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男の絶対的な急所、金玉。それを責める女性たちのお話。


首都圏のベッドタウン。
駅の近くのコンビニは、通勤時間帯は忙しいが、それを過ぎて夜にさしかかると、急に暇になる。
有線放送だけが鳴り響く店内に、来客を知らせるベルが鳴ったかと思うと、その直後、

「お前が、リュウってやつか?」

ドン、と缶コーヒーをレジカウンターに置いたのは、身長が180センチ以上はあろうかという、大柄な青年だった。

「え…。違いますけど」

レジにいたのは、地方から上京してきた大学生、川原キヨシ。
このコンビニで働いて一年半になる、バイトリーダーだった。

「え?」

ものすごい形相で尋ねたものの、拍子抜けしてしまったのは久木崎ヨウスケ。
その体格、気迫を見れば、何らかの武道か格闘技の経験があることは明らかだった。

「あの…。こちら、テープでよろしいですか?」

キヨシはとりあえず仕事をするため、缶コーヒーを手に取った。

「ああ…はい。…じゃあ! リュウってやつはどこにいる?」

いくらか気持ちを取り戻したのか、先ほどと同じ必死の形相で、ヨウスケが尋ねた。
キヨシにしてみれば、まったく訳の分からないお客で戸惑ったが、とりあえず落ち着こうと、下がりかけたメガネを上げた。

「リュウって…。ウチにいるリュウさんは、あの人ですけど…」

キヨシが指さした先には、カウンターの奥でポテトか何かを揚げているのか、一心にフライヤーを見つめる後ろ姿があった。

「あ、あいつが、リュウ…! って、女だろ!」

大きめの制服を着ているが、艶のある黒髪をお団子にまとめたその後ろ姿は、まさしく女性のものだった。

「そ、そうですよ。リュウさんは女性ですよ?」

キヨシがいぶかしげに言うと、ちょうどフライヤーに集中していたリュウが振り返った。

「あ、キヨシ! 揚げすぎちゃったから、食べてもいいデスカ?」

年齢はまだ20歳前か。控えめに言っても、かわいらしい顔立ちだった。
さらにその声もかわいらしく、スタイルも華奢だが、出るところは出ていて、申し分のない体型だった。
一人の女性として見れば、多くの男が恋人にしたいと思うようなルックスだったが、ヨウスケが彼女に期待していたものは、そんなことではないようだった。

「またですか? リュウさん、それわざとですよね。勘弁してくださいよ」

「ごめんナサイ。わざとじゃナイヨ。ドンマイ、ドンマイ!」

「いや、ドンマイの使い方、違いますから」

会話を聞いていると、外国人特有のイントネーションがあり、どうやら彼女は日本人ではないようだった。

「お前…いや、その、アンタがリュウって人か…?」

肩を震わせながら、ヨウスケはやっと声を絞り出していた。

「ン? そうデスヨ。わたしリュウ・シンイェンといいマス。いらっしゃいマセ」

ペコリと頭を下げると、リュウはすぐにまたフライヤーで揚げ物を始めた。
ヨウスケは、キヨシの目から見ても愕然としていた。
そして次の瞬間には、がっくりと肩を落としていた。
それがどうしてなのかはキヨシに分かるはずもなかったが、とりあえず缶コーヒーのお金を払ってほしいと思った。

「あの…128円になります」

「え? ああ…そうか。はい」

気の抜けた表情で、ヨウスケは小銭をポケットから出した。

「ちょうどお預かりします。ありがとうございました」

通常なら、ここでお客とコンビニ店員の関係は終わるはずだった。
しかしヨウスケは、どうやらここにいるリュウというコンビニ店員に会うためだけに、わざわざ来店したらしかった。

「なあ、その…アンタ。リュウさん」

「ハイ? 何ですカ?」

リュウの仕事がひと段落するのを待ってから、ヨウスケは改めて声をかけた。

「俺の知り合いに聞いたんだ。ここのコンビニに、リュウっていう、とてつもなく強いヤツがいるって。俺は空手をやってて、そいつは俺のライバルって感じだったんだが、そのリュウってヤツにコテンパンにやられたらしい」

「ハイ。分かりマス。お疲れ様デス」

リュウはにこにこしながらうなずいた。

「…まさかとは思うけど、アンタがそのリュウってヤツじゃないよな?」

一応の確認だったのだろう。半ばあきらめたような顔で、ため息とともに、尋ねた。

「ハイ。そうだと思いマス。一週間よりチョット前、そんなことがありマシタ」

「はあ?」

商品棚の品出しに出ていたキヨシが振り返るほど、ヨウスケは大きな声を出した。

「アンタが? あの…相塚を? やったのか?」

「ハイ。名前はしりませんケド。だいたいそうだと思いマス。あ、たぶんカ」

にこやかに話すリュウは相変わらず愛らしかったが、その華奢な手足で、ヨウスケのライバルをコテンパンに倒したとは、密かに聞き耳を立てていたキヨシにも、信じられなかった。
というより、普段から一緒にアルバイトをしているキヨシとしては、彼女が突然妙な男に絡まれているとしか思えなかった。

