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男の絶対的な急所、金玉。それを責める女性たちのお話。


「私は伝説の勇者、ボールレジェンド! この街の平和は、私が守る!」

駅前に設けられた特設ステージの上で、金色のコスチュームに身を包んだ戦隊ヒーローがポーズを決める。
ステージの上には、この街の警察署長をはじめ、たくさんの警察官たちが並んでいた。これは、今日から始まるこの街の「安全週間」のメインイベントの一つだった。

「はーい。それでは、今日から一週間、ボールレジェンドが皆さんの街をパトロールしてくれるそうです。皆さん、見かけたらお気軽に声をかけてくださいね」

駅前に集まった住民や子供たちからは、大きな拍手が送られる。
ボールレジェンドは、人気の戦隊ヒーロー番組、「ボールレンジャー」に登場する新キャラクターだった。
物語の佳境で、レギュラーメンバーたちがピンチに陥ったところを圧倒的なパワーで救い出すという、ジョーカー的なキャラクターだ。
設定上は、レギュラーメンバーよりはるかに前からヒーローとして活動しており、地球だけでなく宇宙全体の平和を見守っている伝説の勇者ということらしい。
その肩書にふさわしく、ヘルメットをはじめ、全身がラメ入りのゴージャスな金色に塗られていた。

「ボールレジェンドー! カッコいいー!」

「レジェンドー! クラッシャークイーンに気を付けてー!」
 
駆け付けた子供たちから、声援が飛んだ。
ステージ上のレジェンドは、片手を腰に当てたまま、いちいち手を振ってやる。
広い肩幅と厚い胸板は見るからに頼もしく、伝説のヒーローの名に恥じないものだったが、最近ではボールレンジャーの唯一の弱点は、その股間にうっすらと見える膨らみであるということが、裏設定のようになっている。
そこには彼らのパワーの源である魔法のボールが入っていて、そこを攻撃されると、力が抜けてしまうというのだ。

「私はボールレジェンド! この街の平和は、私が守る!」

録音された音声が流れると、レジェンドは再びポーズをとり、そこでステージは終了となった。



一週間後。
レジェンドの安全週間は、特に大きな出来事もなく、終わりを迎えようとしていた。
レジェンドが街をパトロールするのは、一日に二回。
朝、子供たちが登校する時間と、夜、子供たちが塾から帰る時間帯だった。

「あ、レジェンド! こんばんはー!」

自転車に乗って家路につく子供たちが、嬉しそうに手を振った。
レジェンドは手を振るだけで、言葉を発することはない。

「こんばんは。気を付けて帰るのよ」

「通訳」をするのは、レジェンドと一緒にパトロールをする女性警官の役目だった。

「ふう…。一週間、なんとか終わりそうね」

塾帰りの子供たちもいなくなり、人気のない路上で、レジェンドの付き添いを務めている女性警官、香山ヨウコはつぶやいた。

「ですねー。まあ、なんだかんだでけっこう疲れましたよ」

ゴールドスーツに身を包んだレジェンドの口から、ため息交じりの男性の声が聞こえた。

「でしょうね。見るからに暑そうだもの、それ。山本君にしては、頑張ったんじゃない」

「いや、自分にしてはって、どういう意味ですか? これでも練習したんですよ。決めポーズとか、必殺技とか。大変だったんですから」

金色にペイントされたヘルメットの目の部分は、黒いフィルムが貼られており、外からうかがうことはできない。
しかしボールレジェンドの中に入っているのは、ヨウコの後輩である男性警官、山本だった。
予算の都合で、専門のスーツアクターを雇うことができず、やむなく新人警官の山本がこの大役を任せられたのである。

「あ、そう。そんな練習もしてたの。でも、やってることはパトロールなんだから、そんな必殺技なんか使わないでしょう。その、ボールゴールドだっけ?」

「ゴールドじゃないですよ。レジェンドですよ。ボールレジェンド」

「あ、そうか。だって、見た目が金色だから。間違えるわね」

ヨウコはおかしそうに笑っていたが、ヘルメットの下で、山本の顔は引きつっていた。
ボールゴールドといえば、山本は一か月ほど前、ヨウコが開いた女子中学生向けの護身術教室で、実験台としてさんざん金玉を痛めつけられてしまっている。
その後一週間ほど股間に鈍い痛みが残っていたことを、今、思い出してしまったのだ。

「あの、先輩…。自分、来年はあの護身術教室は…」

山本が言いかけた時、ヨウコの腰に付いた警察無線に、緊急連絡が入った。

「…緊急連絡。駅東口のコンビニで、強盗事件発生。現在犯人は逃走中。付近の警察官は、至急現場に急行せよ」

駅の東口は、ここから5分ほどの場所である。
無線を聞いたヨウコの顔色が変わった。

「了解。至急、現場に向かいます」

迷わず本部に連絡をする。

「そういうことだから。私は現場に向かうわね」

「あ、自分も行きます!」

ボールレジェンドに扮した山本も、今の自分の姿を忘れてうなずいた。

「あなたが行ったって、しょうがないでしょ。無線も持ってないんだから。もうすぐ時間だから、今日はもう署に戻りなさい。そこで着替えて、待機。わかった?」

「あ、はい! 了解しました!」

ボールレジェンドが右手を上げて、敬礼した。
ヨウコはその姿に、思わずクスッと笑って、その場をあとにした。



人気のない路地裏に残されたのは、伝説のヒーローただ一人である。
遠くに見える駅の方から、パトカーのサイレンが聞こえた。
山本は、とにかくいったん署に帰るつもりだった。しかしこの一週間、ずっとヨウコに付き添われてパトロールをしてきたため、いざ一人きりになると、何か心細いものを感じてしまう。
せめてヘルメットだけでも外して、顔を出したかったのだが、テレビ局との約束で、人前で気軽に正体を明かしてはいけないことになっている。もちろん、タクシーを使ったり、ヒーローにそぐわない行動を取ることもできない。
やむなく、山本はボールレジェンド姿のまま、徒歩で警察署に向かうことにした。

「意外と走りづらいんだよな、これ…」

歩きながら、ヘルメットの下でつぶやいた。
このボールレジェンドのスーツは、体格のいい山本にとっては少し小さめだった。胸板や腕の筋肉が強調されるのはいいとしても、股間までぴっちり張り付いてしまい、一週間着続けた山本は、軽い股ずれを起こしてしまっていたのだ。
もちろん、股間の膨らみは隠しようもなく、動き方によってはその形までくっきりと浮き出てしまうため、山本は常に自分のイチモツの位置に気を遣わなくてはならなかった。

「前も見づらいし…。走れないよ、これじゃあ」

ヘルメットの構造上仕方のないことだが、夜にサングラスをかけているよりも、はるかに視界は悪かった。

「ん?」

ふと見ると、10メートルほど先の路上で、電柱の側にしゃがみ込む人影が見えた。
ここは繁華街の外れで、飲食店も多い界隈だから、酔い潰れている人も多く見かける。しゃがみ込んでいるのは、仕事帰りの若い女性らしい。
山本は状況を考えて躊躇したが、警察官としての責務を裏切るわけにもいかず、声をかけることにした。

「あー…その…。ど、どうしました?」

精いっぱい、ボールレジェンドの声を真似たつもりだった。
しゃがみこんでいた女性は、飲みすぎてしまったのか、気分が悪い様子だった。

「あ…いえ…ちょっと、気持ちが悪くて…。でも、もう大丈夫…きゃあっ!!」

乱れた髪をかき分けながら振り向くと、そこには全身金色のヘルメットをかぶった男が立っていた。
女性は思わず叫び声を上げてしまう。

「何よ、アンタ! 近寄らないで!」

「あ、いや。自分は、怪しいものではなく…」

ボールレンジャーなど知らない若い女性は、山本のことを変質者だと思ったらしい。
山本は、自分が警察官であることを言っていいものかどうか迷い、またそれをどうやって証明すればいいのかも分からず、うろたえるばかりだった。

「アンナ! どうしたの!」

山本の背後から、友人らしいスーツ姿の女性が駆け寄ってきた。
顔色から、この友人もだいぶ酔っているようで、山本はますます悪くなる状況に混乱した。

「あ、大丈夫です。自分は、この方を介抱しようとして…」

「この、ヘンタイ!」

駆け寄ってきた友人は、問答無用でボールレジェンドの股間に蹴りを入れた。
中に入っている山本にとっては、女性の腰から下は完全に死角になってしまっていて、無防備にその蹴りを受けることになってしまう。
メリッと、女性の足の甲が山本の股間にめり込んで、その膨らみを変形させた。

「はうっ!!」

絶望的な感触が山本の股間に走ると、次の瞬間には、両足から力が抜けて、両手で股間をおさえて、その場にうずくまってしまった。

「ううぅ…」

ヘルメットの下で、山本の額に冷たい汗が流れていた。
下腹部を中心として、重苦しい痛みが全身に広がり、体にまったく力が入らない。
山本は自分がヒーローであることも忘れて、ただ男としての最大の苦しみに喘ぐことしかできなかった。

「ちょっと、何よコイツ。新手の痴漢?」

「分かんない…。でも、ありがとう、ハルカ。さすが…」

伝説の勇者、ボールレジェンドを一発でノックアウトしたのがハルカで、しゃがみ込んでいたのがアンナ。二人は大学の同級生で、仕事帰りに飲みに行き、飲み過ぎたアンナが休憩しているところだったのだ。

「あれ…? でも…これって、アレじゃない? なんとかレンジャーの…」

驚きのあまり、気分の悪さも回復したアンナが、うずくまって苦しむ山本を覗き込んで、言った。

「え? …あ! もしかして、警察の安全週間のヤツ? あの、街をパトロールしてるとかいう…」

「そう、それ! なんとかレンジャーの。何だっけ…ボール? ボールレンジャー?」

「そうそう、それだよ。子供たちが言ってた。ボールレンジャーの…ボール…ゴールド…かな?」

完全に見た目だけで、ハルカは名前を決めた。
まだ酔いの醒めていない二人は、女子大生時代のような高いテンションだった。
うずくまっていた山本は、二人の会話を頭上に聞き、どうやら誤解が解けたようだと感じると、ようやくその上半身を起こした。

「ん…ああ…。そ、そうです。私は伝説の勇者、ボールレジェンド…! 街の平和を守るため、パトロールをしているのです…ん…!」

山本の下半身には、まだ痛みが残っていた。
立ち上がることもできず、正座のような姿勢で胸を張ろうとするヒーローの姿に、ハルカとアンナは、思わず吹き出してしまった。

「プッ…そうなんだ。アナタ、伝説の勇者だったんだ。アハハ!」

「ゴメンね。いきなり蹴っちゃって。やっぱり、ヒーローでもアソコは痛いんだ。アハハハハ!」

酔っぱらった女性たちは、遠慮することもなく大笑いした。
山本はその様子を見て、このままではボールレジェンドに不名誉な噂が立つと思い、また、男としてのプライドを守るために、腹を抱えて笑う女性たちの前で、立ち上がって見せることにした。

「い、いや…さっきのは、不意を突かれてしまったので…。私は伝説のヒーローですから。なんともありません…んんっ!」

膝に手を当てながら、痛みをこらえて、ゆっくりと立ち上がった。
自分ではスムーズに立ち上がったつもりでも、腰を引いて、若干内股気味になったその姿は、女性たちにとっては滑稽なものだった。

