FC2ブログ
男の絶対的な急所、金玉。それを責める女性たちのお話。


「おい、木崎。この企画書お前のか?」

狭い事務所内に声が響いたとき、机に向かって作業をしていた木崎タツヤは、いよいよきたか、という心境で顔を上げた。
数メートル離れたデスクで、社長の北島が白い紙をヒラヒラと振っている。
この会社は無数にあるアダルトビデオメーカーの中でも、小規模な部類に入る。長年、この業界を渡り歩いて独立した北島のワンマン経営といっていい会社だった。
所属しているAV監督たちは週に一回、AVの企画書を出すのが決まりだったが、それが製作に値するかものどうかの最終判断は、基本的に北島に一任されているような形だった。

「この企画書お前のか?」

と聞いてくるときは、あまりいい傾向ではない。
そもそも企画書には製作者の名前が書いてあるわけだから、確認するまでもないのだ。
北島がいい企画書であると判断したときの反応は、「おい木崎、ちょっと来い」であるはずだった。
数年前に映像の専門学校を卒業し、「映画監督になりたい」という夢を持っていた木崎タツヤは立ち上がると、緊張した面持ちで北島のデスクの前に立った。

「はい。自分が書きました」

「おう。お疲れさん」

北島は改めて、タツヤが書いた企画書に目を落とした。

「これはアレだよな。俺がやってみろっていったヤツだよな。ちょっと前に。そうだよな?」

「はい。そうです。遅くなりました」

「おう。お疲れさん」

それが北島の口癖であって、本気で労わっているわけではなかった。
タツヤが北島から言われた仕事というのは、「金蹴りモノのAVを作ってみろ」ということだった。
初めて聞いたときには、その意味が理解できなかった。
調べてみると、昔から一部のマニアックなメーカーがそういった作品を作っており、最近では徐々に数を増やし始めているという。
もちろん、大手のアダルトビデオメーカーが量産するほどの需要はなかったが、この会社のような弱小メーカーは、時にはそういったジャンルに手を出さなければならないこともある。

「多少製作費がかかってもいいから、マニアが好みそうなものを作れ」

というのが、北島の命令だった。
ツボさえついた作品ができれば、マニアはいくらでも金を出すというのが、北島の持論だった。

「まあ、コレな。悪くはないけどな」

北島はつぶやきながら、企画書を読んでいた。
その感想が、最悪から二番目くらいの評価であることは、タツヤもわかっていた。
いい部分を探すのが面倒くさいほどのときに、北島は「悪くない」と言う。

「まずはなんだ、コレ。S系の女優を2,3人使って、金玉を蹴ってもらう、か。衣装はボンデージかミニスカポリスか。革のロングブーツは確定か。ふーん。男はどうすんだ? なんかストーリーはないのか、コレ?」

「はい。男はまあ、それ専門の人間を手配して…。首輪とかつけて、ペットとか奴隷的な感じを出してもいいかと思ってますけど…」

「ああ、なるほどなあ。ふーん。で、ブーツで蹴ったり、膝蹴りしたりして、倒れたら踏むのもアリか。電気あんまとかな。ああ、最初はパンツ履いてんだな、コレ。で、途中から脱がせて、金玉縛ったり、ロウソク使ったりするのか。ああ、スタンガンも使うのか。そうか」

一度読んだはずの企画書を、今、気が付いたかのように読み上げていく。
タツヤにしてみれば、もうこの企画書が書き直しになることは確定しているから、どこを直せばいいのか、北島の真意を探ることに神経を配っている状態だった。

「木崎、お前さあ、コレ書くとき、他の作品とか見たか?」

少々の沈黙の後、北島は不意に尋ねた。

「あ、はい。金蹴りモノの作品なら、何本か見ました…」

今までこういったジャンルの作品を撮ったことのないタツヤは、参考にするため、ほかのメーカーの作品を何本か鑑賞してみた。
しかしながら、これを見てどこに興奮するのか、AV業界に身を置いているタツヤでさえ、さっぱり分からなかった。マニアが喜ぶツボが分からなければ、この手の作品を作ることは難しい。
仕方がないので、今まで世に出た作品の中から少しずつ要素を抜き出し、それをまとめて書き上げたのが、この企画書だったのだが、やはり評価はされなかったようだった。
そもそもノーマルな自分に、そんな作品を撮らせようと思うのが間違いだと、なかば開き直った気持ちで、タツヤは北島のデスクの前に立っていたのである。