「…アンタ、そんな体で、強いってのか?」

いまだ信じられないながらも、いくらか警戒したように、ヨウスケは唾を飲み込んだ。

「イエイエ。わたし、そんなに強くないデス。もっと強いヒト、たくさんいます。でも、アナタよりは強いカナ」

ピリッと空気が張り詰めたのが、キヨシにも感じられた。

「なんだって? アンタが俺より強いって?」

「ハイ。ゼッタイ強いデス。たぶんじゃありマセン」

数秒の沈黙の後、ヨウスケは深く長い溜息をついた。

「女に手をあげるつもりはないが、見せてくれないかな? アンタの強さってヤツを」

「いいですヨ。でも、今仕事中なので。1時間したら休憩なので、その時でいいデスカ?」

「いいだろう。外で待ってる」

ヨウスケの手の中の缶コーヒーが、メキっと音を立てて、へこんだ。

「あ、でも、約束してくだサイ」

「…なんだ?」

「わたしに負けても、誰にも言わないでくださいネ。わたし、日本でアイドルを目指してるので! 強いのバレたら、こまりマス!」

「…! いいだろう。誰にも言わないよ。俺が負けたらだけどな!」

ヨウスケは吐き捨てるように言って、店を出ていった。
その後ろ姿を確認すると、すぐにキヨシがリュウに駆け寄ってきた。

「ちょっと! リュウさん、本気ですか?」

「ン? わたし、本気です! アイドル目指して、頑張るヨ! キヨシにもサインあげるからネ」

グラビアのアイドルのように、上目づかいでウインクをする。

「それは知ってます。サインももらいました。あのでっかい男の人と何するつもりなんですか? あの人、外で待ってますよ。警察呼んだ方がよくないですか?」

ガラス窓越しに、駐車場で仁王立ちしているヨウスケの後頭部が見えた。

「ダイジョブ、ダイジョブ。すぐ終わりマス。それよりキヨシ、この肉まんの賞味期限過ぎてるから、持って帰っていいデスカ?」

「いや、それはダメです」

すぐ終わるとは何のことなのか、キヨシには分からなかったが、リュウはいつもとまったく変わらない様子で、自分にできることもなさそうだったので、とりあえず様子を見るしかないと思った。

一時間後。

「じゃあ、休憩入りマース」

「あ、はーい」

いつもと同じように休憩の時間が来て、リュウは事務室に入るかと思った。
しかし、店の外に出ていく姿を見て、やはりあの男と何かするつもりなのだと、キヨシは再認識した。

「……!」

キヨシのいるカウンターからは、本棚に隠れて、ヨウスケの大きな体しか見えない。
しかし彼がリュウと何かを話したあと、駐車場の奥に消えていったのが確認できた。
あちらには、夜は人気のない公園しかない。
どうしよう。
あんな強そうな男が、若い女性と二人きりで夜の公園で何をするというのか。
やはり警察に連絡するべきではないのか。
独りで悩んでいると、突然、来店を告げるベルが鳴り、リュウが店内に戻ってきた。

「あー、外は暑いデスネー」

そのまま、何事もなかったかのように事務室へ入っていく。

え? と、キヨシの頭の中に、大量のはてなマークが浮かんだ。
ものの数分で、なんでリュウさんは戻ってきたんだろう。
あの男の人は? どこに行った? 1時間も待ってたのに。
二人は公園で何をしたんだろう?

理解不能すぎて、頭がパンクしそうだったが、リュウに直接聞くことは何か怖いような気がして、聞けなかった。
15分後、リュウが休憩からあがると、すぐに交代で休憩に入った。

「ちょっと、出てきますね」

さりげなく言い残して、公園に向かう。
そこはコンビニの駐車場から道路一本はさんだ場所で、それほど広くはなく、外灯もチラついているような、古い公園だった。

「…!」

植え込みの陰から、恐る恐る公園内を見渡すと、中央の広場でうずくまっている大きな影を発見した。
それはヨウスケに間違いなく、彼は前のめりにうずくまり、両手で下半身をおさえながら、小さく肩を震わせているようだった。
何があったのか、キヨシにはまったく分からなかったが、何か危険なことが起きたように感じて、すぐさま引き返した。

「いらっしゃいマセー。あ、キヨシ。おかえり」

店内に戻ると、リュウがいつもと変わらない様子で、にこにこしている。

「あ、あの…リュウさん。大丈夫?」

「ン? あ、ダイジョブよ。賞味期限過ぎてても、わたし、気にしないカラ」

「いや、そうじゃなくて。さっきの男の人、公園にいましたけど。何があったんですか?」

「あ、まだいた? ちょっと強めに蹴ったからネ。ドンマイ、ドンマイ!」

「強めに、蹴った?」

「ハイ。バシンってネ」

うなずいてにこっと笑うと、キヨシはそれ以上何も聞けなくなった。
何かよく分からないことが起きてることは確かだったが、自分には関係がないと思うことにした。

「リュウさん、ドンマイってゴメンって意味じゃないですよ。あと、僕がいないときに店の肉まん食べないでください」




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3日後。
あれから、コンビニにヨウスケが来ることはなく、キヨシとリュウはいつもと変わらないアルバイトの仕事をこなしていた。
キヨシの疑問はとけなかったが、リュウがそれについて語ることもなかったため、尋ねることもしなかった。