「アハハ! まだ痛そー!」

「無理しないでいいって。ハルカは空手やってたんだから。ヒーローでも、男の弱点はどうしようもないんでしょ?」

女性たちは、憐れみにも似た目で、山本を見ていた。
男の子たちにとっては強さの象徴のような戦隊ヒーローも、股間の急所を蹴られれば、ひとたまりもない。彼女たちの顔から、そんな言葉が聞こえてきそうだった。

「い、いえ! ボールレジェンドに、弱点などありません。少し、驚いてしまっただけで…。それでは、私はパトロールをしなければいけませんので…」

精いっぱいの強がりを言って、その場を立ち去ろうとした。
するとハルカとアンナは、酔って赤くなった顔を見合わせて、意味ありげに笑いあった。

「ねえ、ちょっと待って。私たちと飲んでいかない?」

「せっかく親切にしてくれたのに、失礼なことしちゃったから…。お詫びさせてもらえないかしら?」

二人は両脇から、山本の腕を掴んだ。
まさか中に入っているのが、現役の警察官であるとは夢にも思わず、酔った勢いで面白がっているようだった。



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「え? いや…私には、パトロールがありますから。そういうことは…」

「いいじゃない。ちょっとだけだから。ちょっと一杯だけ。そのマスクの下、見てみたいなー」

「ねー。ほら見て、すごい胸板。腕もたくましいし。お兄さん、細マッチョだね!」

ボールレジェンドのスーツは体に密着していて、感触がダイレクトに伝わってくる。若い女性の手で無遠慮に体を触られると、さすがに興奮を抑えきれなくなった。

「ホントだー。すごい筋肉。お兄さん、絶対イケメンでしょ。細マッチョのイケメンって、アタシ、タイプだなー」

「い、いや…。すいません。やめてください…」

動揺する山本の股間で、その肉棒がくっきりと形を現し始めている。
そして股間の盛り上がりが大きくなると、その付近はますます体に密着し、肉棒の下にある二つの卵状の膨らみまでもが、はっきりと分かるようになってしまっていた。
アンナとハルカは、チラリとその膨らみに目を落とすと、山本の視界の外で、クスクスと笑いあった。

「もう、いいから行こうよ。ほら!」

酔っ払い特有の強引さで、アンナが山本の腕を引いた。
もちろん山本の大きな体は、彼女が全力で引っ張ったところでびくともしないのだが、次の瞬間、アンナの手の甲が、緩やかな弧を描いて山本の股間を下から叩き上げた。

「はうっ!!」

完全な死角からの打撃だったため、山本には身構える余裕はなかった。
それはほんの軽い衝撃だったのだが、さきほどの蹴りで痛めつけられ、さらにボールレジェンドのスーツによってみっちりと押さえつけられた山本の睾丸は、むき出しの内臓と言ってよかった。

「あ…くくく…!!」

全身にジーンと響き渡る重苦しい痛みに、山本は思わず体をくの字にして、片手で下腹をおさえる。

「あれ? またなんか、当たっちゃった?」

「ホント? もー、アンナってば、気をつけないと」

山本の異変に気付いた女性たちは、わざとらしい調子で言った。
その口元はにやけているが、山本にはそんなことを気にする余裕はない。

「伝説のヒーローでも、ここは急所なんだから。気をつけないと。どれ、ちょっと見せて」

「い、いや…! それはちょっと…あ!」

腰を引いて痛みに耐えている山本の股間に、ハルカが手を伸ばした。
山本は体をひねって避けようとしたが、その動きは自分が思っていたよりもはるかに鈍いもので、簡単に自分の最大の急所を掴まれてしまった。

「あ! あの…ちょっと…!」

空手をやっていたというハルカの握力は強力で、何の躊躇もなく山本の膨らみを鷲掴みにして、引っ張った。自然と、山本は背中を反らして腰を前に突き出さざるを得なくなる。

「ああ、大丈夫そうだね。腫れたりしてるかと思ったけど」

「ホント? 良かった」

「は、はい…。大丈夫ですから…その…」

うれしそうな女性たちとは裏腹に、ヘルメットの下の山本は苦痛に顔をゆがめていた。
彼女たちの目からは、それを知ることはできないわけだが、子供たちが真剣にその強さに憧れている戦隊ヒーローを、若い女性が片手で苦しめているという状況に、ますますおかしみを感じていた。

「あれ? でもさ。タマは無事みたいだけど、なんかその上の方が…」

「えー? あ、ホントだ。大きくなってるー!」

今、気がついたかのように、女性たちは黄色い声を上げた。

「あ! い、いや…これは違って…その…」

「もー! お兄さん、いやらしいなあ。何考えてるの?」

「ヒーローがこんなことして、いいんですかあ? 子供たちは、ガッカリするだろうなあ」

痛みに苦しむ山本の顔から、血の気が引いていった。
もし、彼女たちがこの状況をネットなどに公開すれば、どうなるか。
股間を膨らませたヒーローが、夜の街で女性たちと戯れていたとでも書かれれば、すぐさまその情報は拡散されるだろう。
ボールレンジャーというヒーローのイメージダウンだけならまだしも、その中身が実は現役の警察官だったと知れれば、自分は懲罰ものではないだろうか。
決して大げさではないさまざまな想像が、山本の頭を駆け巡った。

「まあ、ヒーローも男だってことだねー。フフフ…」

笑いながら、ハルカは山本の二つの睾丸を揉み続け、さらには指の端でその肉棒をも軽く弄んでいた。
絶体絶命の危機に陥っているはずの山本も、この指使いのせいで、興奮を鎮めることができないでいた。

「ねえ、お兄さん。ボールゴールドだっけ? 私たち、こう見えて先生なんですよ。私は小学校で、ハルカは中学の先生。ボールゴールドに会ったこと、生徒たちに話してもいいですか?」

ハルカの握力から必死に逃れようとして、それができないでいる山本を見て、アンナは笑いをおさえきれずに、クスクスと笑っていた。

「い、いいえ! いいえ! やめてください! このことは、誰にも…! ホントに、お願いします!」

山本は、自分の想像が悪い形で的中してしまったと思い、必死の思いで首を振った。
そこにはもはや、伝説の勇者だとかヒーローだとかのプライドは何もなく、ただ文字通り女性に弱みを握られた男の素の姿があった。
一方の女性たちは、自分たちが思っていた以上に相手が必死なのを見て、またよからぬことを考えてしまったらしい。

「えー? 伝説のヒーローが、お願いしますだって?」

「ふーん。…じゃあね、私たちとヒーローごっこしてくれたら、黙っててあげる」

少し考えてから、ハルカはそんなことを言った。

「…ヒーローごっこ?」

「そう。せっかく本物のヒーローに会えたんだから、ヒーローごっこしてみたいなあ。ほら。こうやって、私が後ろに回るから…」

そう言うと、ハルカは山本の股間から手を離し、背後に回り込んで、両脇を抱えて羽交い絞めにした。

「え…? これは…?」

山本はまだ状況を掴めずにいたが、かといって今まで握られていた股間の痛みのために、体に力が入らなかった。

「それで、私が仲間にこう言うから。今だ! 私がおさえているから、やっつけろ! ってね?」

ハルカが山本の肩越しに叫ぶ様子を見て、ようやくアンナもうなずいた。

「あー、そういうことね。テレビでよく見るヤツだ。そこで、私の出番ってわけね。はーい、わかりました」

「そうそう。じゃあ、いくよ?」

「え? あの、ちょっと…」

アンナとハルカは納得したようだったが、山本はまだ訳が分からなかった。
しかし女性たちは、勝手に話を進めていく。

「いまだ、アンナ! 私に気にせず、コイツをやっつけて!」

「ええ! そんな…。私、どうすれば…」

「いいから早く! 私のことは気にせずに!」

彼女たちの間では、すでにこのヒーローごっこの結末が決まっているような様子だったが、山本には何のことかいまだに分からない。
しかし山本の両腕は、後ろからしっかりと羽交い絞めにされていて、さらに気がつかないうちに、ハルカの両脚が山本の脚の間に入り、その股間を大きく開かせていた。

「…よし! 分かった! いくよ!」

「え? いや…あの…?」

大きくうなずいて、決意した表情のアンナを見て、山本は不安を感じた。

「必殺! ゴールドボールクラッシュ!!」

掛け声とともに、アンナの右足が山本の股間に向かって、大きく振り上げられた。
空手をやっていたというハルカに比べれば、かなり素人じみた蹴りだったが、足の甲のあたりにぐにっとした質量を感じたアンナは、そのままそれを躊躇なく、股間に押し込むようにして蹴り上げた。

「はあっ!!」

ぞわっとした寒気のようなものが、山本の腰骨から背筋にかけて走った。
激しすぎる衝撃を股間に受けたときは、いつもそうだ。まず、男としての生命の危機を知らせるような危険信号が、背筋を走り抜けて脳に至る。
そしてその数瞬後に、男として命の次に守らなくてはならない大切な急所を、守りきれなかった天罰のような痛みが訪れる。

「あ…かあっ…!!」

プライドの喪失、遺伝子の否定、オスとしての存在失格。さまざまな屈辱的要素を孕んだその痛みは、同時にそれらのすべてを引き換えにしてでも避けたくなる、圧倒的すぎる痛みだった。

「やったー! 倒したぞー!」

「イエーイ!」

自分でも気づかぬうちに、その場にしゃがんでうずくまってしまった山本を見て、アンナとハルカは嬉しそうにハイタッチした。
おそらくアンナの蹴りのつま先が、ハルカのパンツスーツの股間にも多少の衝撃を与えたはずだったが、当然ながら彼女はそんなことを気にする様子もなかった。

「あー、スッキリした。蹴るときに、あのセクハラ教頭の顔が浮かんだもん」

「ああ、たぶん、そうだろうなと思った。目が本気だったもんね。ていうか、ゴールドボールクラッシャーって何? ウケるんだけど」

「ああ、別に。意味はないんだけど。なんか、必殺技って言った方が、ヒーローごっこっぽいかなって思ってさ。ゴールドボールをやっつけるから、クラッシャーで…あれ? この人、ボールゴールドだっけ?

