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男の絶対的な急所、金玉。それを責める女性たちのお話。

とある地方のプロレス団体。
メジャーではないながらも、実力のある本格的なプロレスが楽しめるということで、一定の人気を保っている彼らの試合は、主に地元の体育館などを使って行われていた。
この日は、今年のファイナルマッチと銘打って、団体の中のチャンピオンと挑戦者が戦うことになっているはずだった。

「オラァ!!」

「オオォ!!」

リング上で、鍛え上げられた肉体を持った二人の男が、汗みどろになって組み合っていた。
チャンピオンの小林と挑戦者の岡田の試合は、すでに終盤に差し掛かっており、二人はさまざまな技の応酬の末、最後には肩をぶつけ合って掴みあう体勢になっていた。

「おおりゃ!!」

ついに小林が、気合と共に前かがみになっていた岡田の巨体を高々と持ち上げた。
そしてそのまま、マットめがけて、岡田を頭から叩きつける。いわゆるパワーボムという技で、これはチャンピオン小林の必殺技だった。

ドスン!

と、重たい音が会場内に響き、岡田は動かなくなった。
そこへ素早くレフェリーがかけより、叫ぶように3カウントを取る。
直後にゴングが鳴り、小林の勝ちが決まった。

「おっしゃー!!」

小林は高々と手を挙げて、勝ち名乗りを受けた。
今年で26歳になる彼は、若いながらもこのプロレス団体を引っ張る存在として、大きな期待を寄せられている存在だった。
すでにファンも大勢おり、今日の会場にも、たくさん詰めかけている。
それらのファンが、手拍子をし、「小林」コールが巻き起こった。

「こ・ば・や・し! こ・ば・や・し!」

小林もそれに応えて手を振るが、会場内には、その手拍子にまったく乗ってこない観客たちもいた。
よく見れば、200人ほどいる体育館の観客の中で、その半分ほどは女性だった。しかも、一見してプロレスには縁がなさそうな、若い女性ばかり。
それらの女性客は、まるで何かを待っているかのように、立ち上がる男性客につられることなく、じっと席に座り続けていた。
やがて。
突然、会場内の照明が落ち、ポップなテーマソングが流れ始めた。
それは、今試合が終わったばかりだというのに、新たなレスラーの登場を予感させるものだった。

「来た来た来た来たー!!」

いつの間にか、リングサイドにスーツ姿の女性が、マイクを握って立っていた。
珍しい、女性のリングアナウンサーだった。

「お集まりの女性のみなさん、お待たせしました! ファイナルマッチの今宵も登場です!」

体育館の入り口にスポットライトが当たると、そこにはすでに、全身ピンク色のコスチュームに身を包んだ、マスクレスラーが立っていた。
その姿を見つけると、観客席の女性たちは総立ちになる。
逆に男性客からは、ブーイングともつかぬ吐息が漏れていた。
ピンク色のマスクレスラーは、リングに向かって走り出した。

「最強のプロレスラーは、男か女か。その答えを出すために、今日はチャンピオンを倒しに来た! 華麗な空中殺法と必殺の足技が、今日も炸裂するのか! ピンクーファルコーン!!」

リングアナの紹介と共に、マスクレスラーは軽やかにロープを飛び越えた。
同時に、会場内に照明が戻り、マスクレスラーの姿が明らかになる。

「ファルコーン!」

「今日もやっちゃってー!」

観客席の女性たちから、黄色い声が飛んだ。
その声援に手を振って応えるマスクレスラーは若い女性で、極端に小さなビキニタイプのコスチュームを身につけており、鳥の羽を模したデザインのマスクをかぶっていた。
そして、そのマスクからブーツにいたるまでがすべて鮮やかなピンク色で、それが彼女の白い肌によく映えていた。

「チャンピオン! どっちが強いか、ハッキリさせましょうか?」

リングに上がって早々、小林に向かってそう言い放った。
ピンクファルコンと呼ばれた彼女は、モデルのような長い手足と引き締まった腹筋をしていたが、どう見ても筋肉隆々の小林の相手になるとは思えなかった。

「出やがったな、このアマ! ふざけんじゃねえ!」

すでに岡田との長時間に及ぶ試合を終えて、殺気立っている小林は、今にも掴みかかりそうな勢いだった。
慌ててレフェリーが、二人の間に入る。

「チャンピオン小林と、ピンクファルコンのエキシビション! 正真正銘、これが本当のファイナルマッチだ!」

リングアナの絶叫と共に、ゴングが鳴った。

「…この野郎! いつもいつも邪魔しやがって。一体、何モンだ、てめえは!」

ゴングを聞くと、小林は少し冷静さを取り戻したようだった。
本気でこのピンク色のマスクレスラーの正体を知らないようだったが、プロレスはどこまでが筋書きで、どこからが違うのか。普通はよく分からないものだった。