「お疲れさまデシター。キヨシ、一緒に帰りマショウ」

この日はコンビニの店長が夜勤に入るので、二人はシフトを同時に終わらせた。
こういう日、二人は一緒に帰ることも多い。
夜中に女性が独りで歩くのは危ないという配慮があったのだが、キヨシは最近、何だかそうでもないような気もしていた。

「あー、今日も疲れたネ。キヨシは明日も学校デスカ?」

「そうですね。リュウさんは?」

「わたしは明日、歌のレッスンがある。わたし、歌苦手ネ。ダンスは好きだけど」

リュウが日本の大学に留学生として通う傍ら、アイドルを目指すために芸能事務所のレッスンを受けていることを、キヨシは聞いている。

「でも、アイドルは歌いますからね」

「そうデスネー。わたし、オンチかもしれない。口パクでなんとかならないカナー」

意味を分かって言っているのか、とぼけたところがあるのが、リュウの性格だった。
先日のヨウスケの一件以来、なにか彼女に得体のしれないところがあるかもしれないと思い始めていたが、いつものリュウを見れた気がして、キヨシは安心した。

「あの、リュウさん。この前は…」

今は聞けるような気がして、意を決して3日前のことを訪ねようとしたとき、二人が歩く道の先に、大きな人影が見えた。

「お前が、リュウか!」

薄暗い外灯に照らされたその影は大きく、先日のヨウスケと同じか、むしろ肩幅はより広く見えた。
LLサイズのTシャツを弾けさせるような胸板と太い腕、そのたたずまいから、ただ者でないことがキヨシの目にも分かった。

「ハイ。そうですヨ。わたし、リュウ・シンイェンです。コンバンワ」

「あいさつはいい。お前にやられた相塚と久木崎の知り合いのモンだ。何の用か、分かるよな?」

リュウの返事を待たずに、男は腰を落として、空手のようなかまえを取った。
こちらを睨みつけながら、ニヤリと笑うその顔は狂犬のようで、ただ話をしに来たのではないことは明らかだった。

「ハイ。たぶん」

リュウはちょっと首をかしげながら答えたが、特に警戒する様子もなかった。
逆にキヨシの方が、男の気迫に押されて、無意識に後ずさりしていた。

「いい度胸だ。じゃあ、いくぜ! …えっ!?」

男が突然、リュウに向かって大きく踏み込み、前蹴りををはなってきた。
しかし男の脚が振り上げられたその瞬間、スパン! と、リュウの蹴りが男の股間を正確に打ち抜いていた。

「!! むぅうっ…!」

男の下半身から耐えがたい痛みが沸き上がり、その場にひざまずいてしまった。
男にはリュウの動きがまったく見えなかった。
自分の方が先に蹴りを出したはずなのに、リュウの蹴りの方が先に自分に届いていた。
しかもこの金的蹴りは、今までくらったどの蹴りよりも正確に、彼の二つの睾丸をとらえ、打ち抜いていた。
今、この瞬間感じている痛みよりももっともっと強い痛みの波がすぐにやって来ることを、経験上、分かっていた。そしてそれがこの後数時間、続くことも。

「ぐぅ…お…ぉ…!」

痛みの波が、やってきた。
歯を食いしばり、両手で股間をおさえても、どうにもならないことはわかっていた。武道家として、勝負したことを後悔するつもりはなかったが、この痛みは別だった。
ただの一撃で、自分が今まで積み上げてきたものを全否定されるような、精神的にも肉体的にも衝撃的すぎる苦しみが、彼を支配しつつあった。
目の前には、彼にその苦しみを与えたリュウの右脚がある。
こんな細い足で蹴られて、どうしてこれほど苦しまなければならないのか。
男の肉体の永遠の矛盾を感じさせられているようだった。

「あ! 約束してもらうの、忘れてマシタ。わたしに負けたこと、誰にも言わないでくださいネ?」

リュウは自分の前でひざまずく男を見下ろして言ったが、男はそれに答えるどころではないようだった。

「あ、あの、リュウさん…。今、何が…?」

男に気圧されて一歩下がっていたキヨシが、恐る恐る尋ねた。
彼の眼には、今、何が起こったのか。よく見ることができなかった。

「ン? わたし、蹴りマシタ。わたしの勝ち! コイツ、弱いネ」

「け、蹴ったって…」

「ハイ。わたしが蹴ると、いつも一回で動けなくなる。あの、アレ。そこ。なんだっけ? キヨシにもある。わたしにはない」

リュウは日本語が浮かばないのか、キヨシの股間を指さしながら訪ねた。

「え…? あの…金玉ですか?」

「そう! 金玉! 大切なモノ! わたし、そこ蹴るの得意なんデス!」

キヨシは納得した。
素人の彼は、男がリュウに向かってきたとき、思わず目をつぶってしまっていた。しかしその一瞬で、彼女は金的蹴りをはなっていたのだ。
まさに目にもとまらぬ早業だった。

