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男の絶対的な急所、金玉。それを責める女性たちのお話。


通勤時間帯を少しずれても、この路線の電車は混んでいる。
体の自由がきかないほどではなかったが、ときには知らない人間と体を密着させなくてはならないこともあった。

「……!」

高校2年になる山下ユイは、電車のドアのすぐ側に立ち、窓の外の流れる景色を見ていたが、ふと体を硬直させた。
自分のすぐ後ろに、サラリーマン風の中年男性が立っていることに、気がついたからである。

(どうしよう…)

男性は、ユイより頭一つほど身長が高いようだったが、混んでいる車内のことで、ユイの肩に触れんばかりの近さまで密着している。
次の停車駅まではしばらくあり、ドアと男性に挟まれて、ユイは身動きが取れない状態だった。

(ダメ…そんなところに立たれると…)

ユイの右手がゆっくりと動いて、腰のあたりまで下りてきた。
制服のスカートを抑えるように、太もものあたりでギュッと掴む。

(…握りたくなっちゃう!)

ユイの右手のすぐそばには、サラリーマンの男性の股間があった。
男性は片手で吊り革を握り、もう片方の手で携帯電話をいじっていて、ユイの手の動きにはまったく気がついていない。
今なら、男性の最大の急所である二つの睾丸を、ユイがその右手で握りしめることは簡単にできた。
握りしめたとき、果たして男性はどんな反応をするのか。ユイはそれを考えるだけで、心臓の鼓動が高鳴るのを抑えきれなかった。

(下からギュッと握れば、もう絶対に逃げられない。あとはマッサージみたいにグニグニしたり、手の中でゴロゴロしたりすれば…。おじさん、泣いちゃったりして…)

男にとって地獄の苦しみを与えようとしてるユイの手が、自分の股間すれすれにまで迫っているとは知らず、男性は携帯電話の画面から目を上げようとしなかった。
しかしユイにとっては、この無防備さも自分には理解できない、男性特有の性質であるような気がして、そう思うと、心の内が疼くような愛おしさを覚えてしまうのである。

(向こうに立ってる人…。すごい体格だけど、やっぱりアソコは弱いんだろうな…。あっちで座っている人も、あんなに足を開いて…。蹴られたりしたら、どんな顔するんだろう…)

車内には、たくさんの男性が乗車していたが、ユイの目にはそれらのほとんどが、急所を無防備にさらけ出している愚か者のように映っていた。
男というのは、小さな子供から老人にいたるまで、もれなく全員に金玉という脆い急所があることを、ユイはもう知っている。
それなのに、男たちはいつも不用意で、まるで自分たちに急所などついていないかのように、のんきに生活していると彼女には思えた。
電車の車内には、男性と同じくらいの数、女性がいる。こういう場所において、自分たち女性の方が、よほど自分の身の回りに対して気を付けていると思った。

女性は男性に比べて、体が小さく、力もない。だから女性の方が弱いと、誰が決めたのだろうか。
ユイは、自分がその気になれば、後ろにいる中年のサラリーマンとあと一人くらい、あっという間に床に這いつくばらせることができると確信していた。
しかもその際、睾丸を潰して、男としての一生を終わらせることさえ、決して不可能ではない。
窓の外を眺めて、勤めて平静を装いながら、ユイはそんな妄想に心を躍らせているのだった。

「次は国分寺。国分寺。お出口は右側です」

やがて電車は、ユイが降りる駅に近づいていた。開くのは、ユイがいる方とは反対側のドアだった。
この駅では毎回たくさんの人が降りるから、その流れに乗っていけばいい。
しかし、このままこの後ろにいるサラリーマンの股間に何もせずに降りるのは、どうにも名残惜しかった。
見ず知らずの男の睾丸を握りしめることは無理だとしても、何か偶然を装って、そこに一撃を加えたい。
そうして、いかに自分が油断して、無防備に突っ立っていたかを、この中年のサラリーマンに味わわせてやりたかった。

(そうだ…)

足元に置いていた学生カバンに目をやった。
黒く艶光りしている革製の学生カバンの角は、鋭い直角を描いており、しっかりとした補強がしてある。しかも真面目なユイのカバンの中には、重たい教科書がぎっしりと入っていた。

(これを使って…)

ユイは心の中でほくそ笑んだ。

「国分寺。国分寺に到着です」

やがて駅に着くと、予想通りたくさんの乗客が電車を降り始めた。
しかも好都合なことに、ユイの後ろにいた中年のサラリーマンは、電車を降りないらしい。
タイミングを見計らって、最後の乗客が降りようかというときに、慌てたふりをして足元のカバンを手に取り、振り返った。

ゴスッ!