二人の酔いはまだ醒めてはいないようで、本人たちも何を言っているのかわからなくなりそうだった。
山本は彼女たちの足元で、ヘルメットの下で荒い息をしながら、体を小刻みに震わせている。
すでに股間の勃起はおさまっていたが、しゃがみこんだことで、ボールレジェンドのスーツは相変わらず彼の股間を圧迫し続けている。
もはや何もかも忘れて、すぐにでもスーツを脱ぎ捨てたい所だったが、指一本動かすことすら、今の山本にとっては苦痛だった。

「どっちでもいいよ。とりあえず、アンナが蹴ったのはゴールドボールでしょ。ねえ、お兄さん。ありがとね。楽しかったし、また今度飲みに行こう?」

「そうそう。今度は、ホントに飲みに行こうよ。アタシ、細マッチョの人大好きだから」

苦しむ山本は返事をするどころではないが、彼女たちにはそんなことは分からない様子だった。

「でも、今度はその格好で来たらダメだよ。その服見てると、なんか大事な所を蹴りたくなっちゃうから」

「あー、分かる。なんかもっこりしてると、握りたくなるよね。ギューって」

「そうそう。不思議だよねー。蹴った時の感触も、ブルンってして、気持ちよくない?」

「うんうん。分かるー」

女性たちは山本を介抱する気も無いようで、笑いながらその場を離れて行った。
山本が何とか立てるまでに回復したのは、それから30分も後のことで、さらに一時間かけて、子供たちの憧れである伝説の勇者は、よろよろと内股になって歩きながら、警察署までたどり着いたのだった。


終わり。



山本が何とかたどり着いた警察署には、すでに女性警官のヨウコが戻っていた。
強盗事件は案外早く解決したらしい。
いつまでも戻ってこない山本を心配して、待っていたようだった。

「ちょっと山本君。何かあったの? ぜんぜん戻ってこないから、心配したわよ」

「あ! いや…あの…それがですね…」

まだじんわりとした痛みが残る下腹部をおさえながら、山本は説明した。

「変質者に間違われた? そう。まあ確かに、若い女の子は、ヒーローなんて知らないかもね。それで? ずっと説明してたの?」

「いや…それがですね…。その…自分が…蹴られてしまって…それで…」

「蹴られた? 何が?」

「いや…あの…かなり痛い所を…蹴られてしまって…」

「かなり痛い所? なにそれ? …ああ、アナタの金玉を蹴られたってこと?」

「いや…まあ…はい。…そうです」

恥ずかしそうに、申し訳なさそうにうつむく山本だったが、ヨウコは思わず吹き出してしまった。

「なに? それじゃあ、ボールゴールドの格好した山本君が、自分の金玉を女の子に蹴られて、ずっと苦しんでたってわけ? 道端で?」

「あの…ボール…レジェンドです…」

か細い声で訂正したが、ヨウコの耳には届かなかった。

「もー、アナタって人は、ホントに情けないわね。この間の護身術教室の時も、中学生に蹴られたくらいで、ずっとグジグジ言ってたし。それでも警察官なの? 男なの?」

男だから痛いんだということを、ヨウコにいくら言っても理解されそうになかったので、山本はただうつむいていた。
ヨウコはその様子を見て、大きなため息をついた。

「分かったわ、山本君。来週、女性警官が集まってやる、逮捕術の訓練会があるから、アナタもそれに来なさい」

「え?」

山本は思わず顔を上げた。

「そこでちょっと、アナタのことを鍛えなおしてあげるから。これは命令よ。分かったわね?」

「は、はい…。あ、いや…女性警官の逮捕術ってことは…あの…」

思わず返事をしてしまったが、わざわざ女性たちが集まってやっている訓練に、自分のような男が呼ばれるということは、悪い予感しかしない。

「よし、決まりね。なんなら、その格好で来てもいいわよ。そっちの方が、はっきりしてて狙いやすいみたいだから」

ヨウコの言葉が何を意味しているのか、山本にはもうよく分かっていた。
山本の股間から痛みがとれる日は、しばらくは来そうになかった。


終わり。


日本には八百万の神がいるといわれているが、中には変わった神様もいるらしい。神様が考えることは、人間にはすぐに理解できなくても、そこには必ず意味があり、時としてそれを実感できることもあるのかもしれなかった。




中根マドカは25歳で、とある大学の図書館の司書をしていた。小さいころから読書が好きで、望んでこの仕事に就いた彼女は、まさしく本の虫といった外見をしている。
清潔感はあるが、飾り気のない真っ白なワイシャツ。その上からカーキ色の地味なエプロンをつけ、袖にはいつも黒い腕抜きをしている。
最後に化粧らしいことをしたのは、成人式で写真を撮ったときらしい。太いセルフレームの黒縁メガネの奥で、いつも伏し目がちな目がキョロキョロとしている。
唯一女性らしい気づかいといえば、長く伸ばした黒髪だったが、それも仕事中は邪魔にならないよう、何の色気もなく頭の上に束ねられていた。
とにかく本さえ読んでいられれば幸せというマドカの生活は、極めて平凡で規則的なものだった。しかしあるとき、その歯車は狂い始めるのである。


月曜の朝。
仕事場に向かう途中の交差点で、マドカは信号待ちをしていた。
今日は朝からどんよりと曇っており、今にも雨が降り出しそうな天気だった。

(…あれ?)

ポツリ、と頭に雨粒が降ってきたような気がして、思わず顔を上げた。
準備のいいマドカは、その鞄にいつも折り畳み傘を入れている。念のためにそれを取り出して、いつでも開けるように、左手に持って歩こうとした。
やがて信号が変わり、歩き出そうとしたその時。

「ぐえっ!」

マドカのすぐ後ろで、こもったうなり声がした。
驚いて振り向くと、そこにはサラリーマン風の男性が立っており、背中を丸めて、内股になって震えている。
よく見ると、その両手は股間をおさえているようだった。

「え…? あの…」

マドカはついさっき、歩き出そうとした瞬間、大きく降り出した左手の折り畳み傘が、何かに当たったような感触がしたのを思い出した。
それが、この男性に当たってしまったのだろうか。

「大丈夫ですか…? ごめんなさい…私が…その…えっと…」

30代くらいのサラリーマン風の男性は、身じろぎもせず、つま先立ちになって、股間と下腹をおさえていた。
マドカが振り回した傘の先端は、男性の股間に斜め下からクリーンヒットしてしまったらしい。そこには当然、男の最大の急所がある。
しかし、生まれてこの方男性と付き合った経験もないマドカには、このサラリーマンの身に一体何が起こっているのか、すぐには理解できなかった。

「あの…大丈夫ですか? どこが痛いんですか…?」

男性はようやく顔を上げて、心配そうに覗き込むマドカに答えた。

「い、いや…まあ…その…大丈夫ですから…。ちょっと休めば…」

マドカの傘が股間に当たったことが、故意ではないと分かっていたから、男性も耐えることしかできなかった。

「そうですか…? あ…じゃあ、私、行きますね。すいませんでした」

交差点の向こう側から渡ってきた人たちも、怪訝そうに男性とマドカのことを見ていた。
青信号が点滅をし始めたのを見て、マドカは慌てて交差点を渡った。

(変なの…。ちょっと傘が当たっただけだと思ったけど…。それくらいであんなに…。あ!)

歩きながら、男性がその手でどこをおさえていたかを思い出し、マドカはやっと理解した。
交差点を渡り終えたところで振り向くと、男性は相変わらず内股の状態で、近くの電柱に体を寄せて休んでいた。
その痛ましい姿を見て、自分が男性のどこに傘を当ててしまったのかを確信すると、マドカは顔を真っ赤にして、足早に歩き去るのだった。




朝から妙なことがあったが、マドカの仕事はいつもと変わらぬものだった。
この図書館には30万冊以上の蔵書があり、司書の仕事は貸出だけでなく、その整理や管理もしなければならない。
一日中、パソコンと向かい合っていることも珍しくなかったので、マドカは常々、肩こりに悩まされていた。

「ふう…」

午前中の業務がひと段落したところで、マドカは一息つき、椅子に座ったまま、肩の体操を始めた。
腕抜きをした細い手を、前後左右に動かして、肩を回す。
背筋を伸ばしてのびをすると、華奢な体格に似合わない胸が、ワイシャツを膨らませた。もちろん、真夏でも下にTシャツを着ているから、下着が透けるようなことはない。

「中根さん」

「はい!」

この職場で唯一の男性である、主任の来島がマドカのことを呼んだ。
完全にリラックスモードに入っていたマドカは、驚いて振り向いた。

「あうっ!」

主任の来島は、マドカが思っていたより近くに立っていた。
体操をしていた勢いで振り向くと、マドカの腕はそのまま無防備な来島の股間に打ち込まれることになってしまった。
ぐにっと、生暖かい感触を、マドカはその左こぶしに感じた。

「う…! ううぅ…」

来島は手に持っていた書類を落とし、その場にしゃがみこんでしまった。

「あ! 主任! 大丈夫ですか?」

今回は、マドカにも自分が何をしてしまったのか、すぐに理解できた。
慌てて来島を介抱しようとするが、どうしたらいいのかよく分からない。
遠心力のついていたマドカの腕のスピードは、案外強烈で、来島は下腹から湧き上がってくる途方もない痛みに、脂汗をかいて唸ることしかできなかった。

「何? どうしたの?」

「主任?」

床にうずくまる来島の様子に異変を感じ、同僚たちも集まってきた。
しかし、この職場には男性は来島しかおらず、その苦しみを理解できるものは誰ひとりいなかった。

「どうしたの? 中根さん?」

職場の最年長で、この図書館に数十年務めているという久保田ヒロコが声をかけた。

「あ、あの…私が主任に呼ばれて振り向いたときに…その…手が主任に当たってしまって…」

どこに当たってしまったのかまでは、マドカには言いきれなかった。

「手が当たったって…お腹とかに?」

「いえ…あの…その…。たぶん…急所…だと思います…」

再び顔を赤くしながら、か細い声でようやく言えた。
女性たちはそれを聞くと、一瞬、きょとんとした表情になったが、やがて一斉に吹き出してしまった。

「プッ…フフフ! ああ、そう。急所に当たったのね。それは災難ね。フフフ…」

「は、はい…」

来島よりはるかに年上のヒロコだからこそ、遠慮なく笑えるが、マドカは申し訳なさそうにうつむき、その他の若い女性たちも、上司の手前、笑いをかみ殺しているような状態だった。
女性たちに囲まれて、急所の痛みにしゃがみこんでしまっている来島にとっては、それは何より恥ずかしいことだった。

「まあ、これは時間が経つのを待つしかないわね。ちょっと当たっただけなんでしょ? すぐによくなるわよ」

「そ、そうなんですか? 主任、すいません…」

マドカは心から謝っているつもりだったが、痛がっている顔を覗き込まれると、来島は目を背けたくなるほど屈辱的な気分になった。

「腰を叩いてあげなさい。そうすると、いいらしいわよ」

「え? 腰ですか…? は、はい。…この辺ですか?」

うずくまっている来島の腰を、マドカはためらいがちに手で叩いてやった。
来島は、おそらく自分がとてつもなく情けない姿になっていることを自覚していたが、マドカの柔らかい手が自分の腰を叩くと、確かに痛みが和らぐような気がした。

「あ…ああ…」

思わず声が出てしまう。
それを聞いた同僚の女性たちは、さらに笑いをこらえなければならなかった。




「はあ…」

昼休み、大学の食堂に向かうマドカの足取りは重かった。
何か今日は、妙なことばかり起きてしまう。
生活ができるだけの仕事をして、あとは読書さえできればいいという彼女の平凡な人生には、起こるべからざるハプニングの連続だった。
なるべく考えないようにしようと思い、いつも通り文庫本を片手に、キャンパスを歩いていた。

「すいませーん。ボール、投げてくださーい」

ふと気がつくと、マドカの足元に野球のボールが転がってきていた。
顔を上げると、グラウンドの方から、野球部らしい学生が声をかけている。
マドカには野球の経験などはなく、きちんとボールを投げられるかさえ怪しいものだったが、なんとなく気晴らしになればと、慣れないことをしてみようとした。

「はーい。そーれ!」

足元のボールを拾うと、ぎこちない動作で、学生に向かって投げた。
そのボールは思ったよりも高く上がり、いつの間にか晴れ間が見えていた空に向かって、野球部の学生は目を向けた。

「あっ!」

突然、雲の隙間から差し込んだ光に、学生は目を細めた。
ボールを見失ったと思った次の瞬間。

コーン!