「そうか、見たか。でもアレだな。見てもお前、ぜんぜん分かんなかったろ?」

「あ、いや…。まあ…はい…」

本気で自分の企画書を読んだのかと疑っていた北島に易々と見破られ、タツヤはうろたえた。
北島には、さすがに出入りの激しいAV業界で生き抜いてきた男だけに、こういうところがある。
思わぬ時に見せる鋭さにドキリとさせられることが、よくあったのだ。

「だろうなあ」

と、何か考えるような仕草で沈黙した。
タツヤは立ったまま、次の言葉を待たざるを得ない。

「木崎、一つ言っとくけどな。金蹴りはSMじゃねえぞ。ソコを分かってねえなら、売れる作品は作れねえからな」

「は、はい…! 分かりました」

反射的にうなずいてしまったが、どういうことかまったく分からなかった。
この企画書を作るにあたって、タツヤは「金蹴りモノはSMというジャンルの一つ」という印象があったのは確かである。
しかしそれを今、否定された。
男の急所である金玉を蹴られることが痛いことは、タツヤも男であるから、よく分かっている。自分なら絶対、蹴られたくはない。
しかし世の中には、そういった痛みで性的興奮を感じ、自ら痛みを求める人間がいることは、もはや世間的にもよく知られていることだった。
それがSMプレイというもので、そういうマニア向けのアダルトビデオが存在することも不思議ではない。
タツヤ自身はまったく興味がなかったが、それは知識として理解しているつもりだった。
だからこそ、「金蹴りはSMではない」という北島の言葉の意味が、腑に落ちないのである。
SMでないなら、どうしてわざわざ、文字通り死ぬほどの痛みであるはずの金蹴りを受けたいというのか。

「え…と…。社長、それはつまり、どういった…?」

「あ? だから、そのまんまだよ。勘違いしてるヤツが多いんだよな。金蹴りはSMの一つとかよ。ぜんぜん違うんだっつーの。違うジャンルなんだよなあ」

そう言われても、さっぱり分からない。
そう言いたそうなタツヤの顔を見て、北島はさらに続けた。

「アレだろ。お前が見たのって、ドMの男優が来て、女の子にしこたま蹴られたりするヤツだろ? 何回も蹴られて、太ももとか真っ赤になってよ、それでも平気そうなんだよな、アイツら。なんかクッションでも入れてんじゃねえかって思っただろ?」

「あ、はい。そうです。ホントに」

確かにタツヤが見た金蹴りモノのAVでは、覆面をした男優がどれだけ強く股間を蹴り上げられても、ダウンしてしまうことはなかった。
ひょっとすると、すでに金玉が潰れてしまっているのではないかと、タツヤは男だけにそう思ってしまった。

「それで女の子もなあ、女王様系の格好とかして、上から目線なんだよな。『土下座しろ』とか『脚をなめろ』とかな。まあ、SM慣れしてる女の子は、そういう感じだよな」

まさしくその通りだった。
そういった作品を見たからこそ、タツヤもこのジャンルはSMの一つなのだと思ったのである。

「そんで、たまに男がダウンしたらよ、『早く立て』とか、『痛いのが好きなんでしょ』とかな。そうじゃねえってんだよなあ。そういうんじゃねえんだよ、金蹴りってのは」

いつになく熱心に語る北島に、タツヤは少し驚いていた。もしかすると、北島は金蹴りモノに対して個人的な思い入れがあるのではないかと感じた。
普通のセックスシーンを見すぎて慣れてしまい、アブノーマルな性癖を持つようになるのは、この業界ではよく聞く話だった。
しかし今は、この企画をどうすればいいのかという話の方が大事だった。

「そうすると、つまり…この作品はどういった方向性で行けばいいでしょうか?」

尋ねると、北島は沈黙した。
口をへの字に曲げて、じっとタツヤの顔を見ている。

「まあ、自分で考えみろよ。急ぐ話じゃねえから。ゆっくり考えてみな」

肝心なところで具体的なことは言わないというが、北島の癖だった。
あるいは、監督それぞれの発想を大切にしたいという、教育方針といってもいいのかもしれない。売れるかどうかの判断はしてやるが、そこまでの道は自分で考えろと言っているようにも聞こえる。
こう言われると、タツヤも黙ってうなずくことしかできなかった。



スポンサーサイト
[PR]