「も、もしかして、この間の店に来た人も、こうやって…?」

思い出してみれば、公園でうずくまるヨウスケも、今のこの男と同じように両手で股間をおさえていたような気がする。
キヨシは自分が股間を蹴られたことなどなかったが、その苦しみは男として、当然想像できるものだった。

「ハイ。あのときも一回だったネ。男は金玉蹴られると弱い。女の方が強いネ!」

「ハ、ハハ…」

ガッツポーズをして見せるリュウに、キヨシは何も言えなかった。

「ふ、ふざけんな…!」

振り向くと、殴りかかってきた男が、片手で股間をおさえながら、ゆっくりと立ち上がっていた。

「俺と相塚と久木崎…。ガキの頃からのライバルだ。同じ道場で死ぬほど稽古して、強くなってきたんだ。それが…お前なんかに…!」

下半身の痛みはいっこうにおさまる気配はなかったが、男の意地と理不尽な敗北への怒りで、立ち上がったようだった。

「お前の金蹴りなんかで、負けてたまるか!」

男は痛みを振り払うかのように、吠えた。
しかしリュウの方は、特に動じる様子もなく、残念そうに首をかしげた。

「ンー。そうデスカ。でも、男が金玉痛いのは、しょうがないデス。もうやめた方がいいヨ」

「うるせえ!」

男はいきなり殴りかかってきた。
リュウは慌てる様子もなく、それをかわした。
大きな拳が、空を切り裂く。
下半身に痛みを抱えながらとは思えないパンチだった。

「おらっ! せいっ!」

歯を食いしばりながら、男は次々に攻撃を繰り出していく。
しかしそれらをすべて、リュウはかわしたり、いなしたりしてしのいでいた。

「ン、そうデスネ。この前のヒトより、オマエの方が強いかも」

リュウの動きは軽やかで、まったく淀みがない足さばきだった。
さらに時折、男の攻撃にわずかに手を当てて、力の方向を変えたりしているようだった。
それはまさに達人と言っていいレベルで、キヨシの目にも、ただ事でないことがはっきりとわかった。

「なに!?」

ヨウスケより強いと言われて、男は少しだけうれしそうに反応した。
攻撃はすべてかわされていたが、残り少ない体力で、渾身の一撃を繰り出そうとした。
その時、

「でも、わたしの方が強い」

スッとリュウが男の懐に入り、しゃがみこんだ。
スパァン、と気持ちのいい音がして、リュウの裏拳が、男の股間に突き刺さった。

「ひっ!」

思わず、キヨシが声を上げた。
まだ痛みが残っているであろう金的を、再び打ちつけるなど、男としては考えられないことだった。

「はぐっ!」

男の意識は、あるいはここで半分以上、飛んでいたかもしれない。
出しかけた右の拳が、ゆっくりと、リュウの頭上を流れていく。

「ハイヨォ!」

リュウは男の腕を取ると、その力の流れを利用するかのように、男の巨体をぐるりとひっくり返した。
ドスン、とアスファルトに背中から落とされる。
その瞬間、男の意識が戻ったようだった。

「かはっ! あ…え…?」

いきなりあおむけで空を見上げさせられた男は、状況が理解できなかった。
しかしその目に、大きく足を振り上げたリュウの姿が映ると、本能的に危険を察知した。

「ちょっ! やめ…! ごめんなさ…」

「ハイッ!」

リュウは無情にも、男の股間に踵を振り下ろした。
グシっと鈍い音が、キヨシの耳にも聞こえた。
男はもはや声にならない悲鳴を上げて、両手で股間をおさえて丸くなり、左右にゴロゴロと転がった。
3回も金的を打たれて、想像を絶するような痛みが男の全身に広がっているはずだった。