と、キャンパスの石畳にボールが跳ねて、そのまま吸い込まれるようにして、学生の股間に直撃した。

「あぐっ!」

マドカの奇跡的な投球だった。
視聴者投稿の珍場面動画でもあれば、グランプリも夢ではないほどの驚きの出来事だった。

「あ…ああぁ…!」

しかし、野球の硬球が股間を直撃した学生の方はそれどころではなく、苦しそうに股間を両手でおさえながら、その場にうずくまってしまった。

「……!!」

マドカは、ボールを投げた時の姿勢のまま、何が起こったのかを理解して、固まってしまった。
やがて額に冷たい汗が流れるのを感じると、そそくさとその場を立ち去り、苦しむ学生を振り返ろうともしなかった。




(おかしい。何か、絶対におかしい…。こんなことって、あるはずがない…)

さすがのマドカも、自分の身の周りに何かが起きていることを感じずにはいられなかった。
普段、仕事以外ではまったくと言っていいほど男性との関わりがない彼女が、今朝からすでに3人もの男をノックアウトしてしまっている。しかもそのすべてが、股間の急所攻撃によるものだ。
男の体の中で最も男性的なその部分を、日頃まったく意識したことのないマドカにとっては、それはひどく恥ずかしいことに思えてしまい、偶然とは思えない一連の出来事の原因を探ろうと、懸命に考えるのだった。

(最近、何か変わったことって…)

極めて規則的で日常的な自分の生活の中から、何か特異点のようなものがなかったかどうか、思い出してみる。
ふと、何か思いついたように鞄の中を探り、何かを取り出した。
その手の中には、古びた人形のようなものが握られている。

(もしかして、これ…?)

それは旅行好きな彼女の祖母が、九州の土産にくれたもので、現地の骨董品市で見つけたお守りだった。
黒光りする石でできたそのお守りは、埴輪のような女性神が、丸い球の上に乗った形をしている。
九州の遺跡から発掘されそうなそのお守りを、マドカは一目見て気に入ってしまったのだが、その効果について祖母に尋ねてみると、

「金運とかなんとか言ってたような気がするね」

という、あいまいな返事が返ってきた。
どうやら祖母も、その形だけを気に入って、お土産にしたものらしかった。

(まさか…ね…)

マドカの最近の日常の中で、変わったことといえば、この程度のことだったのだが、まさかこのお守りのせいで男性をノックアウトするはめになっているとは思えなかった。

(でも、他には何にも…)

お守りを鞄にしまって、再び考えようとしたとき、背後から声をかけられた。

「あれ? 何か落としましたよ」

振り返ると、つい今しがたすれ違った男子学生が、石畳の上を覗き込んでいる。
そこには、さっき鞄にしまったと思っていたマドカのお守りが落ちており、学生は親切に身をかがめて、拾おうとしてくれているところだった。

「あ! す、すいません!」

何の証拠もないが、なぜか男性がそのお守りに触れることが、とてもまずいような気がして、マドカは慌てて駆け寄り、自分で拾おうとした。
すると、焦って石畳につまづき、前のめりによろけてしまう。

「あっ! っと!」

ズン!

と、マドカの頭のてっぺんに、何か柔らかいものがぶつかった感触があった。
前のめりに転びそうになった彼女と、腰をかがめてお守りを拾おうとした男子学生。二人がちょうどぶつかり合う瞬間、またしても奇跡が起きた。

「ぐえっ!!」

男子学生は、何かスポーツでもしているのか、かなりたくましい体つきをしていた。
しかし、そんな彼の厚い胸板やスリムな腹筋の下に、どうしても鍛えられない脆い一点があり、マドカの頭は、ちょうどそこに直撃してしまったのだ。

「くうぅぅ…」

マドカにとっては、もはや見慣れた光景になっていた。
その男子学生は、朝のサラリーマンや主任の来島とまったく同じように、痛そうに目をつぶり、両手で股間をおさえて内股になってしまう。

「あ…ああ! す、すいません! すいません…」

またしてもやってしまったと思った。
一体なぜ、今日に限ってこんなことが連続して起きるのか。マドカにはさっぱり意味が分からなかったが、とりあえず落ちていたお守りを拾って、尻を突き出して苦しんでいる学生の腰を叩いてやることにした。

「あの…痛いですよね…。分かってます…。すいません、ホントに…」

「あ…うぅ…」

学生はまだ声もろくに出せないようで、かわいそうなくらい必死に、両手で股間をおさえている。
大きな体をした学生が背中を丸めて苦しみ、小柄なマドカが腰をさすっている様子は、一見して転んだ子供を母親が慰めているようで、道行く学生たちの目を引くのだった。




昼休みの後は、とりあえず何事も起こらなかった。
マドカが注意して、男性に近づかないようにしているおかげだったのだろう。
それでも昼食を終えた後、図書館に戻った時は気まずかった。

「…中根さん…?」

いつもよりもだいぶ控えめな声で、来島が中根を呼んだ。

「はい?」

マドカが振り向くと、普段よりちょっと離れた場所に、来島が立っている。
しかもマドカが振り向いた瞬間、来島はビクッとして、その左手を股間に当ててしまった。

「こ、これを…打ち込んでおいて…」

マドカに近づかないように、精いっぱい手を伸ばして書類を渡すと、すぐに自分の机に戻っていった。
マドカはきょとんとした表情で書類を受け取り、その様子を後ろから見ていたヒロコが、クスクスと笑っていた。




しかし、マドカが油断したからというわけではないが、奇妙な出来事はまだ終わらなかった。
彼女の読書以外の唯一の趣味が水泳で、週に一回、スポーツジムのプールに通っていた。
といっても、人と触れ合うことが苦手な彼女は、泳ぎを習うというわけでもなく、自分のペースで、好きなように泳いでいくだけだったのだが。

(はあ…。今日はなんか、疲れたな…)

ゆっくりと平泳ぎをしながら、考え事をするのが彼女の習慣だった。
いつもは読んでいる小説の続きを想像したりするのだが、今日ばかりは違うことを考えてしまう。

(なんであんなに…股間ばっかり当たっちゃうんだろう…。今まで一度もそんなことなかったのに…)

兄妹もおらず、男性と交際したこともない彼女は、男の股間についている性器については、学校の保健体育くらいの知識しかなかった。
しかし、そこが男の急所であり、絶対に鍛えられない場所であるということは、もちろん知っている。

(テレビで見たことはあるけど、ホントにあんな風に痛がるんだ…。あんまり強く当たったとは思わなかったけど…。偶然当たっても、あんなことになるなんて。男の人って、大変なんだな…)

ゆっくりと数キロ泳いだ後、マドカはプールサイドに上がった。
逆にどこで売っているのかと思うくらい、地味で飾り気のないワンピースの水着から、水が滴っている。
肩で息をしながら、プールサイドを歩いていると、このスポーツジムのインストラクターが声をかけてきた。

「やあ、中根さん。こんばんは」

「あ、こんばんは…」

たしか木村とかそういう名前だったと、マドカは思い出していた。
マドカは彼のレッスンを受けているわけではなかったが、すでにこのジムに通って2年ほどになるため、顔見知りになっている。

(……)

普段は気にもしなかったが、インストラクターの木村が着ている水着は、ピチピチの競泳水着だった。
その股間には当然、男性を象徴する膨らみがもっこりと盛り上がっており、しかもプールから上がったばかりなのか、濡れてツヤツヤと光っている。
今日、あんなことがあっただけに、マドカは思わずその膨らみを凝視してしまった。

(この人も、アソコにぶつけられたら、痛がってしゃがみこんじゃうのかな…)

真っ黒く日焼けした木村の肉体は、ボディビルダーと見紛うほどに精悍なものだったが、今、マドカの関心はその六つに割れた腹筋ではなく、その下の膨らみだった。

「……?」

木村は、普段のマドカにはない雰囲気を感じ取ったが、かといって自分の股間が注目されているとは思わなかった。
やがて、マドカが木村の前を通り過ぎようとしたとき、プールサイドの水に足を滑らせて、よろけてしまった。

「あっ!」

こういう時、人間はとっさにその場にあるものを掴もうとする習性がある。
マドカはその習性通り、一番近くにあった一番掴みやすいものを、その手に握ってしまった。

「ぎゃあっ!!」

なんとか尻もちをつくだけで済んだマドカの耳に、カエルの鳴くような悲鳴が飛び込んできた。
ふと見上げると、マドカはその左手で、木村の股間の膨らみをしっかりと握りしめてしまっている。

「あ! やだっ!」

自分がしでかしたことを理解して、マドカは木村の股間からすぐに手を離した。
一瞬だが、マドカの全体重が、木村の股間にかかってしまったことになるだろう。
木村はすぐさま股間に手を当てて、そのまま座り込んでしまった。

「う…ぐぅぅ…!」

じわりじわりと、木村の股間から痛みが広がり始めていた。
握られた瞬間も痛かっただろうが、それとは別の内臓を捻るような痛みが、これから数十分、彼の肉体を支配するのだ。

「あの…すいません! ホントにごめんなさい…」

マドカの必死の謝罪も、木村の耳には届かなかった。
やがて他のインストラクターが異変に気づき、二人の周りに集まってきた。

「どうしたんですか? 木村さん!」

声をかけられても、木村はただ苦しそうに呻くだけだった。
仕方がないので、マドカが状況を説明しなければならない。

「あの…私が転びそうになって…つい…掴んでしまったんです…木村さんを…」

「ええ? 掴んだ? え…と…それは…」

「その…あの…股間を…」

やっとの思いで、マドカはそれを口にすることができた。
それを聞いた男性のインストラクターは、苦しむ木村の様子を見て、何も言えなくなってしまった。
一方、ジャージ姿の女性のインストラクターは、一瞬、眉をひそめて怪訝そうな顔をした後、理解したのか、急に吹き出してしまった。

「プッ…ククク…。あ、ごめんなさい…。ククク…」

懸命に笑いをこらえている様子だった。それを見て、女性であるマドカも、少し救われた気分になる。
一方の男性インストラクターは、女性が笑うのを苦々しそうに見ていたが、すぐに気を取り直して、立ち上がった。

「俺、担架を取ってきます。とりあえず、医務室に運びましょう」

返事を待たずに、男性インストラクターは駆けて行った。
ジャージ姿の女性は、なおも笑いをこらえているようだった。

「それはその…けっこう強めに掴んじゃったんですか? フフフ…」

「え? あ、はい…。たぶん…」

まだ手に残っている木村の股間の感触を確かめるように、マドカは自分の左手を見た。
その様子が、またしても女性インストラクターの笑いを誘うのだった。





木村は医務室に運ばれて、診察を受けた。幸いにも、急所が潰れたりしたわけではないということで、それを聞いたマドカは、ホッと胸を撫で下ろした。
しかし木村は、今日は自力で帰ることは難しいということで、同僚に付き添われながら、ジムに用意してある車いすに乗って帰って行った。

「はあ…」

マドカはジムを出た後で、何回目かのため息をついた。
今日一日の彼女に起こった出来事を考えれば、それもしょうがないことだろう。
一体、何が原因でこんなことが起こっているのか。自分は25年間の人生で、男性の股間を直接見たことすらないというのに、水着ごしとはいえ、握りしめてしまったのだ。
もう、何も考えたくない。とにかく家に帰って、ゆっくりと休みたいというのが、マドカの心からの願いだった。