アダルトビデオの監督は、忙しい。
特に小規模な会社の場合、タツヤのような若い監督は、先輩監督の手伝いや使い走りをさせられることも多かった。
この日もタツヤは、深夜までスタジオ入りし、撮影の補助や女優の世話など、忙しく立ち回っていた。
次のシーンの準備のため、休憩室で知り合いの女優と二人きりになったとき、ふとタツヤは尋ねてみた。

「アミちゃんってさ、空手かなにかやってたんだっけ? なんとか拳法だっけ?」

「んー? 少林寺拳法のこと? やってたっていうか、ちょっとだけね。段とかは持ってないけど。なんで?」

「いや、あの、あれやったことあるのかなって。何ていうのかな…金蹴り?」

「はあ? 何それ? 金的蹴りのこと?」

「ああ、そう。それ。やったことあるんだ?」

「んー。まあ一応、練習するからね。ていうか、アタシが少林寺始めたのも、もともと護身術って感じだったから。わりと最初の方で習ったよね」

「それって、実際に男相手にやったことある?」

「えー、あるわけないじゃん。ホントに蹴ったらヤバいでしょ。ていうか、アタシ組手とか全然やってなかったし。痣とかできたりしたら、イヤでしょ」

「ああ、そうなんだ。…それってさ、今でもできたりする?」

「何それ? できるっちゃできるけど。アタシに蹴ってほしいってこと?」

自称21歳。ギャル系のノリの良さと外見が受けているAV女優の愛河アミは、笑いながら聞き返してきた。

「うん。まあ…できれば…」

鏡に向かって、まつ毛のエクステをいじっていたアミは、ここで初めてタツヤの方を振り向いた。

「マジで? だって、めっちゃ痛いんじゃないの?」

「まあ、そうだと思うんだけど…。今度さ、そっち系の作品を撮らなくちゃいけなくって。自分でも経験しといた方がいいかなって思うんだよね。痛いのは知ってるけど、蹴られたことはないからさ」

「あー、そういうことかあ。大変だねー」

「お願いできるかな?」

タツヤは立ち上がり、大きく足を広げた。
日常の仕事をこなしながらも、北島に言われたことが、ずっと頭に引っかかっていた。
自分が望んで引き受けた仕事ではなかった、元来が生真面目な性格だった。金蹴りのことを知るためには、まずは自分の身でそれを受けてみるしかないと思ったのだ。

「まー、別にいいけど。痛くても、怒んないでよ?」

ノリのいいアミは、すぐに立ち上がった。
撮影の合間の休憩中のため、全裸にバスローブという出で立ちで、椅子から立ち上がると練習するかのように、右脚を上下させる。

「でも、久しぶりだからなー。うまく当たんないかも」

なるほど、ただ単に脚を上げているだけではなく、きちんと足の甲で目標を狙うような素振りだったが、そのスピードを見る限り、大きなダメージを受けるとは思えなかった。

「じゃあ、やろっか? 準備いい?」

「ああ、うん…。どうぞ!」

やや緊張した面持ちで、タツヤは停止した。
その股間を、アミは凝視する。すっと腰を落として、かまえをとった。

「えい!」

と、アミが脚を振り上げたとき、予想外のことが起こった。
本人も無意識のうちに、タツヤは腰を引いて、アミの蹴りを避けてしまったのである。

「あ! 避けた!」

「あ! ご、ごめん…」

なぜ避けてしまったのか、自分でも不思議だった。今まで一度も金的蹴りを受けたことのないタツヤだったが、男の本能のようなものが、その危険を察知したのか。反射的としか言いようのない行動だった。

「ちょっと! 避けないでよ」

「ごめん…。なんでだろう。つい…」

「やっぱり怖いんじゃないの? やめとこっか?」

アミはなぜか、嬉しそうに笑みを浮かべていた。
男の弱い部分を垣間見たような、そんな笑い方だった。

「い、いや、そういうわけじゃ…。今度は、目をつぶっとくから。それで蹴ってみてよ」

アミの笑顔を見て、タツヤは言いようのない悔しさを覚えた。
その悔しさがどこから来るものなのかよく分からなかったが、結局それが、ここでやめるわけにはいかないと決心する元となった。

「ああ、なるほどね。じゃあ、声もかけないからね。準備ができたら、言って」

うなずくと、タツヤは目をつぶった。

「どうぞ」

暗闇の中、いつ来るかわからない金的蹴りを待つということに、あまり恐怖は感じなかった。しかしそれは、タツヤが金的蹴りを経験したことがないからこそだったのだと、後に思い知ることになる。

バスッ!