「さあね。気になるなら、このマスクをはいでみれば?」

ピンクファルコンは、挑発的に笑った。
実際、彼女の体は、小林のような若い男にとっては挑発的なほどグラマーで、彼女もそれを意識しているのか、仕草のいちいちが官能的だった。
しかし小林にとっては、そんなセクシャラスな要素を持った人間が、自分が守るリングに上がること自体、許せないようだった。

「おらぁ!」

まずはあいさつとばかりに、小林のケンカキックが飛んだ。
ピンクファルコンはこれをギリギリでかわすと、すかさずその足首を掴んだ。

「うっ!」

その足首を両手で掴んだまま、しっかりと固定し、素早く体ごと回転する。
一歩間違うと膝を壊されかねない、流れるようなドラゴンスクリューだった。

ドン!

と、小林は素早く自ら回転し、受け身をとった。
立ち上がって振り返ると、ピンクファルコンが見下すような目で微笑んでいた。

「カモーン!」

そして、余裕を見せるように手招きする。
しょせんは女性と思って、どこかで油断していた小林は、完全にキレた。

「うおお!」

獣のように吼えると、両手を広げて、ピンクファルコンを掴みにかかった。
彼女もそれに応じ、二人は両手を重ね合わせて、手四つの状態になる。
単純な力比べとなるこの状態なら、男であるチャンピオンの小林が有利なことは、誰の目にも明らかだった。

「おお!」

相手が女性であることも忘れて、本気の力を込めているようだった。
あっという間に、ピンクファルコンは押され気味になってしまう。
しかし。

「ファルコーン!」

「やっちゃってー!」

小林の怪力に押され、すでに片膝をついてしまっているピンクファルコンに、女性客たちは相変わらず期待を寄せているようだった。
そしてそれは、すぐに現実となる。

「そおれっ!」

圧倒的劣勢だったピンクファルコンは、スッと片手をはずし、片膝をついた状態から、目の前にある小林の股間をかち上げたのだ。

「ぐあっ!!」

ピンクファルコンの二の腕で、小林の股間が押しつぶされた。
あっという間に小林の体から力が抜けて、両手で股間をおさえて、ひっくり返ってしまった。

「決まった―! 掟破りの金的攻撃―!」

リングアナが絶叫すると、観客席の女性たちは立ち上がって歓声を送った。
彼女たちの目当ては、この光景だったのだ。
筋肉隆々の男性レスラーが、その見た目通りに激しい試合をし、リングの上で男らしさを見せつける。
その後で、スタイル抜群の女性レスラーがそんなパワフルな男たちを、テクニックと急所攻撃で翻弄していく。
いまだに男性優位と言われている日本社会の中で働く女性たちは、マッチョな男たちをなぎ倒していくピンクファルコンの姿を見て、日頃のストレスを解消しているようだった。

「うぐぐ…」

小林は股間をおさえてうずくまり、すぐに立ち上がろうとしない。
その額には、先程までとは違う種類の汗が浮かんでいた。

「みなさん! ふつうのプロレスでは、急所攻撃といっても、手加減していることがほとんどです。しかし! 今まで何度も言ってきましたが、ピンクファルコンの金的攻撃は、ガチなんです! 今、チャンピオンの小林は、ガチで痛がっています! この試合は、ピンクファルコンのマスクと、小林の金玉! 女と男のプライドを賭けた、ガチの勝負なんです!」

盛り上がる観客を煽るように、リングアナが解説をした。
彼女の言葉が、いわばこのプロレス団体の方針で、男対女という図式を出すことで、今までプロレスに興味のなかった女性客を取り込もうとする戦略だった。

「さあ、立てるか、小林!」

小林がうずくまって苦しんでいるのを、ピンクファルコンは大きく足を広げて、膝を曲げながら見下ろしていた。
自分の股間を見てみろとばかりの、挑発的な態度だった。

「小林! 小林!」

苦しみ続ける小林に、男性客から声援が送られた。
その声援に押され、ようやく小林は立ち上がった。

「く…そ…! てめえっ!」

片手で下腹部をおさえながら、ピンクファルコンを睨み付けた。
するとファルコンは、おもむろにロープに近づき、リングサイドにいたアナウンサーに何かを要求した。

「ねえ、アレ。持ってない?」

そう聞かれると、リングアナはまるで予期していたかのように、ジャケットの胸ポケットから取り出したものをファルコンに手渡した。

「ほら。着けたら?」

そう言って、ピンクファルコンが小林に差し出したものは、男性用のファウルカップだった。
白いプラスチックでできたそれは、ファルコンの小さな手の中でいかにも不格好に光を反射している。

