとき、どうしたと思う?」

ユカは脅かすような口調で、囁き続けた。

「その先輩、バッターボックスに倒れこんだまま、気絶しちゃったんだよ。そして、そのまま救急車で運ばれちゃった。後で聞いたんだけど、当たり所が悪くて、破裂したんだって。分かる? タマタマが一個潰れちゃったらしいよ。すごい痛そうじゃない?」

ユカの話は、男なら誰でも耳をふさぎたくなるようなものだった。
特に先程股間を蹴られたばかりのテツヤにとっては、あれ以上の痛みがあるのかと戦慄させる効果が十分にあった。
そして今、彼の睾丸は、ミナミにしっかりと握られているのである。

「それ、私も覚えてる。西村先輩でしょ? 大変そうだったな。一週間くらい、入院してたもん。冗談抜きで、死ぬかと思ったって。男子って、野球をするのも命がけなんだね。大変だね」

ミナミはそう言いながら、マッサージをするかのようにテツヤの睾丸を握りしめ続けた。
その度に、テツヤの体には重苦しい痛みが蓄積されていくのだが、肩をガッチリと抑えられているため、うずくまることもできない。

「ホントだね。潰れちゃったりしたら、野球どころじゃないね。大変だ。…で、アンタはどうする? テツヤ?」

ユカが囁くと同時に、ミナミの手に、今まで以上の力が加わり始めた。
二人は、テツヤが今受けている痛みをまったく理解することのない女子として、冷静かつ冷酷に、その表情を観察している。

「どうしても投げ続けるっていうなら、私たちにも考えがあるんだけど…。あんまり痛くはしたくないんだよね。アンタのためにもさ。ねえ?」

「お願い、テツヤ君」

ミナミは潤んだような瞳で見つめていたが、その手は決して緩めようとせず、テツヤにとってはその純真さが逆に恐怖だった。
意地を張って投げ続けるよりも、男でいたい。
どうせアキヒロが投げたとしても、この試合に負けることはないし、自分はまた甲子園球場で投げるか、来年頑張ればいい。
高校球児として、あるいはふがいない決断と言えるかもしれなかったが、テツヤの体を支配する、巨大すぎる苦しみから逃れるためには、それしか方法はなかった。
諦めたような目でテツヤがうなずいたのを見て、ユカは口を塞いでいたタオルを外してやった。

「なに? どうするの?」

「あ…その…気分が悪いので、もう…」

「交代する?」

ユカが言葉尻をつかまえると、テツヤは小さくうなずいた。

「やったあ! ありがとう、テツヤ君!」

ミナミは満面の笑みを浮かべた。

「はい…あの…放してください…う!」

「ああ、ゴメン、ゴメン。じゃあ、監督にそう言ってくるね」

ミナミが股間を握る手を放し、ユカが肩を解放してやると、テツヤは演技でもなんでもなく、ベンチに横倒しに倒れこんでしまった。
ミナミの報告を受けた監督が驚いて振り向くと、そこには虚ろな目をしたテツヤが転がっている。
事実、もう立ち上がることができないほどに、彼の体には痛みと疲労が蓄積していた。

「おい、テツヤ! そんなに悪いのか? 大丈夫か、お前!」

テツヤは寝転がったまま、なんとかうなずいてみせた。

「監督! 次、テツヤの番ですけど…」

「なに! そうか…。仕方ない。選手交代だ。アキヒロ、お前、行け!」

味方のヒットで、テツヤの打順が回ってきたようだった。
監督は急なことに焦り、控えのピッチャーとして考えていたアキヒロを、そのまま交代させることにした。
アキヒロも突然の展開に驚いたが、とりあえず準備をして、バッターボックスに向かう。

「やったね、ミナミ!」

「うん!」

このままいけば、次の回からアキヒロがマウンドに立つことになるだろう。
ユカとミナミは、ようやく自分たちの思惑通りになったと、密かにうなずき合った。

「打て、打て、アキヒロ! 行け、行け、アキヒロ!」

ベンチの部員たちも困惑していたが、とにかくバッターボックスに立つアキヒロに声援を送ろうとしていた。
その声を、テツヤはぼんやりとした頭で聞き流している。

「アキヒロ! 頑張って!」

ひときわ大きな声援を送るのは、彼と付き合っているという噂のミナミだった。
真剣な表情で相手ピッチャーを見つめるその横顔を、惚れ惚れする思いで眺めている。
そして、一球目。

「ストライク!」

ど真ん中の直球を、空振りした。
相手ピッチャーも、決勝まで残っただけあってなかなかのもので、ほとんど素振りもしないまま打席に立ったアキヒロには、荷が重そうだった。

「アキヒロ! 落ち着いて! ボールよく見て!」

ミナミの声が、アキヒロの耳にも届いたようだった。
その顔に、プレッシャーをはねのける、男らしい気合が表れていた。
そして、二球目。

カキン!