ジムからマドカの自宅までは、徒歩で15分ほどだった。昔からある住宅地の中の一軒家で、そこに両親と暮らしていた。
子供のころから歩きなれた道だったから、多少暗くて人通りが少なくても、不安に思うことはない。そこに、マドカの油断があった。

「きゃっ!!」

小さな公園の前を通り過ぎようとしたときに、突然、背後から抱きしめられた。
叫び声を上げようとしたが、すぐに口を布のようなものでおさえられてしまい、声が出せない。

「ハア…ハア…!」

抱きしめたのは、どうやら男性のようで、マドカの耳元で荒い息をしていた。
マドカは突然のことに驚き、パニックになってしまい、必死で身をよじって男の腕を振りほどこうとした。
しかし男の力は強く、逆に小柄なマドカを抱きかかえるようにして、公園の中に連れ込んでしまった。

「し、静かにしろ…!」

公園の中には小さな公衆トイレがあり、その陰の暗闇の中に、男はマドカを引きずり込んだ。

「暴れなければ、放してやる…!」

小さいが、腹の底から絞り出すような、不気味な鬼気迫る男の声だった。
マドカは心底恐怖してしまい、男の言うことに従うわけではなかったが、その体から力が抜けてしまった。
すると男は、マドカを締め付けていた両腕を放してやり、彼女の目の前に姿を現した。

「…お、俺のこと…覚えてるか…?」

トイレの壁に体を押し付けられ、なおも口を布のようなもので塞がれていたマドカは、涙目になりながら男の顔を見た。
その顔は、帽子とマスクで半分以上覆われていたが、その特徴的な細い目に、見覚えがあった。

「へ…へへ…。そうそう。ずっと、アンタのこと見てたんだからな。忘れないでくれよ」

その男は、大学の図書館で良く見かける学生だった。
毎日のように本を借りに来るその男に、多少の違和感は感じていたものの、まさか自分のことを見ていたとは、マドカは夢にも思わなかった。

「いつも…本に手紙を挟んでたのに…。アンタは気づかなかった…。なんで…なんでだよ!」

血走ったその目は、暗い怒りに満ち溢れていた。
そんなこと、マドカは気がつかなかった。彼女はいつも機械的に、返却された本を元の棚にしまうだけだった。
しかしもし気がついていたとしても、マドカがその手紙に返事をすることはなかっただろうが。

「もういいよ…。アンタも俺のこと、馬鹿にしてるんだろ…。もういいから…。もういいから、全部終わりにするよ!」

まったく支離滅裂な男の言葉だったが、マドカには彼が何をしようとしているのか分かった。
必死でこの場から逃げ出す方法を考えたが、パニックになり、頭が回らない。叫び声を上げようとしても、口は塞がれたままで、何より恐怖で声も出ないし、指一本動かせる気がしなかった。

「アンタが悪いんだからな…。アンタが…」

男はブツブツとつぶやいて、マドカのワイシャツに手をかけた。
その拍子に、マドカが肩にかけていた鞄が地面に落ち、中の荷物がこぼれた。
男はそんなことにも気がつかない様子だったが、マドカがふと目を落とすと、そこにはあのお守りが転がっていた。
女性をかたどった埴輪が、丸い球の上に乗っているあのお守りである。

(……!!)

マドカの頭の中で、何かが弾けた。

(この人も…男なんだから…!)

そう思うのと、体が動くのが、ほとんど同時だった。
男の両脚は、無防備に大きく開かれており、マドカは思い切ってその股間に右膝を振り上げたのだ。

「うっ!?」

男の目が一瞬、大きく見開かれた。
男自身にも、何が起こったのかよく分からない様子だった。その手は今にもマドカのワイシャツを脱がしてしまいそうなところまできていたが、その動きがぴたりと止まる。
まったくの当てずっぽうで振り上げられたマドカの膝は、男の急所にクリーンヒットこそしなかったが、その動きを止めるには十分な威力だった。

(えい! えい!)

マドカは続けて二発、同じように男の股間を蹴り上げた。

「あ…! んん…」

男はあるいは、興奮のあまり、痛みに鈍くなっているのかもしれなかった。
三発目の急所蹴りをくらったとき、ようやくマドカの体から手を離し、自分の股間をかばうような仕草を見せた。
しかし、マドカは油断しなかった。
ダメージが少ないと見るや、少し体を丸め始めた男の股間に素早く右手を伸ばし、ジャージに包まれたその両脚の付け根にある物体を掴んだのである。

「うわあっ!!」

自らの最大の急所を掴まれて、ようやく男は状況を理解した。
彼の股間にある男性の象徴は、少し前までその先端でジャージの前を押し上げていたが、今はその付け根の最も弱い部分が、マドカの右手に掴まれてしまっている。

「んんーっ!!」

マドカは何も考えず、伸ばした右手に当たった小さな丸い物体を、全力で握りしめた。
数時間前、ジムで掴んだ木村の股間の感触は、まだ覚えている。男の反応を見る余裕はなかったが、握りしめるうちに、これが男の最大の急所だと、マドカは確信した。

「ぎゃあっ!! ああっあ…!!」

男はまず、肺の中の空気をすべて吐き出すように、大口を開けて叫んだ。
しかしその後は、痛みに呼吸も忘れてしまったらしい。爪を立てて急所を握るマドカの手を振りほどこうとしても、まったく体が動かなかった。
一方のマドカの握力も、限界が近づいていた。
マドカには男の痛みがどれほどのものか分からなかったが、今自分が握っている小さな玉を離してしまえば、また男が襲い掛かってくると思った。
それならばいっそ、潰してしまわなければいけない。この小さな玉が、男の欲望の源なんだということを、マドカは本能で悟っていた。

「えい! えい! えーい!!」

気合を込めて、三度、全体重をかけるようにして握りしめた。
最後に握りしめたとき、マドカの手の中から、男の丸い玉が消えてなくなったようだった。

「ぐ…ぐえーっ!!」

ヒキガエルのような声を上げて、男の口から細かい泡が噴き出てきた。
その瞬間、痛みで硬直しきっていた男の体から力が抜け、糸が切れた人形のように地面に倒れてしまった。

「ハア…ハア…」

それはほんの数十秒間のことだったが、マドカにとっては途方もなく長い時間に思えた。歯を食いしばり、かつてないほど全力で握りしめたその右手には、もはや感覚がない。
ふと我に返ると、急いで乱れたワイシャツを直し、地面に落ちていた鞄を拾い上げた。そしてその傍らに落ちていたあのお守りを握りしめると、わき目もふらずに家に向かって走って行ったのだった。




自宅に戻ったマドカは両親に男のことを話し、両親はすぐさま警察に通報した。
警察によれば、公園の公衆トイレの陰で男が一人、気絶しており、それはやはりマドカの勤めている大学の学生だった。
男はマドカを襲った事実を認め、逮捕された。その睾丸は潰れてはいなかったものの、その一歩手前の睾丸損傷ということで、しばらく入院したのち、拘置所に移送されるということだった。
大学は男を退学処分にし、マドカの身に危険が及ぶことはなくなった。
マドカの周りに、ようやく日常が戻ってきたのであった。

(……)

しかしマドカは、祖母のくれたあのお守りを見ながら、しみじみと考えるのである。

(あの日、男の人の股間にあんなに関わってなかったら、蹴ろうなんて思わなかったな…。そして、あのときこのお守りがバッグから落ちなければ、思いつかなかったかも…。やっぱり、これって…)

確かにそのお守りは、マドカの命の恩人といっても良かった。そして、マドカが偶然だと思っていた一連の出来事が、もしそうではなかったとしたら…。

(おばあちゃんは金運のお守りって言ってたけど、そうじゃない…。金運…金…金っていったら…)

「中根さん。中根さん!」

考え事に集中して、主任の来島が呼んでいることに気がつかなかった。

「は、はい!」

慌てて返事をして、お守りを握りしめたまま振り向く。

グシャッ!

と、来島の股間に、マドカのお守りがめり込む音がした。
そのお守りの女神は、丸い球の上に乗ったまま、来島の玉も踏みつけたようだった。

「ぐ…あ…!」

再び来島は、男の最大の苦しみに喘ぐことになる。

「あ…! 主任! また…。ご、ごめんなさい…!」

マドカの必死に謝る声も、来島には届かない様子だった。



終わり。




通勤時間帯を少しずれても、この路線の電車は混んでいる。
体の自由がきかないほどではなかったが、ときには知らない人間と体を密着させなくてはならないこともあった。

「……!」

高校2年になる山下ユイは、電車のドアのすぐ側に立ち、窓の外の流れる景色を見ていたが、ふと体を硬直させた。
自分のすぐ後ろに、サラリーマン風の中年男性が立っていることに、気がついたからである。

(どうしよう…)

男性は、ユイより頭一つほど身長が高いようだったが、混んでいる車内のことで、ユイの肩に触れんばかりの近さまで密着している。
次の停車駅まではしばらくあり、ドアと男性に挟まれて、ユイは身動きが取れない状態だった。

(ダメ…そんなところに立たれると…)

ユイの右手がゆっくりと動いて、腰のあたりまで下りてきた。
制服のスカートを抑えるように、太もものあたりでギュッと掴む。

(…握りたくなっちゃう!)

ユイの右手のすぐそばには、サラリーマンの男性の股間があった。
男性は片手で吊り革を握り、もう片方の手で携帯電話をいじっていて、ユイの手の動きにはまったく気がついていない。
今なら、男性の最大の急所である二つの睾丸を、ユイがその右手で握りしめることは簡単にできた。
握りしめたとき、果たして男性はどんな反応をするのか。ユイはそれを考えるだけで、心臓の鼓動が高鳴るのを抑えきれなかった。

(下からギュッと握れば、もう絶対に逃げられない。あとはマッサージみたいにグニグニしたり、手の中でゴロゴロしたりすれば…。おじさん、泣いちゃったりして…)

男にとって地獄の苦しみを与えようとしてるユイの手が、自分の股間すれすれにまで迫っているとは知らず、男性は携帯電話の画面から目を上げようとしなかった。
しかしユイにとっては、この無防備さも自分には理解できない、男性特有の性質であるような気がして、そう思うと、心の内が疼くような愛おしさを覚えてしまうのである。

(向こうに立ってる人…。すごい体格だけど、やっぱりアソコは弱いんだろうな…。あっちで座っている人も、あんなに足を開いて…。蹴られたりしたら、どんな顔するんだろう…)

車内には、たくさんの男性が乗車していたが、ユイの目にはそれらのほとんどが、急所を無防備にさらけ出している愚か者のように映っていた。
男というのは、小さな子供から老人にいたるまで、もれなく全員に金玉という脆い急所があることを、ユイはもう知っている。
それなのに、男たちはいつも不用意で、まるで自分たちに急所などついていないかのように、のんきに生活していると彼女には思えた。
電車の車内には、男性と同じくらいの数、女性がいる。こういう場所において、自分たち女性の方が、よほど自分の身の回りに対して気を付けていると思った。