「フウ。やっぱり金玉が便利ネ。すぐ終わるから」

リュウはにこやかにキヨシを振り返った。
まるでアルバイトのひと仕事を終えたような感想だった。

「つ、強いんですね、リュウさん。知らなかった…」

「ン? チガウチガウ。わたし、ぜんぜん強くない。もっと強いヒト、たくさんいるネ。コイツが弱かっただけ」

「そ、そうなんですか?」

どこまで本気で言っているのか、あるいは全部本気なのか、キヨシには分からなかった。

「あ、そうそう。約束守ってくださいネ。わたしに負けたコト、誰にもいわないでくだサイ」

すでに転がるのをやめて、全身を震わせながら痛みに耐えている様子の男に向かって、リュウは確認した。
男は内容を理解できたのかどうか、無心にうなずいたようだった。

「…ていうか、この前店に来た人、その人に話してますよね、絶対」

ふとキヨシが口走った。
それを聞いて、リュウもハッと気がついたようだった。

「そうだネ! ゼッタイそうだ。アイツ、オマエに話してるヨ! アー、もう。アイドルが金玉蹴るのバレたら、ダメだヨ。…ダメかな? ダメ?」

「ダメ…だと思います」

キヨシは思わず答えてしまった。

「そうだよネー。もう! 今度はゼッタイ言わないでヨ! オマエの友達にも伝えて! もし誰かに言ったら、オマエたちのタマゴ、潰すぞって!」

男は口から涎を流しながらも、力を振り絞って、必死にうなずいたようだった。

「ン。よし。お願いしますネ。じゃあ、キヨシ、帰ろっか? …あ、そうだ」

「は、はい。何ですか?」

何か思い出したように、リュウはキヨシを見つめた。

「キヨシも内緒にしてくださいネ? もしバラしたら、キヨシのタマゴも潰しますヨ?」

にっこりと笑ったその笑顔は、キヨシの背中に寒気を走らせるのに十分だった。
キヨシは唾をごくりと飲み込んで、うなずいた。

「リュウさん…タマゴじゃなくて、タマですよね? あとアイドルは、男のタマを潰したりしないですよ、絶対」

「エー、そうなの? アイドルは潰したことないの? 誰も?」

「誰もないと思います。たぶん…」

二人は話しながら、歩き去っていった。





―中国武術会で、生きる伝説、武術の神といわれている老師にうかがいます。老師にとって、武とはなんでしょう?

「ホッホッホ…。わしが武術の神とな。それは光栄なことだ。…しかし残念ながら、わしではない。もし本当に、武術の神がいるとすれば、それはあの子の中に宿っておるよ」

―あの子、とは?

「わしの弟子のひとりにな、その身に武術の神を宿した子がおる。わしもずいぶんたくさんの武道家を見てきたが、あれほどの天才を他に知らん。もちろん、わしを含めてな」

―それは、どなたのことですか? 今、どこに?

「今は日本におると聞いたかな。しかし、期待してはいかんぞ。あの子はまさしく武の化身、武術の神を体に宿しておるがな。残念ながら、神は今、休憩中なんじゃ」

―休憩ですか?

「そう。長い長い武の歴史じゃからな。神も少しくらい休憩してもかまわんじゃろ。なあ?」




十数年前。
中国武術会にその人ありと言われたリュウ・ユンシャンは一人の弟子をむかえた。
いや、弟子というほどのものでもない。もはや老齢になり、稽古をすることも少なくなった彼のもとに、親戚の女の子を鍛えてほしいという依頼がきたのである。

「この子ときたら、まったく運動が嫌いで、外に出て遊ぼうとしないんです。家の中でテレビやマンガばかり見て。ちょっとは体を鍛えて、丈夫になってほしいと思うんですが。

「ふむ。最近の子は、まあそうしたものじゃな。どれ、わしが少し稽古をつけてやろうか」

「ああ、老師。そうして頂けると、助かります。ほら! あいさつなさい。この人は偉い武道家で、お前のひいおじいさんの弟なんだよ」

「…こんにちは、老師」

「うむ。こんにちは。これから時間を作って、わしのところに来なさい。お前に武術を教えてやろう」

「…はい」

「じゃあ、よろしくお願いします」




6歳の女の子が、中国武術界で神とまで謳われる人物に教えを受けて半年。
あるとき、老師はふと気がついた。

(コイツ、わしより強くない?)

母親の言葉通り、まったく運動をしたことがなかった女の子は、最初はぎこちなく、堅い動きで老師の真似をするばかりだったが、異様に吸収力が高い。
というより、武術の動きに関して、まるで生まれたときから知っていたかのように完璧にこなしてしまっていた。

「えいっ! やあっ!」

老師は基本的な型を教えるだけだったが、その手足の動き、重心の位置、拳や蹴り脚に体重をのせるタイミング、すべてが百万分の一の誤差もなく、完璧だった。

(わしがこの域に達するまで、30年はかかった…)

あるいは達人と言われる老師だからこそ、それが分かったのかもしれない。
武術に身を捧げて数十年、若いころのような力は失われたが、だからこそその技は徹底的に無駄を排した鋭さがある。
果てしない修練の末、たどり着いた珠玉のような動きを、少女は完璧にトレースし、今ではさらにその先に行こうとしているように見えた。

「のう、小猫よ。ちょっとわしに打ってこんか」

小さい猫と、老師は少女をそう呼んでいた。

「はい。え…と。突きですか?」

「なんでもよい。好きに打ってこい」

技の動きだけではまだ何とも言えぬ、と老師は思った。
彼自身、若いころには武者修行と称して、ずいぶんと無茶な勝負をした。
その数は、とてもすべては思い出せないほど。人には言えぬが、決闘の末、殺めてしまった相手も、片手ではおさまらぬほどにいる。
そんな老師が、久しぶりに手合わせをしたいと思う欲にかられたのは、自らの弟子である、6歳の女の子だった。
しかも彼女は、武術を始めてまだ半年だった。