「てめえっ!」

小林は激怒した。
「これを着けて、ようやく自分とお前は対等だ」という、ピンクファルコンお得意のパフォーマンスだった。
これを見た女性客の間から、失笑が漏れた。

「チャンピオン、着けてー!」

「潰されちゃうよー! 着けた方がいいよー!」

一方の男性客たちは、男のプライドを傷つけられたような気がして、ピンクファルコンに罵声を飛ばした。

「ふざけんな、ファルコーン!」

「男をなめんじゃねえよ!」

もちろん小林も、彼らと同じ思いだった。

「そんなもん、着けるか!」

小林はピンクファルコンの手からファウルカップを叩き落すと、そのまま彼女の手首を掴んで、グッと引き寄せた。

「おおりゃあ!」

体重の軽い女性とはいえ、片手でファルコンの体をグルグルと引っ張りまわす。
小林の怪力のなせる技だった。

「おらぁ!」

何回転かの後、そのままの勢いで、ピンクファルコンをロープに向かって投げた。
ピンクファルコンはロープに当たる寸前で身をひるがえしたが、反動で、再び小林のもとに戻ってしまう。
返ってきたファルコンにラリアットか投げ技をきめようというのが、小林の作戦だった。
しかし。

「たあっ!」

ピンクファルコンは、その名に恥じることのないジャンプ力で華麗に舞うと、ロープの反動を利用したジャンピングドロップキックを、小林の顔面に放った。

「ぐおっ!」

プロレスには、基本的に防御はない。
この場合も、小林は眼前に迫っているピンクファルコンの両足を避けようともせず、ただ歯を食いしばって顔面で受け止めたのだった。
キックを当てた後、猫のように空中で身を翻してピンクファルコンは着地する。
一方の小林は、さすがにふらついて、数歩、後ろへ下がってしまった。

「ファルコーン! カッコいいー!」

観客の声援を受けて、ピンクファルコンはさらに攻撃を続けた。



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「えいっ! やあっ!」

ふらついて、腰を低くしていた小林に向かって、立て続けにローキックを放つ。

ビシッ! ビシッ!

と、肉の弾ける音が、会場内に響いた。
ピンクファルコンの革製のロングブーツが、小林の太ももの裏を直撃している。

「おらあっ! どうしたあっ!」

相手の攻撃をいかに受け止めるかが、プロレスの美学である。
小林はチャンピオンとして、ピンクファルコンのローキックをガードする気はまったくなかった。
むしろ、「もっと打ってこい」と言わんばかりの形相で、挑発している。

「……フフ!」

十発以上のローキックを放ち、小林の太ももは赤く腫れ上がってきた。
それでも微動だにしない小林に対して、ピンクファルコンは一旦攻撃を止めたが、その口には不気味な微笑みが浮かんでいる。

「それっ!」

突然、小林の背後に回り込んだピンクファルコンは、その大きく開かれた股の間を、先程までのローキックとは比較にならないほどの軽い威力で、蹴り上げた。

パシン!

と、かなり控えめな音が、会場内に響く。

「あぐっ!!」

すると、さっきまで強烈なローキックを受け続け、しかもまったく効いていなかった小林の巨体が、たった一発の軽い金的蹴りで、あっという間にうずくまってしまったのである。

「ぐぐぐ…!!」

小林は両手で股間をおさえて、正座のような姿勢でリングに膝をついてしまった。
その痛がりようと、控えめ過ぎるように見えたファルコンの蹴りが、かえってそれがリアルな金的蹴りであることを物語っていた。

「やったあ、ファルコーン!」

「さいこー!」

会場は、女性たちの笑いと男たちのため息に包まれた。

「またしても決まったー! ピンクファルコンの金的蹴りー! くれぐれも言っておきますが、金的は男の急所です。男は金玉蹴られると、痛くて痛くてたまらないんです。会場にお集まりのお嬢さま方は、決して真似しないようにしてください!」

リングアナが、またしても挑発的なコメントを付け加えた。
女性たちの笑いは、さらに大きくなる。

「立てー! 小林―!」

「意地見せろー!」

静まりかえっていた男性ファンの間から、怒りを伴った声援が飛んだ。
彼らの憧れであり、男の力強さの象徴ともいえるプロレスラーの小林が、女の金蹴り一発で負けることなど、認めたくなかったのだろう。