女性は男性に比べて、体が小さく、力もない。だから女性の方が弱いと、誰が決めたのだろうか。
ユイは、自分がその気になれば、後ろにいる中年のサラリーマンとあと一人くらい、あっという間に床に這いつくばらせることができると確信していた。
しかもその際、睾丸を潰して、男としての一生を終わらせることさえ、決して不可能ではない。
窓の外を眺めて、勤めて平静を装いながら、ユイはそんな妄想に心を躍らせているのだった。

「次は国分寺。国分寺。お出口は右側です」

やがて電車は、ユイが降りる駅に近づいていた。開くのは、ユイがいる方とは反対側のドアだった。
この駅では毎回たくさんの人が降りるから、その流れに乗っていけばいい。
しかし、このままこの後ろにいるサラリーマンの股間に何もせずに降りるのは、どうにも名残惜しかった。
見ず知らずの男の睾丸を握りしめることは無理だとしても、何か偶然を装って、そこに一撃を加えたい。
そうして、いかに自分が油断して、無防備に突っ立っていたかを、この中年のサラリーマンに味わわせてやりたかった。

(そうだ…)

足元に置いていた学生カバンに目をやった。
黒く艶光りしている革製の学生カバンの角は、鋭い直角を描いており、しっかりとした補強がしてある。しかも真面目なユイのカバンの中には、重たい教科書がぎっしりと入っていた。

(これを使って…)

ユイは心の中でほくそ笑んだ。

「国分寺。国分寺に到着です」

やがて駅に着くと、予想通りたくさんの乗客が電車を降り始めた。
しかも好都合なことに、ユイの後ろにいた中年のサラリーマンは、電車を降りないらしい。
タイミングを見計らって、最後の乗客が降りようかというときに、慌てたふりをして足元のカバンを手に取り、振り返った。

ゴスッ!

と、鈍い音が、男性の股間に響いた。
ユイが持ち上げたカバンの角が、見事に男性の股間に命中したのである。

「んっ!!」

「あ、ごめんなさい…」

当てたユイも、当てられた男性も、お互いに顔を覗き込んだ。
しかしそれは一瞬のことで、ユイは何も分からず、ただカバンが少し当たってしまっただけ、というフリをして、そのまま電車を降りて行った。
一方の男性は、突然、股間を襲った衝撃に目を丸くした後、下腹から湧き上がってきた強烈な痛みに、内股になって体をくの字に折り曲げた。

(やった…!)

ユイは、確信に満ちた微笑みを浮かべていた。
振り向くと、電車に乗り込む乗客の背中越しに、無様に尻を突き出して背中を丸めているサラリーマンの姿が見える。
ユイのところからはその表情までは見えないが、おそらく歯を食いしばって、痛みに耐えているのだろう。
生まれたての仔馬のように、内股になってプルプルと足を震わせているのが、この上なく滑稽だった。

(ちょっとカバンを当てただけなのに…。弱いなあ、ホント…)

ユイの右手には、カバンを股間に当てたときの感触が、まだ残っている。
カバンの角のもっとも堅い部分に、グニッとかフニッとか、弾力性のあるものが当たった感触だった。
やがてドアが閉まり、電車はゆっくりと動き出した。
ユイは、苦しむ男性の姿をじっと目で追っていたが、やがて電車がホームを離れると、いかにも楽しそうな足取りで、ホームを歩き出したのだった。





山下ユイが男の股間を責めることに興味を持ち始めたのは、それほど前のことではない。
彼女は中学から陸上を続けており、スラリと伸びる長い脚を持った、痩せ形の美人だった。しかし性格は内気な方で、人並みに異性への関心はあったものの、恋人関係にいたるまでのことはなかった。
そんな彼女に声をかけてきたのが、同じ陸上部の先輩の吉村アツトである。
アツトは短距離走の選手で、ユイも密かに憧れを抱いている、爽やかな好青年だった。しかも彼は積極的で、ユイが自分の誘いにまんざらでもない態度を見せると、グイグイと自分のペースに引きずり込んでしまったのだった。
そうしてある日、部活動が終わった後、ユイはいつの間にか、アツトの家で二人きりになってしまっていたのである。

「何か飲むだろ? ちょっと待ってて」

そう言い残して、部屋を出て行った。
家に入る前から、すでに緊張の頂点を迎えていたユイは、もはや自分が何を見て、何を聞いているのかさえ分からなくなっていた。
高校生の女の子が、男の部屋でいきなり二人きりになってしまったのだから、無理もない。
やがてアツトが部屋に戻り、ジュースを持ってきても、それを手に取ることさえできなかったのだ。

「え…と…。山下…」

「は、はい!」

ユイがあまりに緊張しすぎているのが分かったため、さすがに気まずくなってしまったようだった。

「そんな…緊張するなよ。まあ、俺もそこそこ緊張してるんだけど…。山下は、俺のこと嫌いなのかな?」

好きとか嫌いという言葉は、この年頃の男女にとっては、何よりも重たいものだ。かろうじてその言葉は、ユイの耳に届いてきた。

「あ…! いいえ…。嫌いとかじゃなくて…」

「そ、そうか? じゃあ…す、好き…かな…?」

アツトの方も、相当な覚悟をもって口にした言葉だった。
それを聞いたユイは、雷に打たれたような衝撃を受け、しばらくは目を丸くしてぼうっとしていたが、やがてためらいがちにうなずいて、上目づかいにアツトを見つめた。

「……あ…そうか…。うん…。よ、よかった…」

アツトの顔が、パッと明るくなった。それを見ると、ユイの方も興奮を抑えきれなくなってしまう。
すでに自分の心臓の音が耳鳴りのように響いていたが、それはさらに大きくなるようだった。

「あの…山下…。目、つぶって…?」

二人はベッドの上に座っていたが、すでにお互いの呼吸がかかるくらいに、顔を近づけていた。
ユイはその言葉が何を意味するかすぐに悟り、ゆっくりと目を閉じた。
数秒間の沈黙の後、ユイの唇に、暖かい感触が重なった。
思わず薄目を開けると、いつも憧れていたアツトの涼やかな顔が、すぐ目の前にあった。

「……!!」

不意に、アツトの鼻息が荒くなり、口づけをしたまま、ベッドに押し倒してきた。どうやら、猛り狂うような若い欲望を抑えきれなくなってしまったらしい。
ユイは驚いて顔をそむけ、必死に押し返そうとした。

「あ…やだ…!」

しかしアツトの力は強く、ユイの体を抱きすくめて、再び強引にキスを迫ろうとする。

「山下…! 俺…!」

「やめて! やだ…! いやだってば!!」

ベッドに押し倒された彼女の右脚が跳ね上げられたのは、まったく意識したことではなかった。あるいはそれは、貞操を守ろうとする女の本能がさせたことかもしれない。
男に襲われた女が使う、最後の切り札。力で劣る女性のために、神様が用意してくれた、最終手段。逆に男は、どんなに強引に女の体を奪おうとしても、きちんと同意を得られなければ、最後の最後で痛い目を見る。
考えれば考えるほど、そのために作られたとしか思えないのが、男の最大最弱の急所だった。

「うぐっ!」

興奮しきっていたアツトの頭から、一気に血の気が引いて行った。
あとほんの少し、目の前に迫っていた男の欲望の最終地点さえ、一瞬で忘れ去ってしまう程の衝撃だった。

「あうぁ…!」

両手で股間をおさえ、あっという間にベッドの上にうずくまってしまった。
ユイは一瞬、何が起こったのか分からなかったが、アツトの力が緩んだのに気付くと、急いでベッドから立ち上がった。

「ハア…ハア…」

すでにいくつか外されていたシャツのボタンを留めながら、何が起こっているのか理解しようとした。
目の前には、両手で股間をおさえ、尻を突き上げるようにしてうずくまるアツトの姿がある。
ユイは、さっき自分の脚が、どこに当たってしまったのかを理解した。

「うぅん…あぁ…」

ベッドに顔をうずめて、アツトは小さな子供のような鳴き声を上げた。
突き出した尻の下で両足がピクピクと動いているのが、妙に滑稽だった。

「あの…先輩…?」

自分はアツトのタマを蹴ってしまったんだ。男のシンボルである、最大の急所を。
さっきまであんなに激しく力強く動いていた体が、急にしおらしくなってしまった。たった一回、タマを蹴られたくらいで。
そう考えると、危機を脱したユイの心に、妙な高揚感が生まれ始めていた。

「あの…私、帰ります…!」

ユイ自身、その得体のしれない高揚感に困惑し、すぐにその場を離れることにした。
アツトはもちろん、それを止めることもできずに、しばらくベッドの上で苦しむことしかできなかった。

(そういえば…中学の時に、女子の先輩が男子の先輩のアソコを蹴った時があったっけ…。あの時も、あの先輩はすっごい痛がってたな…)

アツトの家から帰る途中、ユイは自分の中の記憶を思い返していた。

(あのとき、私もちょっと蹴らせてもらったんだっけ…。それを体が覚えてたのかな…。必死だったから…)

ユイはもちろん処女だったから、押し倒された時は、本当に恐怖しか感じなかった。
あの時返事をした通り、アツトにほのかな好意は抱いていたものの、それが一足飛びにセックスにまでつながることは、彼女の中ではありえなかったのだ。

(先輩、痛そうだったな…。ちょっとやりすぎたかな…。でも、いきなり押し倒してきたんだから、先輩が悪いんだよね…。でも、あんなに痛がるなんて…。ちょっとおかしい…)

押し倒してきたときのアツトの興奮しきった顔は、まさしく盛りのついたオスのようだった。いつも爽やかで、後輩たちに対しても紳士的に振る舞っていたアツトがあんな風に変貌してしまったことに、ユイは驚いていた。
しかしそれが、自分の蹴り一つで、一瞬で大人しくなってしまったのである。

(あんなに必死で…。エッチの寸前までいってたのに、途中でやめちゃうなんて…。そんなに痛いのかな。我慢できないくらい? 男子って、エッチのことで頭がいっぱいっていうけど、それも忘れちゃうくらい痛いのかな?)

ユイにとっては、男の性的な欲望も、急所の痛みも、自分にはまったく理解できないことだったので、興味深かった。
しかもその二つは、同じ睾丸という二つの小さな玉を出発点にしているのだ。

(あのタマの中で、男の子は精子を作って、エッチがしたくなるんだよね…。でもそのタマを蹴られたら、痛すぎて、エッチな気分もなくなっちゃうの? なんでだろ。痛いなら、もっと頑丈にして、強くしとけばいいのに…。フフフ…)

女の子にとっては、それは大きな謎であると同時に、男に対しての優越性の証明のようなものだった。
男は女とエッチをするとき、必ず性器を出さなくてはならない。しかしその性器が、実は男の最大の弱点で、女はその気になれば、いつでもそれを叩きのめして、男を拒絶することができる。
オスの選択権はメスにあるというのが、大方の自然動物の習性だったが、それはどうやら人間に対しても当てはまるらしかった。

(何か…男の子って、面白い…!)