と、鈍い音が、男性の股間に響いた。
ユイが持ち上げたカバンの角が、見事に男性の股間に命中したのである。

「んっ!!」

「あ、ごめんなさい…」

当てたユイも、当てられた男性も、お互いに顔を覗き込んだ。
しかしそれは一瞬のことで、ユイは何も分からず、ただカバンが少し当たってしまっただけ、というフリをして、そのまま電車を降りて行った。
一方の男性は、突然、股間を襲った衝撃に目を丸くした後、下腹から湧き上がってきた強烈な痛みに、内股になって体をくの字に折り曲げた。

(やった…!)

ユイは、確信に満ちた微笑みを浮かべていた。
振り向くと、電車に乗り込む乗客の背中越しに、無様に尻を突き出して背中を丸めているサラリーマンの姿が見える。
ユイのところからはその表情までは見えないが、おそらく歯を食いしばって、痛みに耐えているのだろう。
生まれたての仔馬のように、内股になってプルプルと足を震わせているのが、この上なく滑稽だった。

(ちょっとカバンを当てただけなのに…。弱いなあ、ホント…)

ユイの右手には、カバンを股間に当てたときの感触が、まだ残っている。
カバンの角のもっとも堅い部分に、グニッとかフニッとか、弾力性のあるものが当たった感触だった。
やがてドアが閉まり、電車はゆっくりと動き出した。
ユイは、苦しむ男性の姿をじっと目で追っていたが、やがて電車がホームを離れると、いかにも楽しそうな足取りで、ホームを歩き出したのだった。



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山下ユイが男の股間を責めることに興味を持ち始めたのは、それほど前のことではない。
彼女は中学から陸上を続けており、スラリと伸びる長い脚を持った、痩せ形の美人だった。しかし性格は内気な方で、人並みに異性への関心はあったものの、恋人関係にいたるまでのことはなかった。
そんな彼女に声をかけてきたのが、同じ陸上部の先輩の吉村アツトである。
アツトは短距離走の選手で、ユイも密かに憧れを抱いている、爽やかな好青年だった。しかも彼は積極的で、ユイが自分の誘いにまんざらでもない態度を見せると、グイグイと自分のペースに引きずり込んでしまったのだった。
そうしてある日、部活動が終わった後、ユイはいつの間にか、アツトの家で二人きりになってしまっていたのである。

「何か飲むだろ? ちょっと待ってて」

そう言い残して、部屋を出て行った。
家に入る前から、すでに緊張の頂点を迎えていたユイは、もはや自分が何を見て、何を聞いているのかさえ分からなくなっていた。
高校生の女の子が、男の部屋でいきなり二人きりになってしまったのだから、無理もない。
やがてアツトが部屋に戻り、ジュースを持ってきても、それを手に取ることさえできなかったのだ。

「え…と…。山下…」

「は、はい!」

ユイがあまりに緊張しすぎているのが分かったため、さすがに気まずくなってしまったようだった。

「そんな…緊張するなよ。まあ、俺もそこそこ緊張してるんだけど…。山下は、俺のこと嫌いなのかな?」

好きとか嫌いという言葉は、この年頃の男女にとっては、何よりも重たいものだ。かろうじてその言葉は、ユイの耳に届いてきた。

「あ…! いいえ…。嫌いとかじゃなくて…」

「そ、そうか? じゃあ…す、好き…かな…?」

アツトの方も、相当な覚悟をもって口にした言葉だった。
それを聞いたユイは、雷に打たれたような衝撃を受け、しばらくは目を丸くしてぼうっとしていたが、やがてためらいがちにうなずいて、上目づかいにアツトを見つめた。

「……あ…そうか…。うん…。よ、よかった…」

アツトの顔が、パッと明るくなった。それを見ると、ユイの方も興奮を抑えきれなくなってしまう。
すでに自分の心臓の音が耳鳴りのように響いていたが、それはさらに大きくなるようだった。

「あの…山下…。目、つぶって…?」

二人はベッドの上に座っていたが、すでにお互いの呼吸がかかるくらいに、顔を近づけていた。
ユイはその言葉が何を意味するかすぐに悟り、ゆっくりと目を閉じた。
数秒間の沈黙の後、ユイの唇に、暖かい感触が重なった。
思わず薄目を開けると、いつも憧れていたアツトの涼やかな顔が、すぐ目の前にあった。

「……!!」

不意に、アツトの鼻息が荒くなり、口づけをしたまま、ベッドに押し倒してきた。どうやら、猛り狂うような若い欲望を抑えきれなくなってしまったらしい。
ユイは驚いて顔をそむけ、必死に押し返そうとした。