と、ジーパンの股間に足が当たる音がした。
その瞬間、タツヤは目を見開いて、両手で股間を押さえてしまう。

「あいっ!?」

それまで存在を意識していなかった股間のその場所にあるモノから、経験したことのない重苦しい痛みが沸き上がってきた。

「あ…ああ…。う…ん…ああ…!」

意味もなくため息をついて、前かがみになったまま、その場で足踏みを始める。
そうすれば、痛みがまぎれるような気がしたのだ。
しかしその期待ははかなくも裏切られ、痛みはさらに重量を増しながら、体全体、指の先まで広がっていくようだった。
タツヤはたまらず、その場にしゃがみこんでしまった。
それでもなお、痛みは治まることなく、下っ腹を震わすように響いてくる。
結局、なるべく体を動かさず、糸のように細い呼吸をすることが痛みを抑える唯一の方法だと、すぐに悟ることになった。
その間、蹴った方のアミはというと、タツヤの痛がりようを見てまず驚き、次にその一連の動作に面白みを感じたらしく、声を上げて笑い出した。

「あっ! 当たっちゃった? 大丈夫? …ていうか、何? どうしたの? 痛いの? 演技じゃなくて? マジで痛いの? …あー、ちょっと待って。ゴメン、ツボだわ、そのポーズ。マジでウケる。ダッサイなー!」

男が自らの手で股間を押さえて苦しむ様子が、なぜ女性にとって面白いものなのか。それは誰にもわからない。
男性のシンボルである性器は股間にあるが、普段男は、あたかもそこに何もついていないかのようにして生活をしている。
性器をむやみに意識させることは、性欲の対象である女性に対して、卑猥で恥ずかしいことだと、現代社会では考えられているからだろう。
男性器は男の象徴だが、同時に最もプライベートな部分であり、隠さなければならないものだということだ。
しかし金玉の痛みに襲われた男は、そんな見栄もプライドもかなぐり捨てて、痛みのあまり、全力で大切な性器を守ろうする。普段の力強い男の様子とはあまりにもかけ離れたその姿に、女性は面白みを感じてしまうのかもしれなかった。

「そんなに痛いの? 超かるーく蹴ったんだけど。どんな風に痛いの? 立てないの?」

そう聞かれても、説明する気力もなかった。
女に金玉の痛みを説明したところで、何になるだろうという気持ちもある。

「いや…マジで痛い…」
 
小声でそうつぶやくと、それもまたアミにとっては面白かったらしい。手を叩いて喜んでいた。

「やっぱり男の急所なんだねー。超ウケる。アタシも実際に蹴ったことなかったからさ。なんかありがとうね、マジで」

笑いすぎて涙さえ浮かべているアミの表情には、清々しいまでの勝ち誇りがあった。
彼女にそんな顔をされると、タツヤは自然と、自分は敗者なのだと認めざるを得なくなる。
事実、彼女はタツヤを制圧していたのだ。
アミは胸やお尻はそれなりに大きいが、ウエストは細く、手足にもさほどの筋肉がついているようには見えない。
どこからどう見ても、彼女の肉体的な強さはタツヤよりも劣っているはずだった。タツヤだけではない。世の中の男性のほとんどが、彼女と対面したとき、いざとなれば簡単に押し倒せるくらいのことを、心のどこかで考えることだろう。
しかし実際には、彼女のただの一撃で、タツヤは完全に行動不能にされてしまったのだ。
どんなに筋肉の鎧に守られた男でも、この痛みには耐えられない。弱々しいはずの女性の蹴りによって、一撃でノックアウトされてしまうほどの絶対的な急所が、すべての男には生まれながらに備わっているのだ。
この痛みと屈辱は、一時的な性的自尊心の喪失につながるではないかと、のちにタツヤは分析している。

