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男の絶対的な急所、金玉。それを責める女性たちのお話。


「本当にいいんだね? どうなっても、アタシのせいにしないでよ?」

「うるせえな! いいって言ってんだろ」

とある中学校。部活も終わった放課後の武道館で、前田ランと金崎ケンタロウが対峙していた。
二人は同じ空手部に所属していて、クラスも同じだったのだが、決して仲がいいわけではなく、むしろ犬猿の仲と言って良かった。
二人が軽い口げんかをするのは日常茶飯事だったのだが、今回ばかりは口だけでは済まなくなってしまっていた。
きっかけとなったのは、休み時間のミサキと友達の会話だった。

「ねえ、ラン。この前、高校生をやっつけたんだって?」

「うん、まあね。ちょっとからんできたからさ。やっつけたってほどじゃないよ」

「すごいねー。やっぱり、空手やってると、強くなれるの? アタシもやろうかなあ」

「男が相手だとね。簡単なときがあるよ。それは空手の試合では反則なんだけど」

「反則? なに、それ?」

「まあ、なんていうか、その、男のアソコ? アレをやっちゃえば、簡単だよ」

ランは少し照れながら、しかし自慢げに話した。
その言葉が、先ほどから聞き耳を立てていたケンタロウの癇に障った。

「えー。そうなんだ。男の急所っていうもんねー。ホントなんだあ」

「うん。アソコに当てれば、誰でも勝てるよ」

「それはどうかな」

たまりかねたケンタロウは、強引にラン達の会話に割って入った。
普段から仲の悪いランが、男のプライドを傷つけるようなことを言っているのを、見過ごすことはできなかったのだ。

「女子の力じゃ、急所に当てたって、そんなに効きやしないと思うけどな」

「でも、実際にランは高校生をやっつけたんだよ。ねえ?」

「まあね」

ランは突然会話に割り込まれて、迷惑そうな顔をしていた。
ケンタロウは何かというとランにケチをつけてくるが、ランの方はケンタロウに特別な興味など持っていなかった。
ただ、自分が思ったことを言って、ケンカを売られれば買っていただけのことだった。

「それは、そいつが鍛えてないからだろ。根性が足りなかったんだよ」

「えー。急所って、鍛えられるのかなあ?」

「まあ、少なくとも俺には、お前の技なんか通用しないと思うけどな。弱い男を倒して、調子に乗ってるとケガするぜ」

どこにその根拠があるのか、ケンタロウは自信にあふれた様子で言い放った。
ランは、さすがにその態度に腹が立った。

「ふーん。まあ、そういうことでいいんじゃない? どうせ空手部の試合ではアソコを蹴られることもないだろうし」

「そうなんだ。反則だから?」

「そう。急所攻撃ありにしちゃうと、男子はすぐ負けちゃうんだって。女子の先輩が言ってたよ。確かにそうだよね。こんなに蹴りやすいところにあるんだもん。当てないようにするのが大変だよ」

ランはケンタロウの股間に目をやりながら、あざ笑うように言った。
女の子たちから見れば、それはごく自然な感想だったのだが、ケンタロウの男のプライドを傷つけるのにこれ以上のことはなかった。

「ふざけんなよ! 俺がお前に負けたことなんか、ないだろうが!」

「それは、アタシがアソコを狙ってないからでしょ。反則だからしょうがないけど。ある意味手加減してるって感じだよねー」

「なんだと! だったら、お前と反則なしで勝負してやるよ。俺の方が強いってことを証明してやる!」

ケンタロウの怒りは、ついに頂点に達した。

「はあ? 何言ってんの? そんなの、ダメに決まってるでしょ。先生に怒られるよ」

ランは冷静に答えた。
彼らが所属している空手部の試合では、金的だけでなく、顔面に攻撃を当てることも禁止で、しかも防具着用を義務付けていた。
しかし、ランを徹底的に打ち負かしてやりたくなったケンタロウは、反則なしで試合をして、彼女の顔面に拳の一つでも打ち込んでやるつもりだった。

「関係ないだろ! 黙ってればいいじゃないか。部活が終わった後にやろうぜ!」

周りにいたクラスメイトが、黙りこくってしまうほどの剣幕で、ケンタロウは迫った。
しかしランはそれでも、なかなか了承しようとはしない。

「逃げんのかよ! 勝負しろよ!」

散々挑発的な言葉を投げつけられて、ランの我慢にも限界が訪れた。

「分かったわよ! その代わり、どうなっても知らないからね!」

「望むところだ!」

こうして、二人は放課後に秘密の決闘をすることになってしまったのである。




部活動が終わった武道館には、ケンタロウとラン、それに男女の空手部員が数人、居残っていた。
彼らに指導をしている顧問の先生は、すでに帰ってしまっている。この決闘を止めるものは誰もおらず、男子と女子それぞれの期待を胸に秘めて、二人を見守っていた。

「やっぱりさ、防具を着けた方がいいと思うんだけど。危ないからさ」

すでにウォーミングアップをして、やる気まんまんのケンタロウに向かって、ランは声をかけた。

「ああ? 防具って、何だよ?」

「だから、体の防具もそうだし、その、そこの防具よ。金カップっていうの? 着けた方がいいんじゃないの?」

ランは純粋に心配して言っているのだが、それはかえってケンタロウを挑発するような効果しか持たなかった。

「今さら何だよ。この試合は、何でもありでやるんだろうが」

「それはそうだけど。やっぱり、防具はあった方がいいんじゃないかと思って。だって、もし潰れたりしたら困るでしょ、アンタのその、タマタマが?」

ランはちょっと言いにくそうに、ケンタロウの金玉の心配をした。
しかし、ケンタロウのプライドはますます傷つけられたようだった。

「うるせえな! 俺の心配なんかしてんじゃねえよ! どうせ、お前の蹴りなんか当たんないんだからな! 自分の心配をしとけって!」

ここまで言われると、ランも腹が立ってきた。自分は親切で言ってやっているのに、この態度はどういうことだろう。

「あっそう! 分かった。もういいよ。じゃあもう、何があっても知らないからね。アンタが自分で言いだしたんだから。きっちりと最後まで試合してあげるからね!」

「おう! 俺だって、手加減なんかしないからな!」

ランは完全に怒ってしまい、ケンタロウもそれに負けず啖呵をきった。
この時点で、ケンタロウは負けることなど想像もしていないようだった。
確かにケンタロウの実力は空手部でも随一で、試合形式の練習でも負けたことがあまりなかった。しかしそれはあくまで、金的攻撃が反則というルールがあってのことである。
ランはもちろん、周りで見守っている女子部員たちも、普段から男子を相手にすることがあっても、意図的に金的を狙ったことはなかった。
しかし、金的が男の急所であることはもちろん知っていたので、この対決でそのことが証明されることを期待しているのである。
逆に男子の部員たちは、金的攻撃ありでも女子に負けることなどありえないということを、ケンタロウに証明してほしいと思っているようだった。

「じゃあ、始めようか。審判、お願いね」

公平を期すため、審判を男女から一人ずつ出すことは、すでに決まっていた。
女子からはランの親友であるユナが、男子からはケンタロウに次ぐ実力を持つハヤトが選ばれた。

「では、三本先取勝負とします。始め!」

ユナの合図で、対決が始まった。
ルール無用ながら、通常の練習と同じ3本先取した方を勝ちとするとしたのは、ランの提案だった。
傲慢で、いつも自分に突っかかってくるケンタロウを懲らしめるには、この方法が一番いいと思ったのである。

「おう!」

「えい!」

二人はさすがに慣れた様子でかまえをとったが、その表情には普段以上の緊張がうかがえた。
何といってもルール無用で、防具すら付けていないのである。
目潰しなど、極めて危険な行為をすることは考えづらいにしても、やはり恐怖感はあるようで、お互い慎重に、相手の様子をうかがっていた。

「やあっ!」

静寂を破り、ケンタロウが先にしかけた。
右の回し蹴りを、ランの顔面めがけて振りあげたのである。

「くっ!」

普段の練習では完全に禁止されている攻撃だったので、ランの反応は遅れてしまった。
かろうじて腕でガードするが、体が崩れてしまう。これが男子の蹴りの威力なのかと、ゾッとする思いだった。

「へへっ」

一方のケンタロウも、自分の攻撃が相当の威力を持っていたことに、満足する思いだった。そのせいか、体勢の崩れたランへ続けて攻撃することはしなかった。
これがこの後の油断につながることは、まだ分かっていない。
ランは素早く体勢を立て直して、距離をとった。
危険すぎるケンタロウの攻撃をかわし、隙をついて一撃必殺を狙う作戦をとることにしたのである。

「いったーい。さすがに、当たるとヤバいなあ」

ランは冷静だった。
わざと苦しそうな顔をして、ケンタロウを図に乗らせることにしたのである。
案の定、ケンタロウは力に任せてランを叩きのめしてやろうと思った。大技を使えば、それだけ隙は大きくなる。ランの思うつぼだった。

「まだまだいくぜ! オラ!」

ケンタロウの中段回し蹴りが、ランの脇腹を狙う。
ランはしっかりとガードして、その威力を殺していたが、表情だけは痛そうにしている。

「オラオラ!」

ケンタロウは調子に乗って、左右の回し蹴りを交互に出していった。
さすがに鋭い蹴りだったのだが、距離をとっているランにはかろうじて届く程度で、その威力は期待できるものではなかった。
ただ、ランがまったく反撃してこないので、ケンタロウは図に乗って攻撃を仕掛け続ける。
それが単調なリズムになってしまっていることに、本人だけが気がつかなかった。


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「ここだ!」

何回目かの中段回し蹴りをガードした時、ランは突然一歩踏み込んで、がら空きになっていたケンタロウの股間に、右前蹴りを叩きこんだ。

パシン!

という音が、武道館に響き渡った。
ケンタロウは一瞬、何が起こったのか分からないようだった。
今まで気持ちよくランを追い詰めていたつもりだったが、突然、股間に衝撃を感じたのである。
ランの右足は、ケンタロウの股間にぶら下がっている睾丸をきれいにとらえ、小さな袋に入った卵のような塊を二つとも跳ね上げた感触があった。

「て、てめえ…!!」

ケンタロウは強烈な怒りをランに感じた。
それは急所を攻撃されたという、生命の危機に瀕した男の本能的な怒りだった。
すぐにでもランの顔面に拳を打ち込んでやりたいほどの衝動に駆られたが、突如、下腹部からきた強烈な痛みの波に、体の自由を奪われてしまう。

「ぐあ…! あ…!」

ケンタロウは思わず、股間を両手でおさえてひざまづいてしまった。

「一本!」

審判役のユナが右手を挙げた。
同じく審判をしていたハヤトは、何が起こったのか分からなかったが、慌てて右手を挙げた。
いかにケンタロウをひいきしようとしても、これは明らかなランの一本だった。

「ふう。うまくいった」

ランはため息をついて、乱れた道着を整えた。
すべて彼女の作戦通りで、その顔には先ほどまでと違い、余裕すら感じられる。

「ぐぐぐ…!!」

一方のケンタロウは、悲惨な状態になっていた。
股間の二つの睾丸から湧き上がってくる痛みはとめどなく、彼の全身に広がり続けている。それ以外、何も考えられないほど強烈な痛みだった。