「あ…やだ…!」

しかしアツトの力は強く、ユイの体を抱きすくめて、再び強引にキスを迫ろうとする。

「山下…! 俺…!」

「やめて! やだ…! いやだってば!!」

ベッドに押し倒された彼女の右脚が跳ね上げられたのは、まったく意識したことではなかった。あるいはそれは、貞操を守ろうとする女の本能がさせたことかもしれない。
男に襲われた女が使う、最後の切り札。力で劣る女性のために、神様が用意してくれた、最終手段。逆に男は、どんなに強引に女の体を奪おうとしても、きちんと同意を得られなければ、最後の最後で痛い目を見る。
考えれば考えるほど、そのために作られたとしか思えないのが、男の最大最弱の急所だった。

「うぐっ!」

興奮しきっていたアツトの頭から、一気に血の気が引いて行った。
あとほんの少し、目の前に迫っていた男の欲望の最終地点さえ、一瞬で忘れ去ってしまう程の衝撃だった。

「あうぁ…!」

両手で股間をおさえ、あっという間にベッドの上にうずくまってしまった。
ユイは一瞬、何が起こったのか分からなかったが、アツトの力が緩んだのに気付くと、急いでベッドから立ち上がった。

「ハア…ハア…」

すでにいくつか外されていたシャツのボタンを留めながら、何が起こっているのか理解しようとした。
目の前には、両手で股間をおさえ、尻を突き上げるようにしてうずくまるアツトの姿がある。
ユイは、さっき自分の脚が、どこに当たってしまったのかを理解した。

「うぅん…あぁ…」

ベッドに顔をうずめて、アツトは小さな子供のような鳴き声を上げた。
突き出した尻の下で両足がピクピクと動いているのが、妙に滑稽だった。

「あの…先輩…?」

自分はアツトのタマを蹴ってしまったんだ。男のシンボルである、最大の急所を。
さっきまであんなに激しく力強く動いていた体が、急にしおらしくなってしまった。たった一回、タマを蹴られたくらいで。
そう考えると、危機を脱したユイの心に、妙な高揚感が生まれ始めていた。

「あの…私、帰ります…!」

ユイ自身、その得体のしれない高揚感に困惑し、すぐにその場を離れることにした。
アツトはもちろん、それを止めることもできずに、しばらくベッドの上で苦しむことしかできなかった。

(そういえば…中学の時に、女子の先輩が男子の先輩のアソコを蹴った時があったっけ…。あの時も、あの先輩はすっごい痛がってたな…)

アツトの家から帰る途中、ユイは自分の中の記憶を思い返していた。

(あのとき、私もちょっと蹴らせてもらったんだっけ…。それを体が覚えてたのかな…。必死だったから…)

ユイはもちろん処女だったから、押し倒された時は、本当に恐怖しか感じなかった。
あの時返事をした通り、アツトにほのかな好意は抱いていたものの、それが一足飛びにセックスにまでつながることは、彼女の中ではありえなかったのだ。

(先輩、痛そうだったな…。ちょっとやりすぎたかな…。でも、いきなり押し倒してきたんだから、先輩が悪いんだよね…。でも、あんなに痛がるなんて…。ちょっとおかしい…)

押し倒してきたときのアツトの興奮しきった顔は、まさしく盛りのついたオスのようだった。いつも爽やかで、後輩たちに対しても紳士的に振る舞っていたアツトがあんな風に変貌してしまったことに、ユイは驚いていた。
しかしそれが、自分の蹴り一つで、一瞬で大人しくなってしまったのである。

(あんなに必死で…。エッチの寸前までいってたのに、途中でやめちゃうなんて…。そんなに痛いのかな。我慢できないくらい? 男子って、エッチのことで頭がいっぱいっていうけど、それも忘れちゃうくらい痛いのかな?)

ユイにとっては、男の性的な欲望も、急所の痛みも、自分にはまったく理解できないことだったので、興味深かった。
しかもその二つは、同じ睾丸という二つの小さな玉を出発点にしているのだ。

(あのタマの中で、男の子は精子を作って、エッチがしたくなるんだよね…。でもそのタマを蹴られたら、痛すぎて、エッチな気分もなくなっちゃうの? なんでだろ。痛いなら、もっと頑丈にして、強くしとけばいいのに…。フフフ…)

女の子にとっては、それは大きな謎であると同時に、男に対しての優越性の証明のようなものだった。
男は女とエッチをするとき、必ず性器を出さなくてはならない。しかしその性器が、実は男の最大の弱点で、女はその気になれば、いつでもそれを叩きのめして、男を拒絶することができる。
オスの選択権はメスにあるというのが、大方の自然動物の習性だったが、それはどうやら人間に対しても当てはまるらしかった。

(何か…男の子って、面白い…!)