「ていうか、まだ痛いの? ずっと痛いんだね。どうしようかな。こうやって叩くと、良くなるって言ってた気がするけど。トントントンって。こう?」

アミはタツヤのそばにしゃがんで、その腰のあたりを叩いてやった。
確かにそうされると、痛みがわずかながら和らぐ気がして、タツヤは救われる思いだった。

「大変だねー、男って。まあ、女も生理痛とかあるけどさ。どっかぶつけたり、手が当たったりしても痛いんでしょ? それはさすがにムリだなー」

腰を叩くアミの手は柔らかく、タツヤはそこに嫌でも女性の肉体を感じずにはいられなかった。
そして最初からそうだが、彼女の話しぶりには、自分とは無縁の痛みだという意識がある。タツヤが味わっている苦しみは、永遠に自分を襲うことはないという安心感と優越感が感じられるのだ。
女には金玉はついていない。分かり切ったことなのだが、今改めてそれを実感し、それを考えると、タツヤはアミに対して、ためらいながらも羨望の念を抱かずにはいられなかった。
自分も金玉を捨てて女になりたいと、絶望的な痛みの中で思うことがなかったといえば、嘘になる。
しかしその痛みを生み出している金玉は、生まれてから20数年間、自分の体の最も大切な部分として付き合ってきたもので、特に思春期を迎えてからは、男の象徴として誇りと共に守り抜いてきたものだった。
それをかなぐり捨てて、女になりたいなどと思っていいものか。しかしそんなプライドもどうでもよくなるくらい、この痛みは耐えがたい。
そんな葛藤が頭の中を駆け巡るのを、このときタツヤは、俯瞰的な心境で眺めることができた。

「金蹴りはSMじゃねえぞ」

という北島のその言葉の意味が、なんとなく分かりかけたような気がした。





数日後。
狭い事務所内に、また北島の声が響いた。

「おい木崎。ちょっと来い」

言われて、タツヤはすぐに立ち上がった。

「はい。なんでしょう?」

さっぱりとした顔でデスクの前に立ったタツヤを、北島はジロリと見つめた。

「お前の書いた、この企画書な。いいんじゃねえの。よくできてるよ」

その言葉が、最上級に近いくらいのものであることを、タツヤは分かっている。

「しかしお前コレ、『金玉を蹴る女達シリーズ』って。もうシリーズ化する気かよ。早いだろうが」

「あ、はい。それは…すいません」

「まあ、いいけどよ。最初はなんだ、コレ。『恥じらい金蹴り。お嬢様たちの護身術教室』って。女子校生か、コレは?」

「はい。そうです」

「お嬢様学校に通う女子校生が、護身術を学ぶために男たちの金玉を蹴り上げるって話か。ふーん。脱がねえのか、女子校生は?」

「はい。基本的には。蹴るときに、パンチラくらいは見えると思います。あとはブルマとかスクール水着くらいで。できるだけおとなしめの女優を使っていきたいと思っています」

「男はどんなヤツだ?」

「黒服とか、マッチョなボディガードみたいな男がベストだと思っています。普段は体を張ってお嬢様を守っているみたいな設定で」

「M男を使うのか?」

「いえ。普通の男でいいです。蹴った時の女の子のリアクションが欲しいので、そのあたりでセリフとかを練って、スローとかを挟んで、尺をとりたいと思っています」

北島は、ニヤリと笑った。

「ココに書いてあるな。『か弱いはずのお嬢様たちが、屈強な男たちを次々と金蹴りでノックアウト。しかし、痛めつけるだけではないのがお嬢様。金玉の痛みに苦しむ男たちを、丁寧に介抱してあげます』。結局、抜くのか、コレは?」

「そうですね。手コキくらいはしないと、形にならないかなと思ったので。ただそれも、チンポ観察とかセンズリ鑑賞とか、そんなノリで…」

「お嬢様だからな。恥じらいは大事だ」

北島は自分で言って、うなずいていた。
なぜか興奮してきている様子だったが、タツヤは黙って見ていた。

「次はコレか。『逆襲の金蹴り。特命痴漢捜査官の金玉潰し』。コレはどうなんだ?」

そこに書いてあるだろうと言いたかったが、仕方がないので説明することにした。

「痴漢にあって心に傷を負ったOLか女子大生が、特命痴漢捜査官というのになって、電車とかで痴漢を金蹴りで退治していく感じになります。蹴りだけじゃなくて、握ったり、道具を使ったり、色々できるかと思うんですけど…」