「ぐぐぐ…!」

小林は言われるまでもなく、チャンピオンのプライドと男の意地にかけて、立ち上がるつもりだった。
気を抜くと、ブルブルと震えだしそうな膝をおさえ、前かがみになりながらも、なんとか立ち上がって見せた。

「おお。じゃあ、いつものアレ、行こうか!」

と、小林が立ち上がったのを見て、ピンクファルコンが観客席に向かって音頭を取り出した。
「椅子から立ち上がれ」と、両手でアピールする。
ピンクファルコンの試合を見慣れている女性たちが、いち早く立ち上がった。

「いくよー! せーの! ぴょーん!」

ピンクファルコンは、両手で股間をおさえ、少し背中を曲げながら、その場でジャンプをし始めた。
観客席にいた女性たちも、それに合わせて、同じようにジャンプする。

「はい、ぴょーん! ぴょーん!」

まだ股間に痛みの残っている小林の隣で、ピンクファルコンが股間をおさえて飛び跳ねている。
これも彼女の得意のパフォーマンスで、金的蹴りを食らった男が、金玉を降ろそうと飛び跳ねるのを真似して、おちょくっているのだった。
いつのころからか、それに観客席の女性たちも加わるようになり、会場内は、笑顔で飛び跳ねる女性たちと、それを苦々しく見つめる男性たちにくっきりと分かれてしまっていた。

「どうしたの? 飛ばないの? ほら、一緒に。ぴょーん!」

小林の目の前で、薄笑いを浮かべながら、楽しそうに飛び跳ねる。
男にとって、これ以上の屈辱はなかった。

「て、てめえっ!」

カッとなった小林は、股間の痛みを引きずったまま、気合で立ち上がった。
そして、目の前にいるピンクファルコンの股間に片手を入れ、もう一方の手で首筋を掴み、一気に持ち上げた。

「うおおっ!」

軽々と、ピンクファルコンの体を頭の上まで上げて見せた。
その時。

「やめてよ、ヘンターイ!」

「どこ掴んでんのよー!」

観客席の女性たちから、悲鳴のような声が飛んだ。
小林の手は、ピンクファルコンの首と、そのビキニパンツのようなコスチュームのお尻にかかっており、見方によっては女性のいやらしい部分に手をかけているようにも見える。
しかしそれは、プロレス技のボディスラムのかけかたとしてはごく自然な行為で、この会場に集まっている女性たちが、どれだけプロレスに関しての知識がないかを示しているようだった。

「いいぞ、小林!」

「そんな女、やっちまえー!」

ピンクファルコンも、あるいは先程のような華麗な身のこなしを使えば、技を抜けられるのかもしれないが、彼女もまたプロレスラーとして、小林の技を受けてみせるつもりかもしれなかった。

「おりゃあ!」

バタンッ!

小林はピンクファルコンの体を、投げ捨てるようにしてマットに叩きつけた。
さすがのファルコンも、堅いマットに背中から叩きつけられて、軽い呼吸困難に陥る思いだった。

「く…あ!」

演技なのかどうか、苦しみながら起き上がろうとするファルコンに、小林は容赦なくストンピングキックをみまった。

「ぐあっ! あっ!」

ますます苦しむピンクファルコンの姿に、女性客たちから悲鳴が漏れる。
逆に男性客たちは、今こそと立ち上がって、小林を応援した。

「まだまだぁ!」

何発目かのキックを放った後、小林はうつ伏せになっていたピンクファルコンの首をねじ上げ、その太い腕に挟んで、グラウンドのヘッドロックをしかけた。

「ああっ!」

ヘッドロックは、地味だが本気できめれば激しい痛みを与えることができる。
もちろん、演技としてやっている場合も多いが、今の小林には、そんなつもりは毛頭なかった。
相手が女であることも忘れて、怒りのままに本気のヘッドロックをしかけているのである。

「おおーっとー! チャンピオンのヘッドロックー! これは痛い。痛そうにしているぞ、ピンクファルコーン!」

事実、ピンクファルコンのマスクの上からでも、彼女の顔が苦痛にゆがんでいるのが分かった。小林の丸太のような二の腕と、分厚い大胸筋に頭を挟まれて、痛くないはずがない。
小林にとっては、ダメージを与えると共に、先程へし折られた男のプライドを取り戻すための、重要な儀式のような技だった。

「く…く…」

ファルコンは頭を挟まれたまま、必死に手を伸ばして、ロープを取ろうとしていた。
ロープに少しでも手がかかれば、ブレイクとなって技を解くことができる。
この駆け引きも、プロレスの醍醐味だった。