ユイの目に焼き付いた、股間をおさえて苦しみもがくアツトの顔は、泣いている子供のように切ないものだった。
それを思い出すと、自然と笑みがこぼれてしまうことに、ユイは自分でも気がついていなかった。





性行為を経験した後の若者は、異性の見方が変わるというが、ユイの場合、実際の性行為こそしなかったものの、それに近いものがあったのかもしれない。
翌日、アツトの方から謝ってきたときには、ユイは自分でも不思議なほどの余裕を持って、彼を許すことができたのだ。
さらに驚いたことに、今度は彼女の方から、アツトを自宅に誘うことまでしたのである。

「ん…! ああっ…!」

ユイの初体験は、噂で聞いていたほどの痛みはなかった。
彼女はハードル走の選手で、普段から脚や股関節の柔軟体操をしていたから、あるいはそれが良かったのかもしれない。
アツトの方も、ハッキリとは言わなかったが、おそらく初めてだったのだろう。
ぎこちない動きで腰を振る様子を、ユイはぼんやりと下から眺めていた。
今、アツトの男としての象徴は、雄々しく漲り、力強くユイの体内に入ってきている。しかしその付け根には、この上なく繊細で脆い二つの球体が、薄皮一枚に包まれた状態でぶら下がっているのだ。
アツトが腰を振るたびに、その無防備な袋状の物体がブラブラと揺れているのを、見えないが、ユイはしっかりと感じていた。

(今、蹴ったらどうなるのかな…?)

快感と呼ぶにはあまりにもきわどい、初めての感覚に身を任せながら、ユイはそんなことを考えてしまった。
位置的に膝を当てることは難しそうだったが、手を伸ばせばすぐ届く場所にある。

(握ってもいいんだよね…。握り潰したら…どうなるかな…。すごい痛がって、気絶しちゃうかな…。…ダメかな…)

二人が半裸で密着したこの状態は、憧れていた先輩の生殺与奪権を握っているような気がして、ユイは嗜虐的な快感を覚えた。
今、アツトは懸命に腰を振って、男の本能を満たそうとしているが、それができるのも、ユイが彼の急所を見逃してやっているからなのだ。もしユイがその気になれば、すぐにでもアツトの金玉袋をその手に握って、このセックスを終わりにすることができる。
つまりアツトは、ユイからすべてを捧げられ、征服したような気分になっているかもしれないが、実際には彼女の掌の上で踊っているようなものなのかもしれない。
少なくともユイはそう考えることで、このセックスにより一層の快感を感じ始めていた。

(先輩のあの顔…見てみたいな…。あの痛そうな顔…)

ユイの脳裏には、急所を蹴られた時のアツトの切ない表情が焼き付いていた。

(もうダメ…握っちゃおう…!)

ユイが我慢できず、アツトの股間に手を伸ばしかけたその時、

「あっ! ああっ!!」

アツトは背中を大きく反らして、果ててしまった。
その脈動は、ユイの体内にも激しく伝わり、不意に訪れた刺激に、ユイは伸ばしかけた手を止めてしまった。

「あ…ハア…ハア…」

力尽きたように、ベッドに倒れこむアツト。その男性自身も、ユイの体内で急速にしぼんでいくのが分かった。
これでは、面白くない。
はちきれんばかりに漲った男の象徴と、脆弱な二つの玉。そのギャップこそが、ユイの嗜虐心をそそるものだったのだ。

「ハア…ハア…。気持ちよかった…?」

「あ…うん…。気持ち…よかった…」

その言葉を聞くと、安心したように、アツトはほほ笑んだ。
まったくのウソではなかったが、完全な真実ではない。
ユイの欲求は、かえって大きくなってしまうようだった。




(握ってみたい…どうしても…。男の人のタマ…)

こんなことを一日中考えてしまう自分が、かなりおかしいとは自覚していたが、かといって一旦火のついてしまった若い欲望は、なかなか抑えられるものではない。
ユイはもう、すべて見てしまったからだった。丸裸になった男という生き物を。その象徴である性器を。
筋肉に覆われた体はたくましく見えても、その脚の付け根には、珍妙な物体がちょこんと飛び出すようについている。
初めてまじまじと見た男の裸は、ユイが思っていた以上に滑稽なものだった。
自分たち女性には、あんな無様なものはついていない。その股間は、すっきりとしてスマートだ。
その物体は、男の象徴であり急所。そこを掴めば、思いのままに男をコントロールすることができる。
もはや、蹴ったり叩いたりするだけでは足りなかった。
この手に掴んで、男を支配してみたい。
アツトとのセックスを経て、ユイはそんな風に思うようになっていた。
そして、アツトとの初体験を終えてから一週間後、ついに行動を起こすことになる。