「だ、大丈夫か?」

思わずハヤトがかけよって、うずくまるケンタロウの腰をさすってやった。
ケンタロウの顔には脂汗が浮かび、歯を食いしばって唸っているようだった。

「さて。じゃあ、早く二本目を始めよっか?」

男の最大の苦しみあえぐケンタロウを見下ろしながら、ランは平然とした様子で言い放った。
それを聞いたハヤトは驚いて、顔をあげる。

「ま、待てよ! こんなんで、できるわけないだろ、二本目なんて」

もっともな言い分だった。
この場にいる男子の空手部員全員がケンタロウの痛みを想像し、身震いしているというのに、ランはそんなことなど関係ない様子だった。

「だって、三本先取勝負じゃない。まだ、一本しか取ってないよ。早くしてよ」

薄笑いさえ浮かべながら、そう言った。どうやら彼女は、男が急所を蹴られれば、そう簡単に立ち上がることなどできないとよく分かった上で、意地悪を言っているようだった。
ハヤトはそれに気づき、思わず審判役のユナの方に助けを求めた。

「ちょっと休憩しないと、無理だよ。そうしよう?」

「え…。でも、三本先取だし、最後までやるって言ってたし…。一回蹴られただけで、そんなに痛いの…? 」

ユナはランの親友だったが、性格はごく大人しく、男の急所についての知識もまったくなかった。ただ試合前の取り決めに基づいて、正しいことを言っているのだが、この場合のケンタロウには、それは何より残酷なことだった。

「そうみたいだねー。やっぱり男はアソコを蹴られると、一発で負けちゃうってことだね。最初からそう言ってるのにさあ。ね? 痛いでしょ? 痛くて我慢できないんでしょ、タマタマが?」

ランは笑いながら、ケンタロウを見下ろしていた。

「て、てめえ…! くっ!!」

ケンタロウは悔しさのあまり、顔を上げてランを睨みつけようとしたが、少し動くだけで、睾丸の痛みが全身を貫くように増加した。
その情けない姿に、ランだけでなく、周りで見ていた女子全員、噴き出してしまった。

「なに、あの格好。丸まっちゃって。だっさーい」

「ホント。よっぽど痛いんだね」

「ちょっと蹴っただけなのにね。男子の急所って、あんなに弱いんだ」

女子部員たちの囁き声は、他の男子部員たちの耳にも入ったが、彼らにもそれを否定することはできなかった。
もし自分がさきほどのケンタロウのように蹴られたら、やはり同じように床にうずくまってしまうということは、明らかだったのだ。

「まあ、ギブアップするならそれでもいいよ。でも、最後まで試合するっていう約束を破るんだから、それなりのことをしてもらうけど? とりあえず、土下座で謝ってもらうかな。まあ、今も土下座してるようなもんだけど。アハハ」
 
ランの笑い声に、ケンタロウの心は徹底的に打ちのめされた。
ここは男のプライドにかけて立ち上がらなけらばいけないと思い、ハヤトの手を借りて、足を震わせながらゆっくりと起きあがった。

「く…! だ、誰がギブアップなんかするかよ…。お前、ぶちのめしてやるからな…!」

精一杯の敵意をこめて睨みつけるケンタロウだったが、ハヤトの肩を借りてすごむその姿は、ランでなくても滑稽に思えた。

「ふーん。まだやるんだ。大丈夫なの?」

「う、うるせえっ! オラ、始めるぞ!」

ケンタロウはハヤトの手を振り払い、汗びっしょりになりながらかまえをとってみせた。
しかし、腰が完全に引けてしまっていて、隣で見ていたハヤトですら、その姿には不安しか感じなかった。

「はい。では、二本目、始め!」

ハヤトは止めようかと思ったが、何も知らないユナは、無情なほど冷静に、開始の合図をした。

「お、おう!」

ケンタロウの声は震えていた。
睾丸の痛みはまだ十分残っており、本来なら横になって休んでいたいほどのものだった。それは対峙するランにも十分伝わってくる。

「やれやれ…」

ランはこの際、どうケンタロウを料理してやるかということしか考えていなかった。彼女にはケンタロウの睾丸の痛みは分からないが、先ほどの金的蹴りの手応えから、相当の威力があったことが想像できる。
後はどうケンタロウを屈服させて、くだらない男のプライドをへし折ってやるかを考えるばかりだった。

「痛いくせに、無理しちゃって」

ランは余裕を持ってかまえた。
金的を蹴られた痛みの残る男が、ろくに動くこともできないことは、彼女は経験で知っていたのである。

「言っとくけどさ、さっきの蹴りは、けっこう手加減してあげたんだからね。思いっきり蹴ったら、アンタのタマタマがどうなるか、アタシにも分かんないよ?」

ケンタロウはランの言葉に、背筋が凍る思いだった。
今まで空手の練習で、金的に攻撃を当てられたことは何度かあったが、さっき蹴られた痛みは、その時の比ではなかった。
金的を狙って蹴られるということの危険性と恐怖を、文字通り痛いほど実感しているのである。

「ほら、いくよ」

ランはためらう様子もなく、ケンタロウの間合いに踏み込んでいった。
もはやケンタロウに先ほどのような鋭い攻撃はできないと予想しての、大胆な行動だった。

「うおっ!」

何気なく振り上げられたランの右脚を、ケンタロウは必死の思いで避けた。
それは金的を狙ったものではなかったが、すでに彼の頭には、金的蹴りの痛みが刷り込まれてしまっているのである。

「頑張ってよ。ほら、ほら」

ランはケンタロウの恐怖心を見透かした様子で、次々と蹴りを放っていった。
ケンタロウは金的だけは死守するつもりで、防御していたが、その腰は完全に引けてしまっていた。

「えー、何あれ。カッコ悪いねー」

「やっぱり、アソコを蹴られたくないんだよ、きっと。おっかしー」

周りにいる女子部員たちの囁きも耳に入ったが、ケンタロウにとってはそれどころではなかった。
何しろ、ランの蹴りを手でガードするだけで、股間に衝撃が走り、痛みがぶり返すのである。
もはや立っているのもやっとの状態だった。

「く…あ…うわっ…!」

腰を引いてランの蹴りをよけようとした時に、ケンタロウは膝をついてしまった。
普段なら何でもない動きだったのだが、やはり足に力が入らなくなっている。

「フン。さっさと立ちなさいよ」

攻撃が当たったわけではないので、一本は取れない。ランは勝ち誇った表情で、ケンタロウを見下ろしていた。
しかし、そこにランの油断があった。

「くっそー!!」

ひざまずいていたケンタロウは、その体勢から、目の前のランの両足にタックルを仕掛けたのである。

「あっ!!」

不意のことで、ランはあっという間に引き倒されてしまった。
もちろん、彼らが習っている空手にはこんな技などないが、これは反則なしの勝負だと、ケンタロウは思っていた。

「どうだ! 捕まえたぞ!」

ケンタロウはランの腹に馬乗りになって、見下ろした。
まだ股間の痛みは残っているが、立っているよりはマシである。我ながらいい作戦だと確信した。

「卑怯よ、そんなの!」

周りの女子部員から声が上がったが、審判役のハヤトはもちろん、ユナでさえも反則は取れなかった。
もともとこの勝負は反則なしで、二人の役目は、攻撃が当たったことを宣告することだけなのである。

「うるせえ! この試合は、ルールなんかないはずだろ! 卑怯もなにもあるかよ!」

その言葉に、ランも言い返すことはできなかった。
何より彼女は、タックルで倒された時に、頭を打つことだけは回避したものの、背中を打ちつけて、軽い呼吸困難を起こしてしまっていたのだ。

「さっきはよくもやってくれたな。倍にして返してやるよ!」

ケンタロウは意地悪く表情を歪ませると、大きく右手を振りあげて、ランの顔面を狙った。
バチンッと大きな音を立てて、強烈なビンタが入る。
さすがに拳を打ち込むことはケンタロウも遠慮したのだが、女子の顔にビンタをするということは、十分に衝撃的なことだった。

「きゃあっ!」

呼吸困難に陥っていたランも、この一撃で目が覚めた。
自分がどんなに危険な状況に置かれているかを確認し、両腕で頭をガードした。

「このっ!!」

ケンタロウは両手を使って、ランのガードの隙間から彼女の頭をさんざんに叩いた。
その様子は完全に空手などではなく、子供のケンカそのものだった。
審判役のユナもハヤトも、どの攻撃で一本を取るべきなのか迷っているようで、もはやこの試合の勝敗は、戦っている両者にゆだねられたような形になっていた。

「くそっ! この野郎!」

ランは必死でガードしていたが、ケンタロウもまた必死だった。
ガードが固く、なかなか威力のある攻撃が当てられないと思うと、ケンタロウはランの髪の毛を掴んで引っ張った。

「あっ!!」

ランは鋭い痛みに、思わずガードを解いて、ケンタロウの腕を掴んだ。
ケンタロウは、これが効果的と見ると、両手で思い切り髪の毛を引っ張る作戦に出た。

「どうだ! ギブアップしろ!」

ケンタロウは叫んだ。
ランは歯を食いしばって痛みに耐えていたが、やがてあることに気がついて、ケンタロウの股間に目をやった。
今、ケンタロウの股間はまったく無防備に、ランの腹の上にある。蹴りとばすことは無理だとしても、手を伸ばせば届く位置にあった。

「このっ!」

ランはケンタロウの腕から手を離すと、素早くその股間に右手を伸ばし、その手がコロっとした柔らかいものに当たると、それを思い切り握りしめた。

「ぎゃあっ!!」

今度はケンタロウが、痛みに身をよじる番だった。
ランは髪の毛を掴まれた怒りにまかせて、ケンタロウの睾丸の一つを、ギリギリと握りしめている。

「放してよ!」

少しの間、ケンタロウとランの我慢比べのような形になったが、やがて少しずつ、髪の毛を掴むケンタロウの手から力が抜け始めた。
するとランは、今度は両手をつかって、ケンタロウの睾丸の二つとも握ることにした。

「放せって言ってんの!」

「はうぅっ!!」

怒りと共に睾丸を握りしめると、ついにケンタロウはその手を髪の毛から放してしまった。
睾丸を掴むランの手を引き離そうとするが、この状態では、腕に力など入らない。
やがてランは体を起こして、ケンタロウの馬乗り状態から脱出した。もちろんその間も、しっかりと睾丸を握りしめ続けている。

「ひいっ! うう…!」

「よくも…! よくもやってくれたね! さっきアタシは、手加減してあげたってのに。女の子の顔を叩くなんて、超サイテー!!」

ランの頬には、くっきりと先ほどのビンタの跡が残っていた。
その目は怒りに満ち満ちており、ケンタロウがいくら情けない悲鳴を上げても、決して手を緩めようとはしない。

「そうだよ、ラン。女の顔を叩くヤツなんか、サイテー!」

「そんなタマ、潰しちゃえ!」

「潰せ! 潰せ!」

外野の女子部員からも応援の声があがり、やがてその声は合唱となって武道館に響いた。ケンタロウは痛みに苦しみながら、自分がしでかしてしまったことの重大さに気がついた。
睾丸そのものも痛いが、下腹部から沸き上げってくるような鈍痛は耐えがたいもので、それはケンタロウの血液を逆流させ、吐き気さえ催すほどのものだった。

「そうだねえ。思いっきり握ったら、潰れるかなあ?」

ランは意地悪そうな笑いを浮かべる。
自分に地獄のような苦しみを与えているラン自身は、この痛みを理解することなど一生ない。それは周りで見ている女子達も一緒で、だからこそ潰せなどと叫び、躊躇せずに睾丸を握りしめることができるのだ。
ケンタロウは改めて、女の残酷さに恐怖する思いだった。





「い、一本! 一本だ!」

突然、ハヤトが右手を挙げた。
どうやら、ケンタロウを苦しみから救うためには、ランの一本を宣告するしかないと思ったらしい。
それを聞いて、女子達の潰せコールは止み、ランもハヤトの顔を見つめた。