「おう、道具をな。なんかこう、日常にあるヤツがいいな。傘とか、ハンドバッグの角とかな」

「ああ、はい。そうですね。それで、エロの要素としては、まず自分がおとりになって痴漢させないといけないので、そのあたりで少し入れられるかなと思ってます」

「おう。そのくらいだな。そのくらいでいいぞ。コレはアレか。金玉潰しってなってるけど、最後には潰すのか?」

「どうでしょう。リアルには無理ですけど。そういう演出はあってもいいかな、と。潰す前に最後の射精をさせてやるって要素も入れられるかもしれないんですが…」

「最後の射精! そうだな、そういうことになるなあ」

普段、絶対に見せることのない北島の笑みが、そこにあった。

「それで、次はコレか。「真剣金蹴り。金玉強化合宿」。コレはまた面白そうだな?」

「はい。それはまあ、けっこう人手がいりそうなんですけど…。空手とかの部活の合宿のイメージで。試合に勝てない男子部員たちを、女子部員たちが鍛えなおしてやるという設定になります」

「空手女子か。そうか。鍛えなおすってことは、金玉を蹴るのか?」

「はい。根性をつけるためにとか言って、金蹴りするんですが、勝ち抜き戦にして、最後まで耐えられたらご褒美セックスとかもアリかと思うんですけど…」

「おう、そうか。そうだなあ。…いや、待て。こういうのはどうだ? 女子は金蹴りしか狙わないと宣言して、試合をする。男子は金玉だけは守ろうとするんだが、色々な技を使われて、結局女子に蹴られてしまう。難しいか?」

「そう…ですね…。試合とかはけっこう難しいかもしれませんが…。検討します」

「おう。検討しろ! 最後は何だ。『愛の金蹴り。金玉を蹴ってハワイに行こう』。どういうことだ、お前、コレは?」

「ああ、それはもう、ちょっとシャレで書いてみたんですけど…。カップルをいくつか集めて、お互いに相手の彼氏に金蹴りして、ダウンしないで勝ち抜いたカップルが優勝ってことで。それで、ハワイに行くみたいな…。でもこれは、さすがに予算がかかりますよね」

北島は突然、立ち上がった。
めったに見せることのない真剣な表情に、タツヤはちょっとたじろいでしまう。

「木崎、最後に聞くぞ。金玉蹴られると、痛いと思うか?」

「は、はい。死ぬほど痛いです」

「そうだ。このお前の企画書な、コレに出てくる男優は、金玉蹴られたいと思うか?」

「いえ。蹴られたくありません。そういう男優は使いたくありません。でも、そこが問題で…。M男じゃない人をどうやって集めるかなんですけど。やっぱりギャラを上げるしかないかと…」

北島は、目の前のタツヤの肩を両手で叩いた。

「金を使えよ! どんどん使え! 最初に言っただろうが。ツボさえおさえれば、マニアはいくらでも金を出すってな!」

「あ、は、はい…」

その勢いに、タツヤは面食らってしまった。
北島は椅子に座ると、再び企画書を手に取って、ニヤニヤしながら読み返し始めた。

「なんだよ、分かってんじゃねえか。金蹴りモノってのはなあ、女が主役じゃねえんだよ。男が主役なんだよなあ。そういうことなんだよなあ」

独り言のように、つぶやいている。
タツヤは、想像以上の北島の高評価に驚いていたが、まだいくらかの不安があった。

「あの、社長…。でもこれ、ホントに売れるんでしょうか? いくらマニアでも、けっこう…」

「ああ? バカ。売れなくてもいいよ、もう。俺が見るからよ。心配すんな」

「あ、はあ…」

「そうだよ。だからお前、シリーズとか細かいこと言ってないで、一気に全部作っちまえよ。今なんかやってたっけか? それも一旦やめて、こっちを最優先しろ」

つまりは、そういうことだったのだ。
この企画は、北島自身のためのもので、売れても売れなくても関係なかったのだ。
拍子抜けした気分だったが、アダルトビデオメーカーの社長ともなれば、そのくらいのことをしてもいいだろうと思った。
あるいは自分もいつか、自分の趣味を百パーセント満足させるようなAVを撮る日がくるのかもしれない。それもまた、面白そうだ。
しかしそう考えると、ふとした疑問が、タツヤの頭をよぎった。

「あの、社長…。一つ聞いていいですか?」

「おう。なんだよ?」

「なんで社長は、自分で金蹴りモノを作ろうと思わなかったんですか?」

そう尋ねると、北島はちょっと面食らったような顔をして、やがてニヤリと笑った。

「木崎、お前よ、自分が撮ったAVで抜けるか?」




終わり。


// ホーム //
Powered By FC2ブログ. copyright © 2020 金玉を蹴る女達 all rights reserved.
カテゴリ

月別アーカイブ
訪問者数

検索フォーム

リンク