ユイが所属している陸上部には、もちろん何人かの男子生徒がいる。
その中の三石タクマという一年生に、ユイは目を付けた。
なぜ彼だったのかというと、ユイは知っていたからである。
タクマがユイに、恋心を抱いていることを。

タクマは成績が悪いのか、週に何回か、宿題やテストのやり直しをさせられて、部活に遅れてくる。
この日も、陸上部の練習が始まって30分ほどしてから、制服姿のタクマが、男子が更衣室代わりにしている体育用具室に、慌てた様子で駆け込んでいった。
しかしそれもいつものことなので、怒ったり、注目している部員は誰もいない。
だから、ユイが何気なく体育用具室に入ろうとしても、誰もそれをとめる者はいなかったのだ。

「え!? うわっ!」

いきなりドアが開いたので、タクマは驚いて声を上げた。
すでに上半身は裸になっており、これからズボンを脱ぐところだったらしい。

「あ、ゴメン。今、来たの? ちょっと探し物があって…」

とぼけたふりをして体育用具室に入り、ドアを閉めた。
タクマの動きが止まっても、気にする様子もない。奥の方に積み重ねられている陸上部の備品の中から、何かを探すようなふりをしていた。

「あ、あの…先輩…?」

「んー? 早く着替えた方がいいよー。先生、今日、機嫌悪かったから。えーっと…どこにやったかな…」

一応、タクマの方には背を向けてやるから、それで着替えろということらしかった。
タクマは憧れている女子の先輩の前で、さすがに恥ずかしかったが、仕方なく着替えを続けることにした。
ここの陸上部の男子のユニフォームはショートパンツタイプで、その下にインナーを履く男子がほとんどだ。
インナーといっても、ほとんどビキニパンツのようなもので、練習中にブラブラと揺れないように、ピッチリと押さえつけるタイプのものだった。
ベルトを外す音が、カチャカチャと聞こえると、ユイは肩越しにそっと盗み見た。

「あれー? どこにやったんだろう? ないなー」

タクマに着替える余裕を与えるように、探し物が見つからないふりをしていた。
タクマは一応、ユイにお尻を向けた状態で、トランクスを脱ぎ、素早くインナーを履いた。女の子のすぐ近くで着替えるというのは、なかなかのスリルだった。
しかし、インナーを履いたタクマがホッとして、ショートパンツに手を伸ばした瞬間。
グッっと、その股間の膨らみを、後ろから掴まれてしまった。

「はわっ!!」

タクマの口から、思わぬ声が出てしまう。
気がつくと、自分のすぐ背後にユイが立っていた。

「あ…せ、先輩…?」

「しーっ! 静かにして。外に聞こえちゃう」

耳元で囁いた。
タクマは何が起こっているのか、ちょっと理解できなかったが、とにかくユイの右手が、自分の股間の急所を掴んで離さないので、言うとおりにするしかなかった。

「ちょっとじっとしててね。すぐ終わるから…」

以前のユイには、考えられないほどの積極性だった。
タクマも、大人しく清楚な雰囲気のユイに憧れていただけに、彼女のこの行動は意外中の意外だった。
ユイ自身、そんなことは百も承知だったが、今、手の中におさめたタクマの柔らかな膨らみの感触は、彼女の理性を吹き飛ばすには十分すぎるほど蠱惑的なものだった。

「三石君…驚いちゃったかな…? 私ね、ずっとこうしてみたかったの。男の子のココを、握ってみたかったんだ…」

ユイの手は、タクマの睾丸を転がすように、手の中で弄んでいる。
そこにはまだ、痛みはなく、タクマも初めて経験する未知の快感があった。
さらに、ユイが後ろから抱きしめるようにして密着すると、その胸の膨らみが、背中で押しつぶされた。
タクマは戸惑っていたが、それよりも遥かに強烈な快感に身を任せることにした。

「気持ちいいの…? そう…。じゃあ、これはどうかな?」

手の中でタマを転がすたびに、タクマが身をよじるのを、ユイは嬉しそうに見ていた。
そして突然、その手にギュッと力を込めたのである。

「うっ! く…!」

いきなり首を絞められたかのように、タクマが息を詰まらせた。
ユイがその手に込めた力は、まだほんの肩を揉む程度のものだったが、今まで快感の最中にいたタクマにとっては、目を見開いてしまうほどの衝撃だった。

(ああ…もう…。コリコリして、気持ちいい…。このタマ、まん丸じゃないんだ…。ちょっと楕円形…? 小っちゃい卵みたい…)

すでに金蹴りもセックスも経験していたユイは、冷静に、余裕を持ってタクマの二つの睾丸の形や構造を観察することができた。
ユイの手が揉むようにタマを握るたび、タクマはしゃっくりのように呼吸を詰まらせた。