「はい。…えい!」

少女の拳が、師匠の腹をめがけて突き出された。
パシっと、老師はその皺だらけの掌で、小さな拳をとめた。

「……!」

ヒヤリとした。
いまの拳のように、正確に、完璧な角度でみぞおちを狙われたのは、いつ以来か。老師はちょっと思い出せなかった。
型は教えたが、人体の急所まで教えたことはなかった。

「…続けなさい」

老師は腰を落とし、かまえた。
彼がこれほど本気で武術のかまえを取るのは、おそらく10年ぶり以上のことだった。

「はい。…やあっ! とっ!」

かわいらしい掛け声とともに、少女は攻撃を繰り出した。
その一つ一つが、老師が教えた型の中にある動きではあったが、ここまで正確に人の急所を狙えるものか。
しかも彼女は、人に向かって拳を打つのは、これが初めてではないのか。
少女の攻撃を受け止めながら、老師は驚愕の思いを隠せなかった。
しかも。

「しっ!」

昔の血が騒いだのか、少女の蹴りを受け止めると同時に、老師は突きを少女の顔面にはなってしまった。
しまったと思ったが、少女は意外そうな顔もせず、老師の拳をスッとよけた。

「む…!」

決して手加減したわけではなかった。
むしろ無意識に出した拳の方が、実戦ではよく当たることがある。
それをこの少女は、なんなくかわしたのだ。人から殴られるということ自体、初めてであるかもしれないのに。

「小猫、少し、避けてみい」

老師はそう言うと、先ほどのような突きを、少女の顔面に向けてはなった。
もちろん当たりそうなときは、寸止めにする準備はしている。
しかしそんな心配もなく、少女は次々に繰り出される老師の突きを、何気なくかわし続けた。

「ふむ。なかなか。わしの拳が見えておるか?」

「はい。あの…もっと速く突いても大丈夫ですよ?」

老師は驚いた。
手加減したつもりはなく、今、打てる最大限のスピードの突きと言っても過言ではなかった。
それをなんなくかわしてしまうとは。

「ふむ。よかろう。今日はこれまでにしようか」

「はい。ありがとうございます」

少女はにっこりと笑って、頭を下げた。

(この子は天才じゃな。しかも天才の中の天才。武術の大天才とは、この子のことじゃ)

長い武術経験の中で、老師は才能というものの存在に気がついてはいた。自分自身、人よりもそれが多く生まれついているという自負もあったが、その自信は、今、打ち砕かれた。
あるいは歴史上でも類を見ないほどの武術の才能が、ここにある。それが自分の弟子であるということが、彼ほどの年齢になれば、素直にうれしく思えた。
この子を鍛えて、歴史的な武道家にしてやろうという気持ちが、なかったわけではない。
しかし。

「小猫よ、武術は楽しいか?」

「…うーん。あんまり楽しくない」

この瞬間の方が、老師はよほど衝撃を受けた。
これほどの才能を持って、これほどの動きをして、この年ですでに世界中の凡百の武道家を上回る実力を備えていて、それでも武術が楽しくないということらしい。

「テレビを見てる方が、楽しい。わたし、アイドルが好きなの。わたしもあんな風になりたい」

目を輝かせて語る表情は、武術を教わっている時より、よほど楽しそうだった。
才能というのは、人生というものは奇妙なものだと、老師は改めて実感した。

(この子の中にいる武術の神は、今は眠っておる。いずれ、起きるときがくるかどうか)

老師は心の中でため息をついた。
自分が生きている間に、この武術の神が目覚めることを願ってやまなかった。





とある蒸し暑い夜。
コンビニの近くにある古い公園に、アイドルを目指す女の子、リュウ・シンイェンが立っていた。
耳にはコードレスのイヤホンをつけて、目をつぶり、何やらリズムを取っている。
と、突然彼女は体を動かし始めた。

シュッ! バッ!

と、身につけている大きめのコンビニ店員の制服が、衣擦れる音が響く。
その動きの素早さ、キレ。正統派中国拳法の型の稽古かと思われたが、よく見れば、それはテレビのアイドルグループの振り付けのようだった。
しかし異様なほどに、体幹や重心がブレない。
動きに、まったく力みがない。
無駄な動きが一切消えている。
はたで見ている人間に音楽は聞こえなくても、そのリズムがはっきりとわかるくらい、完璧な動きだった。

「ン。好咧!」

踊り終えると、手ごたえがあったかのようにつぶやいた。
彼女はアイドルになるため、芸能事務所でレッスンを受けており、これはその課題か何かだったのだろう。
実際、彼女はダンスを覚えるのは得意で、ほとんどの動きを一度見るだけで再現することができた。
しかし、アイドルグループのダンスというのは、稚拙だったり未熟な部分があり、それを一生懸命やるからこそかわいらしいという面もあり、異様なまでのキレを持つ彼女のダンスがアイドルとしてふさわしいかどうかは微妙だった。