「ファルコーン! 頑張ってー!」

「あとちょっと! あとちょっとで届くよー!」

女性客たちは、祈るような思いでファルコンの手が伸びるのを見つめていた。
しかし、普段ならある程度の時間でロープブレイクを許し、試合を盛り上げようとする小林も、今度ばかりは簡単にロープまでいかせなかった。
もっとファルコンを苦しめてからでないと、気が済まないらしい。

「うう…!」

そういう小林の魂胆が、当然、ピンクファルコンにも伝わった。
ついにロープに手が届かないとみると、諦めたようにガックリと腕を降ろした。

「いけー! 小林―!」

男性客の声援に応えて、さらにファルコンの頭をねじ上げようとした瞬間。
ファルコンの手が、小林の股間にすっと伸びて、その膨らみをギュッと握りしめた。

「おぉうっ!!」

思わず小林は、声を上げる。
一瞬、ヘッドロックの腕が緩んだ。

「ああっと、これはー! ピンクファルコンの金玉潰しだー! これは危ないぞ、チャンピオーン!」

「うーっ!」

少しだけ緩んだ腕の下で、ピンクファルコンが唸り声を上げた。
小林の急所を掴むその手には、腕の筋がくっきりと見えるほどに力が込められている。

「はううぅっ!! は、離せぇっ!!」

「そっちこそ、離せー!」

小林はわずかに残された男の意地で、ヘッドロックを解かなかったが、もはやそれも時間の問題だった。
ギリギリと締め上げられているその股間からは、例えようのない激しい鈍痛が、内臓全体を掻き回すように広がっていく。

「いいぞ、ファルコーン!」

「そこよ、そこ! 握り潰しちゃえー!」

ついさっきまでピンクファルコンが劣勢だっただけに、女性客たちのボルテージは上がった。
それに応えるように、ピンクファルコンもさらに力を込める。

「ぬうぅー!」

ついに、小林の両手がファルコンの頭から離れた。

「あうぁー!!」

自分の股間を掴むファルコンの手首を握り、必死に引き離そうとするが、それはかなわなかった。
やがて、ヘッドロックから解放されたピンクファルコンが起き上がると、それにつられて、小林も立ち上がらざるをえなくなる。
しかしその両脚には、すでに力が入っていない様子だった。

「おおっと! 握りしめ合いでは、ピンクファルコンに分があったかー!」

リングアナがそう叫ぶと、ピンクファルコンは勝ち誇ったように片手を上げた。
その姿に、女性客たちは拍手を送る。

「それもそのはずです! 金玉は男の急所! ちょっと握られただけでも激痛が走るのです! どんなに鍛えても、我慢できない痛みなんです! まあ、我々には分かりませんが」

どっと、女性客たちから笑いが起こった。
リング上で金玉を握りしめられ、苦痛にゆがむ小林の顔が、彼女たちにとっては滑稽なものとしか映らないようだった。
一方の男性客たちは、小林の痛みを想像して、思わず自分の股間に手を当ててしまう者もいた。
そしてそんな姿を隣に見て、笑いあう女性客たちもおり、会場内は、一種独特な空気に包まれているようだった。

「ギブアップか? どう?」

握りしめ続けて数十秒。ピンクファルコンが小林に顔を近づけて、尋ねた。

「はあっ…うう…!」

「ギブアップしないと、潰れちゃうわよ? んん?」

楽しそうに笑うピンクファルコンとは対照的に、小林はもはや瀕死のような状態だった。
文字通り血を吐くような練習で鍛え上げた肉体など、何の役にも立たなかった。数々の屈強なプロレスラーたちをねじ伏せてきた小林の怪力も、女一人の握力を引きはがせずにいる。
ピンクファルコンと、それを見ている女性たちにとって、これほどの優越感を感じることはなかった。

「ピンクファルコンの必殺技、ナッツクラッシャー! 小林の金玉を締め上げている! 締め上げているぞ!」

リングアナが絶叫すると、観客席から声が湧き上がってきた。

「つ・ぶ・せ! つ・ぶ・せ!」

女性客たちは一斉に、小林の金玉を握り潰せとコールを送る。
事実、小林の金玉の運命は、完全にピンクファルコンに委ねられていた。それは小林にとっては、この上ない恐怖だった。

「フフフ…。じゃあ、お客さんの期待に応えようかしらね!」

小林の耳元に口を近づけて、囁くようにそう言うと、金玉を握りしめるその手に、グッと力を込めた。

「ぐああぁっ!!」

小林は演技でも何でもなく、絶叫する。

「えいっ!」

グリッと、拳の隙間から金玉を押し出すようにして、解放してやった。
最後の最後、ピンクファルコンの指の隙間を通る瞬間に、小林の金玉は大きく変形することを余儀なくされる。