「うっ! あっ! はあっ!」

(まだちょっとしか力入れてないのに…もう痛いんだ…。かわいそう…)

そう思いながらも、ユイの口はほほ笑んでいた。
実際、タクマの下腹部には、じわじわと重たい痛みが溜まってきていた。
先輩のすることとはいえ、もうこれ以上は耐えられそうもない。タクマはそう思ったが、かといって今の状況から逃れるのは、ちょっと不可能だった。
ユイは体を密着させ、後ろから手をまわしてタクマの股間を掴んでいる。
股間を掴まれた場合、腰を引いて守るのが男の習性というものだったが、この状態では腰を引けば引くほど、ユイにとって掴みやすくなってしまう。
要するに、タクマがあとどれだけ急所の痛みに苦しむかは、完全にユイの気分次第なのだった。

「ああっ! 先輩っ…!!」

「まだまだ。もうちょっと頑張って」

ユイの手が、二つのタマを袋の中で擦り合わせるように動き始めた。
かねてから試したかったことを、この際、色々とやってみるつもりだった。

「ふわあぁっ!」

睾丸は圧迫され、かつてないほどの痛みが彼を襲った。
しかしユイの手はそんなことは意にも介さず、クルミを擦り合わせるように、ゴリゴリと二つのタマを締めつけるのである。

(これは…けっこう痛いみたいだな…。タマとタマが擦れて、二倍痛いって感じかな? じゃあ、こういうのは…)

細い指が、しなやかに動いた。
金玉袋の根元を押さえつつ、親指と人差し指で、タマの一つをつまむ。
そしてそれを、指で弾くようにして押し出したのだ。

「ぎゃあっ! うわっ!」

ユイにとっては、小さなゴムボールを弄んでいるような感覚だったが、タクマの痛みは尋常ではない。ユイが指でタマを押し出すたび、体を大きく痙攣させた。 

(あ、これもけっこう…。えい! えい! 面白い…)

タクマの背中に、大粒の汗が噴き出しはじめた。
その両脚は内股になって、細かく震えており、目の前の棚にしがみつきながら、立っているのがやっとという状態だった。

「あれ? 疲れてきた? よいしょ」

腰を落としかけたタクマの様子を見て、ユイは股間を持ちかえることにした。
両手に一つずつタマを掴み、上に引っ張り上げようとする。

「はあっん!!」

睾丸が、袋ごとちぎれるかと思った。
すでにタクマの脚にはわずかな力しか残されていなかったが、それでも腰を上げていなければ、脳天を突き抜けるような痛みと、去勢されるかもしれないという恐怖が全身を襲う。
タクマは歯を食いしばって、男に生まれた以上、受け入れなければならない痛みに耐えていた。

(あーあ、引っ張ってもダメなんだあ。何しても痛いんだから、こっちも注意しないと…)

うつむいて、苦しそうに目をつぶっているタクマの顔が、背後からもはっきりと見えた。

「三石君、痛い? 我慢できないの?」

タクマは必死に首を縦に振る。

「そんなに痛いの? フフフ…」

大して力を入れているつもりもないのに、タクマの痛がり方は、ユイにしてみれば異常なほどに思えた。
今、こうしている間にも、ユイの手から逃れようとしているのか、細かく腰を揺らしたり、くねらせたりしている。
しかしそれは無駄な努力で、ユイがちょっと指先に力をこめれば、たちまちタクマの体はビクッと痙攣して、それ以上動けなくなってしまうのだ。

「じゃあ、そろそろ離してあげてもいいけど…。条件があるわ。一つ目は、このことを誰にも話したりしないこと。先生にも、男子の先輩たちにもね。約束できる?」

キュッと指先で睾丸をつまむようにすると、タクマの頭が跳ねあがって、内股のまま爪先立ちになってしまった。
約束できなければ、このまま潰されてしまうと、タクマは本能的に悟っていた。

「し、します! 約束します!」

「よし…。じゃあ、二つ目の条件は、今、三石君が感じている痛みを、私に説明してみて。私がそれを理解できたら、離してあげる」

それは意外な言葉だった。
今、タクマが感じている痛みは、極めて根源的で本能的なもので、男なら誰でも共感できる種類のものだった。男にとっては説明不要、というより、説明して思い浮かべたくもないものなのだ。
例えば小さな子供にだって、「金玉を握り潰す」といえば、例えようのない恐怖を感じさせることができるだろう。
それを、女であるユイに説明できるかどうか。痛みに支配されたタクマの頭では考えられず、うまく言葉が出なかった。