と、思い切り振ったバットに、ボールが当たった。
しかし当たりが悪かったのか、そのボールは前に飛ばず、そのままの勢いでコースを変えて、アキヒロ自身に向かって飛んできた。

「ぐえっ!!」

斜め上から抉るような角度で、白球はアキヒロの股間に深々と突き刺さった。
石のように堅い硬球が、ユニフォームの股間をグシャリとへこませ、アキヒロの体が糸の切れた人形のようにその場に崩れ落ちる様子が、スローモーションのようにミナミの目にも映った。
「きゃあ!」

ミナミの悲痛な声が響き、両校の応援も一瞬でシンと静まりかえった。

「タイム! 救護班!」

一瞬で白目をむき、頭から崩れ落ちたアキヒロの様子を見て、主審はすぐさま試合を止めた。
すぐに白衣を着た医者らしき人物が、担架と共にバッターボックスに集まってきた。

「うぐぐっ! ああっ!」

アキヒロはどうやら、倒れこんだ衝撃か、あるいはあまりの痛みに覚醒してしまったらしい。
球場に詰めかけた大勢の生徒たちの見つめる前で、恥も見栄もなく、股間をおさえて、その場でゴロゴロとのた打ち回っていた。
その勢いは、診察しようとした医者でさえ手こずるほどで、アキヒロが力尽きて大人しくなるのを待たなければならなかった。

「アキヒロ! 大丈夫? 痛いの?」

いつの間にかアキヒロの側に駆け寄っていたミナミが、心配そうに声をかけたが、聞こえる様子はなかった。

「しっかりして! 今からマウンドに立てるんだよ。私を甲子園に連れてってくれるんでしょ? 頑張ってよ!」

ようやく転げまわるのをやめて、背中を丸めたまま動かなくなったアキヒロに向かって、ミナミは声を荒げた。
彼女は彼女で、自分の努力が報われることを願っているだけだったのだろうが、その言葉は今のアキヒロにとっては非情すぎるというものだった。

「ごめんなさいね、お嬢さん。ちょっと下がっててね。これは、男にしか分からないから。おい、担架。早く運んで」

真っ白な顔で、糸のように細い呼吸を繰り返すことしかできないアキヒロに代わって、救護班の男性医師が答えてやった。
アキヒロはすぐに担架に乗せられて、ミナミに付き添われながら、病院へ運ばれていった。

その後、球場には微妙な空気が流れた。
アキヒロを襲ったあまりの惨劇に、チームメイトたちは自打球を恐れて、バッターボックスで無意識に腰が引けるようになってしまった。

「ちょっと、何してんの! 腰が引けてるよ!」

ユカが怒声を飛ばしても、バッターはそれを聞き入れる様子はなく、監督もいつもより数段低いテンションで指導することしかできなかった。

「バッター、ビビってるよ! 内角狙って!」

相手チームの女子マネージャーが、ベンチから声援を送っても、自分がバッターボックスに立った時のことを思うと、相手ピッチャーも思い切った内角攻めができなくなってしまっていた。
何より、敵味方を越えて、男だけが共感できる怖さとして、アキヒロのような犠牲者を増やしたくなかったのかもしれない。
やがて、テツヤとアキヒロという二人のエースを失った野球部は、優勝候補と言われながらも、僅差で敗れてしまった。
テツヤはその一部始終を、ベンチでぐったりとしながら眺めていることしかできず、来年は必ずファールカップをつけてマウンドに上がろうと決心するのだった。



終わり。



当ブログを見て頂いて、ありがとうございます。
管理人の McQueen です。


おかげさまで、ブログを開設して1年がすぎ、累計の閲覧者数も4万人を越えました。
これは、私が想像していた以上の方が、このブログを見て頂いたということだと思います。
ありがとうございます。


また、ブログ拍手や応援のコメントなどを頂戴することもあります。
非常に興味深く読ませて頂き、ブログ更新の励みになります。
ありがとうございます。


改めて振り返ってみれば、1年間で思いがけずたくさんのBB小説を掲載する結果になりました。
自分自身、すべてに満足しているというわけではありませんが、いくつか気に入っているものもあります。
まったくの手前味噌ではありますが、試みに挙げてみようと思います。


私自身、もっとも気に入っている作品は、「カズキの悲劇」です。
私が学生時代に陸上部に所属していたことで、当時の思い出が喚起されるのではないかと思います。
金玉の痛みの分からない女の子による、理不尽で残酷な急所攻めというのは、とても興奮するシチュエーションです。
この作品に登場する女の子たちは、他の作品にもたびたび登場させています。


キャラクターという点で言えば、「放課後の実験」に登場する、東条アカネがとても気に入っているのですが、なかなか他の作品に出すことができません。
個性が強すぎて、あまりにも現実離れしているからかもしれません。


「地獄の合宿」に関しては、閲覧者の方から高い評価を頂き、続編等のリクエストも頂きました。
これは以前、某所で見かけた、「急所蹴りの体験談」をヒントにした作品だったのですが、割合、完成度が高く、うまく想像が広がっていかない所です。


最近、掲載した「月下会」のお話は、実は以前、某所で読んだ「エミ」という作品のオマージュなのですが、まったく比べようもない出来になってしまいました。
「エミ」は、私がもっとも好きなBB小説の一つで、10年以上前に初めて読みましたが、いまだに興奮させられます。
素晴らしい作品でした。


最近では、某掲示板に掲載されている「エクストリーム」も、私も他の方と同様、とても楽しく読ませていただいています。
あの急所攻めのアイデアと哲学、登場人物たちの心理描写は、とても興味深いものがあります。
無理のない範囲で、更新されることを願います。


同じ掲示板で拝見した、「男という弱い生き物」にも、とても興奮しました。
あの繊細な心理描写は、男性が想像だけで書かれているとは思えず、とても自分に真似することはできないと思いました。


著しくマイナーなジャンルではありますが、このブログに作品を掲載させて頂くことによって、私自身の想像力の幅も広がったような気がします。
それがとても特殊なことであることは分かっていますが、同じような趣味を持つ方が、このブログを見て、わずかでも興奮して頂ければ、このブログを続けていく価値があると思っています。


これからも、よろしくお願いいたします。



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