「うげえっ!!」

解放された瞬間、前のめりに崩れ落ちてしまった。
今、この瞬間も痛いが、それがこれから先数十分か数時間も続くことを小林は分かっており、そう考えると気が遠くなりそうだった。
すると、ピンクファルコンはうずくまる小林の背中に片足を載せて、勝ち誇ったように胸を張った。

「潰すのは勘弁してあげる。男は金玉潰されたら、終わりみたいだからね。ハハハハ!」

笑いながら、小林の背中を踏みつける。
その姿はまさに、女性の優越性の象徴だった。
観客席にいる女たちは拍手を送り、男たちは、悔しそうに歯噛みしながらその光景を見つめることしかできなかった。
と、その時。

「こらぁ!」

突然、ピンクファルコンの背後から、一人のレスラーが襲いかかった。
体当たりをされて、ファルコンはなす術もなく吹っ飛んでしまう。

「てめえ、こらぁ! なめんじゃねえっ!」

それは、先程まで小林と死闘を繰り広げ、敗北した岡田だった。
岡田は自分の試合の後、リングサイドから小林とファルコンの試合を観戦していたのだが、ファルコンのあまりの挑発的な態度に、業を煮やして再びリングに上がったのだった。

「俺が相手だ、こらぁ! 男をなめんじゃねえ!」

岡田はここ数年、チャンピオンである小林に挑戦し続け、自他ともにライバルと認めている存在だった。
常に正面からぶつかって、死闘を繰り広げている好敵手が、ピンクファルコンの卑怯な手口によって敗北しようとしているのが、許せなかったようだった。

「フンッ! いいよ。かかってきな!」

不意打ちによって膝をついたファルコンだったが、すぐに体勢を立て直し、岡田を手招きした。





「ファルコーン! そんな男、やっつけちゃえー!」

「アンタも金玉潰されるわよー! 男はみんな、同じなんだから」

客席の女性たちは、ファルコンの勝利を信じて疑わないようだった。
一方の男性客たちは逆に、チャンピオンのライバルである岡田の参戦に、大きな期待を寄せているようだった。

「いけー! 岡田―!」

「そんな女、ぶっ飛ばせー!」

「おおっ!」

岡田は気合と共に、ピンクファルコンに向かっていった。
両手を振りかぶって掴みかかろうとし、ファルコンもその両手を掴み、また手四つの状態になった。

「それっ!」

しかし、今度のファルコンは素早かった。
両手がふさがって、力比べになる前に、いきなり岡田の股間を蹴りにいったのである。

「おっと!」

しかし、岡田はこれを予期していたようで、素早く腰を引いてファルコンの蹴りをかわした。
思わずニヤリと、笑みがこぼれる。

「おおーっとー! ピンクファルコンの必殺の金的蹴りが、空振りしたー!」

岡田はそこで素早く両手を外すと、ファルコンの腰を掴んで、後方に反り返るようにして投げ落とした。

「スープレックスー! ファルコン、ピンチかー!?」

ドスン、という音がして、ピンクファルコンは後頭部からリングに叩きつけられた。
岡田は投げ終えた後も、鍛え抜かれた肉体で美しいブリッジの体勢を見せた。これが本当のプロレス技だと言いたかった。

「どうだ、こらぁ!」

まだ終わりではなかった。
岡田は素早く立ち上がると、さすがに脳震盪でも起こしたのか、起き上がろうとしないピンクファルコンの両足を掴んだ。

「いくぞー!」

観客席を挑発するように指をさす。
そして岡田は、一気にピンクファルコンの体を持ち上げ、回転し始めた。
プロレスの最も代表的な技の一つ、ジャイアントスイングだった。

「うおおっ!」

ピンクファルコンの長い黒髪が、糸を引くようにして回った。
相手の平衡感覚を失わせることが目的で、実際的なダメージは少ない技だったが、力のない者には決してできない。
岡田が男の力強さをアピールするためには、最高の技だった。

「おおらっ!」

何回転かの後、コーナーポストに向かって放り投げるようにして、岡田はピンクファルコンの両足を離した。

「うう…!」

投げ飛ばされたファルコンはぐったりと手を伸ばし、苦しそうな声を上げた。
岡田のジャイアントスイングがかなりの高速回転だったためか、頭に血がのぼってしまったようだった。

「見たか、こらぁ!」

岡田は、野生動物が威嚇するようにピンクファルコンに向かって吼えた。
そしてまだぐったりとしている彼女をまたいで、コーナーポストに向かい、ロープの二段目に両足をかけた。
あえてファルコンに背を向けて、観客席に向かってアピールする。
これから、バック転をしてボディプレスを仕掛けるつもりだった。

「おい! おい! おい! おい!」

岡田は自ら手を叩いて、リズムを取り始めた。
やがて観客席の男たちも、両手を叩いて手拍子をする。
それが最高潮に達したとき、ピンクファルコンに向かってダイブするつもりだった。
しかし。

ガシィッ!