「どうしたの? もう痛くなくなっちゃったかな? じゃあ…」

ユイの手に再び力が込められそうだったので、タクマはとりあえず感じたままを叫んだ。

「あ…! その…痛いっていうか…苦しいって感じで…。お腹の中が…グルグル掻き回されるっていうか…気持ちが悪くなります…。うう…!」

「えー、そうなの? お腹が苦しいんだ? じゃあ、この…タマ…っていうのかな…? それは痛くないの?」

言いながら、無造作に力を込める。

「あうっ! あ…いや…タマも痛くて…! でも…だんだん、付け根の方から痛みがお腹に上がってくる感じで…。息が苦しくなります…」

「そうなの? 痛みが上がってくるんだ? 変なの。握ってるのはココなのにね」

タクマの説明を聞いても、ユイにはまったく実感が湧かなかった。
自分の体の中にあるどこを掴んでも、そんな風に痛みはしないだろう。 

「あの…先輩…?」

もう限界だといわんばかりに、タクマは問いかけた。
しかしユイの手は、まだしっかりと彼の二つの睾丸を握りしめている。

「うーん…。なんかちょっと…どういう風に痛いのか、よく分からないんだけど。転んで捻挫したりするのとは、違う痛さなのかな?」

「ち、違います。全然…」

「ハードルに足をぶつけたときより痛い?」

「全然痛いです…!」

ユイはますます首をかしげた。

(ハードルもけっこう痛いけど、アレより痛いんだ…。なんか、よく分かんないけど…。まあ、いいか)

ユイはしまいに、深く考えるのをやめた。
結局のところ、股間に男性器を持たない彼女にとっては、そこがどのように痛むものなのか、想像することしかできない。
それよりも、自分にはついていないものが、そんなに痛く苦しいものだと分かったことが、彼女の優越感を満足させたのだった。

「フフフ…。男の子って、面白いね。こんなに敏感で繊細なものを、いっつもブラブラさせてるんだから…」

ユイにそう言われると、男の体の不合理さを、男であるタクマ自身、改めて実感する思いだった。
女の子の握力で握られただけで、まったく抵抗できなくなるなんて、なんて不便な体なんだろう。その思いを、今、ユイとタクマはまったく逆の立場で共感しているのである。

「三石君は、私のこと…好きでしょう?」

それは痛みの中でも、十分タクマの脳を覚醒させる言葉だった。
その分かり易すぎる反応を見て、ユイはちょっと笑ってしまう。

「いつも、私のこと見てたでしょう? 私が練習してるところ。エッチな目で」

陸上部の女子のユニフォームは、水着かと思う程に面積の小さいタイプのものだった。
思春期のタクマが、ユイのそれに目を奪われていたとしても、何ら不思議はないだろう。

(あ…これって…)

ユイの手に、タクマの肉棒がムクムクと大きくなっていくのが伝わってきた。
タクマ自身もまだ気づいていないようだったが、どうやらユニフォーム姿のユイのことを思い出して、興奮してきてしまったようだった。

(もう…男の子って、ホント…)

以前のユイなら、勃起する男に対して嫌悪感を感じていたかもしれないが、すでにセックスを経験し、男の最大の弱点を丹念に調べ上げていた彼女は、むしろそんな男の習性に、微笑ましいものを感じてしまった。

(じゃあ、離してあげるか。えい)

最後に区切りをつけるつもりで、ギュッと睾丸を握りしめ、離してやった。
その瞬間、タクマはぎゃっと声を上げて、その場に崩れ落ちてしまう。

「あ、ゴメンね。痛かった?」

タクマはもはやうなずくこともできずに、体育倉庫の床に正座するような姿勢でうずくまっている。
白いインナーサポーターの尻の間から、ぷっくりとした膨らみが覗いていた。
ユイは、自分がたった今まで握りしめていたその膨らみを、今度は撫でて、憐れんでやりたいような衝動に駆られたが、おそらくそれもタクマは痛がるだろうと思い、思いとどまった。

「三石君…? まだ痛いの?」

タクマは食いしばった歯の間から、かろうじて呼吸をしているようだった。
男の痛みを知らないユイの目から見ても、この後、部活動の練習ができそうには思えなかった。

「ゴメンね。先生には、三石君が気分が悪くて、帰ったって言っておくから。見つからないように帰ってね。じゃあ、またね…?」

少し名残惜しそうな様子で、ユイは体育用具室を出て行った。
最後に彼女に発した言葉の意味を考えると、タクマは痛みの中でもさらなる恐怖を感じ、背筋をビクッと震わせるのだった。