ユイの目に焼き付いた、股間をおさえて苦しみもがくアツトの顔は、泣いている子供のように切ないものだった。
それを思い出すと、自然と笑みがこぼれてしまうことに、ユイは自分でも気がついていなかった。





性行為を経験した後の若者は、異性の見方が変わるというが、ユイの場合、実際の性行為こそしなかったものの、それに近いものがあったのかもしれない。
翌日、アツトの方から謝ってきたときには、ユイは自分でも不思議なほどの余裕を持って、彼を許すことができたのだ。
さらに驚いたことに、今度は彼女の方から、アツトを自宅に誘うことまでしたのである。

「ん…! ああっ…!」

ユイの初体験は、噂で聞いていたほどの痛みはなかった。
彼女はハードル走の選手で、普段から脚や股関節の柔軟体操をしていたから、あるいはそれが良かったのかもしれない。
アツトの方も、ハッキリとは言わなかったが、おそらく初めてだったのだろう。
ぎこちない動きで腰を振る様子を、ユイはぼんやりと下から眺めていた。
今、アツトの男としての象徴は、雄々しく漲り、力強くユイの体内に入ってきている。しかしその付け根には、この上なく繊細で脆い二つの球体が、薄皮一枚に包まれた状態でぶら下がっているのだ。
アツトが腰を振るたびに、その無防備な袋状の物体がブラブラと揺れているのを、見えないが、ユイはしっかりと感じていた。

(今、蹴ったらどうなるのかな…?)

快感と呼ぶにはあまりにもきわどい、初めての感覚に身を任せながら、ユイはそんなことを考えてしまった。
位置的に膝を当てることは難しそうだったが、手を伸ばせばすぐ届く場所にある。

(握ってもいいんだよね…。握り潰したら…どうなるかな…。すごい痛がって、気絶しちゃうかな…。…ダメかな…)

二人が半裸で密着したこの状態は、憧れていた先輩の生殺与奪権を握っているような気がして、ユイは嗜虐的な快感を覚えた。
今、アツトは懸命に腰を振って、男の本能を満たそうとしているが、それができるのも、ユイが彼の急所を見逃してやっているからなのだ。もしユイがその気になれば、すぐにでもアツトの金玉袋をその手に握って、このセックスを終わりにすることができる。
つまりアツトは、ユイからすべてを捧げられ、征服したような気分になっているかもしれないが、実際には彼女の掌の上で踊っているようなものなのかもしれない。
少なくともユイはそう考えることで、このセックスにより一層の快感を感じ始めていた。

(先輩のあの顔…見てみたいな…。あの痛そうな顔…)

ユイの脳裏には、急所を蹴られた時のアツトの切ない表情が焼き付いていた。

(もうダメ…握っちゃおう…!)

ユイが我慢できず、アツトの股間に手を伸ばしかけたその時、

「あっ! ああっ!!」

アツトは背中を大きく反らして、果ててしまった。
その脈動は、ユイの体内にも激しく伝わり、不意に訪れた刺激に、ユイは伸ばしかけた手を止めてしまった。

「あ…ハア…ハア…」

力尽きたように、ベッドに倒れこむアツト。その男性自身も、ユイの体内で急速にしぼんでいくのが分かった。
これでは、面白くない。
はちきれんばかりに漲った男の象徴と、脆弱な二つの玉。そのギャップこそが、ユイの嗜虐心をそそるものだったのだ。

「ハア…ハア…。気持ちよかった…?」

「あ…うん…。気持ち…よかった…」

その言葉を聞くと、安心したように、アツトはほほ笑んだ。
まったくのウソではなかったが、完全な真実ではない。
ユイの欲求は、かえって大きくなってしまうようだった。




(握ってみたい…どうしても…。男の人のタマ…)

こんなことを一日中考えてしまう自分が、かなりおかしいとは自覚していたが、かといって一旦火のついてしまった若い欲望は、なかなか抑えられるものではない。
ユイはもう、すべて見てしまったからだった。丸裸になった男という生き物を。その象徴である性器を。
筋肉に覆われた体はたくましく見えても、その脚の付け根には、珍妙な物体がちょこんと飛び出すようについている。
初めてまじまじと見た男の裸は、ユイが思っていた以上に滑稽なものだった。
自分たち女性には、あんな無様なものはついていない。その股間は、すっきりとしてスマートだ。
その物体は、男の象徴であり急所。そこを掴めば、思いのままに男をコントロールすることができる。
もはや、蹴ったり叩いたりするだけでは足りなかった。
この手に掴んで、男を支配してみたい。
アツトとのセックスを経て、ユイはそんな風に思うようになっていた。
そして、アツトとの初体験を終えてから一週間後、ついに行動を起こすことになる。




ユイが所属している陸上部には、もちろん何人かの男子生徒がいる。
その中の三石タクマという一年生に、ユイは目を付けた。
なぜ彼だったのかというと、ユイは知っていたからである。
タクマがユイに、恋心を抱いていることを。

タクマは成績が悪いのか、週に何回か、宿題やテストのやり直しをさせられて、部活に遅れてくる。
この日も、陸上部の練習が始まって30分ほどしてから、制服姿のタクマが、男子が更衣室代わりにしている体育用具室に、慌てた様子で駆け込んでいった。
しかしそれもいつものことなので、怒ったり、注目している部員は誰もいない。
だから、ユイが何気なく体育用具室に入ろうとしても、誰もそれをとめる者はいなかったのだ。

「え!? うわっ!」

いきなりドアが開いたので、タクマは驚いて声を上げた。
すでに上半身は裸になっており、これからズボンを脱ぐところだったらしい。

「あ、ゴメン。今、来たの? ちょっと探し物があって…」

とぼけたふりをして体育用具室に入り、ドアを閉めた。
タクマの動きが止まっても、気にする様子もない。奥の方に積み重ねられている陸上部の備品の中から、何かを探すようなふりをしていた。

「あ、あの…先輩…?」

「んー? 早く着替えた方がいいよー。先生、今日、機嫌悪かったから。えーっと…どこにやったかな…」

一応、タクマの方には背を向けてやるから、それで着替えろということらしかった。
タクマは憧れている女子の先輩の前で、さすがに恥ずかしかったが、仕方なく着替えを続けることにした。
ここの陸上部の男子のユニフォームはショートパンツタイプで、その下にインナーを履く男子がほとんどだ。
インナーといっても、ほとんどビキニパンツのようなもので、練習中にブラブラと揺れないように、ピッチリと押さえつけるタイプのものだった。
ベルトを外す音が、カチャカチャと聞こえると、ユイは肩越しにそっと盗み見た。

「あれー? どこにやったんだろう? ないなー」

タクマに着替える余裕を与えるように、探し物が見つからないふりをしていた。
タクマは一応、ユイにお尻を向けた状態で、トランクスを脱ぎ、素早くインナーを履いた。女の子のすぐ近くで着替えるというのは、なかなかのスリルだった。
しかし、インナーを履いたタクマがホッとして、ショートパンツに手を伸ばした瞬間。
グッっと、その股間の膨らみを、後ろから掴まれてしまった。

「はわっ!!」

タクマの口から、思わぬ声が出てしまう。
気がつくと、自分のすぐ背後にユイが立っていた。

「あ…せ、先輩…?」

「しーっ! 静かにして。外に聞こえちゃう」

耳元で囁いた。
タクマは何が起こっているのか、ちょっと理解できなかったが、とにかくユイの右手が、自分の股間の急所を掴んで離さないので、言うとおりにするしかなかった。

「ちょっとじっとしててね。すぐ終わるから…」

以前のユイには、考えられないほどの積極性だった。
タクマも、大人しく清楚な雰囲気のユイに憧れていただけに、彼女のこの行動は意外中の意外だった。
ユイ自身、そんなことは百も承知だったが、今、手の中におさめたタクマの柔らかな膨らみの感触は、彼女の理性を吹き飛ばすには十分すぎるほど蠱惑的なものだった。

「三石君…驚いちゃったかな…? 私ね、ずっとこうしてみたかったの。男の子のココを、握ってみたかったんだ…」

ユイの手は、タクマの睾丸を転がすように、手の中で弄んでいる。
そこにはまだ、痛みはなく、タクマも初めて経験する未知の快感があった。
さらに、ユイが後ろから抱きしめるようにして密着すると、その胸の膨らみが、背中で押しつぶされた。
タクマは戸惑っていたが、それよりも遥かに強烈な快感に身を任せることにした。

「気持ちいいの…? そう…。じゃあ、これはどうかな?」

手の中でタマを転がすたびに、タクマが身をよじるのを、ユイは嬉しそうに見ていた。
そして突然、その手にギュッと力を込めたのである。

「うっ! く…!」

いきなり首を絞められたかのように、タクマが息を詰まらせた。
ユイがその手に込めた力は、まだほんの肩を揉む程度のものだったが、今まで快感の最中にいたタクマにとっては、目を見開いてしまうほどの衝撃だった。

(ああ…もう…。コリコリして、気持ちいい…。このタマ、まん丸じゃないんだ…。ちょっと楕円形…? 小っちゃい卵みたい…)

すでに金蹴りもセックスも経験していたユイは、冷静に、余裕を持ってタクマの二つの睾丸の形や構造を観察することができた。
ユイの手が揉むようにタマを握るたび、タクマはしゃっくりのように呼吸を詰まらせた。

「うっ! あっ! はあっ!」

(まだちょっとしか力入れてないのに…もう痛いんだ…。かわいそう…)

そう思いながらも、ユイの口はほほ笑んでいた。
実際、タクマの下腹部には、じわじわと重たい痛みが溜まってきていた。
先輩のすることとはいえ、もうこれ以上は耐えられそうもない。タクマはそう思ったが、かといって今の状況から逃れるのは、ちょっと不可能だった。
ユイは体を密着させ、後ろから手をまわしてタクマの股間を掴んでいる。
股間を掴まれた場合、腰を引いて守るのが男の習性というものだったが、この状態では腰を引けば引くほど、ユイにとって掴みやすくなってしまう。
要するに、タクマがあとどれだけ急所の痛みに苦しむかは、完全にユイの気分次第なのだった。

「ああっ! 先輩っ…!!」

「まだまだ。もうちょっと頑張って」

ユイの手が、二つのタマを袋の中で擦り合わせるように動き始めた。
かねてから試したかったことを、この際、色々とやってみるつもりだった。

「ふわあぁっ!」

睾丸は圧迫され、かつてないほどの痛みが彼を襲った。
しかしユイの手はそんなことは意にも介さず、クルミを擦り合わせるように、ゴリゴリと二つのタマを締めつけるのである。

(これは…けっこう痛いみたいだな…。タマとタマが擦れて、二倍痛いって感じかな? じゃあ、こういうのは…)

細い指が、しなやかに動いた。
金玉袋の根元を押さえつつ、親指と人差し指で、タマの一つをつまむ。
そしてそれを、指で弾くようにして押し出したのだ。

「ぎゃあっ! うわっ!」

ユイにとっては、小さなゴムボールを弄んでいるような感覚だったが、タクマの痛みは尋常ではない。ユイが指でタマを押し出すたび、体を大きく痙攣させた。 

(あ、これもけっこう…。えい! えい! 面白い…)

タクマの背中に、大粒の汗が噴き出しはじめた。
その両脚は内股になって、細かく震えており、目の前の棚にしがみつきながら、立っているのがやっとという状態だった。

「あれ? 疲れてきた? よいしょ」

腰を落としかけたタクマの様子を見て、ユイは股間を持ちかえることにした。
両手に一つずつタマを掴み、上に引っ張り上げようとする。

「はあっん!!」

睾丸が、袋ごとちぎれるかと思った。
すでにタクマの脚にはわずかな力しか残されていなかったが、それでも腰を上げていなければ、脳天を突き抜けるような痛みと、去勢されるかもしれないという恐怖が全身を襲う。
タクマは歯を食いしばって、男に生まれた以上、受け入れなければならない痛みに耐えていた。