「はあ? なに言ってんの?」

「だから、ランの一本だよ。決まったんだから、いったん放してやれよ!」

ランには、ハヤトの魂胆がすぐ理解できた。
しかし睾丸を握る手は緩めずに、もう一人の審判であるユナの方を振り向いた。

「ふーん。ユナは、どう思う?」

「え…と…。相手にダメージのある攻撃を当てた時に、一本取るんだと思うけど…。ダメージあるの…?」

ユナはただ純粋に、ケンタロウに尋ねてみた。
ケンタロウは返事をするどころではなかったが、その苦悶の表情から、ダメージどころの騒ぎではないことは明らかだった。

「そうだねえ。ダメージあるっていえば、あるか。ま、アタシ達には分かんないけどね。えい!」

そう言うと、ランはケンタロウの睾丸を握る手に、ぐっと力を込めて、ぐりっと指で弾くようにして、解放してやった。
一瞬だが、ケンタロウの睾丸は限界ぎりぎりまで変形し、もちろんその痛みは想像を絶するものとなる。

「はぐうっ!!」

ようやく解放されたケンタロウは、両手で睾丸を包むようにおさえて、その場で丸まってしまった。
睾丸の痛みは、痛めつけられたその瞬間よりも、あとからジワジワと襲ってくるものの方が強い。しかもそれが何十分、ときには何時間と続くのだ。

「大丈夫か!?」

ハヤトが駆け寄るが、ケンタロウは返事をすることもできずにうずくまり、唇を震わせていた。

「じゃあ、今のはアタシの二本目ってことね。あ、その前にアンタがビンタしたのも、一本にしていいよ。その方が公平でしょ?」

状況は1対2になったが、そのダメージの差は比べようもなかった。
ランの頬には、さきほどのビンタの跡が赤く残っているが、ケンタロウの睾丸は、恐らくそれ以上に腫れているだろう。

「さあ、それじゃあ試合を続けようか?」

ランは痛みに震えるケンタロウを見下ろしてなお、残酷すぎることを口にした。

「な…! なに言ってんだよ! もう試合は終わりだ! こんなんでできるわけないだろ!」

ハヤトは呼吸することさえつらそうなケンタロウに代わって、ランに抗議した。
しかしランは平然と、それを却下する。

「だって、最後まで続けるって約束だしさ。今の一本だって、サービスしたようなもんだもん。そうだ。ラスト一本で、アンタのタマタマ、潰してあげるよ。それだったら、文句なしの一本だよね?」

笑いながらユナに問いかけると、ユナはちょっと考えて、うなずいた。

「うん…。潰れたら、しょうがないかな…。一本かも」

ケンタロウはもちろん、ハヤトや周りで見ていた男子部員たちも、ゾッとするような女の子たちの残酷さだった。
思わず、ハヤトはランに食ってかかった。

「お前、いい加減にしろよ! 金玉蹴られるのがどれだけ痛いか、分かってんのか!?」

しかし次の瞬間、うっと呻いて、ハヤトはその場に崩れ落ちてしまった。
ランのひざ蹴りが、ハヤトの股間に深々と突き刺さっていたのである。

「アンタ、うるさいよ。さっきから。引っこんでてよ」

あまりにも冷酷な、ランの態度だった。どうやら先ほどケンタロウに受けたビンタの怒りは、まだ完全におさまってはいないようだった。

「この野郎!」

「何してんだよ!」

崩れ落ち、うずくまってしまったハヤトの姿を見て、周りで見ていた男子部員たちがついに立ち上がった。
彼らもまた、男を侮辱するようなランの発言には、先ほどから腹が立っていたし、ケンタロウの苦しみも十分理解できていた。
審判役のハヤトさえ攻撃されたことで、その怒りが爆発したのである。

「ラン!」

「何よ、アンタ達!」

さすがのランも、3人の男子部員から迫られて、ちょっとたじろいだが、すぐに他の女子部員たちが立ち上がって、彼女を救援した。
双方の部員の人数は互角だったが、女子部員たちはさきほどから、男がいかに弱くて脆いものなのか、まざまざと見せつけられている。
普段の練習では男子に遅れをとることが多かったが、ルール無用のケンカでは、負けない自信ができてしまっていた。

「えい!」

「やあ!」

男子部員たちがかまえるよりも早く、女子達の金的蹴りが、彼らの股間に炸裂した。
それはランがケンタロウに放ったものと比べれば、威力もなく、当たりも良くないものだったが、男子部員たちの自由を奪うには、十分すぎるものだった。

「うっ!」

「ぐえっ!」

まるで魔法のように、3人の男子部員たちは、次々と女子に倒されていった。
結局、武道館には股間をおさえてうずくまる男子達と、それを見下ろす女子部員たちの図ができてしまった。

「あーあ。みんな、やられちゃったねー。どう? やっぱりタマタマは痛いでしょ?」

「ホント、男子ってみんな一緒なんだね。金蹴り一発でダウンしちゃうんだ」

「軽くしか蹴ってないのに。当たった時ムニっとしたけど、アレががタマタマなのかな?」

ランは楽しそうに笑い、女子部員たちも、初めての金的蹴りの威力に驚いているようだった。
一方の男子達は、一様にうずくまって、まったく動けない様子だった。
今まで負けるはずがないと思っていた女子に、こんなにも簡単に敗北してしまうとは、想像もしていなかった。彼らの男としてのプライドは、睾丸の痛みと共に、完全にへし折られてしまった。

「さて。じゃあ試合の続きをやろうか? それとも、ギブアップする?」

ランは改めて、ケンタロウの顔を覗き込んだ。
ケンタロウはすでに完全に心を折られて、ランの笑顔に恐怖すら感じていた。

「ギ、ギブアップ…します…」

たどたどしい声で、ようやく言えた。

「ん? ギブアップするの? どうしよっかなー」

「ギブアップします…! お、お願いだから…」

ケンタロウはすがるような声で言った。
周りでそれを聞いていたハヤトや、他の部員たちも、ランの態度やケンタロウの哀願に屈辱を感じたが、かといって、今、自分たちは動くことすらできない。

「しょうがないなー。でも、ちょっと誠意を見せてくれないとね。とりあえず、服脱いでよ。パンツ一枚で土下座してみて」

平然と言い放ったが、ランの言葉には有無を言わさぬ迫力が込められていた。
ケンタロウはハッと顔をあげてランの顔を見たが、ランは相変わらず笑っていた。

「どうしたの? できないなら、試合続けてもいいんだよ?」

「あ…。いや…はい…」

ケンタロウは力なくうなずいて、道着の帯に手をかけた。

「そうそう。いっぱい汗かいて、暑いでしょ? ちょうどいいじゃん。あ、アンタ達もだよ。早くして?」

ランは周りでうずくまっている男子部員たちにも声をかけた。
男子達は一斉に顔をあげた。

「ふ、ふざけんな! なんでそんなこと…!」

「お前、調子に乗るなよ!」

当然の反応だった。
ハヤトなどは特に興奮して、股間の痛みに耐えながら立ち上がると、またもやランに食ってかかろうとした。
しかし、まるで打ち合わせでもしたかのように、女子部員たちが素早く回り込み、ハヤトの両腕を掴んでその動きを止めた。

「な! なんだよ!」

すると突然ユナが、ハヤトの前に立ちはだかった。

「ダメだよ、ハヤト君。おとなしくして!」

ユナはためらうことなく、足を振りあげた。
バシンと、先ほどよりも強烈な蹴りが、ハヤトの股間に炸裂した。

「あううっ!!」

ハヤトは再び、地獄の苦しみに呻くことになった。

「やるじゃん、ユナ!」

ランが笑うと、ユナは恥ずかしそうに顔を赤くした。

「うん…。なんか私も、やってみたくなっちゃって…。簡単だね」

その足元では、ハヤトが股間をおさえて、海老のように丸くなって震えている。

「さあ、早く脱いでよ」

男子部員たちは、諦めるしかなかった。
数分後には、女子達の前に、パンツ一枚で土下座する男子達の列ができていた。

「あー、いい感じだね。反省してるって感じ」

ランは嬉しそうに携帯をかまえて、男子達の情けない姿をビデオに撮っていた。

「じゃあ、皆で謝ってみようか。はい、声を揃えて! 僕たち男子は、タマタマが痛いので、女子に負けてしまいました」

ランの言うとおり、男子達は復唱した。

「僕たちは弱いので、もう二度と、女子には逆らいません。すいませんでした!」

土下座をするだけでも情けないのに、女の子の前でパンツ一枚になり、しかも男を全否定するかのようなことを言わされる。男子達にとってこれ以上に屈辱的なことはなかった。

「はい、よくできました。これからは、女の子に逆らっちゃダメだよ?」

ランは男子達の情けない姿を見て、十分満足したようだった。
他の女子部員たちも、笑いをこらえながら男子達の謝罪を聞いていた。
すると、ランはビデオを撮るのをやめて、土下座しているケンタロウの側にしゃがみこんだ。

「どう? 男はアソコを蹴られたら、女の子には勝てないでしょ? アタシの言った通りじゃん」

ランの手は、土下座をするケンタロウの股間の方に伸びて、そっとその膨らみを撫でた。
ケンタロウはまた睾丸を握られるのかと思って、体を硬直させる。

「これに懲りたら、もうアタシにからんでこないでよね。もしまたからんできたら、このタマタマ…」

ジワジワと、睾丸を触るランの手に力がこめられていくような気がして、ケンタロウは必死で首を縦に振った。

「もらっちゃうからね!」

ピシッと、ランはケンタロウの睾丸にデコピンをした。
それでもケンタロウにとっては電撃のような痛みで、あっと声をあげて、またうずくまった。

「アハハ! じゃあね。お疲れー」

ランと女の子たちは笑いながら、武道館を後にした。
残された男子達は、睾丸の痛みが引くまで、もうしばらく、じっとうずくまっていることしかできなかった。


終わり。



「ケイ君、先生がいらしたわよー?」

毎週水曜日の午後6時。母親の声を聞くと、ケイゴはいまだに緊張してしまう。
柔らかい足音が階段を一段一段登ってくる音に耳を澄まし、ドアノブに手をかけた気配を感じると、思い切って振り向くのだ。

「こんばんは。今日もよろしくね」

家庭教師のミサトがにっこりと笑うと、ケイゴははにかみながら、口元で軽く微笑み返すのだった。



「ああ。実力テストがあったのね。どれどれ。見せてもらうわ」

答案を渡されたミサトは、黒いストッキングに包まれた長い脚をイスの上で組みかえた。
いつも履いているタイトスカートは特に短いというわけではなかったが、あるいはその奥が見えてしまうこともあるのではと、ケイゴはいつも思ってしまう。

「えーっと…。数学が61点。英語が72点。国語が80点か。いつも国語はいいわね、ケイゴ君は」

「あ、はい…」

慌てて目をそらしたのは、視線がミサトの胸の方に行っていると思われたくないからだった。
薄いブラウスシャツの上からでも、ミサトが今日つけているブラジャーが黒だということははっきりと分かったが、ケイゴはそこに目を走らせないように、必死に努力していた。

「あら。理科が35点しか取れなかったの? ふうん」

「あ、それは…。勉強したところが、あんまり出なくて…。すいません」

「これ、平均点はいくつだったの?」

「あ…。52点…だったと思います…」

ためらいがちな言葉を聞くと、ミサトは微笑した。

「そう。じゃあ、まずは一回ね。他は大丈夫なのかしら?」

「あの…その、社会がちょっと…」

「社会? そうね、社会は62点か。平均点以下なの?」

「いや、違くて! 今回はみんな、思ったより良かったって、先生も言ってて…」

「平均点以下なの?」

ケイゴの弁明を、ミサトのよく通る声が遮った。

「はい…。70点でした…」

ケイゴは力なくうなだれた。

「そう。じゃあ、これで2回は確定ね。テストの中身を見ていきましょうか?」

「はい…」

ミサトの微笑みに、ケイゴはうなずくことしかできなかった。
ミサトがケイゴの家庭教師をするようになってから、4か月ほどになる。
中学三年になり、打ち込んでいたサッカー部を引退したケイゴは、いつの間にか自分の学力が他の生徒より遅れてしまっていることに気がついた。
サッカーにおいては、県大会で選抜にまで選ばれたほどの実力だったのだが、スポーツ推薦に頼って学業を疎かにしたくないというのが、ケイゴの両親の考えだった。
そこへちょうど、母親の従妹にあたるミサトが大学院に通い始め、近所に引っ越してきたということを聞いて、無理を言って家庭教師役を引き受けてもらったのであった。