いつの間にか立ち上がっていたピンクファルコンが、大きく股を開いてロープに立っていた岡田を、背後から不意打ちした。
もちろん、狙いは金的である。

「はうっ!!」

ピンクファルコンのかち上げを股間にくらった岡田は、目を見開いた。
そしてそのまま、力なくロープを滑り落ち、リングマットの上に大の字になってしまう。

「ピンクファルコン、ふっかーっつ! これは痛いぞ、岡田―!」

「うう…く…!!」

岡田は額に脂汗を流して、もがいていた。
すると、ピンクファルコンが素早くリングを降り、コーナーポストの向こう側に立った。
そしてそこにあった岡田の両足首を、しっかりと握る。

「おおっ! ファルコン、岡田の足を掴んだ! これはまさか…!」

「おっ! や、やめ…!」

岡田はファルコンの意図を敏感に察して、必死に首を横に振った。
しかしファルコンは、マスクの下でニヤリとほくそ笑んだ。

「そおれっ!」

ファルコンが岡田の両足を思い切り引っ張ると、当然のこととして、コーナーポストに岡田の股間が直撃することになる。

ゴォン!

と、鐘を突くような音がした。

「はぐうっ!!」

大の字に寝そべっていた岡田は、一瞬で起き上がった。
股間から湧き上がってくる激痛に顔を歪め、コーナーポストを抱くようにして痛みをこらえている。

「ファルコンの、鐘突きー! 今年最後の試合で、除夜の鐘を打ち鳴らしたー! これで岡田の煩悩も、粉砕されてしまったかー!」

男たちにとっては、寒気がするような鈍い音だったが、女性たちは爆笑していた。
中には岡田の情けない姿に、涙を流して笑っている者までいる。
ピンクファルコンは、女性たちの声援を浴びながら、再びリングに上がった。

「あらあら。痛かったみたいね」

両手でコーナーポストにしがみつき、奥歯を噛みしめながら痛みに耐えている岡田を見下ろしながら、仁王立ちしていた。

「金玉なんかぶら下げてるから、やられちゃうのよ。女が本気を出せば、男は絶対勝てないんだから。そこで、よおく見てなさい」

自らのすっきりとした股間を見せびらかすかのように、突き出して見せた。
そしてファルコンは、すでに立ち上がることもできなさそうな岡田を放っておいて、リングの中央付近でまだうずくまったままの小林の方へ歩み寄った。

「さあて。それじゃあ、とどめを刺してあげようかな?」

小林は、ピンクファルコンに岡田が敗れたことを悟り、苦しそうに顔を歪めながらも立ち上がろうとした。
股間には、さきほどファルコンに握りしめられた金玉の痛みが、まだジンジンと残っていたが、それでも常人よりはるかに痛みには強いといわれるプロレスラーである。
腹の中を掻き回すような痛みと不快感をおさえて、立ち上がった。

「フン。さすが、チャンピオンだね。そらっ!」

ファルコンは、両手でぐらつく膝をおさえながら、ようやく立っている状態の小林の顔面に、強烈な張り手を放った。

パチィン!

と、高い音がリングに響く。
続けて二発、三発と、ファルコンは張り手を打ち続けた。

パチィン! パチィン!

顔面をひどく打たれても、小林はそれを防ごうともしない。
こんな打撃は、彼にとっては肩を叩かれるのとそう変わらない、あいさつのようなものだった。
ピンクファルコンの方も、それは十分承知していて、ただ小林をいたぶっているだけのようだった。

「ほうらっ! さっきのお返し!」

するとファルコンは、小林の頭を抱えて、ヘッドロックの体勢になった。
しかしそれは女の細腕で、先程小林がかけたヘッドロックと比べれば、明らかに威力はなさそうだった。
それでもファルコンは、これを試合のクライマックスにしようと、片手を上げて観客にアピールした。