(あーあ、引っ張ってもダメなんだあ。何しても痛いんだから、こっちも注意しないと…)

うつむいて、苦しそうに目をつぶっているタクマの顔が、背後からもはっきりと見えた。

「三石君、痛い? 我慢できないの?」

タクマは必死に首を縦に振る。

「そんなに痛いの? フフフ…」

大して力を入れているつもりもないのに、タクマの痛がり方は、ユイにしてみれば異常なほどに思えた。
今、こうしている間にも、ユイの手から逃れようとしているのか、細かく腰を揺らしたり、くねらせたりしている。
しかしそれは無駄な努力で、ユイがちょっと指先に力をこめれば、たちまちタクマの体はビクッと痙攣して、それ以上動けなくなってしまうのだ。

「じゃあ、そろそろ離してあげてもいいけど…。条件があるわ。一つ目は、このことを誰にも話したりしないこと。先生にも、男子の先輩たちにもね。約束できる?」

キュッと指先で睾丸をつまむようにすると、タクマの頭が跳ねあがって、内股のまま爪先立ちになってしまった。
約束できなければ、このまま潰されてしまうと、タクマは本能的に悟っていた。

「し、します! 約束します!」

「よし…。じゃあ、二つ目の条件は、今、三石君が感じている痛みを、私に説明してみて。私がそれを理解できたら、離してあげる」

それは意外な言葉だった。
今、タクマが感じている痛みは、極めて根源的で本能的なもので、男なら誰でも共感できる種類のものだった。男にとっては説明不要、というより、説明して思い浮かべたくもないものなのだ。
例えば小さな子供にだって、「金玉を握り潰す」といえば、例えようのない恐怖を感じさせることができるだろう。
それを、女であるユイに説明できるかどうか。痛みに支配されたタクマの頭では考えられず、うまく言葉が出なかった。

「どうしたの? もう痛くなくなっちゃったかな? じゃあ…」

ユイの手に再び力が込められそうだったので、タクマはとりあえず感じたままを叫んだ。

「あ…! その…痛いっていうか…苦しいって感じで…。お腹の中が…グルグル掻き回されるっていうか…気持ちが悪くなります…。うう…!」

「えー、そうなの? お腹が苦しいんだ? じゃあ、この…タマ…っていうのかな…? それは痛くないの?」

言いながら、無造作に力を込める。

「あうっ! あ…いや…タマも痛くて…! でも…だんだん、付け根の方から痛みがお腹に上がってくる感じで…。息が苦しくなります…」

「そうなの? 痛みが上がってくるんだ? 変なの。握ってるのはココなのにね」

タクマの説明を聞いても、ユイにはまったく実感が湧かなかった。
自分の体の中にあるどこを掴んでも、そんな風に痛みはしないだろう。 

「あの…先輩…?」

もう限界だといわんばかりに、タクマは問いかけた。
しかしユイの手は、まだしっかりと彼の二つの睾丸を握りしめている。

「うーん…。なんかちょっと…どういう風に痛いのか、よく分からないんだけど。転んで捻挫したりするのとは、違う痛さなのかな?」

「ち、違います。全然…」

「ハードルに足をぶつけたときより痛い?」

「全然痛いです…!」

ユイはますます首をかしげた。

(ハードルもけっこう痛いけど、アレより痛いんだ…。なんか、よく分かんないけど…。まあ、いいか)

ユイはしまいに、深く考えるのをやめた。
結局のところ、股間に男性器を持たない彼女にとっては、そこがどのように痛むものなのか、想像することしかできない。
それよりも、自分にはついていないものが、そんなに痛く苦しいものだと分かったことが、彼女の優越感を満足させたのだった。

「フフフ…。男の子って、面白いね。こんなに敏感で繊細なものを、いっつもブラブラさせてるんだから…」

ユイにそう言われると、男の体の不合理さを、男であるタクマ自身、改めて実感する思いだった。
女の子の握力で握られただけで、まったく抵抗できなくなるなんて、なんて不便な体なんだろう。その思いを、今、ユイとタクマはまったく逆の立場で共感しているのである。

「三石君は、私のこと…好きでしょう?」

それは痛みの中でも、十分タクマの脳を覚醒させる言葉だった。
その分かり易すぎる反応を見て、ユイはちょっと笑ってしまう。

「いつも、私のこと見てたでしょう? 私が練習してるところ。エッチな目で」

陸上部の女子のユニフォームは、水着かと思う程に面積の小さいタイプのものだった。
思春期のタクマが、ユイのそれに目を奪われていたとしても、何ら不思議はないだろう。

(あ…これって…)

ユイの手に、タクマの肉棒がムクムクと大きくなっていくのが伝わってきた。
タクマ自身もまだ気づいていないようだったが、どうやらユニフォーム姿のユイのことを思い出して、興奮してきてしまったようだった。

(もう…男の子って、ホント…)

以前のユイなら、勃起する男に対して嫌悪感を感じていたかもしれないが、すでにセックスを経験し、男の最大の弱点を丹念に調べ上げていた彼女は、むしろそんな男の習性に、微笑ましいものを感じてしまった。

(じゃあ、離してあげるか。えい)

最後に区切りをつけるつもりで、ギュッと睾丸を握りしめ、離してやった。
その瞬間、タクマはぎゃっと声を上げて、その場に崩れ落ちてしまう。

「あ、ゴメンね。痛かった?」

タクマはもはやうなずくこともできずに、体育倉庫の床に正座するような姿勢でうずくまっている。
白いインナーサポーターの尻の間から、ぷっくりとした膨らみが覗いていた。
ユイは、自分がたった今まで握りしめていたその膨らみを、今度は撫でて、憐れんでやりたいような衝動に駆られたが、おそらくそれもタクマは痛がるだろうと思い、思いとどまった。

「三石君…? まだ痛いの?」

タクマは食いしばった歯の間から、かろうじて呼吸をしているようだった。
男の痛みを知らないユイの目から見ても、この後、部活動の練習ができそうには思えなかった。

「ゴメンね。先生には、三石君が気分が悪くて、帰ったって言っておくから。見つからないように帰ってね。じゃあ、またね…?」

少し名残惜しそうな様子で、ユイは体育用具室を出て行った。
最後に彼女に発した言葉の意味を考えると、タクマは痛みの中でもさらなる恐怖を感じ、背筋をビクッと震わせるのだった。




駅に着いた。
電車のドアが開き、乗客が乗り降りする。
ふと気がつくと、30代くらいのサラリーマンの目の前に、制服姿のユイが立っていた。車内は少し混雑しているが、かといってこれほど近づかなければならないほどではない。
サラリーマンが、意味も分からず突っ立っていると、不意に目の前にあるユイの顔が、にっこりと笑った。
つられて、愛想笑いを返したその瞬間。

「ぎゃあっ!!」

サラリーマンの男性の股間にユイの手が伸びて、その真ん中にある男の象徴を、下から思い切り握りしめた。
握力はさほどでもないが、瞬発力を使って瞬間的に力を込めたため、男性は一瞬、睾丸が潰れたかと思う程の痛みと目眩を感じた。

「ぐうぅ…」

不明瞭な言葉を発して、男性は糸が切れた人形のように、その場にストンと落ちた。その目はすでに白目をむいている。

「えい!」

男性の斜め後ろにいた学生風の男は、何が起こったのか分からなかった。
ただ、目の前のサラリーマンが突然、座り込んでしまったかと思うと、次の瞬間には、自分の股間に飛んでくるユイの白い脚が見えた。
めりっと、ユイの膝は、学生のジーパンの股間を突き上げるようにして刺さった。
踵が一瞬浮き上がり、すべての時間が止まったような気がした。

「はわぁあっ!!」

しかし次の瞬間には、怒涛のような痛みが下腹部を渦巻いて、それは即座に全身の自由を奪う。
何が起こったかも分からないうちに、学生はサラリーマンの男性のすぐ横にうずくまった。

「次! えい! えい!」

ユイの体が、敏捷な小動物のように素早く翻り、周りにいる男たちの股間を蹴り上げた。
その都度、男たちは情けない叫び声を上げて、その場にしゃがみ込んでしまう。蹴られてしまえば、反撃する余裕などない。ただ、とめどない痛みに体を震わせて、時間が過ぎ去るのを待つしかなかったのだ。

「次!」

振り向いたユイが目を付けたのは、椅子に座って大きく足を広げた、若い男だった。
ロックシンガーのような攻撃的なファッションと外見をしているが、その最大の急所は無防備で、ユイの格好の標的だった。

「よいしょっと!」

男の前で小さく飛び上がると、そのまま右足で男の股間を踏みつけた。

「あぐっ!」

途端に、男は苦しそうな表情で足を閉じようとするが、ユイのローファーはしっかりと股間に食い込んでいる。

「あああ…! や、やめて…!」

靴底を通して感じる、丸い物体を踏みにじるように動かすと、男は身をよじって苦しんでいた。

「ん? 痛いの? そんなに足を開いてるのが悪いんじゃない。蹴られたくなかったら、しっかり守ってなさいよ!」

吐き捨てるように言ってから、踵のもっとも堅い部分で、男の睾丸を踏みつぶした。
男はぎゃあっと叫んでうずくまると、そのまま動かなくなってしまった。

「さあてと…」

ユイは一息ついて、あたりを見回した。
ここまでで、ほんの数十秒。
電車の車内に載っていた男の約半数が、ユイによって打ちのめされてしまった。
まだ生き残っている男たちは、ようやく状況を理解したが、かといってユイに手出しをしようとはしなかった。
むしろ、ユイがチラリと視線を送るたび、恐れるように目をそらしているのだ。
しかしそこで、予想外のことが起きた。

「えい!」

ユイから逃げるようにして後ずさっていた、中年のサラリーマンがいた。
すると、背後にいたOL風の若い女性が、彼の股間を後ろから蹴り上げたのである。

「うぐっ!」

もちろん男性は、股間の痛みに体を硬直させ、うずくまってしまう。

「へ―…。簡単なんだ…」

目の前でうずくまる男性の背中を見て、OL風の女性はポツリとつぶやいた。
ふと見上げると、先程まで大立ち回りをしていたユイが、ほほ笑みながらうなずいている。
周りにいる他の女性たちも、一様に納得した表情を浮かべていた。

「男なんて、金玉を蹴れば、簡単に倒せる」

車内にいる女性たちが、無言のまま、そう認識した瞬間だった。

「やっちゃおうか?」

「うん!」

女性たちはうなずいて、それぞれ周りにいる男性たちに視線を移した。
その目はまるで獲物を見つけたハンターのように、猟奇的に輝いている。

「いくよー! えい!」

「ほうら!」

「そーれ!」

女性たちの明るい声が車内に響き、それと同時に、男性たちの悲鳴も、社内に響き渡っていった。

(そんな感じになったらいいのになあ…)

走る電車の中。
車内にはいつものように、脆弱な股間を隠そうともしない男たちが、無防備に突っ立っている。
窓の外に流れる景色を眺めながら、ユイはその頭の中で、ますます妄想を膨らませるのであった。


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