「わあ。ケイゴ君、こんなに大きくなったんだ。一緒に遊んだこともあるのよ。覚えてる?」

ケイゴにとって、ミサトは遠く離れた所にいる親戚で、今までほとんど会ったことがなかった。
しかし不思議と、ミサトはケイゴのことをよく覚えているらしく、久しぶりの再会で、しきりと「大きくなった」と繰り返していた。
事実、ケイゴの身長は170センチもあり、中学生としては大きい方だった。

「今日からは、先生って呼ばなきゃダメよ? 頑張りましょうね」

ミサトは大学を出た後、海外に留学し、2年間経済の勉強をしていたらしい。日本に戻ってきてからは、今度は法律の勉強をするために大学院に通っているという秀才だった。
しかしケイゴにしてみれば、ミサトの学歴よりもその美しい容姿の方が衝撃的で、華麗な大人の女性のむせかえるような魅力に、たちまち心を奪われてしまったのだった。
そしてそれは何度目かの授業の時に、ミサト本人に知られることになる。

「じゃあ、次の問題。2次方程式ね。もう分かると思うけど、これは公式さえ分かれば簡単なのよ」

ケイゴが苦手としていた数学も、徐々に理解できるようになってきた。
ミサトの教え方は懇切丁寧で、優秀な人間にありがちな感覚的表現などはほとんどなかった。

「いい? これを因数分解すると、こうなるでしょ…」

ケイゴの鼻に香るのは、長い黒髪から発せられるシャンプーの香りだった。
狭い学習机に向かっているため、ミサトが問題を解いてくれるとき、二人の顔の距離は極端に近くなる。さらに身を乗り出した時、大きな胸が学習机の上に乗って、ときにそれがケイゴの二の腕に触れた。その柔らかい感触は、ケイゴがかつて経験したどんなものよりも心地よいものだった。

「分かった?」

つい、恍惚とした気分に浸ってしまっていたケイゴは、慌てて我を取り戻した。

「あ、はい。分かりました」

「そう。じゃあ、次の問題を解いてみて」

微笑みにうながされて問題集に目を落としたが、今まで軽い興奮状態にあったケイゴの頭脳は、容易に勉強モードにならなかった。
中学三年生のケイゴはもちろん自慰は経験済みで、部活動を引退して以来、体力を持て余している。

「どうしたの? さっきとほとんど同じ解き方でいいのよ。ほら、こうして…」

二人が同時に学習机の上で身をかがめると、その距離はさらに縮まった。
ケイゴの頬には、ミサトの息遣いさえ感じ、その肩にはミサトの乳房が押し付けられ、変形していた。
ミサトは、自分の体がケイゴと密着していることに気づいていないのか。それとも気づいていながら、ケイゴを年下の親戚だと思い油断しているのか。
どちらにしろ、ケイゴは初めて味わう大人の女性の肉体の感触に、若い性欲をたぎらせ始めてしまっていた。

「ほら、こうするのよ。分かる?」

「は、はい…」

うわの空で返事をしたが、耳まで真っ赤に染めたその様子に、さすがにミサトも異変を感じた。
ふと見ると、椅子に座ったケイゴのジャージの股間の部分が、異様に膨らんでしまっている。
ミサトは一瞬、息をのんだが、すぐに悪戯っぽい微笑みを浮かべた。

「ケイゴ君。もしかして、いやらしいこととか考えてるんじゃない?」

図星を指されると、ケイゴはギクッと体を震わせた。返事をせずとも、その緊張した様子から、すべてが分かってしまう。

「え? い、いや。そんなことない…です…けど…?」

「ホントに? じゃあ、これは一体どういうことなのかな?」

そう言うと、ミサトはいきなりケイゴの股間に手を伸ばし、その膨らみを握りしめた。
今まで自分の勃起にすら気づいていなかったケイゴは、あっと声を上げる。

「すごーい。カチカチね。こんなに大きくしちゃって。何考えてたの?」

「あ、いや…あ…!」

いたずらを叱るような声で、ケイゴに囁いた。
その手がペニスを確かめるように揉むと、ケイゴの口からは自分でも思ってもみなかった声が漏れてしまう。

「もしかして、私の胸が当たってたかな? それで興奮しちゃった? フフフ…。カワイイ…」

喘ぎ声を必死に我慢している様子を、面白そうに見つめていた。
ケイゴはペニスを握るミサトの手を掴んだが、かといって引きはがすことはできない。
ミサトの細い指は、優しくリズミカルにケイゴの肉棒を揉みしだいている。

「あんなに小っちゃくて可愛かったケイゴ君が、こんなにおちんちん固くして、興奮するなんてね。私、ケイゴ君のおむつを替えてあげたこともあるのよ? フフフ」

「あ…先生…!」

「でもこれは、お母さんに報告しないとね。ケイゴ君はいやらしいことばかり考えて、勉強に集中できてないみたいですって。そうなんでしょ?」

「そ、それは…!」

ケイゴの両親は温和だが真面目で、息子の性教育に関しても厳格だった。そんなことを知られれば、両親を失望させてしまいそうで怖かった。

「冗談よ。お母さんは堅い人だもんね。秘密にしといてあげるわ」

ミサトは笑って、股間から手を放した。
あのまま揉み続けていれば、遠からず、ケイゴのペニスは限界を迎えるはずだった。
ケイゴは解放され、ホッとした反面、本能的な口惜しさも感じてしまう。

「でも実際、これは何とかしてあげないと、勉強に集中できないわね。こんなに大きくしちゃって」

依然としてジャージの股間を盛り上げているそれを、ミサトは笑いながら見つめた。
ケイゴは恥ずかしがりながらも、申し訳なさそうにうつむくしかない。
するとミサトは、突然何かを思いついたように、手を叩いた。

「そうだ。私がいい方法を知ってるから、それをやってみようかな。いい?」

笑顔でそう聞かれると、ケイゴはついうなずいてしまう。

「じゃあ、ちょっと目をつぶってて」

言われるままに、ケイゴは目を閉じた。
今からミサトは、何をしてくれるのか。友達に借りたアダルトビデオや雑誌に載っているようなことをしてくれるのではないか。
ミサトの手が、ためらうことなくケイゴのジャージの中まで入ってきたとき、その期待は最高潮に達した。
しかし次の瞬間、その期待ははかなく裏切られてしまう。

「…っ!?」

ケイゴは思わず目を開けた。
ミサトの手は、先程まで揉みしだいていたペニスではなく、その下、二つの睾丸を掴んだのだ。
そしてケイゴが戸惑う間もなく、ミサトの手には強烈な力が加わり始めたのである。

「はあっ……!!」

ケイゴは思わず息をのんだ。体全体が強張ってしまうほどの衝撃と痛みが、あっという間に下腹部から広がってきた。
苦痛にゆがんだ顔でミサトの方を見ると、唇に人差し指を当てて、「静かに」という表情をしている。その顔は、どこか楽しげに笑っているようだった。

「んん…うぅ…! 先生っ…!!」

口に手を当てなければ、うめき声が漏れてしまいそうだった。
前かがみになって腰を引こうとするが、ミサトの手はケイゴの睾丸をしっかりと握って離さない。

「まだまだ。もうちょっとよ。我慢して」

囁くようにそう言って、ミサトは指先で挟んだ睾丸の一つにグリグリと押し込むようにして、親指をめり込ませていく。
先程までの興奮は一瞬にして冷め、ケイゴはとめどない鈍痛に吐き気さえ催し始めてきた。

「うぅっっ!!」

机に額をこすりつけ、歯を食いしばってみても、一向に痛みは鎮まらず、ミサトの握力が緩むことはなかった。

「あ…あぁ…!! 先生…!」

ついにケイゴの背中がブルブルと痙攣し始めたころ、ミサトはようやく手を離した。

「はい。おしまい。おちんちん、小さくなったでしょ?」

軽いお仕置きを済ませた後のような言い方だったが、ケイゴの方はそれどころではなかった。
圧迫から解放されたとはいえ、睾丸から立ち上ってくるジンジンとした痛みは、すぐに止むものではない。
ミサトの言うとおり、勃起はいつの間にかおさまっているようだったが、とてもそんなことを気にする余裕はなかった。

「私がアメリカにいるころね、セルフディフェンスのセミナーで習ったのよ。興奮した男は、タマを握れば静かになるって。試したことはなかったんだけど、ホントだったみたいね」

ミサトは新しい発見をしたように、うれしそうな顔をしていた。

「タマは男の急所だから、ちょっと痛いかもしれないけど、これで勉強に集中できるわね? さあ、始めましょうか」

前かがみになって股間をおさえているケイゴは、まだ起き上がれそうになかった。
荒い息を吐きながら、ミサトを見上げる。

「せ、先生…。まだ、ちょっと…」

「ん? ヤダ。そんなに痛かったの? 一応、手加減したんだけどな。ごめんなさいね。最初だから、加減が分からなくて」

最初だからとミサトは言う。最初ということは、この次もあるつもりなのだろうか。ケイゴの頭に嫌な想像が浮かんだが、それは言葉に出さなかった。

「でも、そうか。そんなに痛いのね。ふうん。急所だもんねえ」

ミサトは感心しながらも、興味深そうな、何か考えるような笑みを浮かべていた。
ケイゴにはミサトの考えていることは分からなかったが、そのミサトの微笑みに、何か抗いがたい魅力のようなものを感じてしまうのだった。




それから数ヶ月。ケイゴの成績はグングンと伸び、その分だけ二人の信頼関係は篤くなっていった。
しかしそれに伴って、ミサトの指導もどんどんと厳しさを増していった。
勉強に集中できなければ罰を与えるのはもちろん、テストで平均点を下回れば、その教科の数だけ罰を与える決まりになっているのだった。
ミサトが選んだ罰は、ケイゴが最も苦しくて、最も嫌がる方法。つまり、急所攻撃だった。

「ほら、しっかり立って。腰が引けてるわよ?」

「は、はい…」

実力テストの答案用紙を持って、椅子に座るミサト。
その前に立つのは、両足を大きく開き、両手を後ろで組んでいるケイゴだった。
ズボンを脱ぎ、灰色のボクサーパンツ一枚になったその股間には、すでにミサトのつま先が伸びている。

「今回の英語は良くできたみたいだったけど。この問題が解けないのは、どういうことかしら? いい? これよ。第二問、次の日本語を英語に直しなさい。『彼らは先週の金曜日からずっとここにいます』。わかるわよね?」

「はい…。They were here in last Friday…」

「違う! それは過去形でしょ。これは、ずっとここにいますだから。わかる?」

体に問いかけるように、ミサトのつま先がケイゴの金玉袋を揺らした。
ミサトにとっては無意識の動きだったが、ケイゴの神経はどうしてもそちらに集中してしまう。

「あっ…。は、はい。あの…その…」

「現在完了よ、現在完了。何回もやったでしょ? もう忘れたの? これは、あと一回プラスね」

「あ…それは…」

言いかけた言葉を、ミサトが目でおさえつけた。
ミサトの指導は日を追うごとに厳しくなってきていたが、特にこの急所攻撃の罰を与えるときは、人が変わったようにケイゴに対して高圧的な態度を見せるようになっていた。