「いやあ、上手、上手。いいねえ」

と、パチパチと拍手をしながらリュウの方に男が近づいてきた。
大柄な男で、その体格から、何かスポーツをやっていることは確かだった。

「ン? ありがとうございマス。わたし、リュウ・シンイェエンといいマス。アイドル目指してマス!」

夜の公園で、突然男から声をかけられても、リュウに慌てたり恐れたりする様子はなかった。
むしろこうやって自己紹介をすることがアイドルの使命だと思っているらしかった。

「へー。リュウさんはアレ? 中国の人なの?」

「そうですネ。わたし、中国から来ました」

「へー。そうなんだ。かわいいねぇ。へー」

男は酔っぱらっているようだった。
顔を赤くしながら、リュウの体を舐めるように観察していた。

「そうですか? ありがとうございマス」

リュウはにっこりと笑った。
その笑顔を見て、男は唇を舌で舐めた。

「いや、ホントかわいいよ。アイドルみたいだね。でさぁ、よかったらちょっとご飯でも食べに行かない? 今から」

「ン? 今からですか? スイマセン。今、仕事中なので。わたし、休憩してる。もう戻らないと」

「ああ、そうなの? そこのコンビニ? へー。まあ、いいじゃん。サボっちゃえばさ」

男は相当酔っぱらっているのか、ろれつの回らない様子で言うと、リュウの腕を無造作に掴んだ。
その顔には、いやらしい笑顔が張りついている。
しかし、次の瞬間。

ブン! と、大きな体が空を切って回転し、男は地面に尻もちをついた。
しっかりと握っていたはずのリュウの腕は、いつの間にか外されていた。

「お兄さん、オサワリはやめてくださいネ?」

男を見下ろして、リュウは言った。目の奥は笑っていなかった。
そのまま立ち去ろうとすると、男は慌てて立ち上がった。

「ちょっ! 待てっ!」

自分の半分も体重がないような女の子に投げられたがショックだったのか、男は背中を向けたリュウの肩に乱暴に手を伸ばした。

ピシッ! と、男の手はリュウの肩に触れる寸前で、弾き飛ばされた。
そして気がつくと、中指を出したリュウの一本拳が男の顔面に寸止めされていた。

「わたし、酔っ払いキライ。次は当てるヨ」

厳しい表情で、リュウは男を睨みつけた。
リュウの拳は、男の顔面の急所、人中スレスレで止まっている。
男にはそれがいつの間にはなたれたのか、まったく見えなかった。

「…やるな。お前、何者だよ?」

バッと飛び下がり、男は腰を落とした。
その動きから、男が何かの武道をやっていることが、リュウにもわかった。

「わたし、リュウ・シンイェン。アイドル目指してマス」

「へっ! 今のがアイドルのパンチかよ。俺は相塚っていうんだ。知らないだろうが、空手の世界ではそこそこ有名なんだよ」

「フーン。じゃあわたし、仕事戻りますヨ」

「待てよ! せっかく日本に来たんだから、空手のことも勉強していきな。おらっ!」

男、相塚はもう酔いがさめたようで、しっかりとした腰つきから、リュウの顔面めがけて正拳突きをはなってきた。
しかし次の瞬間、車にでも跳ね飛ばされたような衝撃を感じ、後ろに3メートルほども吹っ飛ばされてしまう。

「くっ…はっ!」

一時的な呼吸困難に陥ったようで、胸をおさえる。
見ると、リュウが腰を落とした状態で、背中を見せて立っている。
向かってくる相手にカウンターで体当たりをする中国拳法の技を、見たことがあるような気がする。

「空手は知ってマス。ユーチューブで見た」

「く…そ…!」

相塚は苦しみながらも立ち上がり、再びかまえをとった。

「エー、まだやるの?」

「まだ…だ! 本当の空手を見せてやるぜ!」

相塚は普段から相当稽古を積んでいるのだろう。自分の技が通用しないはずがないというプライドを守るため、必死の形相で向かってきた。

「せいっ! らぁっ!」

前蹴り、突き、と次々に攻撃を繰り出すが、リュウはそれをことごとく避けてしまっていた。
そして。

ズン! と、みぞおちに、リュウの正拳突きが決まった。
それはまさしく日本伝統空手の突きで、非の打ちどころのないきれいな突きだった。

「がはっ!」

リュウの小さな拳が完璧にみぞおちに入ったようで、相塚の呼吸が止まり、膝をついてしまう。

「空手って、コレでしょ? もう知ってるカラ。見なくてもいいデス!」

相塚はあるいは肉体以上に、大きな精神的ダメージを負っていた。
自分より年下の、これほど細い体つきをした少女に、自分は膝をつかされている。
しかも少女がはなった正拳突きは、自分でもよほど調子のいいときにしかできない突きで、実戦でできることなど考えられないくらい、理想的すぎる正拳突きだった。