駅に着いた。
電車のドアが開き、乗客が乗り降りする。
ふと気がつくと、30代くらいのサラリーマンの目の前に、制服姿のユイが立っていた。車内は少し混雑しているが、かといってこれほど近づかなければならないほどではない。
サラリーマンが、意味も分からず突っ立っていると、不意に目の前にあるユイの顔が、にっこりと笑った。
つられて、愛想笑いを返したその瞬間。

「ぎゃあっ!!」

サラリーマンの男性の股間にユイの手が伸びて、その真ん中にある男の象徴を、下から思い切り握りしめた。
握力はさほどでもないが、瞬発力を使って瞬間的に力を込めたため、男性は一瞬、睾丸が潰れたかと思う程の痛みと目眩を感じた。

「ぐうぅ…」

不明瞭な言葉を発して、男性は糸が切れた人形のように、その場にストンと落ちた。その目はすでに白目をむいている。

「えい!」

男性の斜め後ろにいた学生風の男は、何が起こったのか分からなかった。
ただ、目の前のサラリーマンが突然、座り込んでしまったかと思うと、次の瞬間には、自分の股間に飛んでくるユイの白い脚が見えた。
めりっと、ユイの膝は、学生のジーパンの股間を突き上げるようにして刺さった。
踵が一瞬浮き上がり、すべての時間が止まったような気がした。

「はわぁあっ!!」

しかし次の瞬間には、怒涛のような痛みが下腹部を渦巻いて、それは即座に全身の自由を奪う。
何が起こったかも分からないうちに、学生はサラリーマンの男性のすぐ横にうずくまった。

「次! えい! えい!」

ユイの体が、敏捷な小動物のように素早く翻り、周りにいる男たちの股間を蹴り上げた。
その都度、男たちは情けない叫び声を上げて、その場にしゃがみ込んでしまう。蹴られてしまえば、反撃する余裕などない。ただ、とめどない痛みに体を震わせて、時間が過ぎ去るのを待つしかなかったのだ。

「次!」

振り向いたユイが目を付けたのは、椅子に座って大きく足を広げた、若い男だった。
ロックシンガーのような攻撃的なファッションと外見をしているが、その最大の急所は無防備で、ユイの格好の標的だった。

「よいしょっと!」

男の前で小さく飛び上がると、そのまま右足で男の股間を踏みつけた。

「あぐっ!」

途端に、男は苦しそうな表情で足を閉じようとするが、ユイのローファーはしっかりと股間に食い込んでいる。

「あああ…! や、やめて…!」

靴底を通して感じる、丸い物体を踏みにじるように動かすと、男は身をよじって苦しんでいた。

「ん? 痛いの? そんなに足を開いてるのが悪いんじゃない。蹴られたくなかったら、しっかり守ってなさいよ!」

吐き捨てるように言ってから、踵のもっとも堅い部分で、男の睾丸を踏みつぶした。
男はぎゃあっと叫んでうずくまると、そのまま動かなくなってしまった。

「さあてと…」

ユイは一息ついて、あたりを見回した。
ここまでで、ほんの数十秒。
電車の車内に載っていた男の約半数が、ユイによって打ちのめされてしまった。
まだ生き残っている男たちは、ようやく状況を理解したが、かといってユイに手出しをしようとはしなかった。
むしろ、ユイがチラリと視線を送るたび、恐れるように目をそらしているのだ。
しかしそこで、予想外のことが起きた。

「えい!」

ユイから逃げるようにして後ずさっていた、中年のサラリーマンがいた。
すると、背後にいたOL風の若い女性が、彼の股間を後ろから蹴り上げたのである。

「うぐっ!」

もちろん男性は、股間の痛みに体を硬直させ、うずくまってしまう。

「へ―…。簡単なんだ…」

目の前でうずくまる男性の背中を見て、OL風の女性はポツリとつぶやいた。
ふと見上げると、先程まで大立ち回りをしていたユイが、ほほ笑みながらうなずいている。
周りにいる他の女性たちも、一様に納得した表情を浮かべていた。

「男なんて、金玉を蹴れば、簡単に倒せる」

車内にいる女性たちが、無言のまま、そう認識した瞬間だった。

「やっちゃおうか?」

「うん!」

女性たちはうなずいて、それぞれ周りにいる男性たちに視線を移した。
その目はまるで獲物を見つけたハンターのように、猟奇的に輝いている。

「いくよー! えい!」

「ほうら!」

「そーれ!」

女性たちの明るい声が車内に響き、それと同時に、男性たちの悲鳴も、社内に響き渡っていった。

(そんな感じになったらいいのになあ…)

走る電車の中。
車内にはいつものように、脆弱な股間を隠そうともしない男たちが、無防備に突っ立っている。
窓の外に流れる景色を眺めながら、ユイはその頭の中で、ますます妄想を膨らませるのであった。


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