「アナタがきちんとすれば、痛い思いしなくて済むのよ。先生も、ホントはこんなことやりたくないんだから。ほらほら。プニプニして柔らかいタマね」

椅子の上で足を組みながら、黒いストッキングのつま先でケイゴの睾丸を弄んだ。
やりたくないといいながらも、その声には喜びを押し殺すかのような艶があり、口元には絶えず微笑が浮かんでいた。
ケイゴは今にも急所を蹴り上げられそうな恐怖を感じながらも、スラリと伸びたミサトの長い脚に目を奪われ、そのつま先が与える快感に身をよじった。

「あらぁ? ケイゴ君。大きくなってきてるんじゃないの? 大事な大事なタマを蹴られてるのに。どういうこと?」

ミサトの言うとおり、ケイゴのボクサーパンツの前は、もう少しすれば棒状の形がしっかりと浮き出てしまいそうなほど、盛り上がってきている。
ケイゴは自分でもしまったと思ったが、ミサトのつま先が離れることはないし、意識すればするほど、かえってペニスは膨張してくるのだった。

「ホント、ケイゴ君はいやらしいわね。ちょっといじると、すぐに感じちゃって」

笑いをかみ殺しながら、ミサトは囁く。

「授業中にいやらしいことを考えた罰として、もう一回プラスね。これで四回か。今日はケイゴ君のタマも無事じゃすまなさそうね?」

「そ、そんな…」

憐れみを乞うような目で弁解しようとすると、ミサトのつま先が素早く動いた。
ピシッと、足首から先の力だけで、金玉を跳ね上げたのである。

「あうっ!」

それでもケイゴにとっては十分な衝撃で、思わず内股になって、股間を両手でおさえてしまう。
ジーンと鈍い痛みが、両の睾丸から発せられてきた。

「これで許してあげるわ。大きくした分はね」

背中を丸めるケイゴの姿を、ミサトは椅子に座ったまま、面白そうに見つめていた。
一体いつの間に、こんなSっ気を発揮し始めたのか。重苦しい男の痛みに苦しむ自分を笑いながら見ているミサトに、ケイゴは戦慄する思いだった。
しかしケイゴ自身、この状況を受け入れてしまっている自分に気がついていた。下着一枚になって急所を蹴られるという異常な罰など、その気になればいつでも逆らうことができる。それをしないということは、自分もまたこの状況をどこかで楽しんでいるのかもしれないと、ケイゴは薄々感じ始めていた。

「ほらほら。お勉強は続いているのよ。現在完了って何だったかしら?」

ミサトはさらに容赦なく、ケイゴの股間につま先を突っ込んだ。
こういうとき素早く背筋を伸ばさなければ、ミサトからさらに罰を受けてしまうことを、ケイゴは知っていた。

「あっ! は、はい…。現在完了は…haveと過去分詞です…あっ!」

痛みの残る睾丸は、敏感になっている。
ミサトのストッキングのつま先がケイゴの股間で擦れる度に、ケイゴは情けない喘ぎ声を上げてしまう。

「そうよ。覚えてるじゃない。じゃあ、この問題はどうするの?」

「はい…。They have been…here…かな?」

ミサトはうなずき、つま先でタマを転がしてやる。

「あ…あとは…金曜日からだから、since last Friday…ですか?」

「正解!」

ミサトの膝が折り曲げられ、しなやかに跳ね上げられた。
パチンと、ケイゴの股間の膨らみはミサトの足の甲に打ち抜かれ、先程とは比べ物にならない衝撃が走る。

「はぐっ!」

今度は立っている余裕などない。
両手で股間をおさえて、ケイゴはその場にうずくまってしまった。

「よくできました。次は間違えないようにね。しっかりと体で覚えるのよ?」

うずくまるケイゴを、ミサトは腕組みしながら見下ろしていた。

「くくく…」

全身の筋肉が硬直し、冷たい汗が吹き出してきた。
ミサトの罰を受け始める前、ケイゴは股間を蹴られた経験などなかったが、こんなに痛いものだとは思ってもみなかった。
両手でかばようにおさえる二つの玉に変化はなかったが、そこからは激しい鈍痛が休むことなく発せられ続けている。
男の生存本能が、とにかく体を丸めて身を守れと言っている。そんなどうしようもない痛みに思えた。

「ほら、今日はあと二回も残ってるのよ。しっかりしなさい。男の子でしょ?」

ミサトは心底楽しそうだった。
普段の彼女は秀才らしく上品で、それでいて開放的な明るさも兼ね備えた申し分ない美女だった。しかしケイゴの股間を蹴るときだけは、ミサトは豹変する。
股間を蹴られて、男にしか分からない痛みに苦しんでいるケイゴを見るとき、ミサトの口元は妖しく曲がり、その瞳には恍惚とした光が差しているようにも見えた。
あるいはそれは、ミサトが心の奥底に秘めていた本性だったのかもしれない。
それは屈折した愛情の表現で、子供だとばかり思っていたケイゴの体に、意外なほど「男」が芽生えていることを知り、それを打ちのめしたくなったのかもしれなかった。

「ほら。早く立ちなさい。次は理科の分よ。平均より10点以上も下なんだから、今よりもキツくしないとね」

ケイゴにはミサトのこの変貌ぶりの原因は分からなかった。男女の性の機微を知るには、彼はまだ幼すぎたのである。
しかし原因はともかく、ミサトが母親やその他の人間に対しては決して見せない表情を自分にだけ見せているという事実は、幼いケイゴの心にも強烈に響いた。
そして男の急所であり最も大切な象徴である金玉を、ミサトのような美女に弄ばれているという感覚は、ケイゴの心に潜んでいたマゾヒスティックな欲望を呼び覚ましてしまったのだった。

「は、はい…。すいません…」

歯を食いしばってなんとか立ち上がり、また股間を広げた。
サッカーの部活動で鍛えた強靭な下半身がケイゴの自慢だったが、いまやその筋肉質な太ももは、痙攣するように震えていた。

「ふうん…。35点ねぇ…。ケイゴ君が悪い点数を取ると、私もショックだわ。私の教え方が悪かったのかしら?」

「い、いや…。そんなこと…ないです」

「ホントに? じゃあ、どうしてこんな点数取っちゃったの? 自分で原因は分かってる?」

ミサトは椅子から立ち上がり、ケイゴに迫った。
股間の痛みで自然と前かがみになっていたケイゴの鼻先にまで、ミサトの顔が近づいた。

「反省してるの? ケイゴ君」

大きな瞳がまばたきするたびに、長いまつ毛が音を立てるようだった。
そのまっすぐな視線にケイゴが目をそらすと、大きな胸の膨らみがブラウスシャツをはち切らんばかりに押し上げているのが見えてしまった。

「は、はい…反省してます…」

シャツのボタンの隙間から、黒いブラジャーが見えてしまいそうだった。
思えば、ミサトは最近わざとサイズが小さめのシャツを着ているような気がする。
シャンプーの香りに鼻先をくすぐられながらそんなことを思っていると、突然、
下半身に重たい衝撃を感じた。

ズンッと、ミサトの堅い膝がケイゴの股間をえぐったのである。

「あっ…!! かっ…!!」

ケイゴは常に、階下にいる母親に悟られないよう、股間を蹴られても叫び声を押し殺してきた。
ミサトの急所蹴りは、時には唸りたくなるほどの痛みをケイゴに与えたが、そういう時でも両手を口に当てて、必死に我慢していたのである。
しかし今回の膝蹴りは、痛みの次元が違った。
叫び声を上げようにも、ケイゴの呼吸器官は一瞬にしてその機能を停止し、息を吸うことさえできなくなった。

「またいやらしいこと考えてたでしょ? 反省しなさい」

まるで糸が切れた人形のように、ケイゴは膝から前のめりに崩れ落ちてしまった。額を床に擦りつけ、両手で股間をおさえつけるが、もはや痛み以外の感覚は、ケイゴの体にはない。
全身を覆い尽くす、鉛のように重たい鈍痛。
尻を高く突き上げて土下座したようなその姿に、ミサトは思わず失笑してしまったが、その笑い声もケイゴの耳にはまるで入らなかった。

「フフフ…。何回痛い思いしても、やっぱりおちんちんが大きくなるのね? いやらしいわ、ケイゴ君は。変態なんだから」

そう言いながら、ミサトの顔は笑っていた。
ケイゴはあまりの痛みに股間をおさえることを諦め、目の前にあったミサトの足首にしがみついてしまった。
ストッキングの滑らかな感触を通して、ミサトの体温がその手に伝わってくる。

「なあに? 先生の足が好きなの? この足で、いつもケイゴ君のタマを蹴ってるのよ」

ミサトの足は柔らかく、ふくらはぎからつま先に向かって理想的な曲線を描いていた。この足がいつも自分に地獄のような苦しみを与えているとは容易に信じがたく、反面、これだけ美しい足だからこそ、容赦のない罰を男に与えることが許されるような気がした。

「ほら。まだあと一回、残ってるのよ。お勉強を続けましょう」

「あっ…は…」

ケイゴが掴んでいる足を持ち上げると、ケイゴの体は床で仰向けになった。
ようやく呼吸は回復し始めたが、まだ下半身には重苦しい痛みが残っている。
さらに痛みのピークが過ぎたころから、ケイゴの体には強烈な虚脱感が広がり始めていた。
床に着いた背中から、魂が流れ出ていくような疲労と虚無感で、とてもミサトの授業を受け続ける余裕などなく、しばらくは立ち上がることさえできそうになかった。

「せ、先生…もう…」

ミサトを見上げながら喘ぐように言葉を発する。
しかし憐れみを乞うようなその目が、逆にミサトの心に火をつけた。

「なに? 立てないの? だらしないわねえ」

ミサトはケイゴの足元に回り込むと、その股間を足で踏みつけた。

「はうっ!」

途端に、ケイゴの体は電撃を流されたような反応をする。
ミサトはかまわず、右足でケイゴの股間にある二つの玉をグリグリと踏みしめ始めた。

「ここはこんなに元気になってるくせに。立ち上がることもできないなんて。そんな言い訳は通用しないわよ」

「あっ! せ、先生…やめて…」

ミサトの言うとおり、ケイゴのペニスは睾丸の激しい痛みにも関わらず、完全に勃起してしまっていた。
ケイゴ本人にもその理由は分からなかったが、それを発見したミサトは、嬉しそうに足の裏全体でペニスと睾丸を踏みつけるのだった。

「ケイゴ君は、歴史が苦手だもんね。でも、このままじゃ駄目よ。苦手なものは克服していかないと。鎌倉幕府ができたのは、何年だったかしら?」

股間を踏みつけながら、ミサトが尋ねる。

「あ…せ、1192ね…んん…!」

「なに? よく聞こえないわよ。鎌倉幕府を開いた人物は誰?」

「み、源…よりと…おぉ…!」

「何言ってるの、ケイゴ君?」

ケイゴが答えようとするたび、ミサトの足が動いて、ケイゴはその刺激に身を震わせた。
ミサトはそれがよほど面白かったようで、次々と問題を出しては、ケイゴの反応を楽しんでいた。

「ハァ…ハァ…。先生…もう許してください…」

何問目かの問題が終わった後、ケイゴは息を荒げながらつぶやいた。
ミサトの方もだいぶ興奮していたようで、その額にはうっすらと汗が滲んでいる。

「フフ…。もうギブアップなの? しょうがないわね。じゃあ、次が最後の問題よ。これに正解したら、社会の分は許してあげるわ。でももし、間違えたら…」

言葉の代わりに、ミサトはグッと足を踏み込んだ。
ケイゴの睾丸が、その足の裏に柔らかい弾力を伝える。
嬉しそうに輝くミサトの目を見つめながら、ケイゴは小さくうなずいた。