「ぐぅ…! この野郎ー!」

女性客たちの歓声が飛ぶ中、小林は最後の意地で、ピンクファルコンの腰に手をかけると、一気にその体を持ち上げた。

「くらえーっ!」

ヘッドロックをかけられたまま、ファルコンにバックドロップをかけようとしたのだ。

「キャーッ!」

「ファルコーン!」

高々と持ち上げられたファルコンを見て、ファンの女性たちは悲鳴を上げた。
しかし。

「おっと!」

ピンクファルコンは素早く手を放すと、流れるような身のこなしで小林の技をはずし、そのままくるりと回転して、着地した。

「えいっ!」

そして、小林の背後から、バシン! とその股間を蹴り上げた。

「はぐっ!!」

技をかけたと思ったら、いきなりまた金的蹴りをくらい、小林は目の前が真っ暗になるような衝撃を受けた。

「さあ、とどめ!」

そしてピンクファルコンは、後ろから小林の両脇に手を回し、渾身の力を込めて、その巨体を持ち上げた。

「んんーっ!」

「おっ! おっ!」

まさか小林も、100キロ近くある自分が持ち上げられるとは思っていなかった。
そしてその股間に、ピンクファルコンのピンク色のブーツが深々と入っているのが目に映った。

「おおーっと、これはー! ピンクファルコンの必殺技かー!?」

「いくよーっ! キーンッ!!」

ピンクファルコンが小林を降ろし、その股間を自分の膝に叩きつけた瞬間、観客席の女性たちからも、一斉に「キーン!」という声が飛んだ。
本来なら、相手の尾てい骨を攻撃するアトミックドロップという技だったが、ピンクファルコンは膝の角度と相手の位置を微妙にずらして、金玉を攻撃する技にアレンジしているのだった。

「ぐええっ!!」

結果、小林の金玉は自らの体重とファルコンの膝に押しつぶされ、潰れる寸前にまで圧迫されてしまうことになる。

「あ…か…!!」

ファルコンが手を放すと、小林は白目をむいたまま、リングに倒れ込んでしまった。

「決まったーっ! ピンクファルコンの、アトミック金ドローップ!! さすがの小林も、これは立てないかーっ!!」

リングアナが絶叫した直後、ゴングが鳴らされ、試合終了となった。

「よーっし!!」

ピンクファルコンは高々と手を挙げ、女性客たちから万雷の拍手が送られた。
その間も、リング上にいる岡田はまだコーナーポストを抱いて苦しみ続け、小林は白目をむいたまま、ピクリとも動かなかった。
そしてそれを見ている男性客たちは、あまりに衝撃的な結末に、まったく声を発することができなかった。

「みんな、今日はありがとー!」

リングアナからマイクを借りたピンクファルコンが、手を振った。

「みんな、見たでしょう? 男はね、いくら体を鍛えて、こんなにムキムキのマッチョになっても、絶対鍛えられない場所があるの。それはどこ?」

観客席に尋ねるように、マイクを向けた。

「金玉ー!」

女性客たちは、声をそろえて答えた。

「え? もう一回言って?」

「キンタマー!!」

そう言った女性たちは、嬉しそうに笑っていた。

「そう! その通り! 男はいくら頑張っても、金玉がある限り、女には勝てないってことだね! じゃあ、また! ありがとー!」

ピンクファルコンは最後に手を大きく振って、リングを飛び降りると、後も見ずに走り去っていった。
リング上に残された男たちが担架で運ばれていったのは、その数分後だった。



終わり。



試合が終わった後、観客たちが会場を出るときに、ちょっとしたトラブルがあった。
試合を見て、興奮してしまった男性客の数人が、一部の女性客たちに因縁をつけたのである。

「てめえ、なめんじゃねえぞ!」

「なによ! そっちが悪いんでしょ!」

きっかけは、肩がぶつかったとかぶつかっていないとか、些細なことだった。
しかし、あまりに衝撃的な試合の後だったので、両者とも興奮していたらしい。
一人の男が、女性の肩に手をかけたその瞬間、

「はうっ!!」

ピンクファルコンさながらの金的蹴りが、男性客を襲った。
そこからは、悲惨であった。
「男の弱点は金玉」と、ピンクファルコンの試合を見て刷り込まれてしまった女性たちは、男にすごまれても、びくともしなかった。
逆に次々と男たちの急所を蹴り上げ、あっという間にKOしてしまったのである。
中には、女性たちに取り囲まれて、何度も金玉を蹴られてしまう男もおり、運営側が仲裁に入った時には、すでに数人の男たちが、床に転がって呻いている状態だった。

「なんだ。男って、こんなに弱いんだね」

「金玉蹴れば、一発なんだ」

「男のくせに。情けなーい」

「私、女で良かったー」

周りで見ていた女性たちが囁く中、その場にいた他の男性客たちは、背中を丸めて、おどおどとした様子で帰っていった。




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