「く…まだ…終わってないぜ…!」

もはや少女を制圧してやろうという気持ちは消え去り、むしろ強大な相手に胸を貸してもらいたいとさえ、相塚は思っていた。
しかし、リュウにとっては本当に迷惑だったようで、

「なんなんデスカ、もう! ホントにうざい! バカ! もう休憩時間終わってるんですケド!」

「へ…そうかい…。おれはまだまだいけるぜ…」

相塚の意識は、もはや朦朧としているようだった。
武道家としての本能で、強者に立ち向かおうとしているのかもしれない。

「うるっさい! もう! …次で終わりにしマス!」

リュウは怒りながら何かに気がついたようで、初めて中国拳法のかまえをとってみせた。

「お…!」

その姿はまさに達人で、一分の隙もなく、相塚のように武道をやっているものから見れば、神々しくさえあった。
こんなかまえに対して打ち込めることなど、そうそう経験できることではない。
どんな反撃がくるかと、むしろ心待ちにするように、相塚は正拳突きを打ち込んでいった。

「せいっ! …うっ!?」

相塚の拳がリュウの顔面に届く寸前、リュウの前蹴りが、股間に突き刺さっていた。
スピード、角度、タイミング、打点。どれをとっても完璧な、金的蹴りだった。

「うぐぅ…!!」

予想していた以上の苦痛に、相塚は膝をついた。
年下の少女の前で両手で股間をおさえてうずくまるという屈辱は、この痛みの前ではまったく意味をなさなかった。
もはや全身に痛み以外の感覚はなく、脂汗で顔面が土にまみれようとも、それを払うことすらできなかった。
さらに、

「オマエ、しつこい!」

リュウの手が、うずくまる相塚の尻の方から伸び、その睾丸を捕まえた。

「はぐうっ!!」

どうやって股間をおさえる相塚の両手をすり抜けたのか分からなかった。
そしてこの握り方。
リュウの握力は決して強いというわけではないが、男の睾丸を知り尽くしたかのように、しっかりとピンポイントで圧力を加えている。
男の一番痛い部分、急所の中の急所を把握していなければできない技だった。

「わたし、すごい迷惑シタ! もうゼッタイ来ないでヨ!」

「は、はいぃ! はいっ!」

男の睾丸は楕円形で、袋の中で逃げるため、普通は掴みづらい。
しかしリュウはその小さな手で、少しも逃がさずに相塚の睾丸を二つとも握り続けている。

「あと、わたしに負けたコト、誰にも言わないでヨ? わたし、アイドル目指してるから。アイドルが男より強いと困る。でしょ?」

「はい…。そう…ですね…あっ!」

相塚の意識が飛びそうになるたび、地獄のような痛みが股間を襲ってきた。
それを聞いて満足したのか、リュウは相塚の睾丸をはなしてやった。

「はっ! ううぅ…」

相塚はもはや何も言えず、涙と鼻水を流しながら、その場にうずくまってしまった。

「お疲れ様デシタ」

リュウはちょっと頭を下げると、仕事に戻るのだろう。公園を立ち去って行った。





「ああ…。そういうことがあったんですね」

夜のコンビニのアルバイト中、リュウの話を聞いて、キヨシはようやく納得できた。
その相塚の空手仲間が、先日コンビニを訪れたヨウスケや道端で突然襲ってきた男だったのだろう。
状況から推測すると、彼らは相当な空手の使い手だったと思われるが、結局リュウに触れることすらかなわなかったのだ。

「ハイ。ありマシタ。わたし、その時気がついた。早く終わらせるには、金玉蹴るのが一番いいって。どんなに丈夫な男でも、金玉蹴られたら諦めるネ。金玉、便利!」

「ああ、それはまあ、そうかもしれないですね…」

キヨシの股間で、金玉袋がキュッと縮こまったような気がした。

「でも、リュウさんはホントに強いんですね。どうしてそんなに強くなったんですか?」

「ウソ! わたし、ぜんぜん強くない。わたしの先生の方が、もっともっと強いヨ」

「へー。そうなんですか」

それが本当なのかどうか、本当だとして、その先生の強さはどれほどなのか、キヨシにとっては想像もできなかった。

「でもわたし、強いと弱いとか、どうでもイイ。試合するのもキライだったし、いつも先生に怒られてた。わたし、どうしてもアイドルになりたかったから、日本に逃げてきたヨ」

「そうなんですね。まあでも、この間みたいなことはそうそう…」

言いかけたとき、コンビニの来客を告げるベルが鳴った。

「いらっしゃいませー。…あ」

振り向くと、大柄な男が眉を吊り上げ、いまにも飛びかかってきそうな表情で立っていた。

「リュウってのは、お前か?」

虎が吠えるように、男は叫んだ。

「あ、いえ…違いますけど…」

キヨシがリュウの方を見ると、リュウは深いため息をついていた。




終わり。


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