「いい? 1917年に起こった世界最初の社会主義革命の指導者の名前は?」

ケイゴの顔が強張った。
ミサトはそんなケイゴの反応も予測していたかのように、微笑している。

「わ、わかりません…」

ケイゴが首を横に振るのと、ミサトが足を振り上げるのが、ほぼ同時だった。
あおむけになっていたケイゴの股間に、ミサトのしなやかな蹴りが、鞭のように叩きつけられた。



バシン、という音は、ケイゴの耳には聞こえなかった。
それよりも早く、電撃に打たれたような衝撃が脳天まで突き抜けて、それによってケイゴの意識は朦朧としたものになってしまったのである。

「あ…は…」

半分白目をむいた状態で痙攣し、口のはしから涎がこぼれるのも気がつかないようだった。

「……あ、ヤダ…」

ミサトはそんなケイゴを見下ろして、しばらくは悦に入ったように荒い息をしていたが、やがて状況に気がついて、慌てた。

「だ、大丈夫、ケイゴ君? 気絶してるの? ちょっとやりすぎちゃったかしら…」

もちろん、ケイゴが受けた痛みはちょっとという程のものではなく、意識が飛んでしまったことが幸運という他ないほどの衝撃だった。

「え…と…タマは…。あ、大丈夫ね。潰れてないみたい。良かった。ちょっと心配しちゃったわ」

ミサトは無造作にケイゴの股間に手を伸ばし、その睾丸の無事を確認した。
ミサトのような女性にとっては、男の急所は潰れてさえいなければ大丈夫、という認識しかないのかもしれない。

「うーん…まあ、今日はこのくらいで終わりにしましょうか。時間もちょうどいいし。ケイゴ君、聞こえる? お母さんには、疲れて寝ちゃったって言っておくからね。いい?」

ポッカリと口を開けて、うつろな目をしているケイゴの耳元に話しかけると、わずかにうなずいたようだった。
ミサトはそれに満足したようで、一つため息をつくと、服装を整えて、鞄を手に取った。
ふと、机の上に置かれた社会の答案を見ると、そこには先程ミサトが出したのと同じ問題が出ていた。

「1917年の社会主義革命の指導者は…レーニン。ちゃんと正解してるじゃない。フフフ…。ケイゴ君ったら」

放心状態のケイゴを見下ろして、ミサトは笑った。
ケイゴの家庭教師は、当分は終わりそうになかった。



終わり。



都会から少し離れた郊外にある、私立の名門校、桜心学園。
この学校は、少し前まで中高・短大一貫の女子高だったのだが、折からの少子化で、今では男子の生徒も受け入れるようになっていた。
いくつかの部活動も新設されることになり、学校の宣伝のため、優秀な生徒たちが全国から集められていた。
男子野球部もその中の一つである。

「お疲れ様でしたー!」

日もとっくに暮れた夜。ようやく野球部の練習が終わった。
すでに、他の部活動は練習を終えて、学校内には人っ子一人いないように見えた。
この日は満月で、程よい月明かりと街灯に照らされた道を帰るのは、野球部の主力である3人の選手だった。

「あー、今日も疲れたな。明日、休みてえな」

「そんなに練習しなくても、予選くらいは楽勝だよな」

「だよなあ。監督も、なんか必死になってるよなあ」

ピッチャーのタイチは、チームのエースで、しかも4番バッターだった。
トモヒサはタイチの女房役のキャッチャーで、カズマはセンターを守るレギュラー選手だった。
3人とも、スカウトされてこの学校に入学し、その期待通りに2年生ながら、すでにチームの主力選手になっている。

「なあ、明日また、マネージャーにお願いしてみないか?」

「え?」

タイチの言葉に、二人が振り向いた。

「お願いって…あの、こないだみたいな感じでってことか?」

「いいなあ。アレは元気が出てくるよなあ」

トモヒサとカズマの顔は、何か思い出しているかのようににやけていた。
それを聞くタイチの顔もまた、いやらしくにやけている。

「そうだな。まあ、こないだみたいな感じでもいいけどよ。今度はもうちょっと、進めてみようかなって思ってんだよ」

「え?」

「進めるって、お前…。やっちゃうってことか?」

「しっ! 声が大きいぞ、バカ!」

思わず大きな声を出したカズマをたしなめた。

「そんなこと…。いいのかよ?」

「で、できんのか?」

すっかり興奮してしまった様子の二人に向かって、タイチはちょっと勝ち誇ったような笑いを浮かべた。

「こないだ、マネージャーに見せてもらったときな、密かに仕掛けといたんだよ。カメラをさ。それが今、この中に入ってるんだぜ。これをばら撒くって言えば、どうするか…」

タイチは自らのスマートフォンを、得意げに見せた。

「すげえ! さすがだな、タイチ!」

「ビデオ撮ってたのか? マジで? ちょっと見せてみろよ」

「おい、待てって。お前、こんな所で見たって…」

「いいから、ちょっと見せろよ。ほら!」

タイチのスマートフォンを奪い取ろうとするカズマと、なだめようとするタイチ。
揉みあうようにして歩いていたからだろうか。彼らの目の前に、いつの間にか黒い人影が立っていることに、気がつかなかった。

「うおっ!」

「え! だ、誰だよ!」

3人は驚いて立ち止まった。
街灯の白い光を背にしたその人影は、どうやら若い女性のようだった。
時代劇に出てくる忍者のような、真っ黒い装束で全身を包み、その顔もまた、黒い覆面で覆われている。
唯一、目の部分だけが空いていて、そこから透き通るような白い肌と、まつ毛の長い切れ長の瞳が覗いている。

「私は月下会の者だ。お前たちに、裁きを下す!」

仁王立ちしたその女は、美しい声をことさら厳しい調子にして、言い放った。

「げっかかい…?」

「はあ?」

野球部の3人にとっては、まったく予想だにしない出来事だった。
しかし黒装束の女は、そんな彼らの驚きをまったく意に介さない。

「お前たちは1週間前、野球部マネージャーの波多ユキナに、猥褻な行為をしたな。そして今、さらに悪辣な行為をしようとしている疑いがあった。自分たちの罪を認め、大人しく裁きを受けるがいい!」

あまりにも堂々とした女の態度に、3人は思わず気を呑まれてしまった。
しかし、自分たちの秘密を知り、さらに密かに計画していた話も聞かれてしまったとあっては、このまま黙っているわけにはいかなかった。

「そ、そんなこと…。言いがかりだぜ! 証拠でもあるのかよ?」

「黙れ! 我々月下会が、学園の悪事を見逃すことはない。すでに調べはついているのだ。お前たちには今ここで、制裁を加える!」

問答無用と言わんばかりの、女の態度だった。
タイチたち3人は、顔を見合わせた。
確かに、彼らは先週、野球部のマネージャーであるユキナを取り囲んで、半ば強制的にその裸などを見せてもらった。
しかしそれは、今日のように生徒が帰った後の部室で密かに行われたことで、誰かにばれるとは思ってもみなかったのだ。
漏れるとすれば、被害者であるユキナ自身の告発しか、考えられなかった。

「誰から聞いたんだよ? ていうか、誰なんだよ、お前。そんな格好して。ふざけてんのか?」

体格と声から、自分たちとさほど変わらない年齢の女子に違いないと思ったカズマが、威嚇するような物腰で、黒装束の女に近づいた。
身長が180センチ近いカズマが近寄ると、女はことさら小柄に見えた。

「おい、何とかいえよ!」

と、カズマが女の肩を掴もうと、手を伸ばした瞬間。
スッと女はカズマの懐に入り、その右手を肩に担ぐと、そのまま背負い投げてしまった。

「かはっ!」

ズン、とカズマの巨体が地面に叩きつけられた。
受け身の取れなかったカズマは、軽い呼吸困難に陥ったが、女の攻撃はそれだけでは終わらなかった。

「せいっ!」

仰向けになったカズマの足元に回り込むと、迷わずその股間を踵で踏みつけたのである。

「ぎゃあっ!」

カズマの股間にある二つの柔らかい玉は、堅い踵の骨に踏み潰されて、無残に変形する。アスファルトに叩きつけられた背中の痛みさえ、忘れてしまうくらいの衝撃だった。
カズマはすぐに両手で股間をおさえて、海老のように丸くなってしまい、その様子を、タイチとトモヒサは呆然と眺めることしかできなかった。
あまりにも華麗な、流れるような一連の技だった。

「て、てめえ…!」

キャッチャーとしてチームの守備を司っているトモヒサは、カズマよりも背は低かったが、横幅があり、さらに大柄に見えた。
健全な高校球児を振る舞う彼らは、もちろん殴り合いのケンカなどしたことはなかったが、日々のトレーニングで鍛えられた筋肉があれば、こんな小柄で細身の女性に負けるわけがないと思っていたのだ。

フンッ、と、迫りくるトモヒサを見て、女が鼻で笑ったように見えた。
ごく自然な動作で一歩踏み出すと、力みのない動きで右手をあげる。そしてその右手を、迷うことなくトモヒサの顔面めがけて突き出したのである。

「うわっ!」

突然、飛来した予想外の攻撃に、トモヒサは動揺した。
女の攻撃は目潰しという程ではなかったが、トモヒサの視界を数秒間奪うには、十分すぎるものだった。

「はっ!」

そしてトモヒサの股間に、女の膝が深々とめり込むのである。
キャッチャーであるトモヒサは、野球部の誰よりも下半身の強さに自信を持っていた。部活動での練習も相当なものだが、それ以外でもランニングやスクワットなどの自主トレを、欠かしたことがない。
そうして作り上げられた自慢の足腰が、女のただの一撃によって、まるで砂山が崩れるように崩壊し、力が入らなくなってしまった。
そしてその後を追いかけてくるのが、男にしかわからない、地獄のような苦痛である。

「くうぅっ!!」

キャッチャーというポジションである以上、月に一度か二度は、ボールが股間に当たってしまうこともある。
しかし今の痛みは、その時の比ではない。小柄とはいえ、女の膝の質量は、野球のボールとは比べ物にならないし、股間を守るためのファールカップもしていないのだ。

「あ…あぁぁ…!」

急所の痛みを日常的に受けているトモヒサだからこそ、この痛みが絶望的なもので、自分がしばらくは指一本動かせなくなることを瞬時に悟った。
両手で股間を抑えたまま、女の前に跪いてしまう。

「お、おい…! 大丈夫か?」

あっという間に、タイチ一人だけになってしまった。
全国の中学校から選び抜かれ、過酷な練習によって鍛え抜かれた肉体を持っているはずの彼らも、男の急所を攻撃されればひとたまりもないということを、目の前にいる黒装束の女が、無言で証明している形だった。

「お前たち男は、いつもそうだ」

女は、息一つ切らした様子もなかった。

「大きな体と力さえあれば、女を思い通りにできると思っている。自分たちには、どうしようもない弱点があることも忘れて、な」

「ひっ!」

女が静かに歩き出すと、タイチは思わず、スポーツバッグに入っていた金属バットの柄を握った。
そのままバットを引き抜いて、女を近づけないように構えるが、黒装束の女は、一向にたじろぐ気配がない。

「私たち女には、知恵があるのだ。知恵さえあれば、最小限の力で男を仕留めることができる。本能に従うだけで、考えのない馬鹿な猛獣が、知恵のあるハンターに勝てると思うか? それと同じだ」

「う…うおぉー!!」

金属バットを見ても、少しもひるむ様子のない女を見て、タイチは覚悟を決めた。
使い慣れたバットを大きく振りかぶって、剣道のように女の頭めがけて振り下ろしたのである。

ガァン! と、金属バットの先端が、アスファルトにぶつかる音がした。
タイチの両手に痺れるような衝撃が走り、思わずバットから手を離してしまう。
すると、金属バットの攻撃を紙一重でかわしていた黒装束の女が、タイチの横にすっと回り込み、その股間に手を伸ばした。

「はうっ!」

手の痺れが抜けきらないまま、タイチは新たに訪れた苦痛に目を見張った。
女の細い指は、ピアニストのように優雅な所作で、タイチの両の睾丸をしっかりと絡め取ってしまっていたのだ。

「お前も忘れてしまっているようだから、思い出させてやろう。お前たち男の弱点は、これだ。ここにぶら下がっている、二つの小さな玉だ。これを掴まれれば、男は何もできなくなる。違うか?」

タイチの耳元で、女の声が囁いた。
女の口ぶりからは、強烈な男への嫌悪と蔑みが感じられる。

「う…ぐぅぅ…」

タイチの苦しみは、女に返事をするどころではなかった。
囁くような声とは裏腹に、女の手は強烈な握力で、万力のようにタイチの睾丸を締め付けているのである。

「こんなに脆い弱点があるのに、お前たちはなぜ女に勝てると思うんだ? 女の体には、こんなつまらないものなどついていない。男がいくら体を鍛えても、女には勝てないんだよ。そう思わないか?」

問いかけと同時に、女の指がさらにきつくめり込んだので、タイチは慌てて首を縦に振った。
それは男として屈辱的な相槌だったが、そんなことを考えている余裕は、今のタイチにはない。
女は、脂汗を流し、歯を食いしばって痛みに耐えるタイチの姿に、覆面の下で失笑したようだった。

「では、月下会の名において、尋ねる。森川タイチ。お前は、自らの罪を認め、反省しているか?」

女は再び、極めて威厳のある口調で、苦しみもがくタイチに尋ねた。

「は、はい…! 反省してます…」

もはや躊躇する様子もなく、ほとんど反射的に返事をした。

「いいだろう。ではこれで、裁きを終了する。だが、覚えておけ。我々月下会は、常にお前たちを見ている。もしまた悪事を働くようなことがあれば、その時は…」

女の指先が輪っかを作り、タイチの睾丸を二つながら締め上げて、引っ張った。
睾丸を引っこ抜くぞ、と言わんばかりの女の警告だった。もちろん、タイチの激痛は壮絶なものになる。

「あぁっ! し、しません! もうしませんから…!」

目に涙を滲ませながら許しを乞うその姿は、とても全国に名の知れた野球部のエースとは思えなかった。
女は満足したのか、覆面から覗く眼だけで笑って見せた。

「よし。そこでのびてる二人にも、伝えておけ。…目が覚めたらな」

女の膝が、タイチの股間に向かって跳ね上げられた。
限界まで引っ張られていた二つの丸い玉は、女の膝と手に挟まれて、潰れた饅頭のように変形してしまう。

「はがっ!」

タイチの脳内に、電撃が走った。
あまりにも大きすぎる痛みから精神を守るため、彼の体は一瞬にして気絶する道を選んだのだった。
顔面は一瞬にして蒼白になり、全身から一気に力が抜けた。
黒装束の女が、ようやく股間から手を離してやると、糸が切れた人形のように、その場に座り込んでしまった。

「……」

目的を遂げた女があたりを見回すと、そこには野球部の将来を担う、屈強な三人の男子たちが、それぞれ股間をおさえた無残な姿でうずくまっていた。

「任務、完了…」

独り言のようにつぶやくと、女はさっと身をひるがえして、夜の闇の中に消えていった。
それから一週間ほど、タイチ達三人が部活動を休むことになるのだが、その理由は誰も知らず、甲子園出場を至上命令としている野球部の監督を、大いに不安がらせてしまった。


終わり。





高校2年になる加藤ツバサには、家族や友達にも秘密にしていることがあった。

「おかえりなさいませ、ご主人様―!」

ここは、町の中心からは少し離れた場所にあるメイドカフェ。彼はここで、半年ほど前からアルバイトをしていた。
裏方やキッチンなどではなく、店内で接客するメイドとして。

「ご注文は、いかがなさいますかぁ? 今週のスペシャルメニューは、クマさんハンバーグになっておりまぁす」

半年も働いているだけあって、ツバサの接客は手慣れたものだった。
しかし、お客はもとより、この店で働いている人間の誰もが、ツバサが本当は男であることを知らなかった。
小柄で線が細く、声変わりもほとんどしなかったツバサは、普段から女の子に間違えられることが多かった。何よりその顔は、とても高校生の男子とは思えないほど繊細で整っており、メークをしてメイド服を着てしまえば、どこからどう見てもカワイイ女の子だった。

「ツバサちゃん、自己紹介してよ」

常連らしい男の客が、ツバサにそう要求した。

「はぁい! アナタの心に緊急着陸ッ! 幸せの空をはばたいて、いっつもみんなを見守ってるよッ! ツーちゃんこと、ツバサちゃんでーす!」

可愛らしい身振りを交えて、ツバサは自己紹介をした。その姿に、お客は満足げな拍手を送る。
ツバサにとって、これはかねてからの憧れの仕事だった。
小さいころから、女性に対する強烈な憧れがあり、男性である自分自身にいつもどこかで嫌悪感を抱いていた。できることなら、生まれ変わって女性になりたい。そう思っていたのである。
親にも内緒で女物の服を買い、メークも勉強した。幸か不幸か、ツバサの外見は、彼が男でいることよりも、女装した方がしっくりくるようにできてしまっていたのである。
履歴書にウソを書いて、メイドの面接を受けると、現実は想像していたよりもずっと簡単だった。面接をしたメイドカフェのマネージャーは、何の疑いもなしに彼を採用してしまったのである。
水着や露出の高い服装ならともかく、メイド服であれば、体の細部まで見られることはない。こうしてツバサは、自らが隠し続けてきた欲求を満たすことができる、最良の場所を見つけることができたのだった。

「いってらっしゃいませ、ご主人様―!」

常連の客を見送ると、ツバサは満足そうに息をついた。
最近では、自分を目当てにこの店を訪れる客も増えてきている。
この店にいる間は、自分が男であることを忘れることができるのが、ツバサにとって何よりの幸せだった。

「すいませーん」

「はぁい。お嬢さま」

女性客の声がかかると、ツバサは意気揚々と振り向いて、接客に向かった。
テーブル席に座った女性客は、高校生の3人グループ。
最近では、この店にも女性客が増え始めている。

「ご注文ですかぁ?」

ツバサが伝票を手に取ると、長い黒髪の女子高生が、メニューを見ているところだった。
ツバサはその女子高生の後ろ姿を見て、何か直観的な不安のようなものを感じたが、それが何なのか考えている間に、向こうから答えが出てきた。

「え…と…。アタシはこの、クマちゃんオムライスで…。ドリンクは…」

女子高生が顔を上げると、ちょうどツバサの胸につけたネームプレートが見えた。そのまま見上げると、女子高生は何か気づいたようにつぶやいた。

「ツバサ…。加藤…?」

突然、自分の名前を呼ばれて、ツバサの顔に緊張が走った。そしてそれは、女子高生のつぶやきが間違いでないことを証明してしまうことになる。

「…アンタ、加藤…?」

彼女はツバサのクラスメイトである、野口リオだった。
ツバサもそれに気がついたが、驚きのあまり、声が出ない。二人が無言で見つめあってしまったが、幸いにも、同席していたリオの友達はそれに気がつく様子はなかった。

「アタシはね、ふわふわカプチーノでいいや」

「アタシはこの、お嬢さまランチでいいや。お嬢さまって、超カワイくない?」

「あ…はい…。かしこまりました。お嬢さま」

かろうじて保っていたプロ意識で、注文を受けたが、その表情は依然として緊張しており、先程までとは別人のようだった。
逃げるようにしてテーブルを離れると、そのまま店の奥に向かった。

「ツバサちゃん、どうしたの?」

奥の事務所にいたマネージャーが、心配そうに尋ねた。

「いえ、別に…。すいません。ちょっと早めに休憩させてください」

それだけ言うと、マネージャーの答えを待たずに、休憩室に入ってしまった。

休憩を終えたツバサが店に出ると、すでにリオたちのグループは店にいなかった。
ツバサはホッとした反面、リオに事情を説明することができなかったことが不安だった。
野口リオは、ツバサのクラスメイトとはいえ、特別親しい関係ではなかった。もちろん、ツバサがここでアルバイトしていることを話したこともない。彼は学校ではごく普通の男子生徒として振る舞い、自分の秘密を誰かに話すことは決してなかったのだ。

やがてツバサの勤務時間が終わり、着替えて店を出ようとするときでも、その表情は曇っていた。
もし、リオが学校でこのことを話したら、どうなるだろう。
クラスメイトから白い目で見られるくらいならまだしも、彼らが興味本位で店を訪れるようなことがあれば、自分が男であることが店にばれてしまうかもしれない。
ようやく見つけた、自分の欲求を満たしてくれる理想の場所を奪われてしまうのが、ツバサにとっては何よりも恐怖だった。

「ねえ、加藤?」

うつむきながら店の裏口を出たとき、不意に声をかけられた。
ハッとして振り向くとそこには先程店を出たはずの、野口リオが立っている。

「あ…! いや、その…」

名前を呼ばれて返事をするべきかどうか。ツバサはこの期に及んで、ためらってしまった。
しかしリオは、そんなツバサの焦りもためらいもすべて見透かしたように、ニヤニヤと笑っている。

「加藤ツバサでしょ、アンタは。隠さなくていいよ」

「あ…はい…」

うつむいたツバサの顔を、リオはあらためてジロジロと眺めた。

「ホント、女の子みたいだねー。ていうか、知り合いじゃなきゃ、わかんないよ。まるっきり女じゃん。へー。アンタ、こういう趣味があったんだぁ」

前から後ろから、なめるように見られても、ツバサは抵抗することができなかった。今日の彼の私服は、Tシャツに大きめのオーバーオールというものだったが、それくらい男の子っぽい服を着ていても、なお女の子にしか見えなかった。

「でも、この店、そういうトコじゃないでしょ? 他の店員は、みんな女の子じゃん。てことは、アンタ…」

「ご、ごめんなさい! お店には言わないでください! ばれたりしたら、ボク…」

泣き出しそうな顔で、ツバサはリオに懇願した。
リオは、あまりの必死な様子に少々面食らったが、やがて意地悪そうに笑った。

「そっかあ。やっぱり、ウソついてるんだ。そりゃあ、ばれたら困るだろうねー。ヘタしたら、クビかも…」

そう言うと、ツバサはますます悲しそうな顔をした。
リオは長身で、ツバサよりも頭半個分背が高い。かわいらしい女の子にしか見えないツバサから、うるんだ瞳で見上げられると、思わずドキッとしてしまう。

「お願いします! 言わないでください! あの…ボク、なんでもしますから!」

クラスメイトとはいえ、自然と敬語になってしまっていた。
彼らはクラスメイトとはいえ、ほとんど話をしたことがなかった。ツバサは学校では大人しい、無口な男子生徒を装っていたし、美人で成績も優秀なリオには、いつも数人の取り巻きがいた。二人はお互いを住む世界が違うものと認識しており、ほとんど接触することがなかったのである。

「ふーん…。なんでもねえ…」

リオは何か考えるように、黙り込んだ。
その沈黙の時間を、ツバサは判決を待つ囚人のような気持ちで過ごすことしかできない。

「とりあえず、ついてきなよ」

リオはそう言うと、返事を待たずにさっさと歩きだしてしまった。
ツバサは訳が分からなかったが、店の前からは一刻も早く離れたかったので、大人しくリオについて行った。

「あ、あの…野口さん…?」

しばらくの間、無言で二人は歩き続けたが、やがてツバサが口を開いた。

「なに?」

「あ…ど、どこに行くのかな…って…」

「ん? アタシんち。ここから、近いから。もうすぐ着くよ」

思いがけない言葉だった。
リオと親しくないツバサが、彼女の家の場所を知るはずもなかったが、自分が働いてる場所と近い所に住んでいたとは。今さらながら、冷や汗が出る思いだった。

「野口さんは…その…あのお店には、よく来るの…?」

「いや。今日が初めて。友達が行きたいって言うからさあ。アタシは全然興味なかったんだけど。アンタはいつから働いてるわけ?」

「え? あ、半年…くらいかな」

「へー。半年も働いてたんだあ。じゃあ、駅ですれ違うこともあったかもね。ウケる」

リオの真意は分からなかったが、秘密をばらしやろうとか、意地悪をしてやろうとかいう意志は感じられなかった。
その点で、ツバサは少しだけ安心し、ここは素直にリオについていくことが得策だと思った。




やがて二人は、リオの家に着いた。
そこはまだ真新しいマンションの一室で、ツバサが予想したものとは違っていた。
間取りは広く、奥に何部屋かありそうだったが、家族がいる気配はしなかった。

「誰もいないから。上がって」

リオはそう言って、ツバサを自分の部屋に招き入れた。
ツバサにとって、同じ年代の女の子の家を訪ねたのも、その部屋に入ったことも初めての経験だった。

「適当に座って」

そう言われても、ツバサはとても落ち着いていられなかった。座ることもできずに突っ立っていると、リオがクスリと笑った。

「しっかし、ホントにカワイイね、アンタ。メークもバッチリじゃん。アタシよりうまいわ」

無造作に顔を近づけると、ツバサの鼻先にリオのシャンプーの香りが漂った。
女装の趣味があるとはいえ、ツバサには同性愛の気はなかった。むしろ女性に憧れを持っているからこそ、女性に対して恋愛感情以上の強い憧れを抱いている節がある。

「胸も、ちょっとあるじゃん。コレ、パット入れてんの?」

ツバサは無言でうなずいた。
女装した自分を、これほどジロジロと眺められるのは初めての経験だったが、女装の完成度の高さを褒められるのは、悪い気はしなかった。

「まあ、アンタが学ラン着てるのは、似合ってないなと思ってたけどね。まさか、こんなことしてるとはね。びっくりだなあ」

リオは面白そうに、ツバサを眺めている。
ツバサは、リオが自分に対して敵意や蔑みの感情を抱いているわけではないことは分かったが、それでも周囲にばらされたりしないかと、それだけが気がかりだった。

「あの…野口さん。今日のことは、誰にも…」

「ん? ああ、いいよ。誰にも言わないでおいてあげる」

「ホント…!?」

ツバサの顔が、パッと明るくなった。

「ただし…。アンタさっき、何でもするって言ったよね?」

「え…?」

悪戯を思いついた子供のようなリオの笑顔を見て、ツバサは一抹の不安を感じた。

数分後。
ツバサはリオの命令で、着替えさせられていた。
それはリオの中学校時代の制服で、今どきのオシャレなセーラー服スタイルだった。短めのチェックのプリーツスカートに濃紺のニーハイソックスを履いたその姿は、誰が見ても女の子にしか見えない。

「あ、あの…野口さん…?」

女子の制服への憧れは、人一倍強いツバサだった。いつか着てみたいと思っていたそれを、ついに着れたという喜びは大きかったが、さすがにクラスメイトの前でそれを披露するのは恥ずかしかった。

「やっぱり、カワイイねー。サイズもピッタリじゃん。似合う似合う」

一方のリオは、もじもじと恥ずかしそうに立っているツバサの姿を、嬉しそうに見つめている。

「あの…ボク…どうすれば…?」

「まあ、ちょっと待ってよ。じっくり見たいからさ。へー。アンタ、すね毛とかも全然ないんだね。ツルツルだ」

「あ…!」

リオはしゃがみこんで、ツバサの細い脚を撫でた。
そのくすぐったさに、ツバサは思わず声を上げたが、抵抗することはできなかった。

「ふーん。脚も細いんだねー。うらやましー。あ、さっきチラッと見えたけど、アンタ、スパッツ履いてるんだね。下はどうなってんの?」

「え…? どうっていうか…その…。下着を履いて…その上に…」

「スパッツ履いてるんだ。下着って女物のパンティーってこと?」

ツバサは無言でうなずいた。
彼の体は成長が遅いのか、性器がさほどの成長を見せていなかった。しかしそれでも、女性用の下着を着ければ、はみ出してしまう恐れがあるので、念のためにきつめのスパッツを履いておさえつけているのであった。

「ふーん。そうなんだあ。…ねえ、こっちに鏡があるからさ、ちょっと見てごらんよ」

そう言うと、部屋の隅にある姿見の前に、ツバサを立たせた。
ツバサはまだためらっていたが、鏡に映った自分の姿を見て、思わず息を呑んだ。
そこには、ツバサが理想とする完璧な「女の子」が映っていたのである。

「どう? カワイイでしょ?」

ツバサの興奮を予想していたかのように、リオが耳元で囁いた。

「すっごい似合ってるよ。ホントの女の子みたい。街に出たら、男の子はみんな振り向いちゃうかもね」

リオの言葉は、決してお世辞や誇張ではなかった。細い手足と透き通るような白い肌。控えめな胸はかえって清楚な印象を与え、童顔にショートカットがよく似合っている。
街で見かければ、思わず声をかけてしまいそうなほどの美少女だった。

「アンタ、女の子になりたいんでしょ? だから、あの店で働いてるんでしょ?」

ツバサは上気した顔で、大きくうなずいた。
リオは薄く笑いながら、ツバサの背後に回り込む。

「そう。でも、女の子になるなら、コレをどうにかしないとねっ!」

突然、リオは右脚を振り上げて、ツバサの股間を蹴り上げた。
スカートの中で、スパッツとパンティーに包まれたツバサの小さな膨らみがひしゃげた。

「あっ!」

ツバサは一瞬、何が起こったのか分からず、短い声を上げた。
やがてその下腹部から、大波のような鈍痛が湧き上がってくると、それはあっという間に全身に広がってしまった。

「あ…? うぅん…!」

両足から力が抜け、立っていられなくなった。
ツバサが金玉の痛みを知ったのはこれが初めてで、訳もわからずにその場にうずくまってしまった。
目の前の鏡には、スカートの股間を抑えて、苦しそうにしている自分の姿が映っている。そしてその背後には、満足そうな笑みを浮かべたリオの姿があった。

「どう? 痛かった?」

一向におさまる気配をみせず、むしろひどくなるばかりの痛みに、ツバサはもだえ苦しんでいた。

「アタシの足にも感じたよ。アンタのタマが、グニャってなる感じ。やっぱり、ついてるんだねー」

苦しむツバサの姿を見て、リオは心から嬉しそうだった。
うずくまる彼の横にしゃがみ込むと、二人は鏡越しに目を合わせた。
股間をおさえて、男の痛みに苦しむツバサと、それを見つめるリオ。外見はどちらも女の子そのものだったが、二人の間には、埋められない違いがあるということを、思い知らされる光景だった。

「あれえ。でも、おかしいなあ。ツバサちゃんは、女の子のはずなんだよねえ。女の子が、アソコを蹴られて痛がるかなあ。どうしてかなあ」

リオは笑いながら、うずくまるツバサの股間に手を伸ばした。
スカートの中で、スパッツによってピッチリと押さえつけられたツバサの二つの睾丸を見つけると、それをギュッと握りしめたのだ。

「ああっ!」

ツバサの口から、切ない喘ぎ声が漏れた。

「あれえ? ツバサちゃん、これなあに? なんかついてるけど。女の子に、こんなものついてるかなあ? なんなの、コレ?」

「あ…! そ、それは…ボクの…」

「ん? ボクの、なに?」

いたぶるように、リオはその手の中でツバサの睾丸を揉みしだいた。

「あっ! …ボクの…タマ…タマ…です…」

消え入りそうな声で、ツバサは言った。
自分には、男のシンボルである睾丸がついている。それは彼自身、最も認めたくない事実だった。

「えー! ツバサちゃん、タマタマついてるの? 女の子なのに? それ、おかしくない? なんかの間違いだよ、きっと。こんなの、潰してみようか? それ!」

リオの手に、強烈な力が込められた。
完全に掌に包まれて、逃げ場のないツバサの二つの睾丸は、恐ろしい圧迫を受けることになる。

「あぁーっ! あっ! い、痛い! 痛いから…! やめて!」

ツバサはうずくまったまま、もだえ苦しんだ。
あれほど女の子になりたいと思っていた自分が、世の中の男と同じように、睾丸を掴まれて痛がることなど認めたくなかったが、この痛みはそんな考えさえ彼方に吹き飛ばしてしまう。

「あれえ? 離してほしいの? ツバサちゃん、タマタマ握られて、痛いんだ? でもそれじゃ、ツバサちゃんは女の子じゃないってことになるよ? タマが痛いのは、男だけなんだから。それでもいいの?」

ツバサはそう言われて少しためらい、思わず顔を上げて鏡に映るリオの姿を見た。
リオは意地悪そうに笑いながら、ツバサの顔を見つめている。しゃがみこんだスカートの奥に、うっすらと白いパンティーが見えたが、その股間の部分には、今、自分が掴まれているような膨らみなどまったくないことを、ツバサははっきりと認めた。

「…は、離してください! ボクは男です! タマタマが痛い男ですから…離して…!」

ツバサが叫ぶと、リオはわずかに笑って、その手を離してやった。

「あ…あぁ…」

ようやく去勢の恐怖から解放されたツバサは、まだ重苦しい痛みの残る股間を抑えて横向きに倒れ、背中を丸めた。
一方のリオは、面白そうにクスクスと笑っている。

「あー、面白い。男ってウケるよね。ちょっとタマを握ったくらいで、必死になっちゃってさ。まあ、どんなにカワイイ格好しても、やっぱりアンタも男ってことだよね。アハハ!」

朦朧とした意識の中で、ツバサはぼんやりとリオの言葉を聞いていた。
やがてリオはスッと立ち上がると、おもむろにそのスカートをたくし上げてみせた。
ツバサの目に、リオの白いパンティーと、すっきりとした股間の部分が飛び込んでくる。そこには、自分のような醜い膨らみなどついていない。いつも憧れていた、女性の股間だった。

「ほら。見える? これが女の証拠。アンタの体みたいに邪魔なものなんか、ついてないの。アンタもこれが欲しいんでしょ? こうなりたいんでしょ?」

ツバサはリオの股間を凝視したまま、何度もうなずいた。

「もっと近づいて、よく見てみなよ。よーく見て頑張れば、アンタもこんな風になれるかもよ」

リオの顔にはまだ、怪しい微笑が張り付いている。
しかしツバサは、朦朧とした意識の中で起き上がると、ほとんど無意識に、花の蜜に吸い寄せられる昆虫のように、リオの股間に顔を近づけるのだった。

「あ…これが…女の子の…」

鼻先に、リオの汗ばんだ体臭を感じたと思った次の瞬間。

バシン! と、リオの脚が、再びツバサの股間に叩きつけられた。

「はあっ!!」

反射的に飛び上がると、そのまま大きな音を立てて、その場に崩れ落ちた。

「なれるわけないでしょ! アンタは一生、タマのついた男なんだから! 女の子に蹴られて、痛がってればいいの! それが男の運命なんだから。アハハハ!」

股間をおさえてうずくまるツバサと、勝ち誇ったように笑うリオ。
二人はどちらも女の子にしか見えなかったが、そこには大きすぎる違いが横たわっているのだった。



終わり。


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